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新たな出会い
悪者は成敗されました
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「ユーリ。怒鳴られて怖くなかったか。すぐに助けてやれなくてすまない」
「怖かった!!」
瞬間、殺気のこもった赤い魔力が放出された。大地が震えたと錯覚する圧。
威圧感が空から降ってくる。
「シムとキリムが理不尽な暴力を受けていたのに、何もできないことが怖かった」
私は何もされていない。取るに足らない暴言を吐かれただけ。でも、二人は違う。
痛みを伴った。血が流れるような傷まで負わされて。
キリムはあんなにも殴られて死んでしまうかもしれなかった。それを見ているだけの自分が嫌で嫌でたまらない。
魔法をちゃんと扱いコントロールしていたら助けられたはず。
私が悔やんでいるとお父様は二人の元に歩み寄り、目線を合わせるために膝を付いた。
片手をかざせば青白い光が二人を癒す。血は止まり傷も塞がる。
貴族が平民のために魔法を使い、ましてやそれが怪我を治すためなんて前代未聞。
虐げられるだけの人生を送ってきた多くの平民は動揺している。
いくらテロイ家が身分を気にしないといっても、治してくれると思ってすらいなかった。
「治癒魔法は傷を治すが傷跡までは治せない」
魔法は魔力で決まる。魔力量が多ければ強くて巨大な魔法を使えるし、コントロールができていれば針の穴に通せるような繊細な魔法だって自由自在。
すなわち、魔力量が王族に近いお父様の治癒魔法は強力で、絶命していなければどんな傷でも癒し治す。
歴代でも最強の治癒魔法使い。
欠損した体の一部は流石に治せないけど。
「いえ、そんな……!!我々のために公爵様の貴重なお力を使わせてしまい申し訳ございません!!」
「治癒魔法は治すための魔法だ。身分は関係ない」
施しなんかじゃない。上も下もなく、力ある者は力なき者を守り救う。それは義務ではなく務め。貴族として生まれた者の。
「こ、公爵!?一体何を!?テロイ家の血筋でも稀とされる稀少な治癒魔法を薄汚い平民などに使うなど……!!」
……ん?もしや治癒魔法って選ばれし者が使える魔法じゃなくて、テロイ家の血筋だけに現れる魔法?
お父様。そんなこと言ってなかったじゃないですか。
単に私が全属性持ちプラス治癒魔法を持っているとしか。
ということは王族も特別な魔法があるのかな。エルに聞いたら不敬にならない?
外部に漏らすことのできない秘匿性の高い機密情報扱いされていたら、友達だろうと無闇には話せないか。
信頼を得ているお父様ならどうだろう。可能性としては五分五分。
「お父様?」
私をリンシエに預けたお父様は大股で伯爵に近づいては、伸ばした手で首を絞めた。
「たかが伯爵如きが私の娘を見下ろし暴言を吐きガキ呼ばわりなど、よくも不遜な態度を取ってくれたな」
めちゃくちゃ怒っていた。身分を理由に相手を黙らせるなんて、らしくない。
私がそうされたから、やり返しているだけなんだろうな。
あんな至近距離で魔力を放出しぶつけられることで、より伯爵の顔色が悪くなっていく。
魔力差があると、ひどいときには意識を失って倒れるしい。伯爵がまさに今、その一歩手間。
お父様の怒りと顔の怖さも相まって限界を迎えそう。
目の焦点が合わなくなってきた頃、手を離してそのまま突き飛ばす。
よろよろと後ずさり、足の力が抜けたのか豪快に尻もちをついた。
「あの方が公爵様の娘だとは知らなかったのです」
弱々しい声。懺悔や後悔よりも恐怖に支配されている。
「貴族社会において情報に疎いのは致命的だな。無知は罪であると覚えておけ」
容赦なく魔力で押し潰さんとするその姿は、正義の味方というより悪の組織に近い。
もうやめてあげてと助け舟を出した。
あんなにも呼吸が乱れてなりふり構わず助けを求める視線を向けられて無視するほど私は非道にはなれない。
主がピンチなときに従者は距離を取る。無関係だと言うように。
お金で繋がっている関係だとしても、主従であることに変わりはない。
利益をもたらさず、不利益を振りまく主は見限る。
そんな打算な繋がりに悲しくなった。
信頼も信用もなくて。彼らにとって伯爵は不必要な存在。
次の行動は恐らく言い訳だろう。
命令されて仕方なかった。逆らえなかったから何も悪くない。
そう主張する。
そんな“逃げ”を私は許さない。
「あの人達、キリムをいっぱい殴った。棒で。キリムが死んじゃうかと思った」
「魔力を込めた警備棒か。そんな物で殴るとは随分と良い教育を受けたようだな?」
「こ、これはその……。イヤール伯爵の命令でして!」
「そうです!我々の意志ではございません!!」
「公女様も見ておられたでしょう!?」
なるほど。お父様が私に激甘なのを良いことに、私を味方に付けて助かろうって魂胆か。
幼児なら容易く騙せるとタカをくくっている。
可哀想な大人を演じたら、救いの手を差し伸べると信じて。
なぜなら私は、テロイ家の娘だから。
人の上に立つべき存在だからこそ、下にいる人間は逆らえない。上級貴族ならそんな当たり前のことを知っている。
彼らの心の声が聞こえるかのようね。
抱っこしたままではカッコつかないので、降ろしてもらう。
「はい、もちろん見ました。皆様が……楽しそうにキリムに酷いことをする姿を」
「「こ、公女様!!?」」
どんな悪人に対しても私は嘘の証言をするつもりはない。
見たままを伝えるだけ。
「それとお父様。聞きたいことがあります」
他人行儀でよそよそしい私に軽くショックを受けつつも態度には出ない。
だってほら、仕事中だからね。屋敷と同じ態度で接するのはお父様の威厳が保てなくなるような気がして。
上司として部下の前では毅然とした態度でいなくては。
まだ幼いのに公女としての立ち振る舞いが完璧だと部下の方々が感心して褒めてくれる。
──中身26歳だから場の空気を読んでいるだけです。
「孤児院の担当になった貴族は、その街ごと自分のものになるのですか?」
「いいや。担当はあくまでも孤児院のみだ。一体誰がそんなバカなことを?」
聞きつつも視線の先にいるのは一人だけ。これまでの流れから伯爵以外にそんなことを言う人はいない。
心身共に耐えられなくなった伯爵は、表情を恐怖に引き攣らせながら逃げようと走り出す。全身のお肉を揺らしながら一目散。
精神的ダメージを大きく負った伯爵は体が正常に機能していないのか、何もない所で躓いては頭から転んだ。
鼻を打ったことにより鼻血を流しながらも、頭の中は逃げることだけ。
あと意外にも足が遅かった。
すぐさま捕縛され連れ戻される。
「さて。イヤール伯爵。お前がここの担当になって4ヵ月が経ったわけだが……」
担当が代わったのが去年でも1年経っているわけではないんだ。
「孤児院への寄付を滞り、街の住人への脅迫に暴力、更には脱税。そして……。孤児院の子供を売買。罪は重いぞ」
売買?売ってたってこと?子供を?
伯爵が孤児院の担当になった本当の理由は……。
「ユーリ様!!」
明確な怒り。感情にリンクしたのはアネモスの風魔法。
巨大な竜巻が伯爵を飲み込む。下から上へ。徐々に上がっていく。
血の繋がった家族はいなくて。血の繋がらない家族と暮らす。
里親に引き取られることが決まったら、ずっと一緒にいた家族と離れることが寂しくなって泣いていたかもしれない。
血を超えた本当の家族。残される側だって寂しさを感じながらも、幸せになってほしいからこそ笑顔で送り出す。
なんて愛おしい瞬間だろうか。
想像するだけで胸が温かくなった。
それを……。伯爵は裏切った。
里親として引き取られるのではなく、商品として売ったのであれば子供達は人ならざる扱いを受ける。
里親の決定権を持っているからこその暴挙。
幸せ、覚悟、別れ。
まだあんなにも幼い子供達の純粋な想いを踏みにじった。
許していいはずがない。
「ひぃぃ!た、助けてくれ!!」
情けない声。売られた子供は助けを求めることすら出来なかったというのに。
竜巻を外側から炎が覆う。炎の渦は弾け飛ぶ。中にいた伯爵は上空から落下。
地面に叩き付けられる前に自身の水魔法でクッションを作り大惨事を免れた。
かつてない死に直面した伯爵はすっかり魂が抜けかけ、指の一本でさえ動かせない。
荒々しい感情は落ち着きを取り戻していく。慣れないことをしてしまったせいで、心臓は鳴り止まない。いつもの倍は速い気がする。
「リミック様。ご無事ですか」
「あぁ。私はな」
私の魔法を壊したのはお父様。
暴走しただけの魔力と、繊細に練られた魔力。どちらが上かなんて比べるまでもない。
我を失い感情に任せて魔法を暴走させるなんて、テロイ家の名前に泥を塗ってしまった。
これでは恩を仇で返したのと同じ。
「ユーリ」
「はい」
「気分は悪くないか?」
優しい問いかけ。俯いていたのに、思わず顔を上げた。
「あれほどまでの魔法は魔力の消費が激しい。ユーリはまだコントロールが出来ていないからな。体調が悪くなるかもしれない」
「わ、私は……!!大丈夫、です」
「そうか。ならいい」
怒ることなく大きな手は頭を撫でてくれる。
ダメだよお父様。悪いことをしたら、ちゃんと叱らなきゃ。
甘やかすだけが躾じゃないよ。
「ヘルビシ・イヤール。お前の罪は死しても償えるものではない。生きて、然るべき場所で然るべき罰を受けろ」
「なぜだ……。王宮の文官がなぜ、たかが孤児院を調査するんだ」
「お前が殺したこの街に住んでいた女性。いや、正確には殺そうとした女性か。彼女がこの街の腐敗を教えてくれた」
「ありえない!!確かに殺した!!死体だって国境の外に棄てた」
「発見したときには虫の息だと聞いていた。すぐ私の元に運ばれたおかげで、一命は取り留めたがな」
「もっと遠くに棄てておけば良かったのか……」
力なく項垂れる伯爵の胸ぐらを掴んでは、握り締めた拳が顔面にクリティカルヒット。
あの威力でありながら骨の砕ける音はしなかった。
激痛だけが顎を襲う。まさに想像を絶する痛み。
次に無防備なお腹に膝蹴りが強く入る。強烈な一撃。
「彼らや彼女達が受けた痛みはこんなものではないぞ。連行しろ」
命令に素早く従い、痛みを治してくれと懇願する伯爵を引きずって馬車へと放り投げた。
従者も犯罪に加担していることは明白なので有無を言わさず連れて行く。
「孤児院並びにハルテの街の住人には心より謝罪する。我々の調査が長引いてしまったせいで、伯爵のような悪を蔓延らせてしまったこと」
貴族の中でも特に権力を持つテロイ公爵が深々と頭を下げた。残った数人の部下も同様に。
お父様は女性を助け、話を聞いたときから伯爵のことを調べていたのだ。
証拠もなく捕まえたところで、一時的な拘留しかできない。時間にしたら24時間。
厄介なのがその後、再逮捕するには確実な証拠はもちろん、孤児院や街人の証言も必要となる。
伯爵はきっと釈放後、すぐに口止めをすること想像がつく。
従わなければ伯爵の悪い友達が何をするか。
お父様達は事を解決するため迅速に動き出し、調べていくうちに孤児院への寄付と街の支配以上の犯罪が出てきてしまった。
「顔を上げて下さい!」
「そうです。むしろ我々が感謝を申し上げるべきなの。我々のような平民のために、公爵様がここまでしてくれたことに」
「あの、それで。彼女は……コゥリルは……」
「明日にでもこの街に戻ってくる。それとキリムと言ったか?本日をもってハルテの街の孤児院は私が担当となった。これからは其方らに不自由はさせないと約束しよう」
悪者は捕まった。殺されたと思っていた女性も無事。
孤児院の担当貴族がテロイ家になったのであればもう安心。
街にも平和が戻った。
なのに……。私の心は晴れない。
売られてしまった子供は?
同じ国の貴族では足がついてしまう。連れて行かれたのは国外。
「伯爵によって他国に売られた子供六人は保護した。かなり劣悪環境にいて大怪我も負わされていたが、今はもう元気になっている」
「よ、かっ……た」
「それとキリム。その六人が孤児院に戻りたいそうだ。里親もいらないから成人するまでは、一緒に暮らすことを許してほしいと言っていた」
「許すなんてそんな……。あんなボロ屋だが、あの子達の家であることに変わりない。帰ってくるのに誰の許しもいらないと、伝えてくれないでしょうか」
「あぁ。伝えよう。女性と共に明日、この部下が必ず送り届ける」
「あ……ありがとうございます!よろしくお願いします」
これで本当に終わったんだ。全部。
伯爵と繋がっていた悪い貴族は自国でも黒い噂がある面々だったので、必ず向こうの国で裁くと誓約書にサインもした。
たった数ヵ月とはいえ、このハルテの街は伯爵の支配下によって拭えない恐怖の中で生きてきた。
今日という日が彼らにとって、遅いか早いかはわからない。でも……。心が完成に壊れる前に伯爵を追い出せたと、私は信じたい。
「怖かった!!」
瞬間、殺気のこもった赤い魔力が放出された。大地が震えたと錯覚する圧。
威圧感が空から降ってくる。
「シムとキリムが理不尽な暴力を受けていたのに、何もできないことが怖かった」
私は何もされていない。取るに足らない暴言を吐かれただけ。でも、二人は違う。
痛みを伴った。血が流れるような傷まで負わされて。
キリムはあんなにも殴られて死んでしまうかもしれなかった。それを見ているだけの自分が嫌で嫌でたまらない。
魔法をちゃんと扱いコントロールしていたら助けられたはず。
私が悔やんでいるとお父様は二人の元に歩み寄り、目線を合わせるために膝を付いた。
片手をかざせば青白い光が二人を癒す。血は止まり傷も塞がる。
貴族が平民のために魔法を使い、ましてやそれが怪我を治すためなんて前代未聞。
虐げられるだけの人生を送ってきた多くの平民は動揺している。
いくらテロイ家が身分を気にしないといっても、治してくれると思ってすらいなかった。
「治癒魔法は傷を治すが傷跡までは治せない」
魔法は魔力で決まる。魔力量が多ければ強くて巨大な魔法を使えるし、コントロールができていれば針の穴に通せるような繊細な魔法だって自由自在。
すなわち、魔力量が王族に近いお父様の治癒魔法は強力で、絶命していなければどんな傷でも癒し治す。
歴代でも最強の治癒魔法使い。
欠損した体の一部は流石に治せないけど。
「いえ、そんな……!!我々のために公爵様の貴重なお力を使わせてしまい申し訳ございません!!」
「治癒魔法は治すための魔法だ。身分は関係ない」
施しなんかじゃない。上も下もなく、力ある者は力なき者を守り救う。それは義務ではなく務め。貴族として生まれた者の。
「こ、公爵!?一体何を!?テロイ家の血筋でも稀とされる稀少な治癒魔法を薄汚い平民などに使うなど……!!」
……ん?もしや治癒魔法って選ばれし者が使える魔法じゃなくて、テロイ家の血筋だけに現れる魔法?
お父様。そんなこと言ってなかったじゃないですか。
単に私が全属性持ちプラス治癒魔法を持っているとしか。
ということは王族も特別な魔法があるのかな。エルに聞いたら不敬にならない?
外部に漏らすことのできない秘匿性の高い機密情報扱いされていたら、友達だろうと無闇には話せないか。
信頼を得ているお父様ならどうだろう。可能性としては五分五分。
「お父様?」
私をリンシエに預けたお父様は大股で伯爵に近づいては、伸ばした手で首を絞めた。
「たかが伯爵如きが私の娘を見下ろし暴言を吐きガキ呼ばわりなど、よくも不遜な態度を取ってくれたな」
めちゃくちゃ怒っていた。身分を理由に相手を黙らせるなんて、らしくない。
私がそうされたから、やり返しているだけなんだろうな。
あんな至近距離で魔力を放出しぶつけられることで、より伯爵の顔色が悪くなっていく。
魔力差があると、ひどいときには意識を失って倒れるしい。伯爵がまさに今、その一歩手間。
お父様の怒りと顔の怖さも相まって限界を迎えそう。
目の焦点が合わなくなってきた頃、手を離してそのまま突き飛ばす。
よろよろと後ずさり、足の力が抜けたのか豪快に尻もちをついた。
「あの方が公爵様の娘だとは知らなかったのです」
弱々しい声。懺悔や後悔よりも恐怖に支配されている。
「貴族社会において情報に疎いのは致命的だな。無知は罪であると覚えておけ」
容赦なく魔力で押し潰さんとするその姿は、正義の味方というより悪の組織に近い。
もうやめてあげてと助け舟を出した。
あんなにも呼吸が乱れてなりふり構わず助けを求める視線を向けられて無視するほど私は非道にはなれない。
主がピンチなときに従者は距離を取る。無関係だと言うように。
お金で繋がっている関係だとしても、主従であることに変わりはない。
利益をもたらさず、不利益を振りまく主は見限る。
そんな打算な繋がりに悲しくなった。
信頼も信用もなくて。彼らにとって伯爵は不必要な存在。
次の行動は恐らく言い訳だろう。
命令されて仕方なかった。逆らえなかったから何も悪くない。
そう主張する。
そんな“逃げ”を私は許さない。
「あの人達、キリムをいっぱい殴った。棒で。キリムが死んじゃうかと思った」
「魔力を込めた警備棒か。そんな物で殴るとは随分と良い教育を受けたようだな?」
「こ、これはその……。イヤール伯爵の命令でして!」
「そうです!我々の意志ではございません!!」
「公女様も見ておられたでしょう!?」
なるほど。お父様が私に激甘なのを良いことに、私を味方に付けて助かろうって魂胆か。
幼児なら容易く騙せるとタカをくくっている。
可哀想な大人を演じたら、救いの手を差し伸べると信じて。
なぜなら私は、テロイ家の娘だから。
人の上に立つべき存在だからこそ、下にいる人間は逆らえない。上級貴族ならそんな当たり前のことを知っている。
彼らの心の声が聞こえるかのようね。
抱っこしたままではカッコつかないので、降ろしてもらう。
「はい、もちろん見ました。皆様が……楽しそうにキリムに酷いことをする姿を」
「「こ、公女様!!?」」
どんな悪人に対しても私は嘘の証言をするつもりはない。
見たままを伝えるだけ。
「それとお父様。聞きたいことがあります」
他人行儀でよそよそしい私に軽くショックを受けつつも態度には出ない。
だってほら、仕事中だからね。屋敷と同じ態度で接するのはお父様の威厳が保てなくなるような気がして。
上司として部下の前では毅然とした態度でいなくては。
まだ幼いのに公女としての立ち振る舞いが完璧だと部下の方々が感心して褒めてくれる。
──中身26歳だから場の空気を読んでいるだけです。
「孤児院の担当になった貴族は、その街ごと自分のものになるのですか?」
「いいや。担当はあくまでも孤児院のみだ。一体誰がそんなバカなことを?」
聞きつつも視線の先にいるのは一人だけ。これまでの流れから伯爵以外にそんなことを言う人はいない。
心身共に耐えられなくなった伯爵は、表情を恐怖に引き攣らせながら逃げようと走り出す。全身のお肉を揺らしながら一目散。
精神的ダメージを大きく負った伯爵は体が正常に機能していないのか、何もない所で躓いては頭から転んだ。
鼻を打ったことにより鼻血を流しながらも、頭の中は逃げることだけ。
あと意外にも足が遅かった。
すぐさま捕縛され連れ戻される。
「さて。イヤール伯爵。お前がここの担当になって4ヵ月が経ったわけだが……」
担当が代わったのが去年でも1年経っているわけではないんだ。
「孤児院への寄付を滞り、街の住人への脅迫に暴力、更には脱税。そして……。孤児院の子供を売買。罪は重いぞ」
売買?売ってたってこと?子供を?
伯爵が孤児院の担当になった本当の理由は……。
「ユーリ様!!」
明確な怒り。感情にリンクしたのはアネモスの風魔法。
巨大な竜巻が伯爵を飲み込む。下から上へ。徐々に上がっていく。
血の繋がった家族はいなくて。血の繋がらない家族と暮らす。
里親に引き取られることが決まったら、ずっと一緒にいた家族と離れることが寂しくなって泣いていたかもしれない。
血を超えた本当の家族。残される側だって寂しさを感じながらも、幸せになってほしいからこそ笑顔で送り出す。
なんて愛おしい瞬間だろうか。
想像するだけで胸が温かくなった。
それを……。伯爵は裏切った。
里親として引き取られるのではなく、商品として売ったのであれば子供達は人ならざる扱いを受ける。
里親の決定権を持っているからこその暴挙。
幸せ、覚悟、別れ。
まだあんなにも幼い子供達の純粋な想いを踏みにじった。
許していいはずがない。
「ひぃぃ!た、助けてくれ!!」
情けない声。売られた子供は助けを求めることすら出来なかったというのに。
竜巻を外側から炎が覆う。炎の渦は弾け飛ぶ。中にいた伯爵は上空から落下。
地面に叩き付けられる前に自身の水魔法でクッションを作り大惨事を免れた。
かつてない死に直面した伯爵はすっかり魂が抜けかけ、指の一本でさえ動かせない。
荒々しい感情は落ち着きを取り戻していく。慣れないことをしてしまったせいで、心臓は鳴り止まない。いつもの倍は速い気がする。
「リミック様。ご無事ですか」
「あぁ。私はな」
私の魔法を壊したのはお父様。
暴走しただけの魔力と、繊細に練られた魔力。どちらが上かなんて比べるまでもない。
我を失い感情に任せて魔法を暴走させるなんて、テロイ家の名前に泥を塗ってしまった。
これでは恩を仇で返したのと同じ。
「ユーリ」
「はい」
「気分は悪くないか?」
優しい問いかけ。俯いていたのに、思わず顔を上げた。
「あれほどまでの魔法は魔力の消費が激しい。ユーリはまだコントロールが出来ていないからな。体調が悪くなるかもしれない」
「わ、私は……!!大丈夫、です」
「そうか。ならいい」
怒ることなく大きな手は頭を撫でてくれる。
ダメだよお父様。悪いことをしたら、ちゃんと叱らなきゃ。
甘やかすだけが躾じゃないよ。
「ヘルビシ・イヤール。お前の罪は死しても償えるものではない。生きて、然るべき場所で然るべき罰を受けろ」
「なぜだ……。王宮の文官がなぜ、たかが孤児院を調査するんだ」
「お前が殺したこの街に住んでいた女性。いや、正確には殺そうとした女性か。彼女がこの街の腐敗を教えてくれた」
「ありえない!!確かに殺した!!死体だって国境の外に棄てた」
「発見したときには虫の息だと聞いていた。すぐ私の元に運ばれたおかげで、一命は取り留めたがな」
「もっと遠くに棄てておけば良かったのか……」
力なく項垂れる伯爵の胸ぐらを掴んでは、握り締めた拳が顔面にクリティカルヒット。
あの威力でありながら骨の砕ける音はしなかった。
激痛だけが顎を襲う。まさに想像を絶する痛み。
次に無防備なお腹に膝蹴りが強く入る。強烈な一撃。
「彼らや彼女達が受けた痛みはこんなものではないぞ。連行しろ」
命令に素早く従い、痛みを治してくれと懇願する伯爵を引きずって馬車へと放り投げた。
従者も犯罪に加担していることは明白なので有無を言わさず連れて行く。
「孤児院並びにハルテの街の住人には心より謝罪する。我々の調査が長引いてしまったせいで、伯爵のような悪を蔓延らせてしまったこと」
貴族の中でも特に権力を持つテロイ公爵が深々と頭を下げた。残った数人の部下も同様に。
お父様は女性を助け、話を聞いたときから伯爵のことを調べていたのだ。
証拠もなく捕まえたところで、一時的な拘留しかできない。時間にしたら24時間。
厄介なのがその後、再逮捕するには確実な証拠はもちろん、孤児院や街人の証言も必要となる。
伯爵はきっと釈放後、すぐに口止めをすること想像がつく。
従わなければ伯爵の悪い友達が何をするか。
お父様達は事を解決するため迅速に動き出し、調べていくうちに孤児院への寄付と街の支配以上の犯罪が出てきてしまった。
「顔を上げて下さい!」
「そうです。むしろ我々が感謝を申し上げるべきなの。我々のような平民のために、公爵様がここまでしてくれたことに」
「あの、それで。彼女は……コゥリルは……」
「明日にでもこの街に戻ってくる。それとキリムと言ったか?本日をもってハルテの街の孤児院は私が担当となった。これからは其方らに不自由はさせないと約束しよう」
悪者は捕まった。殺されたと思っていた女性も無事。
孤児院の担当貴族がテロイ家になったのであればもう安心。
街にも平和が戻った。
なのに……。私の心は晴れない。
売られてしまった子供は?
同じ国の貴族では足がついてしまう。連れて行かれたのは国外。
「伯爵によって他国に売られた子供六人は保護した。かなり劣悪環境にいて大怪我も負わされていたが、今はもう元気になっている」
「よ、かっ……た」
「それとキリム。その六人が孤児院に戻りたいそうだ。里親もいらないから成人するまでは、一緒に暮らすことを許してほしいと言っていた」
「許すなんてそんな……。あんなボロ屋だが、あの子達の家であることに変わりない。帰ってくるのに誰の許しもいらないと、伝えてくれないでしょうか」
「あぁ。伝えよう。女性と共に明日、この部下が必ず送り届ける」
「あ……ありがとうございます!よろしくお願いします」
これで本当に終わったんだ。全部。
伯爵と繋がっていた悪い貴族は自国でも黒い噂がある面々だったので、必ず向こうの国で裁くと誓約書にサインもした。
たった数ヵ月とはいえ、このハルテの街は伯爵の支配下によって拭えない恐怖の中で生きてきた。
今日という日が彼らにとって、遅いか早いかはわからない。でも……。心が完成に壊れる前に伯爵を追い出せたと、私は信じたい。
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私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする
藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。
そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。
派手な魔法も、奇跡も起こさない。
彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、
魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。
代わりはいくらでもいる。
そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。
魔法は暴走し、結界は歪み、
国は自分たちが何に守られていたのかを知る。
これは、
魔法を使わなかった魔術師が、
最後まで何もせずに証明した話。
※主人公は一切振り返りません。
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