溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ

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新しい家族

勘違いヒロイン【ラーシャ】

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 目が覚めたとき、私は生きていた。それも、小説のキャラクターとして。

 ピンク色の髪。鮮やかだけど派手さはなく綺麗。
 スカイブルーの瞳は輝き、見る者全てを魅了する。
 誰からも愛される可愛らしい顔立ち。

 間違いない!!

 私は小説『愛され公女の日常』の主人公ラーシャに憑依した!!

 なんてラッキーなの!まさか大好きな小説の世界で人生をやり直せるなんて。

 前世の私、陽形冷羅はるかたさらは死んだ。

 突然、横断歩道に飛び出してきた子供と、その子供を突き飛ばした女。
 あいつらのせいで。

 車が来ているにも関わらず出てくるなんて、悪質な当たり屋。
 しかも子供まで利用するなんて。きっと貧乏人だったのね。

 犯罪紛いなことで色んな人間からお金を脅し取っていたに違いない。

 そんなクズみたいな人間に慰謝料を払うなんて絶対に嫌でその場を後にした。

 今回のことをキッカケにあいつらは絶対に私をゆする。
 事故を装い、相当な額の示談金をふっかけて、しばらくすれば事故の怪我が治ってないから治療費を寄越せとか言って。

 ──悪いのは全面的に向こう。なのに!!

 なぜか私が警察に追われる。

 サイレンを鳴らすパトカーに気付き、道を譲ろうと思ったら私が乗る車の車種とナンバーを読み上げては、路肩に停めるよう指示を出す。

 ──さっきの当たり屋が通報したのね!!

 なんて最低なの!!善良なこの私からお金を巻き上げるために、警察に嘘をつくなんて!!

 こんな悪どいことを考える人間だ。腕のたつ弁護士を仲間に引き込んでいるかもしれない。
 捕まってしまえば女の思うつぼ。

 だからこそ、私は逃げた。
 正義が悪に負けるなんて、絶対にあってはならないこと。

 最優先は逃げ切ることで、その後にこっちも凄腕の弁護士を雇って完膚なきまでに叩きのめしてあげればいい。

 何を隠そう陽形冷羅は財閥令嬢。
 一生かかっても使い切れないほどのお金がある。
 ほとんどの男は私の金と美貌に群がってかるけど、釣り合う男がいたわけではない。

 私の人生はいつだってイージーモード。
 常に完璧で思い通りに生きてきた。

 あんな犯罪者如きに潰されてなるものですか。

 「え……?」

 スピードを出しすぎた。カーブを曲がり切れずに車は横転。

 フロントガラスに頭を打ち付けて血が流れる。

 耳障りなブレーキ音が聴こえた直後、何かがぶつかってきた強い衝撃。

 痛い。体のあちこちが。

 不思議なことに、私はこのまま死ぬのだと直感していた。

 死に抗うように瞼を閉じないよう頑張るも、虚しく閉ざされてしまう。
 真っ暗になってもしばらく痛みだけは続く。

 そして……。

 目が覚めた。状況を理解するのに時間はかからない。
 これは神様から不運な死を遂げた私へのプレゼント。

 神は私の善行を見てくれていた。
 貧しい者にはお金を貸すのでなく恵んであげて、行き場を失くした不法者には食べ物を恵んだ。
 教室の隅でいつも寂しく本を読んでいる地味なクラスメイトは、人気者にもしてあげた。
 生徒だけではなくて教師からも羨望の眼差しを向けられて。
 いつだって私は誰かのために生きてきた。

 私のような上流階級の人間が底辺で生きるしかない下々の人間に気を配るだけでなく、慈悲まで与えてあげる。

 現代の聖女として崇められてもおかしくはない。

 私みたいな慈悲深く、見ず知らずの人間にも施しを与える完璧な存在が失われることを懸念した神は!!
 新たに生きる世界を用意してくれた。

 完璧なる主人公として、この物語を完結に導けということね。

 二十歳の誕生日にとパパに買ってもらった車を早速、華麗に乗りこなしていた矢先に当たり屋と遭遇。
 私の人生はあの道を選んだことで大きく捻じ曲がってしまったけど、第二の人生を送ることに成功。

 ラーシャ・ミトン。

 私と同じく誰からも愛される主人公。

 ミトン家は公爵と身分はいいけど、両親の性格が最悪すぎて嫌われ貴族だ。

 ざっと屋敷を見回ったけど、お金に余裕があるわけでもない。

 無駄にセンスのない置き物が並ぶ。
 使用人の数も公爵家にしては少ない気がする。
 着ている服は上質な物。部屋も小説で読んだ、そのままの豪華さ。

 自分本位の両親はラーシャを溺愛するあまり存分に甘やかし、お金に糸目をつけずに育ててきた。

 だからこそ。ミトン家にはお金がない。
 あるにはあるんだけど。成人するまでの残り14年。今と同じ生活は送れない。下手をすれば借金まみれの地獄が待ち受けている。

 勝ち組のこの私が、負け犬のような人生を送るなんてありえない。

 ラーシャの記憶と小説の内容を照らし合わせると、今日が物語の始まり。
 リミックが私を迎えに来る日。

 原作の通り、白いドレスを身に纏い、純情で世間知らずなお嬢様としてリミックと対面する。

 ──は?

 何よその、手に持っているものは!!

 薄汚い灰色の長ったらしい髪。苦しそうな呼吸。実年齢よりも小さく見える体。囚人が着るようなボロボロのシャツ。

 間違いない。その女は公爵に嫌われて魔力封じの部屋に閉じ込められて衰弱死した「ななし」

 何で?どういうこと!?

 原作の書き下ろしでしかスポットライトが当たることのなかったキャラが、部屋の外に出て、しかも!!リミックに抱かれているのよ!?

 動揺を抑えて、公爵令嬢らしい振る舞いで

 「私をテロイ家に連れて行ってくれるのですよね?」

 声が若干、震えていたけど動揺は悟られていない。

 「は?なぜ私が君を?」
 「え、いや……だって」
 「そこを退け。誰の道を塞いでいるのか、わかっているのか」

 私を睨むその目は嫌悪感を抱いている。

 どうして?貴方は私を連れ出し養子にする。
 それこそが物語の始まり。

 この世界は私を中心として回るのよ!!!!??
 それなのになぜ、死ぬためだけに存在している“ななし”を大事そうに抱きしめては、心配そうな眼差しを向けるの。

 リミック・テロイ。

 貴方は私の父親。私を連れ出し、これから私を愛する家族の元に連れて行かなければならない。

 原作と同じく、慈しむ目をして。
 
 「私のことが可哀想ではないのですか!?」

 怒りと哀しみが入り混じった声が、広い屋敷の一室に響いた。

 ここから連れ出されるのは私。そんな死に損ないじゃないのよ!!

 「どこがだ?ぬくぬくと愛情を与えられ育ってきた人間が、この子を前にしてよくそんなことが言えるな」
 「だって……それは。知らな、かったから」
 「知らなければ許されるほど、事は小さくないぞ」
 「リ、リミッ……」
 「私の邪魔をしたいなら」
 「ひっ……!!」

 リミックが持つ属性、炎。
 魔法を扱うためのエネルギー、魔力は平均値をゆうに超える。そのため威力、どんなに手加減していても触れるだけで灰と化す。

 揺れる炎はあまりにも幻想的で美しく、同時に恐ろしい。

 「心配しなくても時間が経てば消える」
 「リミック様!!」

 叫んでも振り向くことはない。

 主人公わたしを置いてミトン家の屋敷から出て行く。

 “ななし”なんかと共に。

 炎が消えたのは2時間後のこと。床や壁には焦げ跡すら付いていない。

 どうして人体にのみ有効にさせることができるのか。
 それは、才能だけでなく、並々ならぬ技術と努力の賜物だった。

 水魔法を持つお母様でさえ威力を弱めることすら出来ずに、自然に消えるのを何もせずにただただ見ているだけ。

 ──ふん!使えないわね。

 いくら公爵家で権力を持っていようとも、私の家族に相応しくはない。
 他者を寄せ付けない才能を持ちながらもそれを上手く扱えず、権力に任せて威張るだけ。
 実力が伴っていないのよ。私とあんたら程度では。

 主人公として生まれた私は才能の塊。努力なくして何でも出来てしまう天才。

 いくら血が繋がっていても、こんなのが親だなんて恥ずかしい限り。

 ──やっぱり私の家族はテロイ家だけね。

 「ラーシャ!無事か?怪我はしていないか?」
 「ええ。大丈夫よ。それよりお父様。リミック様が見たこともない子供を連れて行きましたよ」

 原作を何十回と読み返した私は知っている。
 ラーシャは妹が軟禁されていた事実を知らないということを。

 妹は産まれてきたものの死産したと嘘をつかれ、以来、ミトン家では次女の話題はタブーとなった。

 人が死んだからと死亡届を提出する義務はない。貴族はともかく、平民の中でも環境の悪い村は幾つもあり、人が死ぬ数が多く事務的作業が増えるからだ。

 特に孤児院は死亡率が高い。
 貴族が寄付してくれる院もあれば、悪徳貴族に騙されて毎日、ひもじい思いをして今日を生き抜く院もある。

 テロイ家に引き取られたラーシャは、初めて知る平民の世界に憂い悲しみ、兄二人と共にその悪徳貴族から孤児院を救う。

 ラーシャは可愛くて溺愛されるだけじゃない。
 私と同じく慈悲の心を持ち、弱き者を助け悪をくじく。
 様々な問題を解決しながら、王太子と北にあるアスタミイル帝国の皇太子から同時に求婚される。

 私のタイプは皇太子。可愛い顔をしているけど、いざというときは男らしい。
 王太子はちょっとヤンチャで、ラーシャを前にするとカッコつけたがる。空回ることが多いけど、そこがまた可愛い。

 どちらと結ばれても読者としては文句の付けようのない完璧なストーリーだった。

 もちろん私は原作ファンとして、皇太子と結婚して皇后になるわ。
 推しだからとか、そんな不純な動悸ではない。
『愛され公女の日常』を作り出してくれた作者に対する尊敬の意を込めて。

 主人公ラーシャのために作られた物語なのだから、原作と同じように進めなくては作者と物語を冒涜することになる。

 皇太子と結婚した暁にはゼリフラ王国との交友を深める架け橋となる。

 そう!私が両国から聖女として多大なる祝福を受けて、ハッピーエンドを迎えてこの物語は完結するのよ。

 「あ、あぁ。アレは……お前の妹だよ」
 「まぁ!死んだのでは……なかったのですか?」

 か弱きヒロインは騙されていたことに胸を痛めて涙を流す。

 慌てて私を抱きしめては、くだらない言い訳を始める。

 「可憐で美しいラーシャの妹が、あんな薄汚れた髪をした気持ち悪いものだと認めたくなかったのよ」
 「私達のラーシャ!嘘をついたことを許しておくれ」
 「ええ、もちろんよ。私だってあんな穢らわしい者が妹だなんて、死んでも認めたくないもの」

 両親の首に腕を回して、考えを肯定してあげれば感激の嵐に包まれる。

 穢らわしい異物。
 絶対に許さないんだから!!モブ以下のエキストラの分際で、主人公であるこの私の物語せかいを奪うなんて!!

 絶対に取り戻す。

 裕福に暮らすのも、愛されて生きるのも全部!!私なんだから。

 死ぬためだけに作られたキャラクターには、さっさと退場してもらわないとね。

 この世界では私だけが愛されていればいいのよ。
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