不可思議の部屋小物語集

露木阿乱

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「友人からの訃報がとどいた夏のある日、原宿の神社で撮った写真には雪が映っていた」

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 ヘンな男性に会った。
 原宿にある神社で、真夏なのに雪が降ったと言うのだ。
 真夏に雪となると、当然、マスコミが大騒ぎするはずだが、全く、そのような報道はされていない。
 私の怪訝(けげん)な表情に気づくと、証拠があると、プリントした写真を見せた。小さな古ぼけた感じの写真で、そこにはピンボケだったが、確かに雪のようなものが写っていた。

 後に知人のプロカメラマンに聞くと、カメラの電池が消耗していると、そのような現象が起きることがある、と聞いて、何となく納得していた。

 それから一年ほど経った頃、地方で古神道の研究をしている人物と、東京の新宿駅で待ち合わせた。古神道とは、仏教や儒教、道教などが日本に入ってくる前の、純粋な日本古来の宗教で、自然崇拝を基本としている。
 その人物が遭遇した、不可思議な体験談を聞くのが目的だった。巨木や奇岩を祈りの対象とし、深山幽谷に身をあずけていると、幾度も奇妙な出来事に遭遇することがあると言う。
 人気のない山奥でのオーイと誰かを呼ぶ声、真夜中の森を飛び交う火の玉、闇の向こうに浮かぶ人影など、さまざまな神秘体験を語ってくれた。しかし、それらは、総じて害を及ぼすことはないと語った。まさに神々や生き物全てが、共に生きる仲間たちなのだ。
 ふと思いついて、原宿の雪について聞いてみた。
 彼は、「それは珍しいことではない」と言った。
 自然の中では珍しいことではないらしい。そう言われても、やはり信じがたい話だった。

 その人物と別れてから、写真の主が話していた、雪の降った原宿の神社を訪ねてみたいと思った。神社は、代々木に近い位置にあった。取り立てて特徴のない、中規模の神社だ。賽銭を投げ、柏手を打つ。神に息災を祈った。何かを期待している自分がいた。しかし、奇跡的な自然現象が都合よく起こるわけがなかった。

 神社を出ようとした時、携帯電話が鳴った。
 それは、古い友人が亡くなったとの知らせだった。
 ガンで余命宣告受けていたため、予期していた報告だったが、残念という思いが残った。そんな思いがさせたのだろう、彼の冥福を祈って社殿に向かって手を合わせた時、一陣の風が吹いた。
 気温が下がり、小雨が降り、陽光が雲に閉ざされ、一瞬、辺り一面が闇に包まれた気がした。耳元で、私を呼ぶ声が聞こえた。「エッ」と応えて、社殿の方角を見つめたが、誰もいるはずがなかった。

 陽光はすぐに戻り、辺りは明るさを取り戻した。取材の際の習慣で、神社やその周辺を携帯のカメラに収め、その日は家に戻った。

 友人の葬儀は、二日後に催された。火葬場での待ち時間に、共通の友人に顔を合わせた、神社での不思議な声について話した。そして、その現場の神社の写真を見せた時、視線が神社の写真に突き刺さったまま、何も言えなくなっていた。雪が降っていたのだ。確かに、社殿の前の空間には白い塊が降り注いでいた。
「おい、この写真はなんだ」
 友人は、私が間違って、冬の写真を見せたと思ったのだが、私は何も応えられなかった。亡くなった古くからの友人は一体、私に何を伝えようとしたのだろうか。今もその答えは見つかっていない。
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