異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜

あいみ

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第一章

大誤算【友愛】

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「ああもう!最悪!!」

 神殿が認めなくても国民からの支持があれば問題ないと思ったから、平民相手に奇跡を見せてあげたっていうのに。

 突然、現れたミハイルのせいで台無し。

 しかも!!私のお披露目の邪魔しただけでなく、よりによってあのデブスと祭りに来ていたなんて。

 壇上で聖女として歓迎されるこの私を、憐れむような目で見ていたデブスが気に入らない。

「ふざけんじゃないわよ!!」

 同情されるのも憐れまれるのも、見下されるのも全部あんたの役目なのよ心音。

「ユア様。どうかなさいましたか?」

 部屋の外で私を心配する侍女の声。

 そうよ。これが当たり前の日常。

 世界はいつだって私を中心として回る。

 私が世界の中心にいると言っても過言ではない。私がいなければ世界は存在する意味さえない。

 それを今から正さなくては。

 部屋に入ってきた侍女は六十八点と、まぁまぁの顔立ちをしている。

 ──まぁ、女なんて全員、私の引き立て役に変わりないんだけど。

 男も女も私が涙を流せばすぐに味方になってくれる。

 この国の人間は特に私の涙に流されやすい。それだけ思考や感情が単純ってことね。

「ユア様。もしかして昨日のお披露目のことを思い出して?まぁ…!いけません!ユア様は繊細でいらっしゃるのに、いつまでもあんな醜く卑しい豚のことでお心を痛めるなんて」
「そんなこと言わないで。心音ちゃんは聖女なんだから」
「いいえ!それがありえないのです!!あの豚が卑怯な手で精霊王や神官長を丸め込んだに決まっています!そうでなければあのような豚如きが、ユア様を差し置いて聖女などと呼ばれるはずがありません!」

 ふふ、楽しいわね。

 私は面と向かって悪口を言えないから、こうして聞けるのは気分が良い。

 私が言いたいことを全て言葉にしてくれるとこなんて最高。

 王宮に務めてるだけあって気が利くじゃないの。

 ラヴィとかいう一番の侍女が付けられなかったのは不満だけど、これはこれで使える人間みたいだし多めに見てあげてもいい。

 失敗を咎めることなく許してあげるのもまた聖女の役目。

 こんなにも完璧な私を聖女として認めないなんて間違っている。

「ねぇ。昨日のことで神官長と話したいんだけど、無理よね……?聖女の心音ちゃんを差し置いて神官長と会うなんて」
「ユア様……。ユア様は優しすぎます!!あんな豚のためにユア様が遠慮することなんて一つもありません!すぐに呼んで参りますので、お待ち下さい」

 私の手足となって動きたがる人間は星の数ほどいる。

 私と付き合い男は、この世界にいる全員。

 だったらキースもミハイルも私の虜となり、私のために尽くすのが道理。

 この私の夫にしてあげると言ってあげてるんだから素直に喜びなさいよ。

「お待たせしましたユア様。神官長をお連れしました」

 随分と早いのね。

 王宮から神殿まではそんなに近くはなかったはず。

 私が直々に出迎えてあげると、ミハイルはゴミを見るかのように私を見下していた。

 ううん、人間扱いさえしていない。

 不機嫌さが伝わる。

 ──なんで?どうして?

 その目を向けられるのは私じゃなくて心音の役目なのに。

「何かご用ですか。私は貴女と違って暇ではないので手短にお願いします」
「立ち話もなんですから、どうぞお入り下さい」
「はぁ……」

 短いため息のあと、私にだけ聞こえるように舌打ちをした。

 取り乱したらミハイルの思うつぼ。冷静にならなきゃ。冷静に……。

 侍女には廊下で待機してもらう。

 イケメンと同じ空間にいていいのは私だけだから。

 ミハイルは扉を開けて、外から部屋の中が見えるようにした。

「そうだ。紅茶、淹れますね」

 元の世界にいたときから私の淹れる飲み物は評判が良い。

 全員が全員、口を揃えて「この味はお金を取るべきだ」と大絶賛。

 まずは紅茶で和ませてから、会話に持ち込まないと。

「お待たせしました。どうぞ」

 私を目の敵にしてるとはいえ、出された物に口を付けないのはマナー違反。

 カップを手に取り一口飲んだ。感想を待っていた私に対してミハイルは冷たい声と表情で一言

「ご用件は?」

 と、聞いた。

 ちょっと待ってよ。いくら何でもおかしすぎるでしょ。

 私が淹れてあげた紅茶の感想がないなんて。

「まさかと思いますが紅茶を飲ませるために呼んだわけではありませんよね?先程も申し上げた通り私は貴女と違って暇ではないのです。貴女も男漁りや豪遊ばかりしていないで、少しは勉強をしたらどうですか」

 積み上げられた本に視線が移る。

 あれには国の歴史や、聖女の役割が書かれているらしいけど読めるわけがない。

 この国の文字を私は知らないのよ。

 かといって家庭教師を付けられて、部屋に閉じこもって勉強するのも面倒。

 わからないことはその都度、誰かに聞けばいいだけ。私の時間を削って勉強して学ぶほどのことでもない。
 
 面倒なことをするのはいつだって心音。本来なら心音が私の代わりに勉強しなければいけないはずだった。

 ──それなのに……!!

 勝手に私の傍を離れただけでなく、イケメンに気に入られるとか何様のつもり。

 王宮という華やかな場所から自ら出て行ったことだけは褒めてあげるけど、自分勝手すぎる行動は目に余る。

 今一度、立場をわからせてあげないと。

 ……この男にも。

 私が欲しいと思えば人も物も、私の物にならなくてはいけない。それこそが自然の摂理。

 破れやすいように予めハサミで切れ込みを入れておいた胸元を乱暴に破いた。

「キャーー!神官長!何をするんですか!?」

 悲鳴を上げれば待機していた侍女と護衛がすぐに室内に入ってきた。

 破かれた衣服。涙を流す私。そして……男であるミハイル。

 これらが何を表すのか。

 侍女は慌ててカイザーを呼びに行き、護衛は剣を抜きミハイルに向ける。

「こんなくだらない茶番のために私は呼ばれたのか」

 状況を理解していないのか、何事もなかったように立ち上がり、向けられた剣さえ無視して部屋を出て行こうとする。

 ちょっと待ちなさいよ。

 貴方は今から私を襲おうとした罪で地下牢に幽閉される。何もしていないと嘘をつけば拷問される。

 そこで慈悲深い私が罪を許してあげて無罪放免。

「どこに行くつもりだ」

 近くにいたのかカイザーの到着が早かったおかけでミハイルを逃がさずに済んだ。

「ユアを襲おうとしたそうだな」
「まさか」
「嘘をつくな!!ではなぜ!ユアの服が引き裂かれている!?」
「ご自分でやっていましたよ?意外と力あるんですね、彼女」
「ユアが俺以外の男に自分から肌を見せるわけがないだろう!!ユアは俺の婚約者だぞ!!」
「彼女にはその自覚がないようですね」

 淡々と、まるで自分には何も関係ないと言わんばかりの態度。

 道を塞ぐカイザーを邪魔者扱いするかのように態度を変えないミハイルには侮辱罪とやらが適用される。

 学習しないカイザーはミハイルに処刑を言い渡す。

 それは貴方の一存じゃ決められないでしょうが。

 ここまでバカだったなんて。頭痛がしてきた。

 こんなのが私の夫なんて認められない。

 これじゃ本当に顔だけの男じゃないの。

「罪もなく裁こうとするなんて、バカがバレますよ。殿下?」
「なっ……。き、貴様……!!」
「それと先程、私が彼女を襲ったと言っていましたが心外ですね。興味のない女性を襲うわけがないでしょう」
「興味がないだと?こんなにも可憐で愛らしいユアを前にふざけたことを抜かすな!!」
「事実なんですから仕方がないでしょう。それに、私は昨日、コトネ様に婚約を申し出たんですよ。その翌日に他の女性を襲うなんて、バカな真似をするとお思いですか」

 え……?

 今、何て言ったの?

 私の聞き間違いだと現実から目を逸らそうとしても、周りの反応と空気が割れたように感じる異質さが、真実だと物語っている。

 婚約?誰が?ミハイル?

 誰に?心音?

 心音って言った?

 私を差し置いて、生まれてくる価値すらないド底辺のあの女が?

 醜い豚。家畜以下。人間の形をした肉の塊の分際で……!!

 ありえない。認めない。ありえない。認めない。

 ありえていいはずがない!!

「ユア殿」

 不意に私を呼ぶミハイルは、心臓が跳ね上がるぐらい綺麗な顔で微笑んでいた。

 足音を立てながら一歩一歩近付いてくる。

 そっと顔を近づけ耳元で囁く声はとても透き通っていて、何度もリピートされるほどイケボというやつだ。

 内容はとても酷いものではあったけど。

「貴女の顔、嫉妬に歪んで最高に醜いですよ?」

 まるで底の見えない崖下に突き落とされた気分。背後から両手で、確実に。それも笑顔で。

 いつだって私に向けられる言葉は、賞賛であり憧れ。

 侮辱や嫉妬なんてものとは無縁に生きてきた。

 私みたいに可愛く生まれてくると、人生イージーモード。

 国が変わっても、それこそ世界が変わっても、決して変わらない事実のはずだったのに。

 かつて、これほどまでの屈辱を味わったことはない。

「くれぐれも虚偽の噂を流さないようにお願いしますね。コトネ様のお耳に入れたくないもので」
「あんな卑しい豚めに惹かれたとでも言うのですか」

 誰もが思っていたことを代弁した侍女の頭を掴んだかと思えば、壁に叩き付けた。

 あまりにも突然すぎる出来事で、反応が遅れた。

 私が悲鳴を上げる前に、私を守ろうと護衛が二人立ちはだかる。

 強く叩き付けられた割に侍女の額は赤く腫れ上がっているだけで目立つ外傷はない。

「次にコトネ様を侮辱してみろ。お前も、お前の家族も、神の名のもとに極刑にしてやる」

 脅しではなく本気。

 神官長でありながら迷わず手を出す辺り、怒り狂っていることは明白。

 恐怖に押し潰される侍女は、命欲しさに泣きながら繰り返し謝る。

 ミハイルは狂気そのもの。でも、一途でもある。

 ミハイルにさえ愛されてしまえば女好きのクズカイザーをどうにか処分してくれるはず。

 ……どうやって愛されるの?

 初めて会ったときからミハイルは私に嫌悪感を抱いていた。

 私が聖女だと祭り上げられれば同じ空間にいることさえ難色を示す。

 ──私が何かを間違ったとでも言うの!?

 周りにいる人間だって、私の隣に立てるのはイケメンだけだと信じている。

 だから!隣に置いてあげようと歩み寄ってあげてるのに、ミハイルはそんな純心な私の心を踏みにじった。

 到底許されることではない。

 どんな手を使っても手に入れてみせる。

 そして……私を軽視し侮辱したことを、地面に頭を擦り付けながら謝らせてあげるわ。

「ああ、それとユア殿。もし貴女が聖女だと言うのなら、少しは国に興味を持ったほうがいいですよ。まぁ、貴女にはどうすることも出来ないと思いますが」

 帰り際、心底どうでもいいようにそう言ったミハイルは、私とカイザーを同等に扱うようにバカにした小さな笑みを浮かべていた。
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