溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ

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新たな出会い

約束します

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 こちらの世界にきて、早いもので3週間が過ぎようとしていた。

 今なら屋敷内ならどこにでも行けるほどの体力もつき、抱っこの回数は減る。
 疲れはするものの、息を切らさなくなった。
 後ろには常にリンシエが待機していて、安心して歩き回れる。

 広さに見合った部屋の数には、ただただ驚かされるばかり。
 明らかに使っていないであろう部屋が多い。鍵はかかっていないから入れるけど、殺風景すぎて寂しかった。
 使われていないのだから仕方ないのだろうけど。

 埃一つ落ちていない、綺麗に掃除された数ある部屋もいつか使われる日がくるといいな。
 
 階段はまだ手を繋いで上り下りしてるけど、自分の成長に目覚しいものを感じていた。

 私にとっては誇らしいことだけど、家族やリンシエはどこか悲しそう。

 試しに両手を広げて抱っこ待ちをしてみると、背景に花が咲いたかのように明るくなり空気が浄化された。

 そうか。みんな私を抱っこしたいんだな。

 見た目は幼女でも中身は大人。頻繁に抱っこされるのは恥ずかしかったりする。
 私の羞恥以上にみんなが悲しむのが嫌だから、1日に一回、必ず全員に抱っこされるようにした。

 お父様とお母様は安定して慣れた手付き。不安はない。

 ノルアお兄様ははしゃがなければ安全。ずっとこのままでいてほしい。

 ティアロお兄様は相変わらず力加減が下手くそ。幼女は小動物だと教えたら上手くなるかな?

 リンシエはいつもホクホクした笑顔で私を抱き上げては、「可愛い」や「大好き」を伝えてくれる。
 弟妹に重ねているのだろう。

 私の侍女になってから家に帰る日が減ってしまい寂しいのだ。
 手紙のやり取りをしているとはいえ、文字だけで全てが伝わるわけではない。

 「お父様。今日は街に行きたい」
 「……………………は?」

 この世の終わりみたいな顔で驚かれた。
 手に持っていたフォークを落としてしまうほどショックを受ける。

 見てよ。ティアロお兄様なんてパンを口に入れた瞬間で固まっている。
 あれはお行儀が悪い。

 指摘するよりも早くノルアお兄様が肩を叩き、慌ててパンを食べる。

 「ユーリに外はまだ早い」
 「早くない!」

 平日で仕事と学校がある。今日に限ってお母様も前々から決まっていた外せない予定があるため、私と同行する人がいないのだ。

 要は過保護な家族が私を心配してくれているだけ。
 もしも何かあったら……と。

 貴族はポーカーフェイスが必須なのに不安だけが滲み出ている。
 こんなにも感情を出すなんて、公爵家としてはらしくない。

 「リンシエと一緒だから大丈夫なの」

 リンシエの水魔法は防御に特化しているため守りに強い。
 魔力に差があると魔法は破られてしまうけど、日々の鍛錬を怠らないリンシエは今も魔力が増えている。

 最も多く増えるのは成長期。それを過ぎても努力さえしていれば少しずつでも増えていくので、才能だけに頼っている貴族より努力する貴族のほうが強いという話である。

 お父様だってリンシエの魔法がすごいこと知ってるはずなのに、首を縦に振ってくれない。

 こうなったら最後の手段。

 椅子から降りてトテトテと歩いては、お父様の足にしがみつく。

 「お外、行ってもいい?」

 上目遣いで首を傾げた。

 雷が落ちたかのような衝撃を受けたお父様の体は震えている。
 目頭を抑えるような仕草。数秒、悩んでは小さなため息をつく。

 「わかった。許可しよう」
 「本当?ありがとう!お父様、大好き」

 渾身の笑顔を向けた。感謝を述べるときは笑顔に限る。
 時と場合によるけど。
 少なくとも今は、最大限の感謝を伝えたいので、笑顔でなければならない。

 無言で抱き上げられては、膝の上にちょこんと座らされる。

 「ただし。一つだけ約束をしてほしい」
 「う?」

 真剣な表情。
 リンシエの手を離したらいけない、とかかな?
 はっ、無駄遣いか!!無駄遣いをしたらダメなんだね。大丈夫。私は買い物に行くわけではない。街を見てみたいだけ。
 そう、観光だ。

 ずっと引きこもっているわけにはいかない。
 いつかはデビュタント?や他の貴族のパーティーにも参加するようになる。
 子供だからと知識がないままでは恥をかく。

 お金に余裕がある公爵家なら優秀な家庭教師の十人や二十人、簡単に雇えてしまうんだろうけども。
 人から教わるのと、自分の目で見るのとでは大違い。

 国のあちこちに行けたらいいけど、まずは王都に近い街から。

 「危険なことや、何かあったらすぐに、ホワイトドラゴンと青龍の魔法を使うんだ」

 ……………………過保護なお父様は何を言っているのだろうか?
 お兄様二人も納得したように頷くのやめて。

 絶対ダメでしょ。あの二体の魔法を人に向けるなんて。
 大怪我の元。最悪、死人が出るかも。

 想像すると血の気が引いた。比較的、綺麗な死因を思い浮かべてみたけど、それでもモザイクがかかる有り様。
 顔が潰れているのが致命的。

 現実世界でもそんなグロテスクなニュースを見たことのない私は、激しく首を振って想像を振り払う。

 「ダメよリミック。最上位の魔物や神獣の魔法を人に向けるなんて」

 そうそう。お母様は冷静だ。
 巨大すぎる力は街も壊しかねない。使うべきではないのだ。

 「ホワイトドラゴンだけにしておかないと」

 ちっがーーう!!そうじゃなくて!!

 「ふむ。それもそうだな」

 こっちもこっちで納得しないで!?

 アネモスの魔法だけで対処することが決まりかけている。
 人が確実に傷つく方法だけは取りたくない。

 困り果ててリンシエに助けを求める。
 私はまだ家族を説得できるだけの自信がないので、この世界の知識を持ったリンシエに託す。
 うるうると瞳を潤ませて、一心にリンシエを見つめる。

 街の平和と人の命。全ては私達に懸かっているのだ。主にリンシエだけど。
 どうにか魔法を使わせない方向に話を進めないと、外出許可が取り消されてしまう。

 お父様にとって私の安全を確実に保証したい。
 リンシエの魔法と二体の魔法。どちらがより安全かと聞かれたら後者。

 アネモスとブロンテー。どちらかの魔法だけでもかなり有効。私でもそれくらいは理解している。

 でもなぁ……。

 「旦那様。ユーリ様には魔道具をお持ち頂くのはどうでしょう」

 ほぇー。そんなのあるんだ。魔法が存在するなら魔法の道具もあって当然か。

 「ユーリ様はまだ小さく、魔法を扱えるお歳には見えませんし。魔道具で身を守ったほうが悪目立ちしなくて済むと思います」

 それは確かに。

 異例中の異例でもある私は先日、王家や偉い貴族の面々の前で全属性持ちであることを証明し、更には王家を守護する青龍ブロンテーから鱗を受け取ったことにより色んな大人の事情に巻き込まれるかもしれない。
 そんなときにまだ事情うわさを知らない人々の前で魔法なんて使おうものなら……。

 ──うん。絶対ダメだ。やめよう。危ない。

 お父様は考える。騒ぎになり面倒事に巻き込まれるか、難なくお出掛けを無事に済ませるか。
 安全を優先すると言われたら、仕方がない。今回は諦める。

 また後日、家族の予定がないときにでも行けばいい。

 「テンラス。守りの魔道具を持ってきてくれ」

 テンラスは執事長だ。立派な口髭を生やした老紳士。言葉遣いは丁寧で穏やか。
 先代の頃から仕えているのでお父様もかなり信頼している。

 若くして公爵家を継いだお父様をサポートしてくれた立役者。まさに縁の下の力持ち。

 「お待たせ致しました」

 変哲もない木箱。中には大人サイズのブレスレット。色はなく透明。

 お父様がブレスレットを取り出し、しばらく握ると赤く変化した。

 あ、なるほど。魔力で染めることで、その人の属性が魔道具に設定されるわけか。
 発動させるには魔力を流し込めば、後は想像通り。とんでもない炎が、私に危害を加えようとした相手を襲う。

 焼け死なない程度にしてくれたみたいだけど、全身大火傷は免れない。
 肌が空気に触れるだけで激痛が走る。

 最大限の譲歩をしてくれているので、私はブレスレットを手首に通した。
 すると、みるみる大きさは変わり手首にフィット。

 ちょっとした小物アイテムみたいでお洒落。デザインも派手過ぎないのでどんな服にも合わせやすい。

 「ユーリ。危ないことはしないと約束してくれるか?」

 揺れる瞳は私を心配してくれている。一緒に行けない不安を隠そうともしないで。

 その態度は別にリンシエを信用していないわけではなく、これまでの境遇と、親という立場から私を守りたい思いが強いだけ。

 「はい。約束します」

 あるかわからない文化、指切りをした。

 「これは?」
 「えっと……約束の証」
 「小指と小指を絡めることがか?」

 怪しんでる?

 基礎知識もないような子供が未知のことをしたら怖いか。

 あればいいなぁーくらいの軽い気持ちでやったとはいえ、私にとって約束は指切り。
 どんな小さな約束事でも毎日のように指を絡めた。

 遠く離れていても見えない糸が私達を繋いでくれる。
 もちろんそれは、祖父母だけではなく、両親もだ。

 事故で亡くなる前日。仕事から帰ったら家族でよく行く馴染みの定食屋で、好きな物をいっぱい食べようと交わした約束。
 ご飯の前にデザートを食べてもいいし、ジュースだっていっぱいおかわりをしていい。

 唯一、その約束だけは果たされなかった。
 飛行機の墜落なんて予期せぬ事故みらいを、一体誰が見通せたというのか。

 事故に関わった多くの人は連日ニュースで取り上げられな。
 原因は整備不良。
 ネットでも叩かれて、被害者遺族の元に何度も謝罪で足を運んだ。私の所にも来た。
 許されたい気持ちなんて、これっぽちもなく。冒してしまった罪を償うために、酷い言葉を浴びせられ、時には物を投げつけられるときもあったようだ。
 誰かに感情をぶつけずにはいられない彼らの苦しみもわかったが、それが暴力や死の強要に変わることは許されないと感じた。

 突如、家族や友達を亡くしてしまったら感情が行き場を失うのだ。

 でもそれは、被害者は加害者に何をしてもいいという理由にはならない。

 それでも彼らはひたすらに謝り続けた。多くの命を奪った加害者として。
 だから私は、彼らに言ったんだ。

 もう謝らなくていい。起きてしまった事実は変えられなくても、同じことを繰り返さないように尽力してほしいと。

 幼い私の言葉が心に届いたのか不安ではあったけど、彼らは目を潤ませながら頷いた。

 悲しい気持ちはある。もう二度と両親に会えない寂しさ。
 得体の知れない何かが体の中で蠢く。

 これから先の未来。両親は笑いかけてくれることも、名前を呼んでくれることもない。
 どうしようもなく寂しくて怖かった。

 混ざり合った幾つもの感情が不快さをより強くする。

 私は泣いた。いっぱい泣いた。目の前にいる人達に怒って、両親を返してと責めることはしない。

 もしも仮に被害者が全員、彼らを許したとしても罪が消えるわけでもなく、死ぬまで責任を背負って生きていく。
 その重さは私達には測り得ない。

 一つだけ言える確かことはある。
 少なくとも私は彼らにずっと下を向いたまま生きていてほしくはなかった。それだけ。

 悲しみや怒りが消えることはないかもしれない。しかし、私達は前を向き、同じ過ちを繰り返さない未来を築くことができる。償いの向こう側には、希望が待っているのだから。
 その考えが甘いとしても、私は信じたいんだ。人は人を許せると。

 「お父様」
 「ん?何だい」
 「指切りしたから大丈夫。約束、守るね」

 観光目的の散歩だ。危険に巻き込まれることはないはず。
 というか。何もないことを祈らなくては。
 せめてこの魔道具を発動するようなことでなければいい。
 相手の安全のためにも。
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