溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ

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初対面

まさかまさかだったのです

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 「悪いが部屋には誰も近づかないようにしてくれ」

 真剣な頼み事にお母様は応えた。
 部屋に鍵をかけてカーテンも閉める。電気を点けるから暗くはない。

 「ユーリ。どの本が金色の文字に見えるか教えてくれるか」
 「んとね。抱っこ」

 目線が一気に高くなる。これなら届く。
 手を伸ばして本を取ろうとするも、落とす未来を察知して指を差すだけにした。

 金文字が浮かぶ本をお父様が手にしてページを開くと、本棚が左右に分かれて道が現れる。

 ──あ、なるほど。その本が鍵なのか。

 隠し部屋ってやつだ。ここには電気がないため、お父様の炎が明かりとなる。
 中央にはテーブルがあり、木箱が置かれている状態。

 「この指輪は何色に見える?」

 木箱の中身は指輪。丸い宝石が付いている。ルビーかな?

 「赤色。綺麗ね」
 「赤……」

 え、待って。その反応は何?違うの。
 でもなぁ。赤だよ赤。どう見ても。本物の指輪ルビーを見たことはないから断言は出来ないけどさ。
 こんなにも鮮やかに輝く真紅が赤色じゃないなら、それはもう色の価値観が違うことになる。

 「これは以前に話したパイオンだ」

 ん?それって当主に贈られる指輪だよね。灰色だって。
 いや……いやいや!!赤だよこの色は!!
 それともあれかな。パイオンに関してはこの色が灰色とか。

 頭がこんがらがってプシューッと煙が出る。キャパオーバーだよ。

 「人によっては色のない石にしか見えない。愚弟がそうだった。リファラには薄い灰色。私には濃い灰色にしか見えなかった」
 「ん、んぅ……?」
 「そもそもパイオンとは。初代テロイ当主が自身の魔力で作り出した物」

 取り出した指輪を私の指にはめた。大人サイズでブカブカだったのに、自動で私の指のサイズに変わる。
 光線がまばらに飛び散り部屋を赤く染めた。

 「初代は炎魔法の使い手。赤い魔力で作られたから元来、宝石は赤なのだ」
 「赤……?灰色……?」

 言っていることが難しくて理解が追いつかない。
 最初から赤色だとわかっているなら、灰色と別の色を言ったりはしないはず。

 ──つまり、どういうこと?

 考えを放棄してお父様の話を聞くことに専念した。

 「素質なんだ。色の見え方は。赤に見えたユーリはテロイ家当主の器ということだ」

 雷に打たれたような衝撃。確かに私にはテロイ家の血が流れている。兄に嫌われていようが三人兄弟の末っ子。その子供にも同じ血が流れるのは当然。

 本来ならミトン家の次女である私がテロイ家の当主の器。
 お父様が嘘を言っているとは思えない。嘘をつく理由がないんだ。
 だとしたら本当に……。

 どう反応するのが正解なのか。両手を挙げて喜ぶのは違う。
 次期当主はノルアお兄様であることは周知の事実。それをいくら同じ血が流れているとはいえ、養女の私がそんなの……。

 指輪を外すと光は消えた。これは私が触れていい物ではない。
 お父様に返した。

 「当主の器だからといって当主になるわけじゃない。我が国は余程のことがない限り長男が家督を継ぐと決まっているからな」

 指輪を木箱に戻して蓋をすると、カチャリと鍵が閉まる音が聴こえた。

 「ここは俗に当主の間と呼ばれている。入れるのは当主と次期当主の二人。が、例外もいる」
 「当主の器……?」
 「そうだ」
 「私は人とは違うってこと?」
 「いいや。特別ってことだ」

 聞こえはいいその言葉を信じて後々、お父様に迷惑をかけることにならないだろうか。
 不安や恐怖の影はいつだって突然現れるもの。

 足元まで伸びてきては私を内側に飲み込もうとする。
 そんなときは決まって心拍数が上がり汗をかく。喉の乾きを潤すように水が欲しい。

 視界に映るものがモノクロへと変わる。

 無意識に隣にいるお父様を掴む。体温がそこにある。
 実感したら世界に色が付いた。影が引いていく。

 「お父様。私がいるせいでノルアお兄様に迷惑がかかったりしない?もし邪魔なら言ってね。今日にでも神殿に行くから」
 「ユーリ!!先程も言ったように、ユーリは当主の器であるが当主にするわけではない」
 「でも……」
 「そもそも。ユーリは当主になる条件を満たしていない」
 「条件?」

 お父様はバツが悪そうに口を閉ざしては私から視線を逸らした。
 ショックはない。私が聞き返してしまったことで、お父様を困らせてしまったのだ。

 長男であること以外の条件か。
 由緒正しい公爵家。それなりに厳しい条件があるのだろう。

 「私はここにいてもいいの?」
 「あぁ。誰がなんと言おうとユーリは私の娘だ」

 泣きたい気持ちを抑えても、胸の奥から溢れてくる感情が目頭を熱くする。
 涙が零れないように上を向くと道を照らす炎が揺れて、壁に映る影も揺れ動いていた。

 決して明るいわけではないこの場所に、幻想的な美しさを感じてしまうのは私の感性がおかしいからなのか。

 「お父様。ノルアお兄様に今日のこと話してもいい?」
 「それは構わないが……」

 隠していたらいつか、罪の重さで押し潰されてしまう。
 嘘は昔から苦手だった。どんなに小さな嘘でも針となり胸を刺す。
 悪意を持って嘘をついたことはない。サプライズのために友達と一緒に口を噤んでは、嘘をついているという意識が黒い煙となりまとわりつく。
 心が弱い証拠だ。

 ノルアお兄様に全てを話しても嫉妬して怒ることはない。だってあんなにも優しい人だから。
 それが私の願望だとしても、そうであると言い切れた。

 「あとね。今日はノルアお兄様と寝るの」
 「あぁ、わかった」

 隠し部屋を出てもカーテンを閉め切っているため薄暗い。
 棚を元に戻す方法は開いた本を閉じるのではなく、本に魔力を注ぐこと。

 本が魔道具なのかと聞けばお父様は悩みながらも「違う」と答えた。
 パイオンと本に関しては初代当主が魔力で作った物。

 その魔力で作ったというのもよくわかっていない。

 高密度の魔力と高い技術を持ち合わせていなければ魔力を具現化して形作るなんて不可能。
 現代のほとんどの人間には出来ないだろうとお父様は言った。昔と違い今は少量の魔力で巨大な魔法を使える研究もされて、個人が持つ魔力量が少なくなったせいでもある。

 一度でも創成された物は未来永劫、消えることはなく、そのままの形を保つ。その人間の持つ魔法で物の色は決まる。
 初代当主のように人によって見える色が変わるというのは稀なケース。
 何らかの力が働いたのかもしれないけど、当時のことを調べても限界があり、結局のところはわからずじまい。

 「ユーリ!!ただいまー!!」

 執務室を出た瞬間、廊下の向こうから勢いよく走ってきたティアロお兄様に抱きしめられた。骨が折れるほど強くはなく、むしろ優しい。
 また加減をされないと身構えたことを謝りたかった。

 「あれ?もう帰ってきたの?」

 今日は半日授業なのかな。そういう特別な日って嬉しいよね。
 学校が嫌いなわけじゃないけど、早く帰れる喜び。学生なら必ず通る感情みち

 「何言ってるんだ?もう夕方だぞ」
 「………………え?」

 窓の外はもう夕暮れ。夕日が沈みかけている。

 落ち着け私。一旦整理しよう。

 朝はパーティーに出掛けた。うん、間違いない。
 そこでエルとセインと再会。エミィレと友達になった。
 その後にお父様の部下が来て、私の体調不良を報告。そのままエミィレと帰宅。時間はお昼過ぎ。

 悪化するといけないので安静に寝ていると、エルとセインがお見舞いに来てくれた。チョコを持って。
 これがまた美味しすぎてほっぺたが落ちる。

 で、二人が帰ってすぐにリファラ叔父さんとニカルがおじい様の誕生日パーティーの話し合いをするために尋ねてきた。

 よし。ここまでは記憶に違和感はない。昨日の出来事と錯覚していない限りは、この記憶は今日のもの。

 その後はお父様と隠し部屋に入って、私が当主の器であることを知る。
 隠し部屋を出たら時間が飛んだように進んでいた。

 ──…………ここだね、おかしいの。

 30分もいなかったのに何時間も経っているなんて。
 時計を確認したつもりだったけど、見間違えていたのかも。
 子供の身長だと壁に掛けられている時計の針が見えないなんてよくあること。
 私はそう納得するしかなかった。でないと説明がつかない。この現象に。

 「あの部屋は時間の進みが違うんだ。中での数十分が外での数時間になる」

 なんと!隠し部屋ならぬ不思議部屋。
 魔法の世界をまた一つ目の当たりにした。
 未知の体験は好奇心を燻り、ワクワクが止まらない。

 と、その前にご飯だ。今日は朝も昼もあんまり食べてないから今にもお腹が鳴りそう。
 大人の意地とプライドに懸けてそんな失態を犯さないようにお腹に力を入れておく。

 長時間、この状態を維持するのは難しい。しかも気を抜いたら一発アウト。
 ということで。今日はお風呂よりも先にご飯を食べたい。
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