不可思議の部屋小物語集

露木阿乱

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「海外で事件を起こした彼の大学時代に書いた文章には、悪魔の花園が描かれていた」

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★数年前、彼が亡くなったとニュースで知った。仕事は文筆家、となっていた。会ったのは、彼が帰国して数年経ってからのことだった。その際、大学時代の彼の文章を読んだ。これまで読んだことのないような文章だった。メルヘンやファンタジーではない、奇妙な感性の世界がそこにはあった。    
 これは、実話である。


 ある日、知り合いの社長から会社に呼ばれた。
 その頃、私は、とある雑誌の編集長をしていた。
 その社長は、私が大学時代からの知り合いで、私が編集者としての基礎を築く基となった、各界の人材を紹介してくれた人でもあった。
 社長室には、二人の見知らぬ人物がいた。高齢のご夫婦に見えた。某上場企業の取締役だと紹介された。

「あの事件のことは知っているね。こちらは、彼のご両親だ」

 事件とは、海外で起きた猟奇事件で、二年ほど前に犯人の若い男性が逮捕され、収監されていた。確か、精神鑑定の結果、情状酌量され、最近、帰国したと聞いていた。ここでは、あえて名前をふせる。

「彼が書いた原稿を読んでほしいんだ」

 ご両親の気持ちはよく理解できた。
 息子が事件を起こしたことで、すでに会長の座をひき、あらゆる役職を辞していた。財産はあるものの、自分たちの死後の息子のことが心配なのだ。当然、生業につくことは難しい。 
 幸にして、少しは文章が書けるようだ。
 作家として生きていけないだろうか。そう考えてのことだった。

 彼とは、別の日に、都内の喫茶店で会った。
 か弱く、繊細で、オドオドした彼の姿が今も目に浮かぶ。

 彼の原稿を読んだ。そして、本人とも会い、書き溜めた原稿も読ませてもらった。
 美しかった。
 彼の描く文章は優しく、壊れやすく、まるで十代の文学少女のような文章だった。
 天国が存在して、そこに花園があったなら、その花園を歩いている気分だった。
 しかし、それだけだった。
 平たく言えば、歯応えがなく、人間が存在しないのだ。奇妙な感覚だった。
 どんな稚拙な文章にも人格は存在している。ところが、彼の文章には全く人が存在していなかった。
 とは言うものの、私は、このような文章を目にしたことがなかった。
 だから、素直に彼を誉めた。
 私には書けない文書だったからだ。
 ところが、彼はその意味を少し誤解したようで、次第に饒舌になると、自らが求めている世界を話し始めた。
 そこには、花園とは全く異なる、女性の肉体に対する執着心があった。
 私は、その時、ここに彼が事件を起こした原因があったと思った。
 美しい花園の中には、悪魔が棲んでいたのだ。
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