不可思議の部屋小物語集

露木阿乱

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「その人形は、深夜に誰かと話しているようだった」

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 たくさんの有名人形作家がいるが、それぞれ分野や作り方は異なる。
 日本古来の人形だったり、西洋系、作家オリジナルのものもある。その作家の創る人形のジャンルを話せば、ほぼ人物が特定できるため、どのような人形かについては触れない。
 その人形作家とは、偶然、彼女の個展を覗いた際、取材し、親しい付き合いとなった。私は、彼女の創る人形に魅了されていた。
 少しだけその作風について触れれば、人形は今風で、美少女だった。美少女アニメの主人公ににていた。だが、二次元ではない。抱きしめることも、触れることもできる。

 私は、この人形に魅了されたが、どうしても側に置く決断ができなかった。
 作家には、「それほど気にいったのなら、手元に置いてください」と言われた。購入できない金額ではなかった。
 実は怖かったのだ。彼女の人形創りに密着して、その異様さに触れていたからだ。
 彼女は、人形の製作に入ると、部屋に閉じ籠り、全身全霊をこめる。その姿が、彼女の魂をみていると、人形に乗り移っているように感じた。
 つまり。人形を手元に置くと、いつも彼女が側にいるような気持ちになると思えたからだ。

 彼女が、嫌いなわけではない。個性的な美人で、非常に魅力的な人だった。しかし、いつも彼女が側にいるのだ。それも、普通ではない、彼女の想念を吹き込まれた存在だった。

 何やかやと理由をつけて、人形の購入を断ってきた私だったが、彼女の勧めに根負けして、家に迎えることにした。寝室に置くことはできず、客間の椅子の上に座らせた。想像した何倍も、存在感があり、日増しに愛おしさがつのった。

 そんな、ある日の夜だった。ベッドに入って、ウトウトし始めた頃、どこかで人の囁き声が聞こえるような気がした。耳をすませると、二人で会話しているように感じた。家には私しかいないはずだった。私は怖いことが嫌いだ。しかし、そのままにしておくこともできず、声の主を探して、音を立てずに歩いた。声は客間からしていた。

 恐る恐るドアを開け、電気をつけると、そこには誰もいなかった。椅子にもたれかかった人形が、私を見つめているだけだった。

「誰と話していたの」

 何となく聞いてみた。当然、何も言わなかった。その夜は、眠りにつけず、寝不足のまま朝を迎えた。しかし、夜中の会話は、それからも続いたのだった。眠れず、客間に行くと、会話が途切れるの繰り返しだった。明らかに、人形が誰かと話していると思った。当然、人形に聞いても、答えてくれない。

 そんな、寝不足な日が続いているうちに、人形作家の兄と言う人から電話が入った。

「妹が亡くなりました」

 人形作家は、昔から病を抱えていたらしい。最近、急にその病気が進行して亡くなったとの話だった。私は、その時、確信した。人形は病の床にあった人形作家と話していたのだと。それから、客間に行くと、人形に話しかけた。

「つらかったね」

 子供のいない、人形作家にとって、この子(人形)は、子供のような存在だったに違いない。彼女は、死期を迎えて、子供達に別れを告げていたのだろう。そう考えると切なさがつのった。

 私は、知り合いのお寺に、この人形を預けた。今でも時々訪ねて行く。人形を見ていると、どこかあの人形作家の横顔ににていて、悲しくなる。
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