不可思議の部屋小物語集

露木阿乱

文字の大きさ
9 / 26

「小学生のころの私が目にした一瞬の出来事は、果たして現実だったのだろうか」

しおりを挟む
 それは、はるか昔の出来事だった。
 蒸し暑い真夏の昼下がりに、時折、蘇(よみが)える幼い頃の記憶がある。その頃、私は、小学校高学年だった。
 祖母は、ある宗教の教師として、単身、縁のない田舎に布教に入り、大勢の信者を集めていた。幼かった私には、祖母の宗教家としての能力はわからなかった。しかし、若い女性の単身での布教が、容易(ようい)でないことは、今では十分に理解している。
 八月の暑い日の、午後二時頃、母は出かけていた。遊びから帰ってきた私に、神に祈りを捧げる祖母の声が聞こえて来た。祖母の祈りを邪魔するのは悪いと思い、しばらくは離れた部屋で過ごしていたが、退屈さのあまり、祖母のいる広間を覗(のぞ)いてみることにした。
 そっと部屋を覗くと、広間には一人の中年の男性の参拝者がいて、一段高い場所で祖母が神に祈りを捧げていた。ありふれた光景だった。仕方なく、その場を立ち去ろうとした時だった。「キーッ」という、耳をつんざくような奇声が聞こえて、私はその方向に目をやった。
 声の主は、一人で参拝していた男性だった。
 それとともに男性は、座ったまま三十センチほど飛び上がっていた。
 私は驚愕(きょうがく)のあまり、しばらく声を出せない状態だった。
 祖母は、全く動じることなく祈り続けていた。飛び上がり、音を立ててつっぷした信者も、すぐに態勢を戻し、座り直していた。まさに狐につままれた状態の私だった。
 信者が帰った後、祖母に聞いた。祖母は「○○に憑(つか)れたのだろう」と話した。
 ○○が何かを聞き返したが、それが何だったかは覚えていない。

 その祖母が亡くなって、すでに数十年が立ち、やさしかった祖母の記憶は薄れがちだが、蒸し暑いあの夏の昼下がりのことは、絶対忘れることはないだろうと思っている。

 あの宙に浮かんだ姿は、なんだったのだろうと、いつも自分に問いかけている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...