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初対面
間違えただけでした
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お父様が食堂に向かい、残された私達は先に談話室でくつろぐことにした。
お母様は刺繍、ノルアお兄様は読書。ティアロお兄様は……課題。
算術の先生はたまに、鬼のような課題を出すことがあるらしい。生徒なら誰もが通る道。ノルアお兄様も去年、課題を与えられて難なくこなした。
そして今年。ティアロお兄様が多すぎる課題に頭を抱え、ノルアお兄様に助けを求めている最中。
完全無視されているけど。
どれどれ。どんな難しい問題なのかな。
興味本位で覗いてみた。
…………ん?これが課題?
先生が出し間違えたのかな。
だってこれ算数だよ?数学ではない。正真正銘の。
もっとこう、頭がぐちゃぐちゃになる高度な問題を覚悟していたのに。
三桁の計算は充分に難しいけどさ。
算術って慣れない言葉で高度な数学だと思っていたけど、要は基礎。算数ってこと?
単純な計算や文章問題。
うん。算数だね。
ただ、違うところもある。言い方だ。
足し算は加算。引き算は減算。掛け算と割り算は乗算と除算。
ちょっと古風な言い回しみたいだな。昔の言い方をしないように気を付けないとね。
ティアロお兄様がノルアお兄様と格闘している間、私は一人静かに問題を解く。
大きい数字の計算は筆算を使えば簡単。
加算と減算に関してだけは、数字を見れば答えは導きだせる。
乗算と除算はまあ一桁なら余裕。
黙々と解き続けて、終わると達成感に包まれる。
見直して間違いがないことを確認。
ティアロお兄様の裾を引っ張った。
「課題。やった」
「わぁ、ユーリ。お手伝いしてくれたのか。ありがとう。でもな、これはユーリにはまだちょっと……」
「どうしたんだ、ティアロ?」
「いや。これ……」
全問正解しているはずなんだけどな。
テストが返ってくるときにも似た緊張感。
もうこの際、何問か間違っていてもいいか。その問題はティアロお兄様が直せばいいだけ。
「ユーリ」
「なぁに?」
刺繍を中断したお母様は微笑みながら
「全問正解よ。すごいわ」
褒めてくれた。わーい。
課題を持って一度、部屋の外に出たお母様はずくに戻ってきた。お父様と一緒に。
「ユーリがこれを一人で解いたのか?」
「うん!」
「そうか。すごいな」
また褒められちゃった。
表情筋が崩れそうになり、慌てて頬を抑える。
「ユーリ」
私を抱き上げたお父様は真剣に瞳を覗き込む。
イケメンに見つめられて、ちょっと恥ずかしい。
「“エルピスの花”」
「お花?」
「そう。かつて……。今よりもずっと昔。神が愛でていたとされる花の名前だ」
ほうほう。それが私と関係あるのだろうか?
「星が散りばめられているかのようなその瞳は“ニュクスの光”とも呼ぶ」
「ニュクス?」
「夜を照らす光という意味だ」
「待って。それは……」
「あぁ。私もずっと御伽噺だと思っていた。だが、ユーリの瞳には確実に刻まれている」
え、そうなの?鏡とか見るけど、全然気付かなかった。
「このことが大神殿にでもバレたら面倒だな」
「神殿じゃない?」
「大神殿っていうのは、全ての神殿を管理する大元で、全ての神官の頂点にいる神殿長が暮らしている場所よ」
まだまだ知らないことだらけだ。
もっと色んなことを教えてもらわないと。
「ノルア、ティアロ。ユーリのことは他言無用。絶対に漏らすなよ」
「わかっています」
「もちろん!」
よくわからないけど、私の瞳のことが大神殿とやらにバレたらとんでもなく面倒なことになるので、秘密を守ろうってことらしい。
大神殿とは神様を祀り、自分達を神に選ばれし使徒。特別な存在だと思い込んでいる。
国の実権を得るため常に王家の弱味を握ろうとしているとか。
表立って行動せず、慎重に証拠を残さないため処罰する方法がない。
が、そこに。大神殿に好機が訪れる。
私が現れてしまったのだ。
神の加護と女神の寵愛を受けるとされる“ニュクスの光”を持つ私は、大神殿からしてみれば神も同然。
当然、神様を祀る大神殿に私は身を置くべきだと主張する。
そして、神様がいるのに王家が国のトップに立つのはおかしいとも。
「幸い。よく見なければわかりはしない。そう簡単にバレることはないと思うが……」
「ユーリの全属性とホワイトドラゴンと青龍の真名を教えられただけでなく、羽根と鱗を貰ったことが広まっているのね」
「権力者の年寄り共がユーリを手中に収めようと、触れ回っているらしい」
怖っ。ドス黒いオーラに包まれては邪悪な笑みを浮かべる。
悪役さながらの笑みでさえカッコ良く、こういう魔王がいたらすごく強いんだろうな。
「その辺のことは隠し通せると思っていなかったが、一番の問題は……」
「ミトン家ですね。父上」
「あぁ。ユーリのことを知れば連中は必ず連れ戻そうとする」
記憶にあるのはあの部屋の中だけ。
外から人の話し声を聞くことさえ滅多になかった。
生存本能がこの子を生かし続けただけ。
怖いわけではないのに、あの家に戻りたくなくてお父様にしがみつく。
「大丈夫だ、ユーリ。お前は私の娘だ。誰にも奪われはしない」
「私達家族が必ず守るからね」
「ん……」
「今日はもう寝ようか。色々と疲れただろう」
「ノルアお兄様!!」
一緒に寝るためノルアお兄様めがけてダイブすると、風が体を浮かせて落ちるのを防いでくれる。
「ユーリ。そんなことしたらダメだろう?」
「ごめんにゃひゃい」
ほっぺたを軽く引っ張られた。
怪我をしたくて飛んだわけじゃないけど、今の行動は怒られても文句は言えない。
考えなしの私が悪かったのだ。
「ティアロ。次から課題は自分でやれ」
「う……はーい」
お手伝いのつもりだったけど、答えを書くのは良くなかった。
せめて簡単に解ける方法を伝えるべきだったか。
今日の失敗を次もしなければいいだけ。反省もしたし、落ち込むのは今日だけにして、明日からはいつもの私でいよう。
「おやすみ、みんな」
恒例のキスをされて、ノルアお兄様の寝室に直行。
私の部屋もそうだけど、子供部屋にしては広すぎるんだよね。
余計な物がないからそう感じるだけかもしれないけど。
でもまぁ、高校生なわけだし、これくらいの広さが妥当か。
ということはだよ。私の部屋が広すぎるってことだ。
壁紙もカーテンも私の好きに変えていいと言ってくれた。私の部屋なのだから自由にしていいと。
私は今の部屋が気に入っているから、いじるつもりはない。
元々あった、テロイ家の温かい部屋。私はあの部屋がいいんだ。
優しさと温もりがいっぱい詰まっているから。
「あのね、ノルアお兄様」
「どうしたんだい」
二人してベッドに横になる。腕枕をしてくれているのでピッタリ引っ付く。
「今日……ね。あ、っ……」
私が当主の器であることが判明した。
次期当主のノルアお兄様には伝えると決めたのに、いざその瞬間になると決意が揺らぐ。
お父様は私の存在がノルアお兄様の迷惑にならないと言ってくれた。
心強い後押しがあったにも関わらず、この期に及んで私はまだ……。
子供の感情はムラがあり、マイナス思考に陥ると高波となって体の内側を支配しようとしてくる。
「大丈夫だよ、ユーリ。ちゃんと聞くから。ゆっくり話してごらん」
言葉を詰まらせていた不安が溶ける。
「私ね……。当主の器なんだって」
「それってパイオンが赤色に見えたってこと?」
「うん」
「すごいよ!ユーリ!!私にはただの灰色にしか見えなかったのに」
驚きよりも先に私の素質を褒めてくれた。
濃い色に見えたお父様は特別で、これまでの歴代当主は通常色か薄いかのどちらか。
私のようなイレギュラーもいたことはない。
当主の器と言っても、私は当主になる条件を満たしていないようなので、その座に就くことはないだろう。
その点だけは安心してほしい。
「お父様でもお兄様でもない、私なんかがいいのかな」
「んーー。あのね、ユーリ」
慣れた手つきで頭を撫でながら続ける。
「ユーリは大天才だけど、おっちょこちょいだからね。生まれてくる家を間違えたんだよ」
「間違えた?」
「そう。あんなのでも父上の実弟。同じ血が流れているからね。本当は父上のとこに来るはずが、向こうに行っちゃっただけ。だから、ユーリは正真正銘、テロイ家の娘だよ」
子供は親を選べないなんて悲しいこと、言ったのは誰だろう?
少なくとも私は選んだ。
優しくて優里を愛してくれる両親を。
きっと忘れているだけ。選んだことを。
他の子供もそうではないだろうか?
あの家に行きたい。あの人達が親だったらいいな。
そうやって選んで、命としてお腹に宿るときには記憶が零れ落ちる。
この世界でも選んだ。ユーリが、愛してくれる家族を。
「だからね、ユーリ。ここにいていいんだよ。誰がなんと言おうと、テロイ家の唯一の公女なんだから」
私は選択を間違えるところだった。ノルアお兄様を理由に屋敷を出るなんて。
惜しみなく愛を注いでくれる優しい家族に、自分都合で責任を押し付けるところだった。
「ごめんね。ノルアお兄様」
「その謝罪の意味は聞いてもいいのかな」
「私が当主の器って知ったとき、お兄様に迷惑がかかると思って、出て行こうとしたの」
「随分と思い切った行動だね」
「私がいたらお兄様が後ろ指指されるんじゃないかと思って」
「そんな心配しなくても、ユーリが当主の器であることが外部に漏れることはないよ。言いふらす人間なんていないからね」
「うん。そうだね」
ノルアお兄様を傷つけてしまうんじゃないかと、怖かったんだ。
テロイ家の娘だとしても、私はミトン家の次女である。大嫌いな叔父の娘なんかが、自分だけでなく尊敬する父親までもなれなかった当主の器だなんて。
何かの間違いであれば良かったけど、事実は事実として消えてくれない。
「勝手に出て行ったらダメだよ。ユーリは家族なんだから。みんな心配するよ」
「ん……」
「約束だよ」
心がスッキリした。不安に思うことは全部、吐き出してしまえばいいんだ。
弱音や愚痴だって、家族は真剣に聞いてくれる。時には解決策だって考えてくれる。
呆れて見捨てられることはない。
私達は家族なのだから。
お母様は刺繍、ノルアお兄様は読書。ティアロお兄様は……課題。
算術の先生はたまに、鬼のような課題を出すことがあるらしい。生徒なら誰もが通る道。ノルアお兄様も去年、課題を与えられて難なくこなした。
そして今年。ティアロお兄様が多すぎる課題に頭を抱え、ノルアお兄様に助けを求めている最中。
完全無視されているけど。
どれどれ。どんな難しい問題なのかな。
興味本位で覗いてみた。
…………ん?これが課題?
先生が出し間違えたのかな。
だってこれ算数だよ?数学ではない。正真正銘の。
もっとこう、頭がぐちゃぐちゃになる高度な問題を覚悟していたのに。
三桁の計算は充分に難しいけどさ。
算術って慣れない言葉で高度な数学だと思っていたけど、要は基礎。算数ってこと?
単純な計算や文章問題。
うん。算数だね。
ただ、違うところもある。言い方だ。
足し算は加算。引き算は減算。掛け算と割り算は乗算と除算。
ちょっと古風な言い回しみたいだな。昔の言い方をしないように気を付けないとね。
ティアロお兄様がノルアお兄様と格闘している間、私は一人静かに問題を解く。
大きい数字の計算は筆算を使えば簡単。
加算と減算に関してだけは、数字を見れば答えは導きだせる。
乗算と除算はまあ一桁なら余裕。
黙々と解き続けて、終わると達成感に包まれる。
見直して間違いがないことを確認。
ティアロお兄様の裾を引っ張った。
「課題。やった」
「わぁ、ユーリ。お手伝いしてくれたのか。ありがとう。でもな、これはユーリにはまだちょっと……」
「どうしたんだ、ティアロ?」
「いや。これ……」
全問正解しているはずなんだけどな。
テストが返ってくるときにも似た緊張感。
もうこの際、何問か間違っていてもいいか。その問題はティアロお兄様が直せばいいだけ。
「ユーリ」
「なぁに?」
刺繍を中断したお母様は微笑みながら
「全問正解よ。すごいわ」
褒めてくれた。わーい。
課題を持って一度、部屋の外に出たお母様はずくに戻ってきた。お父様と一緒に。
「ユーリがこれを一人で解いたのか?」
「うん!」
「そうか。すごいな」
また褒められちゃった。
表情筋が崩れそうになり、慌てて頬を抑える。
「ユーリ」
私を抱き上げたお父様は真剣に瞳を覗き込む。
イケメンに見つめられて、ちょっと恥ずかしい。
「“エルピスの花”」
「お花?」
「そう。かつて……。今よりもずっと昔。神が愛でていたとされる花の名前だ」
ほうほう。それが私と関係あるのだろうか?
「星が散りばめられているかのようなその瞳は“ニュクスの光”とも呼ぶ」
「ニュクス?」
「夜を照らす光という意味だ」
「待って。それは……」
「あぁ。私もずっと御伽噺だと思っていた。だが、ユーリの瞳には確実に刻まれている」
え、そうなの?鏡とか見るけど、全然気付かなかった。
「このことが大神殿にでもバレたら面倒だな」
「神殿じゃない?」
「大神殿っていうのは、全ての神殿を管理する大元で、全ての神官の頂点にいる神殿長が暮らしている場所よ」
まだまだ知らないことだらけだ。
もっと色んなことを教えてもらわないと。
「ノルア、ティアロ。ユーリのことは他言無用。絶対に漏らすなよ」
「わかっています」
「もちろん!」
よくわからないけど、私の瞳のことが大神殿とやらにバレたらとんでもなく面倒なことになるので、秘密を守ろうってことらしい。
大神殿とは神様を祀り、自分達を神に選ばれし使徒。特別な存在だと思い込んでいる。
国の実権を得るため常に王家の弱味を握ろうとしているとか。
表立って行動せず、慎重に証拠を残さないため処罰する方法がない。
が、そこに。大神殿に好機が訪れる。
私が現れてしまったのだ。
神の加護と女神の寵愛を受けるとされる“ニュクスの光”を持つ私は、大神殿からしてみれば神も同然。
当然、神様を祀る大神殿に私は身を置くべきだと主張する。
そして、神様がいるのに王家が国のトップに立つのはおかしいとも。
「幸い。よく見なければわかりはしない。そう簡単にバレることはないと思うが……」
「ユーリの全属性とホワイトドラゴンと青龍の真名を教えられただけでなく、羽根と鱗を貰ったことが広まっているのね」
「権力者の年寄り共がユーリを手中に収めようと、触れ回っているらしい」
怖っ。ドス黒いオーラに包まれては邪悪な笑みを浮かべる。
悪役さながらの笑みでさえカッコ良く、こういう魔王がいたらすごく強いんだろうな。
「その辺のことは隠し通せると思っていなかったが、一番の問題は……」
「ミトン家ですね。父上」
「あぁ。ユーリのことを知れば連中は必ず連れ戻そうとする」
記憶にあるのはあの部屋の中だけ。
外から人の話し声を聞くことさえ滅多になかった。
生存本能がこの子を生かし続けただけ。
怖いわけではないのに、あの家に戻りたくなくてお父様にしがみつく。
「大丈夫だ、ユーリ。お前は私の娘だ。誰にも奪われはしない」
「私達家族が必ず守るからね」
「ん……」
「今日はもう寝ようか。色々と疲れただろう」
「ノルアお兄様!!」
一緒に寝るためノルアお兄様めがけてダイブすると、風が体を浮かせて落ちるのを防いでくれる。
「ユーリ。そんなことしたらダメだろう?」
「ごめんにゃひゃい」
ほっぺたを軽く引っ張られた。
怪我をしたくて飛んだわけじゃないけど、今の行動は怒られても文句は言えない。
考えなしの私が悪かったのだ。
「ティアロ。次から課題は自分でやれ」
「う……はーい」
お手伝いのつもりだったけど、答えを書くのは良くなかった。
せめて簡単に解ける方法を伝えるべきだったか。
今日の失敗を次もしなければいいだけ。反省もしたし、落ち込むのは今日だけにして、明日からはいつもの私でいよう。
「おやすみ、みんな」
恒例のキスをされて、ノルアお兄様の寝室に直行。
私の部屋もそうだけど、子供部屋にしては広すぎるんだよね。
余計な物がないからそう感じるだけかもしれないけど。
でもまぁ、高校生なわけだし、これくらいの広さが妥当か。
ということはだよ。私の部屋が広すぎるってことだ。
壁紙もカーテンも私の好きに変えていいと言ってくれた。私の部屋なのだから自由にしていいと。
私は今の部屋が気に入っているから、いじるつもりはない。
元々あった、テロイ家の温かい部屋。私はあの部屋がいいんだ。
優しさと温もりがいっぱい詰まっているから。
「あのね、ノルアお兄様」
「どうしたんだい」
二人してベッドに横になる。腕枕をしてくれているのでピッタリ引っ付く。
「今日……ね。あ、っ……」
私が当主の器であることが判明した。
次期当主のノルアお兄様には伝えると決めたのに、いざその瞬間になると決意が揺らぐ。
お父様は私の存在がノルアお兄様の迷惑にならないと言ってくれた。
心強い後押しがあったにも関わらず、この期に及んで私はまだ……。
子供の感情はムラがあり、マイナス思考に陥ると高波となって体の内側を支配しようとしてくる。
「大丈夫だよ、ユーリ。ちゃんと聞くから。ゆっくり話してごらん」
言葉を詰まらせていた不安が溶ける。
「私ね……。当主の器なんだって」
「それってパイオンが赤色に見えたってこと?」
「うん」
「すごいよ!ユーリ!!私にはただの灰色にしか見えなかったのに」
驚きよりも先に私の素質を褒めてくれた。
濃い色に見えたお父様は特別で、これまでの歴代当主は通常色か薄いかのどちらか。
私のようなイレギュラーもいたことはない。
当主の器と言っても、私は当主になる条件を満たしていないようなので、その座に就くことはないだろう。
その点だけは安心してほしい。
「お父様でもお兄様でもない、私なんかがいいのかな」
「んーー。あのね、ユーリ」
慣れた手つきで頭を撫でながら続ける。
「ユーリは大天才だけど、おっちょこちょいだからね。生まれてくる家を間違えたんだよ」
「間違えた?」
「そう。あんなのでも父上の実弟。同じ血が流れているからね。本当は父上のとこに来るはずが、向こうに行っちゃっただけ。だから、ユーリは正真正銘、テロイ家の娘だよ」
子供は親を選べないなんて悲しいこと、言ったのは誰だろう?
少なくとも私は選んだ。
優しくて優里を愛してくれる両親を。
きっと忘れているだけ。選んだことを。
他の子供もそうではないだろうか?
あの家に行きたい。あの人達が親だったらいいな。
そうやって選んで、命としてお腹に宿るときには記憶が零れ落ちる。
この世界でも選んだ。ユーリが、愛してくれる家族を。
「だからね、ユーリ。ここにいていいんだよ。誰がなんと言おうと、テロイ家の唯一の公女なんだから」
私は選択を間違えるところだった。ノルアお兄様を理由に屋敷を出るなんて。
惜しみなく愛を注いでくれる優しい家族に、自分都合で責任を押し付けるところだった。
「ごめんね。ノルアお兄様」
「その謝罪の意味は聞いてもいいのかな」
「私が当主の器って知ったとき、お兄様に迷惑がかかると思って、出て行こうとしたの」
「随分と思い切った行動だね」
「私がいたらお兄様が後ろ指指されるんじゃないかと思って」
「そんな心配しなくても、ユーリが当主の器であることが外部に漏れることはないよ。言いふらす人間なんていないからね」
「うん。そうだね」
ノルアお兄様を傷つけてしまうんじゃないかと、怖かったんだ。
テロイ家の娘だとしても、私はミトン家の次女である。大嫌いな叔父の娘なんかが、自分だけでなく尊敬する父親までもなれなかった当主の器だなんて。
何かの間違いであれば良かったけど、事実は事実として消えてくれない。
「勝手に出て行ったらダメだよ。ユーリは家族なんだから。みんな心配するよ」
「ん……」
「約束だよ」
心がスッキリした。不安に思うことは全部、吐き出してしまえばいいんだ。
弱音や愚痴だって、家族は真剣に聞いてくれる。時には解決策だって考えてくれる。
呆れて見捨てられることはない。
私達は家族なのだから。
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