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〜2〜
番について
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「まず、お前はお前の身の危険について全くわかっていない」
「はぁ?お前に追い回されてる以上に危険なこととかないけど」
「…いいから聞け。人間社会と吸血鬼社会は根本的なものが違う。それを先に言うべきだった」
「なんじゃそりゃ」
目の前の空になったコップを睨みながらそう言うと、面倒くさそうな顔をしてこちらを睨んでいるのが何となく分かる。もう正直どうでもいい。
ここまで来たら俺が失うものは何も無いし、そもそも社会的立場では圧倒的に俺が不利のようだが、俺という存在価値では、俺の方が有利と知れば、もうこちらだって遠慮するつもりは無いのだ。正々堂々、言いたいことは言うし、結果どうなってもどの道追い出されて部屋無しだ。
いやほんとに俺こいつに何したんだよと思うと、余計に腹が立ってきた。
「何度も言った通り、お前は俺の番だ」
「確証は?」
「味だな」
「説得力無さすぎねぇ?」
「これは吸血鬼にしか分からんだろうな」
「そもそも番ってなんだよ?」
「そこからか…番、というのは吸血鬼一個体につき、生涯出会えるかも分からない、貴重な存在だ」
「…その貴重な存在ってのが俺ってのがよく分からねぇんだよな」
「なぜ?」
「俺は自分で言うのもなんだけど、本当にその辺にいる普通の大学生なんだよ」
そうだ。何を言っても俺は小さい頃に両親と死別したという点以外、その辺にいるごくごく普通の大学生である。地獄のような毎日を必死に食いつなぐために働いてる苦学生以外に、とりわけ特別なことはなく、というかマジでその辺の平凡な男子学生だ。少し見た目は独特かもしれないが、今どき珍しいものでもないだろう。
「血筋というものは全く関係ない。人間であれば、誰でも有りうる。というのも、例えば双子の吸血鬼であったとしても、番が同じになることはまず有り得ないからだ」
「へ~そんなもんか」
「お前に関しては本当に偶然だな。この前のあれがなければ、生涯俺は番を見つけられはしなかっただろう」
「見つかんない方が良かったじゃん」
「いや、見つかってよかった」
「お前の中ではな!」
あの日俺がごみ捨て場で、ボロボロのこの吸血鬼を拾わなければ、今と何ら変わらない日常生活をおくっていたというわけか。本当に過去の自分やってくれたなと少しだけあの日の自分を呪った。
「そもそも吸血鬼にとっての番ってなんだよ。血が特別だってのは分かったけど。人間でいう伴侶みたいなもん?それともただの餌?」
「……違うな。吸血鬼の心臓だ」
「は?」
突然、次元が違う大それたことを言い出した目の前の吸血鬼に、思わず顔を上げれば、西院の赤い瞳と俺の瞳が交差した。西院の赤い瞳と、俺の青い瞳。対象的なそれが、ずっと俺の顔を見ていたことに気づいて、少しだけ気まづくなる。
「番、というものは吸血鬼にとって、非常に大切な存在であり、生きるために必要不可欠な個体。運命だ」
「…でも、今までは居なかったんだろ」
「そうだ。だが見つけてしまった」
「なんじゃそりゃ…」
今まで見つけられなかったなら、それこそ最後まで見つからなければよかったのでは無いかと思う。お互いのために、それが一番よかったじゃないか。
「番と、人間からの血は別物だ。吸血鬼の体に与える影響力が違う」
「活性剤が入った薬みたいなもん?栄養ドリンク的な?」
「違うな。そんな理屈で説明できるものでは無い」
「なんじゃそりゃ」
「…通常、俺たちは血液を主食に命を繋いでいる。これはお前たち人間が、ものを食べるのと同じ行為だ。物体か血か、違いはその程度だが、吸血鬼にも好みが存在する」
「好み?人間でいう肉が好きだけど、苦い野菜食べれませんとか?」
「………違う」
今鼻で笑ったの気づいてるからな。俺が寛大で無ければ一発殴ってた。大体吸血鬼社会なんて全く興味も無いし、なんなら最近まで生涯関わらないと思っていたのに。こっちは何もしらねぇんだよ。
「…人間の血とは相性があるんだ」
「やっぱ好き嫌いじゃん」
「味は関係ない。番ならどんな食生活をおくっていても美味いものは美味い。細胞レベルの相性の問題だな。相性がいいと思えば美味いと思う」
「え、じゃあ相性悪いと不味いのかよ。血に味とかねぇと思うんだけど」
口の中が微かに鉄の味を思い出して、気持ち悪くてうげっとなった。
人間のほとんどは、血を美味しいなどと感じたことはないだろう。俺なんか注射をした後のぷくっと出る血すらそんなにいい思いはしない。
「吸血鬼が美味いと判断、適合する人間はそうそう居ない。そして相性で美味いと思う人間と、運命の番はまた別物だ」
「ふーん?分かったような分かってないような」
「これは理屈ではないから、分からないでも仕方ないだろうな」
「なんかムカつくな」
「…血液と少しでも相性が良い、美味しいと思えば、俺たちの能力も飛躍的に上昇する」
「は?なに?能力?」
「それは追々話す。なぜそんな教科書にも載ってる基本的なことも知らないのか、理解に困る」
「それは、その…」
授業まともに聞いてないからですね。
こちとら吸血鬼なんて、生涯俺は無縁で、関わることがないと思っているのだから、吸血鬼の生態を知る授業なんて毎回寝ているに決まっている。
「俺たち吸血鬼というのは、人間のように少しずつ傷を治すのではなく、血を吸えばある程度は直ぐに治る」
「あー…そういえば」
あの日の出来事を思い出して、そういえば腹から血を出していたというのに、飲んだら傷が塞がっていたのを思い出した。あの時驚いていた顔も一緒に思い出す。
「ただし、どれだけ相性がいい血であったとしても、深手ならば飲んだところで傷の完治には時間が掛かるし、美味しいと言っても"比較的"なんだよ」
「それは喜んでいいとこなん?」
「そりゃな。俺は助かったし、美味かった」
「……あの日、お前が俺の血にがっついてたのは」
「まぁそういう事だ。美味すぎて止められなかった」
美味い美味いと連呼されて、どういう感情になればいいのか複雑だ。女だったとしたら、こんなイケメンに求められて悪い気はしないのだろうけど、あの日の恐ろしい欲に浮かされた男の顔を思い出して、誉は少しだけ体がぞくりとするのを感じた。もう正直、二度とごめんなんだが。
「お前の血が欲しい」
「直球!」
「当たり前だ。俺にとっては死活問題だからな。もう数日血を口にしていない。普通なら餓死寸前だ。なのに今ここにいるのはお前の血のおかげだろうな」
なら別に他の人間血を貰えばいいのに。どれだけ相性が良くても、無理に我慢することでもないだろう。
「今まで、は…」
「なんだ?」
「今までは他の人間の血で事足りていたんだろ?」
そうだ。俺の血を飲まなくても、今まで通り別の人間の血液を吸わせてもらえば良いだけの話だ。特別美味しいと分かっていても、俺はあげたくないし、こいつは面倒がなくていいことだと思うのだが。
「今までは華族の人間血を貰っていた」
「……?そういえばその華族ってなんだよ」
以前に聞いたそのフレーズに聞き返す。あの時は族とか言うから、ヤクザかなにかと思っていたが、そうでは無いらしく、少しだけ気になっていたのである。
「簡単に言うなら供物だ」
「…は?」
「産まれた時から口に入れる物全てを管理され、吸血鬼が好む血液を提供し続ける者たちのことを華族と呼ぶ」
「供物…?生贄じゃん」
「まぁ年端も行かぬ子供や、処女の女の血だとは聞いたことがある」
「……最低すぎる」
「何故だ?」
「さっき言ってたじゃん。結局相性うんぬんで決まるなら、別に強制した生活の中で生み出される血じゃなくてもいいってことだろ」
「いいや。確かに関係はないが、食生活の強制は必要だ。圧倒的に相性が良い。そして栄養価が高い。華族や野菜を中心とした人間の血は別物だからな」
「言い方がもう最低だ。その華族?って人達はそれを望んでるのかよ」
「さぁな。本人たちの意思は知らん」
「それ、合法…?」
「当然だ。お前たち人間側から差し出されている。そして吸血鬼側もそれ相応の報酬は返しているから誤解はするな」
「…報酬?」
「そもそもお前は勘違いをしてる。俺たちではなく人間側がどうぞと差し出してくる供物だ」
「その言い方が嫌なんだよ」
「供物というのは、血に飢えた吸血鬼がむやみやたらにその辺の人間に手を出さないための対策でもあんだよ。これは取引だ」
「…それは…」
「俺たちはお前らに血を貰って、その代わりに知識や資源を提供する。お互い理にかなってるだろ」
何がいけないのかと頭を傾げる姿を見て、一つだけ分かったことがある。多分知らなかっただけで、俺たちの世界はずっと吸血鬼の支配下に居たんだろう。この言い方は明らかな上下関係を示している。表面上は仲良くしてるとは思っていたけど、こんな優劣があるとは思っていなかった。俺たちが平穏である裏で、そのために犠牲になってきた人間がいるのだというのも何となく分かった。それが分かったからといって、俺にできることは無いけど。
「…納得できない」
「なぜ?」
「今までは俺の血なんて飲まなくても平気だったんだろ?じゃあ今まで通りその供物様とやらでいいじゃん」
「それは無理だ」
「なんで?大体、血の提供で人間から血を買い取ってるし、その華族?さんとかも居るなら俺いらなくね」
「華族は時間と金が掛かりすぎる。そう人数もいるわけではない。血を貰えるのはほんのひと握りだ。吸血鬼にも階級は存在する」
「はぁ?お前偉いさんなの?ならなおさら…」
「無理なんだ。…番の血を一度飲んでしまえば、もう二度と他の血は飲めない」
「はぁ!?」
「体が番を知ってしまえば、他の血は全て色の付いてない水と同じだ」
最悪だと零したその表情は、とても嘘をついているようには見えなかった。最悪はこっちだっての!思いたいのに、胸の奥がズキンと痛みを発したような気がして、簡単に流されるなと自分に言い聞かせる。
「…水と同じって?」
「お前の血以外もう、俺の体には適用しない。飲めないと言えば分かるか」
「いや、それ大袈裟…」
「お前血は俺の体に適用したんだ」
「適用…?」
「一度番の血を口に含めば、他は栄養価すらもないただの水だ。番は一蓮托生。お前の死は、他の人間の血を飲めない俺の死を意味する」
「ちょっ、ちょっと、マジで言ってる?」
「本当の話だ」
眉間に皺を寄せ、俯く姿。
この西院の話が本当と言うのであれば、俺がこいつに血を提供しなくなった場合、こいつは間もなく死を迎える、ということだろう。それはなんと言うか…
「…それって、お前らマジで損しかねぇじゃん」
何故、過去の人達が血をあげるぐらいならと、自ら命を絶つのかの理由が分かった気がした。吸血鬼を殺す方法は、番の血の根絶。そりゃ無理やり餌にされてきた番は、怒り狂って死ぬ方法を取らなくもない。
最近になって、番が見つかった吸血鬼がその対象の人間を生涯大切にするといった意味もこれである程度は理解した。
「損ばっかだなおまえら」
「いや、そうでもない。その縛りと引き換えに、俺たちは力と権力を手に入れられる」
「ちからぁ?そういやさっきそんなこと言ってたな」
「これから、お前にこれから起こりうる話をする。これは間違いなく、お前の人生を大きく変えるだろう。そこからお前自身の身の振り方を決めろ」
「今までのは茶番?」
「知ってて当然の知識だな」
「うわ、気悪い言い方」
キッと睨みつけたと言うのに、全く動じないどころかおもむろに俺に手を伸ばしてきた西院は、少しだけ俺の前髪に触れる。絡めとったかと思えば、するりと指からすり抜けるのを感じて、なんでこんな優しい触り方をするのだと居心地が悪い。
異国の血が混じった色素の薄い髪の毛と、青い瞳が珍しいのか。俺はその整った顔面と、艶やかな髪の毛に真っ赤な瞳の方が美しいと思うけどな。
俺は自分の見た目をコンプレックスに思い生きてきているのだから、察してやめて欲しいのだが…なんて考えながら、男の言葉を待つことにした。
「まず、お前はお前の身の危険について全くわかっていない」
「はぁ?お前に追い回されてる以上に危険なこととかないけど」
「…いいから聞け。人間社会と吸血鬼社会は根本的なものが違う。それを先に言うべきだった」
「なんじゃそりゃ」
目の前の空になったコップを睨みながらそう言うと、面倒くさそうな顔をしてこちらを睨んでいるのが何となく分かる。もう正直どうでもいい。
ここまで来たら俺が失うものは何も無いし、そもそも社会的立場では圧倒的に俺が不利のようだが、俺という存在価値では、俺の方が有利と知れば、もうこちらだって遠慮するつもりは無いのだ。正々堂々、言いたいことは言うし、結果どうなってもどの道追い出されて部屋無しだ。
いやほんとに俺こいつに何したんだよと思うと、余計に腹が立ってきた。
「何度も言った通り、お前は俺の番だ」
「確証は?」
「味だな」
「説得力無さすぎねぇ?」
「これは吸血鬼にしか分からんだろうな」
「そもそも番ってなんだよ?」
「そこからか…番、というのは吸血鬼一個体につき、生涯出会えるかも分からない、貴重な存在だ」
「…その貴重な存在ってのが俺ってのがよく分からねぇんだよな」
「なぜ?」
「俺は自分で言うのもなんだけど、本当にその辺にいる普通の大学生なんだよ」
そうだ。何を言っても俺は小さい頃に両親と死別したという点以外、その辺にいるごくごく普通の大学生である。地獄のような毎日を必死に食いつなぐために働いてる苦学生以外に、とりわけ特別なことはなく、というかマジでその辺の平凡な男子学生だ。少し見た目は独特かもしれないが、今どき珍しいものでもないだろう。
「血筋というものは全く関係ない。人間であれば、誰でも有りうる。というのも、例えば双子の吸血鬼であったとしても、番が同じになることはまず有り得ないからだ」
「へ~そんなもんか」
「お前に関しては本当に偶然だな。この前のあれがなければ、生涯俺は番を見つけられはしなかっただろう」
「見つかんない方が良かったじゃん」
「いや、見つかってよかった」
「お前の中ではな!」
あの日俺がごみ捨て場で、ボロボロのこの吸血鬼を拾わなければ、今と何ら変わらない日常生活をおくっていたというわけか。本当に過去の自分やってくれたなと少しだけあの日の自分を呪った。
「そもそも吸血鬼にとっての番ってなんだよ。血が特別だってのは分かったけど。人間でいう伴侶みたいなもん?それともただの餌?」
「……違うな。吸血鬼の心臓だ」
「は?」
突然、次元が違う大それたことを言い出した目の前の吸血鬼に、思わず顔を上げれば、西院の赤い瞳と俺の瞳が交差した。西院の赤い瞳と、俺の青い瞳。対象的なそれが、ずっと俺の顔を見ていたことに気づいて、少しだけ気まづくなる。
「番、というものは吸血鬼にとって、非常に大切な存在であり、生きるために必要不可欠な個体。運命だ」
「…でも、今までは居なかったんだろ」
「そうだ。だが見つけてしまった」
「なんじゃそりゃ…」
今まで見つけられなかったなら、それこそ最後まで見つからなければよかったのでは無いかと思う。お互いのために、それが一番よかったじゃないか。
「番と、人間からの血は別物だ。吸血鬼の体に与える影響力が違う」
「活性剤が入った薬みたいなもん?栄養ドリンク的な?」
「違うな。そんな理屈で説明できるものでは無い」
「なんじゃそりゃ」
「…通常、俺たちは血液を主食に命を繋いでいる。これはお前たち人間が、ものを食べるのと同じ行為だ。物体か血か、違いはその程度だが、吸血鬼にも好みが存在する」
「好み?人間でいう肉が好きだけど、苦い野菜食べれませんとか?」
「………違う」
今鼻で笑ったの気づいてるからな。俺が寛大で無ければ一発殴ってた。大体吸血鬼社会なんて全く興味も無いし、なんなら最近まで生涯関わらないと思っていたのに。こっちは何もしらねぇんだよ。
「…人間の血とは相性があるんだ」
「やっぱ好き嫌いじゃん」
「味は関係ない。番ならどんな食生活をおくっていても美味いものは美味い。細胞レベルの相性の問題だな。相性がいいと思えば美味いと思う」
「え、じゃあ相性悪いと不味いのかよ。血に味とかねぇと思うんだけど」
口の中が微かに鉄の味を思い出して、気持ち悪くてうげっとなった。
人間のほとんどは、血を美味しいなどと感じたことはないだろう。俺なんか注射をした後のぷくっと出る血すらそんなにいい思いはしない。
「吸血鬼が美味いと判断、適合する人間はそうそう居ない。そして相性で美味いと思う人間と、運命の番はまた別物だ」
「ふーん?分かったような分かってないような」
「これは理屈ではないから、分からないでも仕方ないだろうな」
「なんかムカつくな」
「…血液と少しでも相性が良い、美味しいと思えば、俺たちの能力も飛躍的に上昇する」
「は?なに?能力?」
「それは追々話す。なぜそんな教科書にも載ってる基本的なことも知らないのか、理解に困る」
「それは、その…」
授業まともに聞いてないからですね。
こちとら吸血鬼なんて、生涯俺は無縁で、関わることがないと思っているのだから、吸血鬼の生態を知る授業なんて毎回寝ているに決まっている。
「俺たち吸血鬼というのは、人間のように少しずつ傷を治すのではなく、血を吸えばある程度は直ぐに治る」
「あー…そういえば」
あの日の出来事を思い出して、そういえば腹から血を出していたというのに、飲んだら傷が塞がっていたのを思い出した。あの時驚いていた顔も一緒に思い出す。
「ただし、どれだけ相性がいい血であったとしても、深手ならば飲んだところで傷の完治には時間が掛かるし、美味しいと言っても"比較的"なんだよ」
「それは喜んでいいとこなん?」
「そりゃな。俺は助かったし、美味かった」
「……あの日、お前が俺の血にがっついてたのは」
「まぁそういう事だ。美味すぎて止められなかった」
美味い美味いと連呼されて、どういう感情になればいいのか複雑だ。女だったとしたら、こんなイケメンに求められて悪い気はしないのだろうけど、あの日の恐ろしい欲に浮かされた男の顔を思い出して、誉は少しだけ体がぞくりとするのを感じた。もう正直、二度とごめんなんだが。
「お前の血が欲しい」
「直球!」
「当たり前だ。俺にとっては死活問題だからな。もう数日血を口にしていない。普通なら餓死寸前だ。なのに今ここにいるのはお前の血のおかげだろうな」
なら別に他の人間血を貰えばいいのに。どれだけ相性が良くても、無理に我慢することでもないだろう。
「今まで、は…」
「なんだ?」
「今までは他の人間の血で事足りていたんだろ?」
そうだ。俺の血を飲まなくても、今まで通り別の人間の血液を吸わせてもらえば良いだけの話だ。特別美味しいと分かっていても、俺はあげたくないし、こいつは面倒がなくていいことだと思うのだが。
「今までは華族の人間血を貰っていた」
「……?そういえばその華族ってなんだよ」
以前に聞いたそのフレーズに聞き返す。あの時は族とか言うから、ヤクザかなにかと思っていたが、そうでは無いらしく、少しだけ気になっていたのである。
「簡単に言うなら供物だ」
「…は?」
「産まれた時から口に入れる物全てを管理され、吸血鬼が好む血液を提供し続ける者たちのことを華族と呼ぶ」
「供物…?生贄じゃん」
「まぁ年端も行かぬ子供や、処女の女の血だとは聞いたことがある」
「……最低すぎる」
「何故だ?」
「さっき言ってたじゃん。結局相性うんぬんで決まるなら、別に強制した生活の中で生み出される血じゃなくてもいいってことだろ」
「いいや。確かに関係はないが、食生活の強制は必要だ。圧倒的に相性が良い。そして栄養価が高い。華族や野菜を中心とした人間の血は別物だからな」
「言い方がもう最低だ。その華族?って人達はそれを望んでるのかよ」
「さぁな。本人たちの意思は知らん」
「それ、合法…?」
「当然だ。お前たち人間側から差し出されている。そして吸血鬼側もそれ相応の報酬は返しているから誤解はするな」
「…報酬?」
「そもそもお前は勘違いをしてる。俺たちではなく人間側がどうぞと差し出してくる供物だ」
「その言い方が嫌なんだよ」
「供物というのは、血に飢えた吸血鬼がむやみやたらにその辺の人間に手を出さないための対策でもあんだよ。これは取引だ」
「…それは…」
「俺たちはお前らに血を貰って、その代わりに知識や資源を提供する。お互い理にかなってるだろ」
何がいけないのかと頭を傾げる姿を見て、一つだけ分かったことがある。多分知らなかっただけで、俺たちの世界はずっと吸血鬼の支配下に居たんだろう。この言い方は明らかな上下関係を示している。表面上は仲良くしてるとは思っていたけど、こんな優劣があるとは思っていなかった。俺たちが平穏である裏で、そのために犠牲になってきた人間がいるのだというのも何となく分かった。それが分かったからといって、俺にできることは無いけど。
「…納得できない」
「なぜ?」
「今までは俺の血なんて飲まなくても平気だったんだろ?じゃあ今まで通りその供物様とやらでいいじゃん」
「それは無理だ」
「なんで?大体、血の提供で人間から血を買い取ってるし、その華族?さんとかも居るなら俺いらなくね」
「華族は時間と金が掛かりすぎる。そう人数もいるわけではない。血を貰えるのはほんのひと握りだ。吸血鬼にも階級は存在する」
「はぁ?お前偉いさんなの?ならなおさら…」
「無理なんだ。…番の血を一度飲んでしまえば、もう二度と他の血は飲めない」
「はぁ!?」
「体が番を知ってしまえば、他の血は全て色の付いてない水と同じだ」
最悪だと零したその表情は、とても嘘をついているようには見えなかった。最悪はこっちだっての!思いたいのに、胸の奥がズキンと痛みを発したような気がして、簡単に流されるなと自分に言い聞かせる。
「…水と同じって?」
「お前の血以外もう、俺の体には適用しない。飲めないと言えば分かるか」
「いや、それ大袈裟…」
「お前血は俺の体に適用したんだ」
「適用…?」
「一度番の血を口に含めば、他は栄養価すらもないただの水だ。番は一蓮托生。お前の死は、他の人間の血を飲めない俺の死を意味する」
「ちょっ、ちょっと、マジで言ってる?」
「本当の話だ」
眉間に皺を寄せ、俯く姿。
この西院の話が本当と言うのであれば、俺がこいつに血を提供しなくなった場合、こいつは間もなく死を迎える、ということだろう。それはなんと言うか…
「…それって、お前らマジで損しかねぇじゃん」
何故、過去の人達が血をあげるぐらいならと、自ら命を絶つのかの理由が分かった気がした。吸血鬼を殺す方法は、番の血の根絶。そりゃ無理やり餌にされてきた番は、怒り狂って死ぬ方法を取らなくもない。
最近になって、番が見つかった吸血鬼がその対象の人間を生涯大切にするといった意味もこれである程度は理解した。
「損ばっかだなおまえら」
「いや、そうでもない。その縛りと引き換えに、俺たちは力と権力を手に入れられる」
「ちからぁ?そういやさっきそんなこと言ってたな」
「これから、お前にこれから起こりうる話をする。これは間違いなく、お前の人生を大きく変えるだろう。そこからお前自身の身の振り方を決めろ」
「今までのは茶番?」
「知ってて当然の知識だな」
「うわ、気悪い言い方」
キッと睨みつけたと言うのに、全く動じないどころかおもむろに俺に手を伸ばしてきた西院は、少しだけ俺の前髪に触れる。絡めとったかと思えば、するりと指からすり抜けるのを感じて、なんでこんな優しい触り方をするのだと居心地が悪い。
異国の血が混じった色素の薄い髪の毛と、青い瞳が珍しいのか。俺はその整った顔面と、艶やかな髪の毛に真っ赤な瞳の方が美しいと思うけどな。
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逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
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