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0章
物語の始まり
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「はぁ、はぁっ、ハッ…」
一人の少年が覚束無い足取りで歩む。
まだ夜も深い時刻。
月明かりに照らされながら、だが決して歩みは止めない。ここで止まったら、いや…どの道、もう二度と目覚めることは出来ないと頭で理解しているからだ。
だからこそ、自分に出来ることを最期までまっとうする。それが今、俺に出来る全てだ。
少年は意識を保つため、血の味が混じる唇をさらに強く噛み締める。そして感覚のない腕で壁に手をつき、一歩、また一歩と進んで行った。
やがて力尽きたのだろう。
少年は冷たい壁にもたれ掛かる。
「…っ、はぁ…疲れた…」
少年の体は傷だらけだ。腕を伝う血が地面に滑り落ち、無数の血痕を残していく。酷いところでは肉が裂け、止めどなく血が溢れている。
血を流しすぎた。通りで寒いわけだ。
「怪我で死ぬのが先、か…血が足りなくて死ぬのが先か…はは、アホくさ」
自分の死期を、自分で決める日が来るなんて。
追手は来ない。出来る限り俺が排除したから、きっと皆も無事だろう。そう思うと、体の力が抜け落ちた。
膝が震える。立っていられない。壁を伝うようにずるずるとその場に座り込む。
「もう、むりだな」
俺はもう無理だろう。
額から滴る血を手の甲で拭う。その赤さに心底参ってしまった。気持ち悪い。気持ち悪い。
…血はもう見たくないなぁ。誰のものも見たくない。
何でこうなってしまったんだろう。俺はどれだけの血を、俺のせいで、俺たちのせいで流させてしまったのだろうか。
「ごめんなさい」
こんなこと、もう遅いけど。
「ごめんなさい」
俺のことを知っている者がいたら笑うだろう。
でも、だけど。もう見たくないのだ。苦しい。こんな思いをするために、俺は魔法を使っていたわけじゃないのに。
どうしてこんな道を選んでしまったのだろうか。
いや、もう後悔しても遅い。
……遅いのだ。
「あいつら、は…逃げきれた、よな…」
ただそれだけを祈っている。
もう二度と会うことは叶わないあいつが…あいつらが、幸せに生きれるように。
神様なんて居るのか俺は知らないけど、居るならこんなにクソみたいな世界で、全てを失った俺の最期の望みを聞いてくれよ。
何一つ俺たちにくれなかった神様。
お願いだ。お願いします。涙を流しながら少年は微笑んだ。
視界が掠れ始め、何も頭が働かない。
体の痛みを感じないのだから、もう潮時だろう。
短い人生であった。ごめんな、約束…守れそうにない。
「ごめん、ごめんな、━━━━」
最低最悪の人生だった。
でも、決して悪いものでもなかったような気がするから、生きるというのは、よく分からない。
その場に寝転がった少年は、憎たらしいほど美しい月を見上げると、ふっと笑った。
いいや、最期まで抗うのが俺だろうが!
まだやることがある。このまま静かに死んでなどやるものか。
鉛の塊を付けられていると錯覚するほどに重い腕を持ち上げ、震える指で月に指さした。
お前達の好きにはさせない。この体の欠片、記憶、知識、力。俺のものは何一つあげてなどやるものか。
青に輝く光で、線と線を繋げ、魔法陣を完成させていく。これが俺に出来る最後のこと。
あいつには恨まれるだろうか。それとも馬鹿だと罵りなが泣くのだろうか。両方かな、なんて。
…もし、次また産まれることが出来たら。
次は幸せな人生を歩みたい。
当然のように両親がいて、当然のように争わず、笑って生きたい。愛する人を守れる力を持って、もっともっと強くなりたい。
「……禁忌魔法、解放」
空に描いた魔法陣が、眩いほどの光を放って少年に降り注ぐ。
…これが俺に出来る最後の抵抗だ。
静かに瞳を閉じた少年は、小さく呟いて意識を失った。
一人の少年が覚束無い足取りで歩む。
まだ夜も深い時刻。
月明かりに照らされながら、だが決して歩みは止めない。ここで止まったら、いや…どの道、もう二度と目覚めることは出来ないと頭で理解しているからだ。
だからこそ、自分に出来ることを最期までまっとうする。それが今、俺に出来る全てだ。
少年は意識を保つため、血の味が混じる唇をさらに強く噛み締める。そして感覚のない腕で壁に手をつき、一歩、また一歩と進んで行った。
やがて力尽きたのだろう。
少年は冷たい壁にもたれ掛かる。
「…っ、はぁ…疲れた…」
少年の体は傷だらけだ。腕を伝う血が地面に滑り落ち、無数の血痕を残していく。酷いところでは肉が裂け、止めどなく血が溢れている。
血を流しすぎた。通りで寒いわけだ。
「怪我で死ぬのが先、か…血が足りなくて死ぬのが先か…はは、アホくさ」
自分の死期を、自分で決める日が来るなんて。
追手は来ない。出来る限り俺が排除したから、きっと皆も無事だろう。そう思うと、体の力が抜け落ちた。
膝が震える。立っていられない。壁を伝うようにずるずるとその場に座り込む。
「もう、むりだな」
俺はもう無理だろう。
額から滴る血を手の甲で拭う。その赤さに心底参ってしまった。気持ち悪い。気持ち悪い。
…血はもう見たくないなぁ。誰のものも見たくない。
何でこうなってしまったんだろう。俺はどれだけの血を、俺のせいで、俺たちのせいで流させてしまったのだろうか。
「ごめんなさい」
こんなこと、もう遅いけど。
「ごめんなさい」
俺のことを知っている者がいたら笑うだろう。
でも、だけど。もう見たくないのだ。苦しい。こんな思いをするために、俺は魔法を使っていたわけじゃないのに。
どうしてこんな道を選んでしまったのだろうか。
いや、もう後悔しても遅い。
……遅いのだ。
「あいつら、は…逃げきれた、よな…」
ただそれだけを祈っている。
もう二度と会うことは叶わないあいつが…あいつらが、幸せに生きれるように。
神様なんて居るのか俺は知らないけど、居るならこんなにクソみたいな世界で、全てを失った俺の最期の望みを聞いてくれよ。
何一つ俺たちにくれなかった神様。
お願いだ。お願いします。涙を流しながら少年は微笑んだ。
視界が掠れ始め、何も頭が働かない。
体の痛みを感じないのだから、もう潮時だろう。
短い人生であった。ごめんな、約束…守れそうにない。
「ごめん、ごめんな、━━━━」
最低最悪の人生だった。
でも、決して悪いものでもなかったような気がするから、生きるというのは、よく分からない。
その場に寝転がった少年は、憎たらしいほど美しい月を見上げると、ふっと笑った。
いいや、最期まで抗うのが俺だろうが!
まだやることがある。このまま静かに死んでなどやるものか。
鉛の塊を付けられていると錯覚するほどに重い腕を持ち上げ、震える指で月に指さした。
お前達の好きにはさせない。この体の欠片、記憶、知識、力。俺のものは何一つあげてなどやるものか。
青に輝く光で、線と線を繋げ、魔法陣を完成させていく。これが俺に出来る最後のこと。
あいつには恨まれるだろうか。それとも馬鹿だと罵りなが泣くのだろうか。両方かな、なんて。
…もし、次また産まれることが出来たら。
次は幸せな人生を歩みたい。
当然のように両親がいて、当然のように争わず、笑って生きたい。愛する人を守れる力を持って、もっともっと強くなりたい。
「……禁忌魔法、解放」
空に描いた魔法陣が、眩いほどの光を放って少年に降り注ぐ。
…これが俺に出来る最後の抵抗だ。
静かに瞳を閉じた少年は、小さく呟いて意識を失った。
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