溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ

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最上位魔物

王子と皇子【sideなし】

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 昼下がりの魔法部屋は、薄い陽の光が差し込み、静かな空気に包まれていた。エルノアヴィルトとセインレッツェルは、昼食を終えたばかりで、まだ満腹感が残る中で魔法の訓練に励んでいた。

 「エルノアはカッコ良いね」

 その休憩中、セインレッツェルが呟いた。
 独り言にしてはハッキリと耳に届いたので、エルノアヴィルトは首を傾げていた。

 なぜ急にそんなことを言い出したのかが、理由がまったくわからないからだ。

 セインレッツェルは男の子らしからぬ可愛らしい顔立ちをしているが、決してカッコ良くないわけではない。彼の整った顔立ちは、将来多くの女性を魅了することは間違いなかった

 「どうしたんだ、急に」

 エルノアヴィルトが尋ねると、何かを映すその瞳は後悔に満ちていた。

 「リュコスに襲われたとき、迷わずユーリを助けただろう?」

 人間の魔力に引かれて、本来なら寄り付くはずのない火蜘蛛の住処に姿を現した。

 他の者には目もくれず一直線にユーリに襲いかかった。

 突然のこと故に、魔法の発動が間に合わない。ユーリが襲われる。

 全員の思考がシンクロしたかのように、そう思った。

 「でも……。エルノア、君だけは違った」

 緊張と恐怖に体が硬直していたセインレッツェルの目には、無謀ゆうかんにもユーリを庇うエルノアヴィルトの姿が映った。

 肉が裂け骨は砕けた。全身が血まみれに染まってしまうかのような出血。

 痛みに叫ぶことなく、ユーリを心配するその姿は……。

 「あれは無我夢中だっただけだ」

 エルノアヴィルトの声は震えていたが、そこには確かな強さと優しさが宿っていた。セインレッツェルはその姿を見て、尊敬の念を禁じ得なかった。自分は何もできなかったのに、エルノアヴィルトは命をかけて守ったのだ。

 「エルノア。私はね、ユーリが好きだよ」

 静かな声が、空気を震わせた。

 その言葉は突然で、しかしあまりにも自然だった。セインレッツェルの瞳は真剣そのもので、隠そうともしなかった。彼の「好き」という感情は、異性に向けられていることは明白。

 今にして思えば、初めて会ったときから惹かれていたのだろう。

 ユーリの笑顔は下心なんてなく純粋そのもの。

 周りの人間は皆、権力に擦り寄ってくるばかり。
 同年代の子供でさえ、見え透いたお世辞でご機嫌取りをしてくる始末。
 その清々しさは呆れるを通り越して滑稽だった。

 立場ある者に生まれた以上、人間の欲がついて回ることは覚悟していたが、息苦しさは拭えない。

 毎日毎日飽きもせず、身分の低い者を見下すばかりの大臣に心が疲れきっていた。

 他人と会わないことがセインレッツェルにとっての平穏。

 そんなとき、恒例の留学の時期となりセインレッツェルは心底安堵した。

 彼らの顔を見なくて済む、と。

 6歳から10歳までのわずかな期間、彼は自国の喧騒や権力争いから離れ、新しい環境で自由を感じることができたのだ。まさにセインレッツェルにとって救い。

 青龍と麒麟。同じ歳でもある二人は神獣の加護も受けており、4月も少し過ぎた頃に来たばかりだというのに、仲良くなるための時間はかからなかった。

 ハルテの街で行われていた催し、バザー。
 そこで売られていた様々な品物はどれもありそうでなかった物ばかり。
 特にカレンダーなんて画期的。

 数字を毎日、目にすることで覚えられるし、記念日や大切な予定は家族で共有出来る。

 友人でもあるエルノアヴィルトの分も買って、本人に渡すとひどく感心していた。

 「俺もユーリが好きだよ」

 エルノアヴィルトは静かに目を閉じ、心の中で答えを探した。そして、導き出した。

 出会うほとんどの令嬢は、王太子の身分にしか興味がない。彼女達の関心は常に地位や名誉にのみ向けられる。

 ラーシャ・ミトンが良い例だ。

 春になったばかりの頃。6歳の誕生日に、今年6歳となる子息と令嬢をパーティーに招待した。

 王太子は同じ歳の子供を将来、側近に付けなければならない決まりがあるため、今年6歳を迎える子供に招待状は届く。

 そのため、恒例となっている留学は誕生日を迎えるまで行けない決まりでもある。

 誕生日パーティーで目にしたラーシャはとても、噂で聞くような令嬢ではなかった。
 見た目こそ愛らしいが、多くの子息や気弱な令嬢を従えさせる姿に、ミトン家は終わりだなと確信を持っていた。

 元々、先代公爵からミトン家は狂い始めていたのは周知の事実。そこに、テロイ家の末弟が嫁いできたものだから、もっと壊滅的になっていた。

 頑張れば立て直せるが、恵んでもらうのが当たり前だと思っている彼らでは、破滅の道を辿るしかない。

 セインレッツェルも春の生まれ。エルノアヴィルトとは誕生日が数日しか違わない。

 今年の春はエルノアヴィルトの6歳の誕生日を迎えるため、アクラ山へ向かう時期が例年より少しだけ遅れてしまったのだ。

 特別な年だからこそ、めでたいパーティーが1日で終わるわけがない。
 幼い王太子に媚びを売り、どうにか甘い蜜を吸おうと大人達は解散しなかった。

 国の一大事より自分達の利益しか考えない身勝手な大人には失望しかない。

 そんなときに出会った、テロイ家の養女。

 失言をした。知らなかったから。虐待を受けていたなんて。

 ちょっと考えればわかったことなのに、当たり前のように疑問を口にした。
 聞かれた本人は気にしていない様子ではあったが、傷ついた心を攻撃したことに変わりはない。

 失態を犯したエルノアヴィルトをユーリは優しく許してくれた。
 純粋で胸の奥が温まる笑顔で。

 「じゃあ、ライバルだね」

 そう言って微笑んだ。

 王太子と皇太子。いずれ国を背負う者として、物語のような恋愛には縁がないとはずだった。

 国のために政略結婚をして、共に過ごす長い日々じかんが少しずつ愛を育む。

 金と権力に目が眩んだ相手ではなく、中立な家門の令嬢と結婚するのだろうと思っていた。

 誰かを好きになるなんて、そんなこと……。

 ユーリに流れる血がミトン家のものだとしても、公爵の血筋であることに変わりはない。
 加えて特別な物を生み出す発想力と、神獣と最上位魔物四体を服従させる存在。

 瞳に散りばめられた星。万物に愛される証拠。

 ニュクスの光。エルピスの花。一雫の星。

 幼き、特別なユーリを表す言葉。

 「エルノアには負けないからね」

 その言葉は挑戦であり、同時に尊敬の証でもあった。

 二人はこの先もずっと変わらない友情を育んでいく。紡がれた絆は誰にも壊せはしない。

 そう……二人の間には友情があり、恋愛に関してライバルになんて、なれるはずがなかった。

 いずれは帝国の頂点に君臨するセインレッツェルのほうが、一歩リードしていると言っても過言ではない。

 広大な領土を誇り、豊かな資源に恵まれている。
 しかも、帝国は神に最も近いとされる麒麟の加護を受けていることで知られていた。

 どちらかを選ばなくてはならないのなら、迷わずセインレッツェルの手を取る。エルノアヴィルトはそうするからだ。

 「俺だって負けないさ」

 相手にならないと見下し突き放すのではなく、正々堂々の勝負を望むセインレッツェルの熱く強い思いを受け止める。

 国とか身分とか、そんなもので卑屈になるのはやめた。

 なぜなら、ユーリは身分で人を判断しない。
 仮に二人が平民だったとしても、変わらず笑顔で接してくれる。
 名前を呼んでくれる。

 あの優しさをちゃんと知っているのだ。

 それでも、二人はこれだけは誓う。

 この想いがユーリを困らせるだけならば、胸の内にしまっておくと。

 共に未来を歩みたいと夢を見ながらも、好きだからこそユーリの人生を縛る真似はしたくない。

 ユーリが誰を選んだとしても、笑顔で幸せに笑っていてくれるのであれば、二人はきっと心から祝福出来る。
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