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第一章
一体誰のことを言っているの?
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ニコラが素で話せる数少ない人物。邪魔者のいない別室に案内したほうがよさそうね。
気を利かせたつもりがニコラは断った。もう話すことはないと。
──小公爵は話は足りないようなんだけど?
借りを作るとか、そんなつもりはなくてニコラの幸せが私に仕えること以外にあるのなら選択肢を潰したくはないだけだっただけ。
「アルファン小公爵。よければヘレンとも友達になってやってくれんかね」
勝手に話に割り込んでくるなんて失礼にも程がある。
相手にされていないのだから空気を読んで席を外すか、何もせずそこに座っていればいいものを。
貴族特有の笑顔の下に隠された表情に気付くわけもなく、ヘレンと友達になるように勧めてくる。
ヘレンの良さを語るも、私からしたら赤の他人の自慢話にしか聞こえない。
今後のことを考えて小公爵と関係を築き仲良くなっていたほうがいいと欲が出ている。
上級貴族に生まれたのだから、彼らのように擦り寄ってくる者も多い。
それを受け入れるかどうかは利で決める。
幼い頃からの親しい友人や幼馴染み、好きな異性なら無条件で手を取り合えても、会ったばかりの問題しか起こさない令嬢と仲良くなりたいなんて、まともな人ならお断り。
「私なんかでいいんですか?ジーナ令嬢は私を伯爵よりも下の貴族だと思っているようですが」
「は、はは…そんなバカな……。ヘレンはとても賢い子なんですよ」
──賢い?
本当に誰と勘違いしているのか。
お父様が語った人物像に当てはまるのはカスト。
思いやりがあり責任感も強い。一度引き受けたことはやり遂げる。周りからは頼りにされ、信頼と信用を勝ち取り羨望の眼差しを向けられる。そして賢い。
全部カストがアカデミー在学中に言われていたこと。
ヘレンも否定することなく、真実であるかのように恥ずかしがる。
「侯爵の目にはそう映っているんですか。随分と可愛がられているんですね」
鋭い観察眼。
睨むような目付きに小さな悲鳴を上げたヘレンにため息をついた。
会話の内容で表情が変わるなんて、よくある。
それを睨まれたと感じるのは、やましい心があるから。
ヘレンは居候と言うには態度が大きすぎる。謙虚さもなく自分も侯爵令嬢だと勘違いしてる節がある。
人生をやり直すと巧妙に隠されていた汚い部分がよく見える。
小公爵の発言に偽りがないことを私が証言すると、怒鳴り散らそうとしてくるハンネスをカストが止めた。
お客様の前でこれ以上の失態は晒せない。
信じられないならあの場にいた生徒全員を今すぐ呼んで確認してもいい。
こんなことのために呼び付けるのは忍びないけど、事実はハッキリさせておかなければならないから。
小公爵の言葉を信じないということは、疑っているということ。
公爵と侯爵が同格なわけもなく、彼らの態度は失礼に値する。
──後で正式な謝罪文を送らないと。
もし小公爵がお父様のような性格だったのなら、ローズ家はとっくに破滅させられている。
「ヘレンと小公爵様は会ったことがないので、間違われてしまっただけですよ」
「あぁ、なるほど」
「そうでなければヘレンが……」
「テオドール・アルファンと名乗ったのですが。それでも私のほうが階級が下だと態度に出ていましたよ?」
「そ、それは……」
「私も身分のことでうるさく言いたくはないのですが、面子があるのです。侯爵ならわかってくれますよね?」
「ええ!もちろん!!」
それしか誇れるものがないのだから激しく同意する。
言い訳も謝罪もないヘレンの印象は悪くなる一方。
言い訳さえも人任せにするなんて。
ヘレンは本当に自分では何もする気がないのね。
今は外見だけで許されていても、歳を取れば知識や経験が必要になる。
ねぇヘレン。人は皆、平等に歳を取るのよ。
外見しか取り柄のない貴女は、ずっと見下し嘲笑ってきたオバサンになるしかない。
私からみてれば貧しいながらにも懸命に働き子供を育てる彼女達に尊敬さえ覚えている。
一時のために努力を怠り、考えることを放棄した人間についていきたい貴族などいない。
ヘレンには人の上に立つ資格がないのだ。
「侯爵。私はね。アリアナ様とこれからも仲良くしたいと思っている。ローズ家ではなくアリアナ様個人とね。もちろん当主がアリアナ様になるのならローズ家との付き合いも考えたい」
「仰っている意味が……」
「わからないなら結構」
要はカストではなく私を当主にしたら公爵家との繋がりが持てる。それだけ。難しいことはない。
カストは自分では役不足だと言われた。
生まれたときから家を継ぐために教育されてきたカストからしたら、これ以上の屈辱はない。
周りからも優秀だと褒められ、侯爵家と繋がっていたい下の貴族達からもてはやされてきたカストを否定する言い方。
私よりも自分のほうが優れ、当主になるに相応しいと反論したいのを堪えて出かかった言葉を飲み込んだ。
お父様と違って冷静になれるのは騎士てしての訓練の賜物。そうでなければ同じように怒鳴り散らしていた。
紅茶を飲み干した小公爵は名残り惜しそうに今日のところは帰ると。
時間も時間だし長居させてしまったのは申し訳ない。
お父様が慌てて引き止めようとするも、冷たい視線に伸ばされた手は中途半端なとこで止まった。
十六歳の子供に圧倒されるなんて情けない。と、言いたいとこだけど、やはり公爵家の血筋。視線一つで動きを止めるなんて。
私には厚意的な目しか向けられていないけど、お父様達と同じ目を向けられていたら威圧されていた。
──今後も小公爵の敵にならないよう気を付けないと。
ニコラに見送りを命じると渋々ながらにうなづいた。
そんなに嫌なの。小公爵と関わるのは。気まづいのはわかるけど、一度は婚約した仲なのに。
でも、嫌いってわけではなさそう。
喧嘩するほど……って言うし。喧嘩はしてないけど。
気を利かせたつもりがニコラは断った。もう話すことはないと。
──小公爵は話は足りないようなんだけど?
借りを作るとか、そんなつもりはなくてニコラの幸せが私に仕えること以外にあるのなら選択肢を潰したくはないだけだっただけ。
「アルファン小公爵。よければヘレンとも友達になってやってくれんかね」
勝手に話に割り込んでくるなんて失礼にも程がある。
相手にされていないのだから空気を読んで席を外すか、何もせずそこに座っていればいいものを。
貴族特有の笑顔の下に隠された表情に気付くわけもなく、ヘレンと友達になるように勧めてくる。
ヘレンの良さを語るも、私からしたら赤の他人の自慢話にしか聞こえない。
今後のことを考えて小公爵と関係を築き仲良くなっていたほうがいいと欲が出ている。
上級貴族に生まれたのだから、彼らのように擦り寄ってくる者も多い。
それを受け入れるかどうかは利で決める。
幼い頃からの親しい友人や幼馴染み、好きな異性なら無条件で手を取り合えても、会ったばかりの問題しか起こさない令嬢と仲良くなりたいなんて、まともな人ならお断り。
「私なんかでいいんですか?ジーナ令嬢は私を伯爵よりも下の貴族だと思っているようですが」
「は、はは…そんなバカな……。ヘレンはとても賢い子なんですよ」
──賢い?
本当に誰と勘違いしているのか。
お父様が語った人物像に当てはまるのはカスト。
思いやりがあり責任感も強い。一度引き受けたことはやり遂げる。周りからは頼りにされ、信頼と信用を勝ち取り羨望の眼差しを向けられる。そして賢い。
全部カストがアカデミー在学中に言われていたこと。
ヘレンも否定することなく、真実であるかのように恥ずかしがる。
「侯爵の目にはそう映っているんですか。随分と可愛がられているんですね」
鋭い観察眼。
睨むような目付きに小さな悲鳴を上げたヘレンにため息をついた。
会話の内容で表情が変わるなんて、よくある。
それを睨まれたと感じるのは、やましい心があるから。
ヘレンは居候と言うには態度が大きすぎる。謙虚さもなく自分も侯爵令嬢だと勘違いしてる節がある。
人生をやり直すと巧妙に隠されていた汚い部分がよく見える。
小公爵の発言に偽りがないことを私が証言すると、怒鳴り散らそうとしてくるハンネスをカストが止めた。
お客様の前でこれ以上の失態は晒せない。
信じられないならあの場にいた生徒全員を今すぐ呼んで確認してもいい。
こんなことのために呼び付けるのは忍びないけど、事実はハッキリさせておかなければならないから。
小公爵の言葉を信じないということは、疑っているということ。
公爵と侯爵が同格なわけもなく、彼らの態度は失礼に値する。
──後で正式な謝罪文を送らないと。
もし小公爵がお父様のような性格だったのなら、ローズ家はとっくに破滅させられている。
「ヘレンと小公爵様は会ったことがないので、間違われてしまっただけですよ」
「あぁ、なるほど」
「そうでなければヘレンが……」
「テオドール・アルファンと名乗ったのですが。それでも私のほうが階級が下だと態度に出ていましたよ?」
「そ、それは……」
「私も身分のことでうるさく言いたくはないのですが、面子があるのです。侯爵ならわかってくれますよね?」
「ええ!もちろん!!」
それしか誇れるものがないのだから激しく同意する。
言い訳も謝罪もないヘレンの印象は悪くなる一方。
言い訳さえも人任せにするなんて。
ヘレンは本当に自分では何もする気がないのね。
今は外見だけで許されていても、歳を取れば知識や経験が必要になる。
ねぇヘレン。人は皆、平等に歳を取るのよ。
外見しか取り柄のない貴女は、ずっと見下し嘲笑ってきたオバサンになるしかない。
私からみてれば貧しいながらにも懸命に働き子供を育てる彼女達に尊敬さえ覚えている。
一時のために努力を怠り、考えることを放棄した人間についていきたい貴族などいない。
ヘレンには人の上に立つ資格がないのだ。
「侯爵。私はね。アリアナ様とこれからも仲良くしたいと思っている。ローズ家ではなくアリアナ様個人とね。もちろん当主がアリアナ様になるのならローズ家との付き合いも考えたい」
「仰っている意味が……」
「わからないなら結構」
要はカストではなく私を当主にしたら公爵家との繋がりが持てる。それだけ。難しいことはない。
カストは自分では役不足だと言われた。
生まれたときから家を継ぐために教育されてきたカストからしたら、これ以上の屈辱はない。
周りからも優秀だと褒められ、侯爵家と繋がっていたい下の貴族達からもてはやされてきたカストを否定する言い方。
私よりも自分のほうが優れ、当主になるに相応しいと反論したいのを堪えて出かかった言葉を飲み込んだ。
お父様と違って冷静になれるのは騎士てしての訓練の賜物。そうでなければ同じように怒鳴り散らしていた。
紅茶を飲み干した小公爵は名残り惜しそうに今日のところは帰ると。
時間も時間だし長居させてしまったのは申し訳ない。
お父様が慌てて引き止めようとするも、冷たい視線に伸ばされた手は中途半端なとこで止まった。
十六歳の子供に圧倒されるなんて情けない。と、言いたいとこだけど、やはり公爵家の血筋。視線一つで動きを止めるなんて。
私には厚意的な目しか向けられていないけど、お父様達と同じ目を向けられていたら威圧されていた。
──今後も小公爵の敵にならないよう気を付けないと。
ニコラに見送りを命じると渋々ながらにうなづいた。
そんなに嫌なの。小公爵と関わるのは。気まづいのはわかるけど、一度は婚約した仲なのに。
でも、嫌いってわけではなさそう。
喧嘩するほど……って言うし。喧嘩はしてないけど。
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