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1章
彼について
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綺麗な腰まで届く、長い銀色の髪の毛。
あまりの美しさに、俺は本能のままに右手を伸ばしてそれに触れた。
途端にそれは絡むことなく指の隙間から滑り落ちる。
絹のように柔らかく滑らかで、太陽の光に反射し、キラキラと輝いて綺麗だなぁ、なんて笑って褒めれば振り返ったその人物は何かを呟いた。
「━━━━!」
その言葉を返したあとの表情は見えないけれど、少しばかり不満そうである。
心にもないごめんと言う謝罪を口に出したその瞬間に、急に意識が浮上する。ふと目が覚めた。
変わらぬ白い天井。そこへ向けて伸ばされていた手を呆然と見つめる。
…長い長い夢を見ていた。なんの夢かは思い出せないけど、とても大切な夢なんだろうと思う。
頬を伝う雫の意味が分からずに、ただ指先を見つめた。忘れては行けない大切な夢だった気がする。
…そう、気がするだけだ。
「やっと起きたか」
何食わぬ顔で入ってきた男。
膝よりも少し長い白衣を揺らし、遠慮もなくベッドの横へ近づいて、俺の顔を覗き込んだ。
感情を宿さない表情。まるで何を考えてるのか分からない。
この光景を見るのは2度目のことだったから、さして動揺することも無く、眠る寸前に話した男か、とぼんやりとした頭で考えた。
「早い朝だな」
「…………嫌味か」
視界の端に見切れる時計が、午後2時を指してることに気づいて、思わず返すと、少しばかり可笑しそうに口を緩めた。
「なんだ、もう逃げないんだな」
「逃げて欲しいのか?」
「まさか。思考ははっきりしてるみたいで心底安心してんだよ」
「…あの時は少し、頭が混乱してただけだから」
起きた瞬間に知らぬ場所で寝転がされ、何も知らない男に声をかけられて警戒しない者が居るものか。
どれだけ考えても、ここがどこで、どうなってここに居るのか分からないのだから、俺は焦る必要は無い。意味もない。するだけ時間の無駄なのだ
病院では無いのは確かだ。それにしては雑多に物が置かれすぎている。
「で?」
「で?」
「もう話は出来そうか?」
ああ、そうであった。男はそれを望んでいたのであった。俺はまだ鉛のように重い体をゆっくりと起こし、男を見上げた。
「どのぐらい寝てた?」
「ここに来てから二週間経つな」
「えっ!?」
「いや、体の傷が治るまで薬で寝てたんだよ」
その言葉に体を見下ろすと、前回起きた時は身を切り裂くような痛みを感じたのに、確かに重くはあれど、今の自分の体には外傷はない。
「そろそろ話も聞けそうだと思ってな」
「…いいよ」
「助かる。お前、名前は?」
「俺は…」
そこで俺はふと、ある事実に気がついた。
俺…は、
「っ!」
落ち着いていたはずの感情が一気に乱れ、頭の中が真っ白になる。両手で頭を抱えて必死に思い出そうとするが、何一つ思い出せない。
記憶を呼び起こそうと躍起になるが、考えても考えても脳裏には白い世界。
何一つ分からない。白いペンキで塗りたくられたように何一つ分からない。
名前は?俺は何者だ?どこから来た?何故今ここに居る?俺は?俺は誰だ!?
心臓がバクバクと音を立て、不安が増す。
手が震え、呼吸が浅くなる。
そのまま頭を掻きむしりたい衝動に駆られたところで、頭上から声が掛けられた。
「おい?」
「っ、わからない」
「は?」
「わからない!」
「なにが?」
「分からない…俺って誰?こんなとこで何してんの?」
その台詞に、少し驚いた表情を見せた男は、数秒固まったかと思えば、右手をおもむろに顎に添えた。
少しばかり考える表情を見せる。
不安で怖くて堪らない。体が震えるのを感じた。
「…記憶がないってことか?」
「なにひとつ分からないっ」
状態を伺うように少し顔を近づける男からは、フワリとタバコの匂いがした。
それに少しだけ頭が冷静になる。手が震えてることに気づいて、自分で自分の手を握った。怖い、恐ろしい、怖い…っ!
「いい、わかった。まずは落ち着け」
「でもっ」
「落ち着け、大丈夫だ。記憶はただ混乱して一時的なものかもしれんだろうが」
「でも、なにも、なにも分からない!名前も誰かも」
「そうか」
落ち着いた声で頷いた男に、少しばかり腹が立った。
分かったような顔をしやがって。
どうせ他人事だ。分かっている。
見ず知らずの人間に同情する必要は無いのだ。
でも何故かこの男には分かって欲しいと思っている自分がいて混乱する。
目が覚めて一番最初に話して、そうして傷を癒してもらったからかもしれない。親切にしてもらったからだろう。
でも、俺には頼れる人間はこの男しかいないから、余計に感情が爆発する。
「どうせ他人事だからそんなことを言えるんだよ!」
「いや、俺も結構混乱している。こんなことは初めてだから。頭ぶつけた、よな…」
眉をひそめながら、男はゆっくりと大きな手を俺の頭の上に置いた。
触れた瞬間にビクッと体が跳ねる。
ギュッと瞼を閉じて身を固くするが、痛みなどは来ない。それどころかポカポカと急に温かく感じた。
……この感覚を俺は知っている。
「…なにした?」
「ごまかし程度の治癒魔法だ。多少は落ち着くだろ。いいから一度落ち着け。焦っても嘆いても何もならねぇんだ」
心的外傷やらはどうにもならないんだよな。などとごちゃごちゃと呟いた後に、男は大きなため息をひとつこぼした。
「困ったことになったな」
左手でボリボリと頭を掻きながら、何やら考える素振りを見せる。それは俺の目からは本当に悩んでるように見えた。
「……お前、俺が記憶が無いって言ってるのを信じるのか?」
「信じるも何も、俺はだいたい本当か嘘かが分かる」
「なに?どういう意味?」
「そういうもんなんだよ」
だから俺はお前のそばに居んだよ。という単語を呟きながら、俺の頭から離された手をブラブラと振った男は、そのうち分かると呟いてから、笑った。
「それに黙っていたとしても、今後のお前にそれはメリットが無い」
「なぜ」
「すぐにボロが出るような環境に置かれるからだ」
「?おい、どういう意味だ」
「…そうだな。結論から言うとお前はここに通うことになったからな」
「?」
その男は当然のように俺を見下ろし、長い白衣を靡かせながら楽しそうに笑って呟いた。
「紹介がまだだったな。ここはスティリニア王都魔法学園。俺はここの講師ラゼ。ラゼ・リアン」
よろしく、と細められた瞳を見つめていると、右手が差し出される。
その姿は、何故か酷く懐かしく感じた。
条件反射のように差し出された手に向かって、俺も手を伸ばす。この男の手は大きくて温かい。俺は嫌いではない。
手と手が触れ合うその瞬間、俺の頭の中で言葉が繰り返された。
魔法学園
ここに通う?
誰が?
「は?」
「おう、意味が分かったようでよかった。平然としてやがるから頭、やっぱ大丈夫かと思って心配したわ」
この男、失礼すぎる。
流されるところであった。危ない、油断も隙もない。
「1から話せ、どういう意味だ」
「どういう意味とは?」
顎に手を添えてふむ、と呟いたラゼ、と名乗る男。
なにを考えているのかは分からないが、ろくでもないということは分かった。
「ひとつひとつ、俺が分かるように話せ」
「例えば?」
「スティリニア魔法学園って言ったか?たしか魔法使いが通う学園だろ?なんで俺がそこに通うことになってんだ」
「スティリニア王都魔法学園だ」
「なんでもいいっつの」
話が飛躍しすぎている。
怪我をして倒れていた、それを治療した。
それがどうしてそうなる。俺はそう聞いているのだ。
「……やっぱりおかしいな」
「何が?」
「いや、これはちゃんと後ほどゆっくりと話そう」
「?」
「つまりだ、疑問に応えると、魔法学園ってのは、魔法が使えるガキ…子供が、凡そ6歳から22歳まで通う学校なんだが、理由としては魔力の暴走やら、魔法が使える子供を欲しがる組織から守るための保護機関だ」
「保護機関」
「そう、保護機関」
その言葉に何故か憎悪感が走った。
心臓がズキリと傷んだので、右手で左胸を一度摩ってからラゼを見上げる。
保護機関という単語に反応したのか?分からないが、不愉快なのは理解した。
「保護機関で俺をどうしたいんだよ」
「そりゃ、勉学に励んでもらうんだろ」
「はぁ?」
「お前、ガキは勉強が本分だろうが。ただし他の一般校と違うと言えば、その勉強カリキュラムの中に魔法指導が加わるだけだ」
魔法指導が加わる。
つまりは魔法が使える素質を持ってる者しか入れない筈だ。
「…俺は魔法が使えるってこと?」
「話しが早くて助かる。お前は桁外れの莫大な魔力をお持ちのようでな。よく今まで暴走せずに誰にもバレずに生きてきたとじじい達が感心してた」
さっきから気になってるが実は口悪いよな、こいつ。
「間違いでは」
「どうだろうな。生まれた時に行われる魔力診断でなぜ引っかからなかったのか。つまりお前はスラム出身か、元よりどっかの組織の生まれか等々、色々と懸念していたが」
「?なんだよ」
じっと俺の顔を見たその男は、腕を組みながら頭を振る。
「貧民外やら孤児の説は薄いだろうな」
「なんで?」
「その面でその辺の汚ぇ貴族は置いとかねぇだろ」
「?」
「逃げてたのかも知れねぇが。兎にも角にも、お前はここの学園に保護する。これは決定事項だ」
「拒否権は?」
「ない。お前にも悪い話ではないだろ」
「何を根拠に」
「無一文のお前の安息地だろうが」
胸元からゴソゴソと箱を取りだした男は、タバコを1本取り出した。
「おい、仮にも教師でここ学校だろ?吸っていいのか」
「お前が黙ってればな」
迷いもなく火をつけた男はそう呟いた。タバコの匂いが部屋に充満する。
「そう悪いことばかりじゃない」
煙を吐き出してから、ラゼは呟いた。
「悪くないってどういう意味?」
「そりゃ、お前記憶喪失だろ?」
「……多分」
「ここは学園といっても特殊な位置付けでな。国が運営する機関だ。通うだけで一定の給与は保証されれる。もちろん支給されるため衣食住には困らず、身の保証も約束される」
「……信じられない」
「お前たちを保護する機関だからな。その辺は安心していい」
「…いや、甘い言葉には裏があるって言うだろ」
ラゼはその言葉に数拍止まったかと思えば、視線をこちらに向けてふぅと煙草の煙を吐き出した。
「よく分かってんな。そういう奴は嫌いじゃない。もちろん対価は存在する。魔法は国のために使うこと。どうだ?安い条件だろ?」
あまりの美しさに、俺は本能のままに右手を伸ばしてそれに触れた。
途端にそれは絡むことなく指の隙間から滑り落ちる。
絹のように柔らかく滑らかで、太陽の光に反射し、キラキラと輝いて綺麗だなぁ、なんて笑って褒めれば振り返ったその人物は何かを呟いた。
「━━━━!」
その言葉を返したあとの表情は見えないけれど、少しばかり不満そうである。
心にもないごめんと言う謝罪を口に出したその瞬間に、急に意識が浮上する。ふと目が覚めた。
変わらぬ白い天井。そこへ向けて伸ばされていた手を呆然と見つめる。
…長い長い夢を見ていた。なんの夢かは思い出せないけど、とても大切な夢なんだろうと思う。
頬を伝う雫の意味が分からずに、ただ指先を見つめた。忘れては行けない大切な夢だった気がする。
…そう、気がするだけだ。
「やっと起きたか」
何食わぬ顔で入ってきた男。
膝よりも少し長い白衣を揺らし、遠慮もなくベッドの横へ近づいて、俺の顔を覗き込んだ。
感情を宿さない表情。まるで何を考えてるのか分からない。
この光景を見るのは2度目のことだったから、さして動揺することも無く、眠る寸前に話した男か、とぼんやりとした頭で考えた。
「早い朝だな」
「…………嫌味か」
視界の端に見切れる時計が、午後2時を指してることに気づいて、思わず返すと、少しばかり可笑しそうに口を緩めた。
「なんだ、もう逃げないんだな」
「逃げて欲しいのか?」
「まさか。思考ははっきりしてるみたいで心底安心してんだよ」
「…あの時は少し、頭が混乱してただけだから」
起きた瞬間に知らぬ場所で寝転がされ、何も知らない男に声をかけられて警戒しない者が居るものか。
どれだけ考えても、ここがどこで、どうなってここに居るのか分からないのだから、俺は焦る必要は無い。意味もない。するだけ時間の無駄なのだ
病院では無いのは確かだ。それにしては雑多に物が置かれすぎている。
「で?」
「で?」
「もう話は出来そうか?」
ああ、そうであった。男はそれを望んでいたのであった。俺はまだ鉛のように重い体をゆっくりと起こし、男を見上げた。
「どのぐらい寝てた?」
「ここに来てから二週間経つな」
「えっ!?」
「いや、体の傷が治るまで薬で寝てたんだよ」
その言葉に体を見下ろすと、前回起きた時は身を切り裂くような痛みを感じたのに、確かに重くはあれど、今の自分の体には外傷はない。
「そろそろ話も聞けそうだと思ってな」
「…いいよ」
「助かる。お前、名前は?」
「俺は…」
そこで俺はふと、ある事実に気がついた。
俺…は、
「っ!」
落ち着いていたはずの感情が一気に乱れ、頭の中が真っ白になる。両手で頭を抱えて必死に思い出そうとするが、何一つ思い出せない。
記憶を呼び起こそうと躍起になるが、考えても考えても脳裏には白い世界。
何一つ分からない。白いペンキで塗りたくられたように何一つ分からない。
名前は?俺は何者だ?どこから来た?何故今ここに居る?俺は?俺は誰だ!?
心臓がバクバクと音を立て、不安が増す。
手が震え、呼吸が浅くなる。
そのまま頭を掻きむしりたい衝動に駆られたところで、頭上から声が掛けられた。
「おい?」
「っ、わからない」
「は?」
「わからない!」
「なにが?」
「分からない…俺って誰?こんなとこで何してんの?」
その台詞に、少し驚いた表情を見せた男は、数秒固まったかと思えば、右手をおもむろに顎に添えた。
少しばかり考える表情を見せる。
不安で怖くて堪らない。体が震えるのを感じた。
「…記憶がないってことか?」
「なにひとつ分からないっ」
状態を伺うように少し顔を近づける男からは、フワリとタバコの匂いがした。
それに少しだけ頭が冷静になる。手が震えてることに気づいて、自分で自分の手を握った。怖い、恐ろしい、怖い…っ!
「いい、わかった。まずは落ち着け」
「でもっ」
「落ち着け、大丈夫だ。記憶はただ混乱して一時的なものかもしれんだろうが」
「でも、なにも、なにも分からない!名前も誰かも」
「そうか」
落ち着いた声で頷いた男に、少しばかり腹が立った。
分かったような顔をしやがって。
どうせ他人事だ。分かっている。
見ず知らずの人間に同情する必要は無いのだ。
でも何故かこの男には分かって欲しいと思っている自分がいて混乱する。
目が覚めて一番最初に話して、そうして傷を癒してもらったからかもしれない。親切にしてもらったからだろう。
でも、俺には頼れる人間はこの男しかいないから、余計に感情が爆発する。
「どうせ他人事だからそんなことを言えるんだよ!」
「いや、俺も結構混乱している。こんなことは初めてだから。頭ぶつけた、よな…」
眉をひそめながら、男はゆっくりと大きな手を俺の頭の上に置いた。
触れた瞬間にビクッと体が跳ねる。
ギュッと瞼を閉じて身を固くするが、痛みなどは来ない。それどころかポカポカと急に温かく感じた。
……この感覚を俺は知っている。
「…なにした?」
「ごまかし程度の治癒魔法だ。多少は落ち着くだろ。いいから一度落ち着け。焦っても嘆いても何もならねぇんだ」
心的外傷やらはどうにもならないんだよな。などとごちゃごちゃと呟いた後に、男は大きなため息をひとつこぼした。
「困ったことになったな」
左手でボリボリと頭を掻きながら、何やら考える素振りを見せる。それは俺の目からは本当に悩んでるように見えた。
「……お前、俺が記憶が無いって言ってるのを信じるのか?」
「信じるも何も、俺はだいたい本当か嘘かが分かる」
「なに?どういう意味?」
「そういうもんなんだよ」
だから俺はお前のそばに居んだよ。という単語を呟きながら、俺の頭から離された手をブラブラと振った男は、そのうち分かると呟いてから、笑った。
「それに黙っていたとしても、今後のお前にそれはメリットが無い」
「なぜ」
「すぐにボロが出るような環境に置かれるからだ」
「?おい、どういう意味だ」
「…そうだな。結論から言うとお前はここに通うことになったからな」
「?」
その男は当然のように俺を見下ろし、長い白衣を靡かせながら楽しそうに笑って呟いた。
「紹介がまだだったな。ここはスティリニア王都魔法学園。俺はここの講師ラゼ。ラゼ・リアン」
よろしく、と細められた瞳を見つめていると、右手が差し出される。
その姿は、何故か酷く懐かしく感じた。
条件反射のように差し出された手に向かって、俺も手を伸ばす。この男の手は大きくて温かい。俺は嫌いではない。
手と手が触れ合うその瞬間、俺の頭の中で言葉が繰り返された。
魔法学園
ここに通う?
誰が?
「は?」
「おう、意味が分かったようでよかった。平然としてやがるから頭、やっぱ大丈夫かと思って心配したわ」
この男、失礼すぎる。
流されるところであった。危ない、油断も隙もない。
「1から話せ、どういう意味だ」
「どういう意味とは?」
顎に手を添えてふむ、と呟いたラゼ、と名乗る男。
なにを考えているのかは分からないが、ろくでもないということは分かった。
「ひとつひとつ、俺が分かるように話せ」
「例えば?」
「スティリニア魔法学園って言ったか?たしか魔法使いが通う学園だろ?なんで俺がそこに通うことになってんだ」
「スティリニア王都魔法学園だ」
「なんでもいいっつの」
話が飛躍しすぎている。
怪我をして倒れていた、それを治療した。
それがどうしてそうなる。俺はそう聞いているのだ。
「……やっぱりおかしいな」
「何が?」
「いや、これはちゃんと後ほどゆっくりと話そう」
「?」
「つまりだ、疑問に応えると、魔法学園ってのは、魔法が使えるガキ…子供が、凡そ6歳から22歳まで通う学校なんだが、理由としては魔力の暴走やら、魔法が使える子供を欲しがる組織から守るための保護機関だ」
「保護機関」
「そう、保護機関」
その言葉に何故か憎悪感が走った。
心臓がズキリと傷んだので、右手で左胸を一度摩ってからラゼを見上げる。
保護機関という単語に反応したのか?分からないが、不愉快なのは理解した。
「保護機関で俺をどうしたいんだよ」
「そりゃ、勉学に励んでもらうんだろ」
「はぁ?」
「お前、ガキは勉強が本分だろうが。ただし他の一般校と違うと言えば、その勉強カリキュラムの中に魔法指導が加わるだけだ」
魔法指導が加わる。
つまりは魔法が使える素質を持ってる者しか入れない筈だ。
「…俺は魔法が使えるってこと?」
「話しが早くて助かる。お前は桁外れの莫大な魔力をお持ちのようでな。よく今まで暴走せずに誰にもバレずに生きてきたとじじい達が感心してた」
さっきから気になってるが実は口悪いよな、こいつ。
「間違いでは」
「どうだろうな。生まれた時に行われる魔力診断でなぜ引っかからなかったのか。つまりお前はスラム出身か、元よりどっかの組織の生まれか等々、色々と懸念していたが」
「?なんだよ」
じっと俺の顔を見たその男は、腕を組みながら頭を振る。
「貧民外やら孤児の説は薄いだろうな」
「なんで?」
「その面でその辺の汚ぇ貴族は置いとかねぇだろ」
「?」
「逃げてたのかも知れねぇが。兎にも角にも、お前はここの学園に保護する。これは決定事項だ」
「拒否権は?」
「ない。お前にも悪い話ではないだろ」
「何を根拠に」
「無一文のお前の安息地だろうが」
胸元からゴソゴソと箱を取りだした男は、タバコを1本取り出した。
「おい、仮にも教師でここ学校だろ?吸っていいのか」
「お前が黙ってればな」
迷いもなく火をつけた男はそう呟いた。タバコの匂いが部屋に充満する。
「そう悪いことばかりじゃない」
煙を吐き出してから、ラゼは呟いた。
「悪くないってどういう意味?」
「そりゃ、お前記憶喪失だろ?」
「……多分」
「ここは学園といっても特殊な位置付けでな。国が運営する機関だ。通うだけで一定の給与は保証されれる。もちろん支給されるため衣食住には困らず、身の保証も約束される」
「……信じられない」
「お前たちを保護する機関だからな。その辺は安心していい」
「…いや、甘い言葉には裏があるって言うだろ」
ラゼはその言葉に数拍止まったかと思えば、視線をこちらに向けてふぅと煙草の煙を吐き出した。
「よく分かってんな。そういう奴は嫌いじゃない。もちろん対価は存在する。魔法は国のために使うこと。どうだ?安い条件だろ?」
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