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第一章
闇夜に指すは少女の光【sideなし】
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暗部、名もなき暗殺集団。
構成人数不明。
出身地不明。身分不明。
リーダーの性別・年齢不明。
とにかく、あらゆるものが謎に包まれていた。
彼ら、彼女ら、奴ら、連中。
その集団を知る者はそう呼ぶ。
暗殺を依頼する方法はいたって簡単。形も色も大きさも、何でもいい。ちぎった紙に殺したい対象の名前を書き風に飛ばすだけ。
紙は消えるわけではなく、ただ風に吹かれ舞う。
飛ばされた紙は行き交う人に踏まれたり、雨に濡れて字が読めなくなったり。
仮に見つかったところで、誰が書いたのかはわからない。
報酬は仕事を終えた後に回収に行く。払わないなんて論外。どんな相手からでも確実に報酬を取り立てる。
噂を耳にしたほとんどの平民が試してみるも、成功した例はない。
誰かが流した嘘で、誰も信じる者はいなくなり人々の記憶からその存在は消えていった。
だが確実に、昨日も、今日も、そしてこれからも、人は消え続ける。
神隠しにあったかのように。不運な事故に遭ったかのように。
組織はとても気まぐれだった。たまりにたまった依頼から適当なものを引いて、気が向いたときに実行する。得る報酬も人によって様々。
面白半分や好奇心で書いただけの人物は忘れた頃に消されていく。平民なら事が大きくなることもなく、どこかで事故や事件に巻き込まれたのだろうと他人事。
貴族なら調査は入るものの、やはりこちらも事故として処理されるだけ。
殺人の痕跡など一切残さない。
殺し方が美しく最早、芸術と評価されてもおかしくはないほどだった。
変わらない日常に変化が訪れたのは、良くも悪くもない国王陛下暗殺依頼。
彼、あるいは彼女にとって王宮に忍び込むなど造作もない。
侍従に変装し、所作から言葉遣いまで完璧になりきっていた。誰にも疑われないほどに。
陛下はいつも夜遅くまで公務に追われている。眠気覚ましのコーヒーに小瓶丸々の毒を混ぜた。
眠る間に心臓を一突き、なんてのはつまらない。
苦しみ、自分は死ぬのだと実感させ、歪む顔が見たい。そのため毒は即効性のないものを選んだ。
一国の王の死に際はさぞ、滑稽だろう。
が、予想外のことが起きた。
執務室に入るなり、隣国の防御魔法が発動し鋭い光が足を貫いた。
王宮の特定の場所には万が一に備えてこうした魔法が仕掛けられている。 どんな人間も初見で躱すことは不可能。
隣国との交流は頻繁に行っていたが、魔法付与れた魔道具を貸すほどとは思っていなかった。
だが、おかしい。今の防御魔法は本来、襲ってくる敵に対してのみ発動する言わばカウンター魔法。毒入りコーヒーを持ってきただけでは発動するわけがない。
暗殺者が最初から来るとわかっていない限り。
立ち上がり無造作に近づいてくる陛下の目を見て確信した。
罠だった。暗殺集団を捕らえるための。
誰もが忘れかけた、ただの嘘に自らの命を賭け金としたのだ。
国王暗殺の時点で気付くべきだった。
依頼人である宰相は陛下に対して裏切ることのない忠誠を誓っている。本気で死を望むわけがない。
今日来なければ明日。明日来なければ明後日。
毎日、暗殺依頼をしてはおびき寄せるつもりだった。
この失態は遊び半分ゲーム感覚で、依頼人の素性を事細かく調べなかったことが原因である。
一流の暗殺者なら調べたかもしれないが、組織からしたら誰かを殺したい理由も、依頼人がどんな人間かも興味の欠片もない。
肉がえぐれたわけでもなく、ナイフが届かない距離で立ち止まった陛下に襲いかかる。
まさかまだ暗殺を諦めていなかったとは……。
例え嘘だったとしても、依頼は受けたのだ。何もせず逃げるなど。
傷を負ったとは思えないほど速く、もう一つの魔法が発動しなければ首を斬られていた。
光は腹部を貫いた。
絶対に殺すという強い意志から腕に怪我は負わせた。
深く斬り付けはしたが致命傷でも何でもない。
心臓に、喉元に、この刃を突き刺せることが出来たのなら依頼は完了するはずだった。
騎士団の足音が近くなる。無理に依頼を遂行すれば身柄を拘束されてしまう。
地下牢に投獄されるだけなら脱獄に自信はある。だかもし、隣国から“あの男”が来ていたら、事態は最悪の方向へと向かう。
依頼は嘘だった。
一国の王が自らの命を囮に使ってまでも捉えようとする執念。敗北感はないが感服してしまった。
手傷を負わされた陛下は血を流しながらも凛々しくそこに立っている。
彼、あるいは彼女を見る目は哀れみや同情とは別の感情が宿っていた。
後悔。
人を殺す仕事なんて決して褒められるものではない。それでも、その道以外に選ぶものがなかったから。
そして……選ばせてしまったことが自分の責任だと言わんばかりの切ない表情。
王族が、国王が民のことを考えるなんて理想。
現実ではありえないと思っていたのに……。
一瞬、言葉を交わしてみたいと心が揺れたが、騎士の声にハッとした。
一時の感情に流されてバカになるつもりは毛頭ない。
取るに足らないプライドを捨て、まずは逃げることを優先した。
深い傷にも関わらず、その速さは追いつけたものではないが血の痕跡までは頭が回らない。
仲間を呼ぶにしても数分はかかる。追っ手をどうにかしたほうが早いが、そんな余裕さえない。
このままでは捕まる前に出血死してしまう。
走って、走って、偶然見つけた門の開いた屋敷へと逃げ込み茂みに身を隠した。
「貴方……誰?」
夜はまだ始まったばかり。
子供が眠りについていなくても不思議ではないが。
シルバーブロンドの髪が月明かりで眩しかった。
少女は外の騒がしさに気付き様子を見に来ていた。
親や使用人が止めるのも聞かずに出てきたのだろう。何とも好奇心旺盛な。
美学には反しているがこの少女を人質にして、しばらく匿わせることにした。
傷が治るまでの短い期間だ。人質といっても危害を加えるつもりはない。
「大変!怪我してるじゃないの!」
流れる血を見ては驚き、手当てをするからと屋敷とは別の建物に連れ込まれた。どうやら物置小屋のようだ。
外観とは違い中は掃除が行き届いている。
少女は着ていた上着を木の箱に敷いてはそこに座るよう促した。
掃除がされているとしても、全く汚れがないわけではない。
その上着は一体、何十万リンなのか。
いくら物に無頓着な阿呆でも、これは流石に気が引ける。
「早く座って。立ったままでは治療が出来ないわ」
お人好しよりバカが似合いそうだった。
見るからに厄介者の手を引くなど……。
観念して座ると、隠すように置かれていた治療道具を取り出す。
貴族令嬢が傷の手当てに慣れていることが不思議で、少女の手を見れば毎日剣を握っているのがわかった。
「貴方も女は慎ましくお淑やかであるのが普通だと思う?」
パチリと目が合うと少女は困ったように笑っていた。
答えに悩んだ。
周りにいる女性は気が強く男を立てることもしなければ、平然と殴り飛ばしてしまう。 ロクな人間の集まりではない。
そもそも人の道を外れた自分が“普通”を語る資格もなく。
多分、少女の望む答えを導けない。
「そうだ」と言えばこれまでの少女を否定することになり、「違う」と言えばもっと困らせてしまう。
女は女らしく。男を立て決して前を歩いてはいけない。
どの国も共通している女性貴族の在り方。
「やりたいようにやればいいんじゃねぇの?」
それが精一杯。
わからない。本当に。なんと言ってあげれば良いのか。
適当に答えたわけではない。これしか浮かばなかった。
「そっか。そうだよね」
悩んでいたことが嘘のようにパァっと晴れやかになった。
親しい者に今の質問をすれば困らせてしまう。
わかっていたから少女は、古臭い風習でもあるカタにはまった淑女として生きる傍ら、隠れて剣術でもやっていたのだろうか。
好きなことを出来ないのなら不自由と変わりない。それでも少女を不憫だと思えない。
「明日、主治医に見てもらうから安静にしててよ」
どうしてそんなに優しくするのか。
聞こうとすると、少女の母親らしき声が心配そうに「シャロン」と叫んでいた。
血痕が敷地内に続いていれば騎士団が事情を訊ねるに決まっている。
このまま見つかれば少女が共犯とみなされる。
素直に手当てなんて受けなければ……。
「何も心配しないで。大丈夫だから」
動くなと言うようにそっと手を重ねる。
揺るがない瞳は真実を語っていた。
この少女は目の前にいる人間が何者か知りながら助けてくれた。
更には匿ってくれようともしている。
小屋の外に出た少女はしっかりと戸を閉めた。
鍵はないため簡単に蹴破られてしまうが、伯爵の屋敷でそんな愚行を働く騎士なといない。
会話を盗み聞きしていると、伯爵夫人が数人の騎士団員と共に娘を捜していた。
服や手についた血を不審に思った一人が中を調べさせて欲しいと言う。
手当てには細心の注意が払われていたが、月明かりしかない小屋で完璧には出来ない。
考えるしかなかった。この状況を切り抜ける方法を。
少女……伯爵家は処刑はされないにしても身分の剥奪は免れない。そうなったら一生後ろ指を差され笑われる人生を送る羽目になる。
必死に止める少女に騎士団員は、何もないことを証明するためにも小屋の中は見なくてはいけないと説得した。
バカではない少女は言葉の意味は理解している。して、いるのだが……。
ギリギリまで騎士団のマントから手を離そうとしない。
生まれて初めて赤の他人に優しくされたことがきいたのか、この家に、少女に迷惑をかけたくないと強く思った。
見つかってもいいのだ。ここにいるのが負傷した男だとバレさえしなければ。
驚くことに、彼、あるいは彼女は犬へと擬態する。
勢いよく戸を開けた騎士団員は既に剣をかまえていた。
中に人がいないか隅々まで調べる。
少女は彼、あるいは彼女が小窓から上手く逃げたのだと安心しつつ、この犬は何だろうと顔をしかめていた。
「この犬は怪我をしているようですし、まさかあの血は犬の……?」
「そうです!私が見つけたときには大怪我をしていて。人間にやられたみたいなので、こんな大勢で入ったら余計に怖がらせてしまうかもと」
「なるほど。それは失礼した」
「逃げ切るために奴が故意に犬を傷つけた可能性もありますね」
「外道めが。夫人、もし負傷した男を見かけたらすぐ騎士団にご連絡をお願いします」
夜分に騒がしくしてしまったことと犬を怖がらせたことを謝罪して、闇夜に消えた暗殺者の行方を再び捜し始めた。
犬を抱き上げると、つい今しがた巻いてあげた包帯と同じものを巻いている。
人間が犬になるなんて聞いたことはない。
偶然。これは偶然でなければおかしいと自分に言い聞かせるも、その犬は喋った。
人の姿に戻るから降ろして欲しいと。
冷静を装っているが夫人は驚きを隠せていない。
床に降ろせば犬は光りに包まれ人間の姿へと戻る。夫人がとっさに少女の目を塞いだのは、裸だった場合を想定して。
犬は服を着ていない。人間になれば同様。
そう考えるのはなんら不思議ではない。
ちゃんと服を着ていて取り越し苦労に終わったが。
「貴方……何者?」
震える声は恐怖しているわけではない。好奇心とはまた別の、輝く瞳から“憧れ”が感じ取れる。
見知らぬ怪我をした男を助けてくれた。庇おうとしてくれた。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
嘘をつくのは容易い。嘘を信じ込ませることも。
こんなにも真っ直ぐと目を見て話してくれる人はいただろうか。
少女の純粋には、厚意と誠意で応えたい。
「ただの人殺しだよ」
点と点が繋がり、瞬時に事を理解した夫人は伯爵に報告すると言い出した。
それが賢明の判断である。
親バカではなく、娘が賢いのは薄々勘づいていた。怪我人を放っておけない優しい子だということも。
今日のこれは訳が違う。
意図していなかったとはいえ、結果、騎士団を欺いたことに変わりない。
母娘だけの秘密にはしておけない。
このまま隠し通し、万が一にもバレてしまったら、それこそ明るい未来は望めないだろう。
負傷した足を気遣ってか夫人は肩を貸してくれると言ってくれたが丁重に断った。
歩けないわけではない。それでも歩幅を小さく、ペースを合わせて歩いてくれる。
どうやら少女の優しさは遺伝のようだ。
騎士団が訊ねて来たことは既に伯爵の耳にも入っていて、母娘の後ろにいる男を見て何となくの状況は察した。
面倒事だと厄介払いすればいいものを、第一に怪我の心配をしてくれる。
まただ。また、胸の奥が熱い。
「貴方が暗殺集団のリーダー!?」
応接室には誰も近づかないように命じて、親子三人で話を聞くことにした。
訳あり犯罪者であることは見抜いたが、流石に組織のリーダーであることまではわからなかった。
伯爵と夫人は共に頭を抱えているものの、このまま騎士団に引き渡すかどうかを悩む。
未遂とはいえ国王陛下暗殺の実行犯。速やかに、王国に忠誠を誓った貴族として引き渡しは義務。
両親が悩む横で少女は事情聴取のように次々と質問をしていく。
彼、あるいは彼女は今まで謎に包まれていた情報を嘘をつくことなく教えた。
名前 クロニア・フォルト。
構成人数 四人。
出身地 隣国。
リーダーの性別・年齢 男・二十歳。
「もしかして魔法使い?」
「そうなるかな」
「だったら瞬間移動で逃げればよかったじゃない」
「使えないんだよ。俺には」
クロニアはレベルの高い攻撃魔法や防御魔法を得意とある分野においては現王太子のクラウスよりも才能に溢れている。残念なことにそれ以外はからっきし。
使えないことはないのだが、魔法が暴走したように荒れたこともあり、以来、使おうとさえしなくなった。
慣れないことや出来ないことを無理にやるつもりはなく、特訓というものをしたことはない。生まれ持った才能だけで生きている。
魔法がなくても強いクロニアは騎士団と戦っても引けをとらない。今回のように負傷していなければ。
正体を明かしながらも身分や生い立ちについては一切語らないクロニアには、触れて欲しくないことがあるのだと悟った。
家族の問題はとてもデリケートで、簡単に、立ち入ってはいけない。
少女は考えた。クロニアをどうにか雇えないか。
人殺しは許されるべきではない卑劣な行為ではあるが、その道を選ばざるを得ない事情があるとすれば同情の余地はある。
「とりあえず自首して。そのほうが罪も軽くなるはずだから」
「わかった。ついでだし暗殺稼業も辞める。俺の残りの人生、全てを貴女に捧げると誓う」
少女の手を取り、騎士のようにそっと口付けをした。
イケメンは存在しているだけで尊いと誰かが言っていたような……。
それに加えて真似事だとしても忠誠のキスをされたら悶え苦しむ者もいるだろう。
が、少女に限っては別である。
鳥肌が立つほどの恐怖を覚え、寒くもないのに背筋が凍る。貴族令嬢らしからぬほど顔が歪む。
それが益々、クロニアの興味を引く。
夢見る歳頃とはいえ、少女は男に夢を見るようなタイプではなかった。
翌日、朝早くから姿をくらませていたクロニアは陛下からの許しを得て、正式にボニート家で働けるようになったと伝えた。
何をどうしたのか、一切のお咎めはないらしい。
忠実な僕となるべく、誰にも打ち明けることのなかった魔法を明かした。
それを活かしたのが、暗部、である。
構成人数不明。
出身地不明。身分不明。
リーダーの性別・年齢不明。
とにかく、あらゆるものが謎に包まれていた。
彼ら、彼女ら、奴ら、連中。
その集団を知る者はそう呼ぶ。
暗殺を依頼する方法はいたって簡単。形も色も大きさも、何でもいい。ちぎった紙に殺したい対象の名前を書き風に飛ばすだけ。
紙は消えるわけではなく、ただ風に吹かれ舞う。
飛ばされた紙は行き交う人に踏まれたり、雨に濡れて字が読めなくなったり。
仮に見つかったところで、誰が書いたのかはわからない。
報酬は仕事を終えた後に回収に行く。払わないなんて論外。どんな相手からでも確実に報酬を取り立てる。
噂を耳にしたほとんどの平民が試してみるも、成功した例はない。
誰かが流した嘘で、誰も信じる者はいなくなり人々の記憶からその存在は消えていった。
だが確実に、昨日も、今日も、そしてこれからも、人は消え続ける。
神隠しにあったかのように。不運な事故に遭ったかのように。
組織はとても気まぐれだった。たまりにたまった依頼から適当なものを引いて、気が向いたときに実行する。得る報酬も人によって様々。
面白半分や好奇心で書いただけの人物は忘れた頃に消されていく。平民なら事が大きくなることもなく、どこかで事故や事件に巻き込まれたのだろうと他人事。
貴族なら調査は入るものの、やはりこちらも事故として処理されるだけ。
殺人の痕跡など一切残さない。
殺し方が美しく最早、芸術と評価されてもおかしくはないほどだった。
変わらない日常に変化が訪れたのは、良くも悪くもない国王陛下暗殺依頼。
彼、あるいは彼女にとって王宮に忍び込むなど造作もない。
侍従に変装し、所作から言葉遣いまで完璧になりきっていた。誰にも疑われないほどに。
陛下はいつも夜遅くまで公務に追われている。眠気覚ましのコーヒーに小瓶丸々の毒を混ぜた。
眠る間に心臓を一突き、なんてのはつまらない。
苦しみ、自分は死ぬのだと実感させ、歪む顔が見たい。そのため毒は即効性のないものを選んだ。
一国の王の死に際はさぞ、滑稽だろう。
が、予想外のことが起きた。
執務室に入るなり、隣国の防御魔法が発動し鋭い光が足を貫いた。
王宮の特定の場所には万が一に備えてこうした魔法が仕掛けられている。 どんな人間も初見で躱すことは不可能。
隣国との交流は頻繁に行っていたが、魔法付与れた魔道具を貸すほどとは思っていなかった。
だが、おかしい。今の防御魔法は本来、襲ってくる敵に対してのみ発動する言わばカウンター魔法。毒入りコーヒーを持ってきただけでは発動するわけがない。
暗殺者が最初から来るとわかっていない限り。
立ち上がり無造作に近づいてくる陛下の目を見て確信した。
罠だった。暗殺集団を捕らえるための。
誰もが忘れかけた、ただの嘘に自らの命を賭け金としたのだ。
国王暗殺の時点で気付くべきだった。
依頼人である宰相は陛下に対して裏切ることのない忠誠を誓っている。本気で死を望むわけがない。
今日来なければ明日。明日来なければ明後日。
毎日、暗殺依頼をしてはおびき寄せるつもりだった。
この失態は遊び半分ゲーム感覚で、依頼人の素性を事細かく調べなかったことが原因である。
一流の暗殺者なら調べたかもしれないが、組織からしたら誰かを殺したい理由も、依頼人がどんな人間かも興味の欠片もない。
肉がえぐれたわけでもなく、ナイフが届かない距離で立ち止まった陛下に襲いかかる。
まさかまだ暗殺を諦めていなかったとは……。
例え嘘だったとしても、依頼は受けたのだ。何もせず逃げるなど。
傷を負ったとは思えないほど速く、もう一つの魔法が発動しなければ首を斬られていた。
光は腹部を貫いた。
絶対に殺すという強い意志から腕に怪我は負わせた。
深く斬り付けはしたが致命傷でも何でもない。
心臓に、喉元に、この刃を突き刺せることが出来たのなら依頼は完了するはずだった。
騎士団の足音が近くなる。無理に依頼を遂行すれば身柄を拘束されてしまう。
地下牢に投獄されるだけなら脱獄に自信はある。だかもし、隣国から“あの男”が来ていたら、事態は最悪の方向へと向かう。
依頼は嘘だった。
一国の王が自らの命を囮に使ってまでも捉えようとする執念。敗北感はないが感服してしまった。
手傷を負わされた陛下は血を流しながらも凛々しくそこに立っている。
彼、あるいは彼女を見る目は哀れみや同情とは別の感情が宿っていた。
後悔。
人を殺す仕事なんて決して褒められるものではない。それでも、その道以外に選ぶものがなかったから。
そして……選ばせてしまったことが自分の責任だと言わんばかりの切ない表情。
王族が、国王が民のことを考えるなんて理想。
現実ではありえないと思っていたのに……。
一瞬、言葉を交わしてみたいと心が揺れたが、騎士の声にハッとした。
一時の感情に流されてバカになるつもりは毛頭ない。
取るに足らないプライドを捨て、まずは逃げることを優先した。
深い傷にも関わらず、その速さは追いつけたものではないが血の痕跡までは頭が回らない。
仲間を呼ぶにしても数分はかかる。追っ手をどうにかしたほうが早いが、そんな余裕さえない。
このままでは捕まる前に出血死してしまう。
走って、走って、偶然見つけた門の開いた屋敷へと逃げ込み茂みに身を隠した。
「貴方……誰?」
夜はまだ始まったばかり。
子供が眠りについていなくても不思議ではないが。
シルバーブロンドの髪が月明かりで眩しかった。
少女は外の騒がしさに気付き様子を見に来ていた。
親や使用人が止めるのも聞かずに出てきたのだろう。何とも好奇心旺盛な。
美学には反しているがこの少女を人質にして、しばらく匿わせることにした。
傷が治るまでの短い期間だ。人質といっても危害を加えるつもりはない。
「大変!怪我してるじゃないの!」
流れる血を見ては驚き、手当てをするからと屋敷とは別の建物に連れ込まれた。どうやら物置小屋のようだ。
外観とは違い中は掃除が行き届いている。
少女は着ていた上着を木の箱に敷いてはそこに座るよう促した。
掃除がされているとしても、全く汚れがないわけではない。
その上着は一体、何十万リンなのか。
いくら物に無頓着な阿呆でも、これは流石に気が引ける。
「早く座って。立ったままでは治療が出来ないわ」
お人好しよりバカが似合いそうだった。
見るからに厄介者の手を引くなど……。
観念して座ると、隠すように置かれていた治療道具を取り出す。
貴族令嬢が傷の手当てに慣れていることが不思議で、少女の手を見れば毎日剣を握っているのがわかった。
「貴方も女は慎ましくお淑やかであるのが普通だと思う?」
パチリと目が合うと少女は困ったように笑っていた。
答えに悩んだ。
周りにいる女性は気が強く男を立てることもしなければ、平然と殴り飛ばしてしまう。 ロクな人間の集まりではない。
そもそも人の道を外れた自分が“普通”を語る資格もなく。
多分、少女の望む答えを導けない。
「そうだ」と言えばこれまでの少女を否定することになり、「違う」と言えばもっと困らせてしまう。
女は女らしく。男を立て決して前を歩いてはいけない。
どの国も共通している女性貴族の在り方。
「やりたいようにやればいいんじゃねぇの?」
それが精一杯。
わからない。本当に。なんと言ってあげれば良いのか。
適当に答えたわけではない。これしか浮かばなかった。
「そっか。そうだよね」
悩んでいたことが嘘のようにパァっと晴れやかになった。
親しい者に今の質問をすれば困らせてしまう。
わかっていたから少女は、古臭い風習でもあるカタにはまった淑女として生きる傍ら、隠れて剣術でもやっていたのだろうか。
好きなことを出来ないのなら不自由と変わりない。それでも少女を不憫だと思えない。
「明日、主治医に見てもらうから安静にしててよ」
どうしてそんなに優しくするのか。
聞こうとすると、少女の母親らしき声が心配そうに「シャロン」と叫んでいた。
血痕が敷地内に続いていれば騎士団が事情を訊ねるに決まっている。
このまま見つかれば少女が共犯とみなされる。
素直に手当てなんて受けなければ……。
「何も心配しないで。大丈夫だから」
動くなと言うようにそっと手を重ねる。
揺るがない瞳は真実を語っていた。
この少女は目の前にいる人間が何者か知りながら助けてくれた。
更には匿ってくれようともしている。
小屋の外に出た少女はしっかりと戸を閉めた。
鍵はないため簡単に蹴破られてしまうが、伯爵の屋敷でそんな愚行を働く騎士なといない。
会話を盗み聞きしていると、伯爵夫人が数人の騎士団員と共に娘を捜していた。
服や手についた血を不審に思った一人が中を調べさせて欲しいと言う。
手当てには細心の注意が払われていたが、月明かりしかない小屋で完璧には出来ない。
考えるしかなかった。この状況を切り抜ける方法を。
少女……伯爵家は処刑はされないにしても身分の剥奪は免れない。そうなったら一生後ろ指を差され笑われる人生を送る羽目になる。
必死に止める少女に騎士団員は、何もないことを証明するためにも小屋の中は見なくてはいけないと説得した。
バカではない少女は言葉の意味は理解している。して、いるのだが……。
ギリギリまで騎士団のマントから手を離そうとしない。
生まれて初めて赤の他人に優しくされたことがきいたのか、この家に、少女に迷惑をかけたくないと強く思った。
見つかってもいいのだ。ここにいるのが負傷した男だとバレさえしなければ。
驚くことに、彼、あるいは彼女は犬へと擬態する。
勢いよく戸を開けた騎士団員は既に剣をかまえていた。
中に人がいないか隅々まで調べる。
少女は彼、あるいは彼女が小窓から上手く逃げたのだと安心しつつ、この犬は何だろうと顔をしかめていた。
「この犬は怪我をしているようですし、まさかあの血は犬の……?」
「そうです!私が見つけたときには大怪我をしていて。人間にやられたみたいなので、こんな大勢で入ったら余計に怖がらせてしまうかもと」
「なるほど。それは失礼した」
「逃げ切るために奴が故意に犬を傷つけた可能性もありますね」
「外道めが。夫人、もし負傷した男を見かけたらすぐ騎士団にご連絡をお願いします」
夜分に騒がしくしてしまったことと犬を怖がらせたことを謝罪して、闇夜に消えた暗殺者の行方を再び捜し始めた。
犬を抱き上げると、つい今しがた巻いてあげた包帯と同じものを巻いている。
人間が犬になるなんて聞いたことはない。
偶然。これは偶然でなければおかしいと自分に言い聞かせるも、その犬は喋った。
人の姿に戻るから降ろして欲しいと。
冷静を装っているが夫人は驚きを隠せていない。
床に降ろせば犬は光りに包まれ人間の姿へと戻る。夫人がとっさに少女の目を塞いだのは、裸だった場合を想定して。
犬は服を着ていない。人間になれば同様。
そう考えるのはなんら不思議ではない。
ちゃんと服を着ていて取り越し苦労に終わったが。
「貴方……何者?」
震える声は恐怖しているわけではない。好奇心とはまた別の、輝く瞳から“憧れ”が感じ取れる。
見知らぬ怪我をした男を助けてくれた。庇おうとしてくれた。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
嘘をつくのは容易い。嘘を信じ込ませることも。
こんなにも真っ直ぐと目を見て話してくれる人はいただろうか。
少女の純粋には、厚意と誠意で応えたい。
「ただの人殺しだよ」
点と点が繋がり、瞬時に事を理解した夫人は伯爵に報告すると言い出した。
それが賢明の判断である。
親バカではなく、娘が賢いのは薄々勘づいていた。怪我人を放っておけない優しい子だということも。
今日のこれは訳が違う。
意図していなかったとはいえ、結果、騎士団を欺いたことに変わりない。
母娘だけの秘密にはしておけない。
このまま隠し通し、万が一にもバレてしまったら、それこそ明るい未来は望めないだろう。
負傷した足を気遣ってか夫人は肩を貸してくれると言ってくれたが丁重に断った。
歩けないわけではない。それでも歩幅を小さく、ペースを合わせて歩いてくれる。
どうやら少女の優しさは遺伝のようだ。
騎士団が訊ねて来たことは既に伯爵の耳にも入っていて、母娘の後ろにいる男を見て何となくの状況は察した。
面倒事だと厄介払いすればいいものを、第一に怪我の心配をしてくれる。
まただ。また、胸の奥が熱い。
「貴方が暗殺集団のリーダー!?」
応接室には誰も近づかないように命じて、親子三人で話を聞くことにした。
訳あり犯罪者であることは見抜いたが、流石に組織のリーダーであることまではわからなかった。
伯爵と夫人は共に頭を抱えているものの、このまま騎士団に引き渡すかどうかを悩む。
未遂とはいえ国王陛下暗殺の実行犯。速やかに、王国に忠誠を誓った貴族として引き渡しは義務。
両親が悩む横で少女は事情聴取のように次々と質問をしていく。
彼、あるいは彼女は今まで謎に包まれていた情報を嘘をつくことなく教えた。
名前 クロニア・フォルト。
構成人数 四人。
出身地 隣国。
リーダーの性別・年齢 男・二十歳。
「もしかして魔法使い?」
「そうなるかな」
「だったら瞬間移動で逃げればよかったじゃない」
「使えないんだよ。俺には」
クロニアはレベルの高い攻撃魔法や防御魔法を得意とある分野においては現王太子のクラウスよりも才能に溢れている。残念なことにそれ以外はからっきし。
使えないことはないのだが、魔法が暴走したように荒れたこともあり、以来、使おうとさえしなくなった。
慣れないことや出来ないことを無理にやるつもりはなく、特訓というものをしたことはない。生まれ持った才能だけで生きている。
魔法がなくても強いクロニアは騎士団と戦っても引けをとらない。今回のように負傷していなければ。
正体を明かしながらも身分や生い立ちについては一切語らないクロニアには、触れて欲しくないことがあるのだと悟った。
家族の問題はとてもデリケートで、簡単に、立ち入ってはいけない。
少女は考えた。クロニアをどうにか雇えないか。
人殺しは許されるべきではない卑劣な行為ではあるが、その道を選ばざるを得ない事情があるとすれば同情の余地はある。
「とりあえず自首して。そのほうが罪も軽くなるはずだから」
「わかった。ついでだし暗殺稼業も辞める。俺の残りの人生、全てを貴女に捧げると誓う」
少女の手を取り、騎士のようにそっと口付けをした。
イケメンは存在しているだけで尊いと誰かが言っていたような……。
それに加えて真似事だとしても忠誠のキスをされたら悶え苦しむ者もいるだろう。
が、少女に限っては別である。
鳥肌が立つほどの恐怖を覚え、寒くもないのに背筋が凍る。貴族令嬢らしからぬほど顔が歪む。
それが益々、クロニアの興味を引く。
夢見る歳頃とはいえ、少女は男に夢を見るようなタイプではなかった。
翌日、朝早くから姿をくらませていたクロニアは陛下からの許しを得て、正式にボニート家で働けるようになったと伝えた。
何をどうしたのか、一切のお咎めはないらしい。
忠実な僕となるべく、誰にも打ち明けることのなかった魔法を明かした。
それを活かしたのが、暗部、である。
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