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初めてのお友達
灰色の少女【エルノアヴィルト】
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俺はずっと王太子として生きてきた。周りもそんな風に接する。
大の大人は媚びへつらい将来、俺が王になったとき甘い蜜を吸わせてくれるよう約束を取り付けようと、あの手この手で接触してくるのにうんざりしていた。
いくら本音を隠そうとも醜悪さは滲み出ている。
見え透いた嘘で俺のご機嫌取りをする者がほとんどの王宮で、テロイ公爵だけは違っていた。
元々、力のある貴族で王家の後ろ盾を必要としていないのかもしれないが。
優秀な文官で父上からの信頼も厚い。
能力は高いのに役職に就くことを拒む。
ただでさえ忙しいのにこれ以上、忙しくなったら家に帰る時間がなくなるからだとか。
愛妻家で、家族を大切にし愛するテロイ公爵の評判は良いものばかり。
たまに悪いことも耳にするがそれらは全て、テロイ公爵を失脚させようと目論む連中が流した嘘。
その口から出る言葉に信ぴょう性はない。
テロイ公爵を悪者にしようとすればするほど、自分達の評判を地に落としていることにさえ気付かないで。
──愚かを通り越して滑稽だな。
たまにすれ違う程度で仲良く話をする仲でもないが、テロイ公爵の人柄はそれなりに知っているつもりだ。
炎魔法なんて建物どころか人間さえ一瞬で灰にしてしまう威力。
その魔力は王家に匹敵するとまで言われている。
中にはホワイトドラゴンの加護のおかげだと努力を否定して認めない者も多い。
バカなのだろうか?人間に加護を与えられるのは神獣のみ。いくら最上位の魔物といえど、そんな力は持ち合わせていない。
子供でも知っていることをなぜ知らないのか。
他人を陥れることばかりを考えて、常識的なことを忘れてしまったのだとしたら、もう王宮に勤める必要はない。即刻、辞めてもらわなければ。
俺にとって良い大人と悪い大人はハッキリと区別がついていたから、連中の囁きに耳を傾けることは一度もなかった。
そんなテロイ公爵が娘を養子に迎えたと聞いた翌日。
初めてちゃんと顔を見た。テロイ公爵の。
すれ違うのはいつも一瞬。しかもテロイ公爵は俺が通りすぎるまで頭を下げたまま。
俺は会議に出席できる歳でもない。だからこうして対面していることに妙な緊張が走る。
立っているだけであの威圧感。他の貴族達もいつもの調子はなく、心なしか大人しい。
──ずっとこのままでいてくれたら助かるんだがな。
養女、ユーリはテロイ公爵ととても髪色が似ている。親子と言われても違和感はない。
目は大きくパッチリしていて、柔らかい雰囲気に包まれていた。
全体で見れば可愛いという印象なのに、俺の目には綺麗な女の子が映ったんだ。
「お前。魔法を使わないと声がここまで届かないのか?」
単なる疑問は失言だった。
俺はただテロイ公爵が女の子を養子に迎えたとしか聞いていなくて。虐待を受けていたなんて、そんなこと……。
知らなかった、なんて言い訳は通用しない。
真面目なテロイ公爵が他人の子供を迎え入れた時点で、俺がその考えに至るべきだった。
──謝らなくては。
でも、ここで謝ればユーリは俺を許すしかない。
許すか許さないかを決めるのは俺でも、ましてや周りの大人でもなかった。ユーリ自身だ。
謝るチャンスはすぐに訪れた。
父上がテロイ公爵にユーリのことを聞いた。
は?全属性?
神獣である青龍でさえ雷と水の二つしか持っていないのだぞ。
光と闇に関しては長い歴史の中でも片手で数えるほどしか存在してこなかった。
見え透いた嘘をつくような人ではないが、とても信じられない。
批判や否定をされることを予期していた父上は、呼び出しておいた神官に合図を送る。
ユーリの属性と魔力が登録された魔力石。それに本人が触れると眩いばかりの光が視界を奪う。
光が強ければ強いほど、その人間が持つ魔法も強力である証拠。
──俺でさえこんなにも濃く強い光ではなかったというのに。
羨むことはなかった。他人の才能に嫉妬する暇はない。
追いつけるように俺が努力すればいいだけのこと。
底知れぬユーリの才が露見したことにより、さっきまであんなに否定的だった貴族達の目や態度が変わる。
一点にユーリしか見ていない。
俺はその目を知っている。欲にまみれて、自分の利益だけを求めるように子供に近づき操ろうとしていた。
やめろ。ユーリは道具じゃない。心を持った一人の人間。
「退屈だ!!」
ずっと苦しい思いをしてきたのに、また大人の都合で振り回すなんて間違っている。
お前達みたいな欲の塊が利用していいはずがない!!
「ここは大人ばかりが集まってつまらない話をするだけの、つまらない場所だ」
それぞれの私欲が表に出て、ユーリに降りかかる前にここから連れ出さなくては。
「ユーリ。散歩に行こう。城内を案内してやる」
納得のいく理由なんて思い浮かばず、ありきたりなことを言ってしまう。
もっと気の利いたことを言えばユーリをこんなに悩ませることもなかった。
近くで見るとユーリは本当に小さい。俺とそんなに歳は変わらないはずなのに。
スカイブルーの瞳も空や海よりももっと綺麗で宝石のような美しさ。
「ユーリ。殿下からの申し出だ。行ってくるといい」
テロイ公爵からの許しもあり、護衛の女性騎士と三人で謁見の間を後にする。
これから繰り広げられる会話をユーリが聞く必要はない。
欲にまみれた汚い会話なんて、ユーリの耳を汚すだけ。
家族を愛しているテロイ公爵がいればユーリに魔の手が届くことはない。
夫人や兄二人もユーリを大切に想う気持ちが伝わってきて、あんなにも愛してくれる家族がいるなら万が一にもユーリが奪われることなんてないだろう。
城内の中で一番最初に案内したかった場所。それは……。
青龍のために作られた庭園。辺りを埋め尽くすのは青い花。
自身と同じ色を好み、青龍の想いを汲んで当時の国王が青い花だけを植えた。
「ぁ…っ、ユーリ。その……さ、さっきは……すまなかった!!事情を知らなかったとはいえ、あのような無神経なことを」
この謝罪でまた、辛かった過去を思い出せてしまう。
それが何より嫌だった。
俺がもっとちゃんと考えて発言していれば、ユーリの心を傷つけることもなかったのに。
人を傷つけた後に後悔することほど、愚かなことはない。
最低な自分に腹が立つ。家庭教師からもよく、人の気持ちを一番に考えるようにと教えられていた。
俺は将来、人の上に立ち、国の王となる。
自分本位や安易な考えを軽々しく口にすることは許されないと、日に何度も聞かされた。
頭ではわかっていたはずなのに、言葉の意味をきちんと理解していなかったのだと己を恥じた。
ユーリは何も言わず俺の手を引っ張る。
しゃがむと目線が合う。
異性がこんなすぐ近くにいるのは初めて。
出会う令嬢は皆、王太子にしか興味がなくて、親の言いなりになって俺にすり寄って来る者ばかり。
子息も同じだ。俺の側近に選ばれるために下心を隠して近づいて来る。
わかるんだ。そういう大人に囲まれて生きてきたから。
特に子供は大人ほど上手く隠せてないから、余計にわかりやすい。
そんな彼らを俺は……突き放せなかった。
だってそうだろう?俺が拒絶することによって、怒られるだけでなく殴られでもしたら。
そう思うと迂闊に本音すら言えない。
子供にとって親は絶対的な存在であるものの、その子供は権力や金を得るための道具ではないのに。
子供は親を選べない。
未来永劫、言いなりにならないために16歳から学校に通い、自らの頭で考え、学ぶ。
人は等しく皆、自由に生きていいのだと、わかってくれたのなら学校を設立した意味がある。
どうか一人でも多くの貴族が、間違った道に進まぬように。ささやかな祈りが叶っているのかどうか、今の俺には判断がつかない。
わかるのは俺がもっと大人になったとき。
今よりも物事を深く考える、視野を広く持てるようになった頃だろうか。
「いいこ、いいこ」
同年代よりも小さいであろう手が伸びてきては、頭を撫でた。ぎこちなさはない。
勘違いでなければ褒められたのだろうか?
──俺は酷いことを言って傷つけたのに、何で……。
純粋だった。ユーリはただ。綺麗なほどの純粋さを向けられるのは生まれて初めてで。
経験したことのない感情が押し寄せてきては、体を熱くする。
心臓が痛かった。
「こ、子供扱いするな」
間の抜けたような笑顔。子供らしさ全開の雰囲気。
息の詰まる王宮と違って、愛しさが湧く。
きっと俺は今日という日を死ぬまで忘れない。そんな気がしたんだ。
ユーリが隣にいてくれると心が落ち着いて温かい気持ちになる。
灰色の髪が風になびく。これから長くなるであろうその髪は綺麗だ。瞳と同じくらいに。
これから続くユーリの人生を俺が幸せにしたいという小さな願いが、確かに芽生えた。
大の大人は媚びへつらい将来、俺が王になったとき甘い蜜を吸わせてくれるよう約束を取り付けようと、あの手この手で接触してくるのにうんざりしていた。
いくら本音を隠そうとも醜悪さは滲み出ている。
見え透いた嘘で俺のご機嫌取りをする者がほとんどの王宮で、テロイ公爵だけは違っていた。
元々、力のある貴族で王家の後ろ盾を必要としていないのかもしれないが。
優秀な文官で父上からの信頼も厚い。
能力は高いのに役職に就くことを拒む。
ただでさえ忙しいのにこれ以上、忙しくなったら家に帰る時間がなくなるからだとか。
愛妻家で、家族を大切にし愛するテロイ公爵の評判は良いものばかり。
たまに悪いことも耳にするがそれらは全て、テロイ公爵を失脚させようと目論む連中が流した嘘。
その口から出る言葉に信ぴょう性はない。
テロイ公爵を悪者にしようとすればするほど、自分達の評判を地に落としていることにさえ気付かないで。
──愚かを通り越して滑稽だな。
たまにすれ違う程度で仲良く話をする仲でもないが、テロイ公爵の人柄はそれなりに知っているつもりだ。
炎魔法なんて建物どころか人間さえ一瞬で灰にしてしまう威力。
その魔力は王家に匹敵するとまで言われている。
中にはホワイトドラゴンの加護のおかげだと努力を否定して認めない者も多い。
バカなのだろうか?人間に加護を与えられるのは神獣のみ。いくら最上位の魔物といえど、そんな力は持ち合わせていない。
子供でも知っていることをなぜ知らないのか。
他人を陥れることばかりを考えて、常識的なことを忘れてしまったのだとしたら、もう王宮に勤める必要はない。即刻、辞めてもらわなければ。
俺にとって良い大人と悪い大人はハッキリと区別がついていたから、連中の囁きに耳を傾けることは一度もなかった。
そんなテロイ公爵が娘を養子に迎えたと聞いた翌日。
初めてちゃんと顔を見た。テロイ公爵の。
すれ違うのはいつも一瞬。しかもテロイ公爵は俺が通りすぎるまで頭を下げたまま。
俺は会議に出席できる歳でもない。だからこうして対面していることに妙な緊張が走る。
立っているだけであの威圧感。他の貴族達もいつもの調子はなく、心なしか大人しい。
──ずっとこのままでいてくれたら助かるんだがな。
養女、ユーリはテロイ公爵ととても髪色が似ている。親子と言われても違和感はない。
目は大きくパッチリしていて、柔らかい雰囲気に包まれていた。
全体で見れば可愛いという印象なのに、俺の目には綺麗な女の子が映ったんだ。
「お前。魔法を使わないと声がここまで届かないのか?」
単なる疑問は失言だった。
俺はただテロイ公爵が女の子を養子に迎えたとしか聞いていなくて。虐待を受けていたなんて、そんなこと……。
知らなかった、なんて言い訳は通用しない。
真面目なテロイ公爵が他人の子供を迎え入れた時点で、俺がその考えに至るべきだった。
──謝らなくては。
でも、ここで謝ればユーリは俺を許すしかない。
許すか許さないかを決めるのは俺でも、ましてや周りの大人でもなかった。ユーリ自身だ。
謝るチャンスはすぐに訪れた。
父上がテロイ公爵にユーリのことを聞いた。
は?全属性?
神獣である青龍でさえ雷と水の二つしか持っていないのだぞ。
光と闇に関しては長い歴史の中でも片手で数えるほどしか存在してこなかった。
見え透いた嘘をつくような人ではないが、とても信じられない。
批判や否定をされることを予期していた父上は、呼び出しておいた神官に合図を送る。
ユーリの属性と魔力が登録された魔力石。それに本人が触れると眩いばかりの光が視界を奪う。
光が強ければ強いほど、その人間が持つ魔法も強力である証拠。
──俺でさえこんなにも濃く強い光ではなかったというのに。
羨むことはなかった。他人の才能に嫉妬する暇はない。
追いつけるように俺が努力すればいいだけのこと。
底知れぬユーリの才が露見したことにより、さっきまであんなに否定的だった貴族達の目や態度が変わる。
一点にユーリしか見ていない。
俺はその目を知っている。欲にまみれて、自分の利益だけを求めるように子供に近づき操ろうとしていた。
やめろ。ユーリは道具じゃない。心を持った一人の人間。
「退屈だ!!」
ずっと苦しい思いをしてきたのに、また大人の都合で振り回すなんて間違っている。
お前達みたいな欲の塊が利用していいはずがない!!
「ここは大人ばかりが集まってつまらない話をするだけの、つまらない場所だ」
それぞれの私欲が表に出て、ユーリに降りかかる前にここから連れ出さなくては。
「ユーリ。散歩に行こう。城内を案内してやる」
納得のいく理由なんて思い浮かばず、ありきたりなことを言ってしまう。
もっと気の利いたことを言えばユーリをこんなに悩ませることもなかった。
近くで見るとユーリは本当に小さい。俺とそんなに歳は変わらないはずなのに。
スカイブルーの瞳も空や海よりももっと綺麗で宝石のような美しさ。
「ユーリ。殿下からの申し出だ。行ってくるといい」
テロイ公爵からの許しもあり、護衛の女性騎士と三人で謁見の間を後にする。
これから繰り広げられる会話をユーリが聞く必要はない。
欲にまみれた汚い会話なんて、ユーリの耳を汚すだけ。
家族を愛しているテロイ公爵がいればユーリに魔の手が届くことはない。
夫人や兄二人もユーリを大切に想う気持ちが伝わってきて、あんなにも愛してくれる家族がいるなら万が一にもユーリが奪われることなんてないだろう。
城内の中で一番最初に案内したかった場所。それは……。
青龍のために作られた庭園。辺りを埋め尽くすのは青い花。
自身と同じ色を好み、青龍の想いを汲んで当時の国王が青い花だけを植えた。
「ぁ…っ、ユーリ。その……さ、さっきは……すまなかった!!事情を知らなかったとはいえ、あのような無神経なことを」
この謝罪でまた、辛かった過去を思い出せてしまう。
それが何より嫌だった。
俺がもっとちゃんと考えて発言していれば、ユーリの心を傷つけることもなかったのに。
人を傷つけた後に後悔することほど、愚かなことはない。
最低な自分に腹が立つ。家庭教師からもよく、人の気持ちを一番に考えるようにと教えられていた。
俺は将来、人の上に立ち、国の王となる。
自分本位や安易な考えを軽々しく口にすることは許されないと、日に何度も聞かされた。
頭ではわかっていたはずなのに、言葉の意味をきちんと理解していなかったのだと己を恥じた。
ユーリは何も言わず俺の手を引っ張る。
しゃがむと目線が合う。
異性がこんなすぐ近くにいるのは初めて。
出会う令嬢は皆、王太子にしか興味がなくて、親の言いなりになって俺にすり寄って来る者ばかり。
子息も同じだ。俺の側近に選ばれるために下心を隠して近づいて来る。
わかるんだ。そういう大人に囲まれて生きてきたから。
特に子供は大人ほど上手く隠せてないから、余計にわかりやすい。
そんな彼らを俺は……突き放せなかった。
だってそうだろう?俺が拒絶することによって、怒られるだけでなく殴られでもしたら。
そう思うと迂闊に本音すら言えない。
子供にとって親は絶対的な存在であるものの、その子供は権力や金を得るための道具ではないのに。
子供は親を選べない。
未来永劫、言いなりにならないために16歳から学校に通い、自らの頭で考え、学ぶ。
人は等しく皆、自由に生きていいのだと、わかってくれたのなら学校を設立した意味がある。
どうか一人でも多くの貴族が、間違った道に進まぬように。ささやかな祈りが叶っているのかどうか、今の俺には判断がつかない。
わかるのは俺がもっと大人になったとき。
今よりも物事を深く考える、視野を広く持てるようになった頃だろうか。
「いいこ、いいこ」
同年代よりも小さいであろう手が伸びてきては、頭を撫でた。ぎこちなさはない。
勘違いでなければ褒められたのだろうか?
──俺は酷いことを言って傷つけたのに、何で……。
純粋だった。ユーリはただ。綺麗なほどの純粋さを向けられるのは生まれて初めてで。
経験したことのない感情が押し寄せてきては、体を熱くする。
心臓が痛かった。
「こ、子供扱いするな」
間の抜けたような笑顔。子供らしさ全開の雰囲気。
息の詰まる王宮と違って、愛しさが湧く。
きっと俺は今日という日を死ぬまで忘れない。そんな気がしたんだ。
ユーリが隣にいてくれると心が落ち着いて温かい気持ちになる。
灰色の髪が風になびく。これから長くなるであろうその髪は綺麗だ。瞳と同じくらいに。
これから続くユーリの人生を俺が幸せにしたいという小さな願いが、確かに芽生えた。
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