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「小学生のころの私が目にした一瞬の出来事は、果たして現実だったのだろうか」
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それは、はるか昔の出来事だった。
蒸し暑い真夏の昼下がりに、時折、蘇(よみが)える幼い頃の記憶がある。その頃、私は、小学校高学年だった。
祖母は、ある宗教の教師として、単身、縁のない田舎に布教に入り、大勢の信者を集めていた。幼かった私には、祖母の宗教家としての能力はわからなかった。しかし、若い女性の単身での布教が、容易(ようい)でないことは、今では十分に理解している。
八月の暑い日の、午後二時頃、母は出かけていた。遊びから帰ってきた私に、神に祈りを捧げる祖母の声が聞こえて来た。祖母の祈りを邪魔するのは悪いと思い、しばらくは離れた部屋で過ごしていたが、退屈さのあまり、祖母のいる広間を覗(のぞ)いてみることにした。
そっと部屋を覗くと、広間には一人の中年の男性の参拝者がいて、一段高い場所で祖母が神に祈りを捧げていた。ありふれた光景だった。仕方なく、その場を立ち去ろうとした時だった。「キーッ」という、耳をつんざくような奇声が聞こえて、私はその方向に目をやった。
声の主は、一人で参拝していた男性だった。
それとともに男性は、座ったまま三十センチほど飛び上がっていた。
私は驚愕(きょうがく)のあまり、しばらく声を出せない状態だった。
祖母は、全く動じることなく祈り続けていた。飛び上がり、音を立ててつっぷした信者も、すぐに態勢を戻し、座り直していた。まさに狐につままれた状態の私だった。
信者が帰った後、祖母に聞いた。祖母は「○○に憑(つか)れたのだろう」と話した。
○○が何かを聞き返したが、それが何だったかは覚えていない。
その祖母が亡くなって、すでに数十年が立ち、やさしかった祖母の記憶は薄れがちだが、蒸し暑いあの夏の昼下がりのことは、絶対忘れることはないだろうと思っている。
あの宙に浮かんだ姿は、なんだったのだろうと、いつも自分に問いかけている。
蒸し暑い真夏の昼下がりに、時折、蘇(よみが)える幼い頃の記憶がある。その頃、私は、小学校高学年だった。
祖母は、ある宗教の教師として、単身、縁のない田舎に布教に入り、大勢の信者を集めていた。幼かった私には、祖母の宗教家としての能力はわからなかった。しかし、若い女性の単身での布教が、容易(ようい)でないことは、今では十分に理解している。
八月の暑い日の、午後二時頃、母は出かけていた。遊びから帰ってきた私に、神に祈りを捧げる祖母の声が聞こえて来た。祖母の祈りを邪魔するのは悪いと思い、しばらくは離れた部屋で過ごしていたが、退屈さのあまり、祖母のいる広間を覗(のぞ)いてみることにした。
そっと部屋を覗くと、広間には一人の中年の男性の参拝者がいて、一段高い場所で祖母が神に祈りを捧げていた。ありふれた光景だった。仕方なく、その場を立ち去ろうとした時だった。「キーッ」という、耳をつんざくような奇声が聞こえて、私はその方向に目をやった。
声の主は、一人で参拝していた男性だった。
それとともに男性は、座ったまま三十センチほど飛び上がっていた。
私は驚愕(きょうがく)のあまり、しばらく声を出せない状態だった。
祖母は、全く動じることなく祈り続けていた。飛び上がり、音を立ててつっぷした信者も、すぐに態勢を戻し、座り直していた。まさに狐につままれた状態の私だった。
信者が帰った後、祖母に聞いた。祖母は「○○に憑(つか)れたのだろう」と話した。
○○が何かを聞き返したが、それが何だったかは覚えていない。
その祖母が亡くなって、すでに数十年が立ち、やさしかった祖母の記憶は薄れがちだが、蒸し暑いあの夏の昼下がりのことは、絶対忘れることはないだろうと思っている。
あの宙に浮かんだ姿は、なんだったのだろうと、いつも自分に問いかけている。
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