魔法学園高等部

凪田

文字の大きさ
1 / 5
0章

物語の始まり

しおりを挟む
「はぁ、はぁっ、ハッ…」

一人の少年が覚束無い足取りで歩む。
まだ夜も深い時刻。
月明かりに照らされながら、だが決して歩みは止めない。ここで止まったら、いや…どの道、もう二度と目覚めることは出来ないと頭で理解しているからだ。
だからこそ、自分に出来ることを最期までまっとうする。それが今、俺に出来る全てだ。
少年は意識を保つため、血の味が混じる唇をさらに強く噛み締める。そして感覚のない腕で壁に手をつき、一歩、また一歩と進んで行った。

やがて力尽きたのだろう。
少年は冷たい壁にもたれ掛かる。

「…っ、はぁ…疲れた…」

少年の体は傷だらけだ。腕を伝う血が地面に滑り落ち、無数の血痕を残していく。酷いところでは肉が裂け、止めどなく血が溢れている。
血を流しすぎた。通りで寒いわけだ。

「怪我で死ぬのが先、か…血が足りなくて死ぬのが先か…はは、アホくさ」

自分の死期を、自分で決める日が来るなんて。
追手は来ない。出来る限り俺が排除したから、きっと皆も無事だろう。そう思うと、体の力が抜け落ちた。
膝が震える。立っていられない。壁を伝うようにずるずるとその場に座り込む。

「もう、むりだな」

俺はもう無理だろう。
額から滴る血を手の甲で拭う。その赤さに心底参ってしまった。気持ち悪い。気持ち悪い。
…血はもう見たくないなぁ。誰のものも見たくない。
何でこうなってしまったんだろう。俺はどれだけの血を、俺のせいで、俺たちのせいで流させてしまったのだろうか。

「ごめんなさい」

こんなこと、もう遅いけど。

「ごめんなさい」

俺のことを知っている者がいたら笑うだろう。
でも、だけど。もう見たくないのだ。苦しい。こんな思いをするために、俺は魔法を使っていたわけじゃないのに。
どうしてこんな道を選んでしまったのだろうか。
いや、もう後悔しても遅い。

……遅いのだ。


「あいつら、は…逃げきれた、よな…」

ただそれだけを祈っている。
もう二度と会うことは叶わないあいつが…あいつらが、幸せに生きれるように。
神様なんて居るのか俺は知らないけど、居るならこんなにクソみたいな世界で、全てを失った俺の最期の望みを聞いてくれよ。
何一つ俺たちにくれなかった神様。
お願いだ。お願いします。涙を流しながら少年は微笑んだ。

視界が掠れ始め、何も頭が働かない。
体の痛みを感じないのだから、もう潮時だろう。
短い人生であった。ごめんな、約束…守れそうにない。

「ごめん、ごめんな、━━━━」

最低最悪の人生だった。
でも、決して悪いものでもなかったような気がするから、生きるというのは、よく分からない。
その場に寝転がった少年は、憎たらしいほど美しい月を見上げると、ふっと笑った。



いいや、最期まで抗うのが俺だろうが!

まだやることがある。このまま静かに死んでなどやるものか。
鉛の塊を付けられていると錯覚するほどに重い腕を持ち上げ、震える指で月に指さした。
お前達の好きにはさせない。この体の欠片、記憶、知識、力。俺のものは何一つあげてなどやるものか。

青に輝く光で、線と線を繋げ、魔法陣を完成させていく。これが俺に出来る最後のこと。
あいつには恨まれるだろうか。それとも馬鹿だと罵りなが泣くのだろうか。両方かな、なんて。

…もし、次また産まれることが出来たら。
次は幸せな人生を歩みたい。
当然のように両親がいて、当然のように争わず、笑って生きたい。愛する人を守れる力を持って、もっともっと強くなりたい。

「……禁忌魔法、解放」

空に描いた魔法陣が、眩いほどの光を放って少年に降り注ぐ。

…これが俺に出来る最後の抵抗だ。

静かに瞳を閉じた少年は、小さく呟いて意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大事な呼び名

夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。 ※FANBOXからの転載です ※他サイトにも投稿しています

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

処理中です...