転生して悪役令嬢な私ですが、ヒロインと協力して何とかハッピーエンドを目指します!

胡椒家-コショーヤ-

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●本編●

53.次兄について。〜意外な特技、持ってました…?〜

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 時刻は22時30分、食堂にて食卓を囲んでいるのは、今や家族のみとなっていた。
メイヴィスお姉様は明日の出立時間が早いので食後のドリンクを飲み干したあと、そそくさと客室に戻られてしまった。
その顔は色々なもの(主に緊張、時々聞いたら不味い言葉の数々)からやっと開放された喜びに満ち満ちていた、正直、今の状態のわたくしにとってはこの部屋から安全に脱出できたなんて心底羨ましい限りだ。

「だからさぁ~、わざと言わなかったんでしょって聞いてるんだけどぉ~~? 頑なに認めないのは何でなわけぇ~~??」

「ですからわざとなどではなく失念しておりました、と再三申し上げております。 故意ではなく、単なる過失でございますので。」

「いやいや、ないでしょ~? いっつも細かいことで注意したりお小言だの言ってくるのにぃ、その言い訳は苦しすぎるでしょぉ~~??」

「言い訳ではございません、純然たる事実を正直に申し上げているだけでございます。」

 ーーこれって世間一般で云うところの犬猿の仲ってやつ、なのかしら? でも何故なんだろう、この2人の遣り取りが熟年夫婦の夫婦喧嘩に見えてしまうのは、私だけ??ーー

眼の前では冷戦状態で対峙する、犬と猿な仲の公爵家の次男坊とその乳母。
2人の間には冷え冷えとした空気しか流れておらず、おいそれと静止の言葉を割り込ませられるわずかな隙間さえも見つけられない。

 ーー何故こんな冷戦が急遽勃発してしまったかと云えば…、あれってやっぱり、私のせいだったのかしら……?ーー


==遡ること、10分前==

 遮二無二に掻き鳴らした呼び鈴クロッシュによって召喚されたメリッサは、分厚い眼鏡の奥から昼間よりも更に底冷えしきった眼差しを寄越してきた。

「ライリエルお嬢様、お呼び出しのご用向はなんでございましょうか?」

「えぇっと…ね、メリッサ? 確認したいのだけれど、これは元からこの家にあったものだと私は思っていたのだけど、違ったのかしら?? しかも貴女がお願いしに行ったから、エリファスお兄様が作ってくださったと仰るのだけど…本当なの??!」

睨まれている気がしてしょうがない乳母の視認できない目を探りながら、眉間以外は動いていない平常運転な侍女の顔を見返してささっと本題を尋ねる。
『これ』とはもちろん、私がネックレスの如く首から下げている魔導具のことだ。

「本日より以前には影も形もございません。 エリファス坊ちゃまにお願い・・・はしておりませんが、お嬢様がお求めの品物の内容はお話しました。」

 ーーん? 何か、そこはかとな~く、言い方に棘を感じる、言葉の端々が棘だらけでチックチクしている気がする。 気のせいかしら?? サイボーグで定評のあるメリッサが、感情的になっているなんてそんなの私の気の所為…よね???ーー

「影も形も、なかったのね…。 有るとも無いとも言われなかったものだから、てっきりこの屋敷に存在しているものを探しているのだと思っていたわ。」

「違いますとも、ですからお嬢様が進捗を確認された際、『創作中』である旨をありのまま包み隠さず申し上げていたはずでございますが?」

 ーーえっ、『そうさく』って、捜す『捜索』じゃなくて創り出す『創作』だったの?! ちょっ、それは、勘違いしたのは…私のせいではなくないかしら??ーー

誰が一から創作されると思うだろうか?

 ーーだって刻印魔法って、専門の教育とかが必須…ではないけれど、素人がホイホイ独学で制作できてしまう物では……ない、はず…よね?ーー

またもやこの世界の常識不足により、メリッサとの意思疎通の齟齬がより顕著に現れてしまったようだ。
頭の中は大パニック、煙が噴き上がりそうなほどオーバーヒートしてきた。
ぐるぐると渦を巻くような目眩を覚えながらぐらつく頭を支えていると、テーブルを挟んだ向かい側から声がかかる。

「ちょっと、いい? さっきの言い方、悪意しか感じられないんだけどぉ~?? お願いしてないって、どの口が言ってるわけぇ~~?? 作れって言わんばかりに話を持ちかけてきたじゃない、それもまさかボクの勘違いって言いたいわけなのぉ~~???」

 ーーあらら…? エリファスお兄様、何か怒っていらっしゃる、の?? これも非常に珍しい事じゃないかしら???ーー

いつもと変わらない口調なのに、隠せも誤魔化せてもいない不機嫌が発する言葉の一つ一つ、その全面に押し出されてしまっている。
ツンケンしているののツンの割合が多分に多い。

「悪意など欠片もございません、事実を正直に在るが儘に申し上げただけにございます。 作れだなどと、そのような上から目線に物事を依頼した記憶など私にはございません。」

ッカァーーーーーーーーンッ!

何処かで戦いのゴングが高らかに鳴らされた音が聞こえた気がした。

 ーーあのメリッサが、けんけんしている…?!ーー

天変地異の前触れかと身構えてしまう。

しかしながら今思い返してみると、パーティーが始まる前、窃盗の現行犯で逃走の後に出頭したエリファスお兄様を鬼の形相(表情動いてたわ!)で説教していたメリッサは凄く感情的だった。
それに、今日メイヴィスお姉様が滞在している客間で『ツーと言えばカーみたいに以心伝心できてしまうもの』と言ったときのあの微妙な反応、あれってスーパー無意識に虎の尾を踏んずける行為だったってことかしら?

 ーー命危うし!? ちょっと視えない地雷がそこかしこに埋蔵され過ぎじゃないかしら、この公爵家ってば!!?ーー

己が無意識に行っていた自殺行為でしか無い愚行に今更ながらに戦慄する。
そして言い合いを始めてしまった実は犬と猿な仲の2人を宥めようと無計画に口を開いてしまう、慌てていたとはいえ今にして思えば無謀な行為だったと言わざるを得ない。

「あ…あのぉ~? エリファスお兄様、メリッサ、ごめんなさい! 私の突発的な思いつきのせいで、なんだかそのぉ、2人の間に認識の齟齬を招いた結果、険悪にさせてしまって、本当に申し訳なく思っております!!」

「ライラのせいじゃないよ。」
「ライリエルお嬢様に責はございません。 それと必要以上に遜るのもお止しください。」

「え、と…、そう言っていただけると心が軽くなりますわ? 後メリッサ、ごめんなさい、でも今回は大目に見て頂戴?」

間髪入れずに否定のお言葉と、ついでにお小言も頂いてしまった。
セリフを口にするタイミングがバッチリ合っていて、実は仲良しなのでは…?と密かに思っていると再び口論が再開されてしまった。

「ちょっとさぁ、ライラに対して言い方きつくない~? もうちょっと優しい言い方ってできないわけぇ~~??」

「これが私の平常通りな口調と対応でございますので。 別段意識してきつい言い方などしてございません。 エリファス坊ちゃま相手でもあるまいし、する必要性も感じておりませんので。」

「っはは、ありえないんだけどぉ~? それが曲がりなりにも奉公する相手に向けて言う言葉なのぉ~~?? 常識的に考えてありえないよねぇ、不謹慎じゃないぃ~??」

「私の職務内容にはある程度の教育も含まれておりますので、別段不謹慎な対応とは捉えておりません。 必要な教育の一環、との認識でございますので。」

 ーーあばばばっ!! 私ったら沈静化を図ったつもりだったのに、間違って新たな火種を投げ入れてしまったって云うか、火に油をぶち撒けてしまったって云うか、限りなく本末転倒な行為しかできていない感じぃ?! これって一体全体どうしたら安全且つ速やかに丸く収められるのぉ~~っ??!ーー

徐々にヒートアップしていき、互いの醸し出す熱気が相殺しあった結果、冷戦へと雪崩込んでしまい、なんの解決も見出だせないまま冒頭へと時が流れた。


 2人の犬猿の仲は折り紙付きだったようで、私以外の家族は誰も真剣に状況の悪化を危惧していなかった。
そんなことよりもエリファスお兄様が創作なさった魔導具の方に興味関心が向いていて、お父様が見せて欲しいと仰ったので素直にお渡ししたソレにアルヴェインお兄様共々もっぱら夢中で隅から隅まで眺めて検分している最中だった。

「ライラ、これはどういった意図で欲しいと思った物なんだい? 主な用途は何だったのかなぁ~??」

「えぇっと、そんなに深い意味は考えていなくてですね? ただ単純に声を録音…記録したいと思いまして、決して創作していただくという意図はなくって、世の中に一般的に存在しているのなら…と、そしてそれが我が家に有るのならと思って、メリッサに存在するかどうかも兼ねて聞いたのですが。 私の言葉が足りずにこのような食い違いが起こり、エリファスお兄様とメリッサの居座古座に至ってしまい私の不徳の致すところでございますぅ~…。」

頻りに視線を泳がせながら、何とか私の本当に意図するところを説明する。

 ーー録音とかって一般的ではないのかしら、この世界では? 遠方との通信手段は有るみたいだけれど、機械的なものは屋敷の中で今まで見た中には見当たらなかったし、全部魔法頼みで解決可能だからこういった魔導具を欲しがる要因がないのかしら??ーー

「ん~~? あぁ、2人の居座古座は日常茶飯事だからねぇ、ライラが気に病む必要は欠片もないさぁ~! 本人たちも言っていただろう? それにしても驚いたなぁ~、エリファスにこんな隠れた特技、もとい才能があっただなんてぇ、今日この時まで知りえなかった新事実だよねぇ~~?!」

「メリッサは知っていたのですね、エリファスが魔導具を創作できるほどこの分野に造詣が深いことを。 エリファスが興味の対象をころころ変える上に、どこまで掘り下げきって理解したのかを掴ませないきらいがあるせいで僕たちには理解できていなかった部分を正確に把握してもいた。 さすが乳母なだけのことは有る、といったところでしょうか?」

 ーーアルヴェインお兄様っ?! 自殺行為、駄目、絶対!! そんな2人の関係性を褒め称えるような言葉、今の冷戦状態の2人の耳に欠片でも紛れ込んだならとんでもない紛争が即時勃発・開戦してしまうのでは?!!ーー

縮み上がりながら2人の方、私の正面から右側にかけてそろ~~りそろりと視線を流して見て、即後悔。

 ーーバッチバチ、もうバッチバチなのでありますぅ~~っ!!? 誰かこの状態をたちどころに解消できる魔法の言葉を唱えてくださいませぇ~~~っ!!!ーー

事ここに至っても、双方にはこの冷戦を休戦調停に持ち込む心持ちは一切無いとしか見受けられない。
何人にも介入の余地を与えず、言葉を発さない間も視認できない不可視のバリアーを張り巡らせて外野からの介入を阻止・排除してしまっている。

 ーーいつまでこの状態が続くのかしら?! エンドレス!? ネバーエンディングなシチュエーションよお願いだから即刻終わりを告げちょうだいぃ~~~っ!!!ーー

右半身に容赦なく吹き付ける冷気に、体もとい精神が持ちそうにない。
ガタガタと震え出しながら天に助けを乞う祈りを捧げていると斜向かいから2人に対して静止の声が漸くかかった。

「こらこらこらぁ~~? 君たちもいい加減に止め給えよぉ~、ライラが君たちの冷気に当てられて縮こまって居るじゃないかぁ~~! 気心が知れているのは結構だけどねぇ、毎度毎度ぉ、長引きすぎなんだよぉ~~? 物事の限度というものを考えて、事を収める引き際を見極めてもらわないと困るんだがねぇ~~??」

その言葉でバリアーを解除したのはメリッサが先だった。

「!! 申し訳ございません、旦那様。 ついエリファス坊ちゃまの絡み口調につられて日頃被って参りました鬱憤が再燃してしまい、このような見るに堪えない諍いをするに至ってしまいました事、汗顔の至りでございます。」

殊勝に自らの失態である旨を認めて、自らの雇い主である公爵家当主に頭を垂れる。

「だからぁ、ボクはそんなに日頃迷惑なんてかけてないはずなんだけどぉ~? 鬱憤が溜まるほどに、なんてさぁ~~??」

遅れてバリアーを解いたエリファスお兄様が余計な一文章を差し挟み、メリッサが剣呑な雰囲気を再発してしまった。

「………。」

無言でエリファスお兄様に物言いたげな視線を注ぐ乳母に、どこ吹く風な自由すぎる公爵家の次男坊。

「はいはいっ! やめぇ~~~~~っ!! エリファスぅ、蒸し返すんじゃないよぉ~? 君たち2人の夫婦喧嘩もどきはもう十分、見飽きるほど見きったからねぇ~~?!」

「えぇ~、父さん何言ってるさぁ~? それ本気で言ってるのぉ~~??」

「そう見えてしまうってことだよぉ~? 毎度毎度ぉ、同じよーな内容でぇ、同じよーーな展開でぇ~、同じよーーーな問答を延々繰り返しているのだからねぇ~~? 君たちが無自覚なのは百も承知だけれどぉ、見てる方からするとそう感じられてしまうのさぁ~~!!」

「納得いかない、すっっごく不本意なんだけどぉ~?」

「……甚だ不本意な謂れよう、とは私が言いたき言葉でございます。」

「はいはい、そこまでっ! エリファスもメリッサも、もう口を閉じておくれよぉ~?! こちらが問いかけるまでお互い口を開かないように、良いねぇ~~??」

2人からの不平不満の声をすげなく却下して、お父様が2人の発言権に制限をかけてこれ以上の口論の種を取っ払った。
一先ず今回の冷戦はこれにて幕と相成った。


 そこからはエリファスお兄様が創作された魔導具について話の流れがシフトして進行していった。
声や音を録音・記録できる魔導具は存在しているらしいが、現存する実物はとても巨大な代物で長く軽量化の研究は行われているそうだが状況は全くの停滞で、進行具合は芳しくないらしい。

「私は単純に魔法効果を付与する刻印魔法は使えるがぁ、こういった機構を組み込んだ類の物に刻印魔法を施すのは勝手が全く違っておいそれとできないからねぇ~! なんとも判断しかねるがぁ、世に出して価値を付けるとなるとぉ~~…。 想像できないねぇ、私の価値観ではコレに見合う値がつけられないよぉ~~。」

 ーーそれって、限りなく金額が莫大すぎて、って事ですかねぇ…? エリファスお兄様ったら、先人たちの長年の憂いをいとも簡単に解消してしまえる世紀の大発明(?)な偉業を達成してしまったってこと…?? この世界のイケメンはただイケメンなだけではいられない類の人種らしい。ーー

才貌両全とは正にこの事。
ハイスペックは顔面だけに非ず、才能までも非凡だったのだからもう言う事無し。

 ーーこの世界でもイケメンしか勝たんっ!!ーー

「父さん大袈裟過ぎじゃない~? だってボクがやったのって、ホント極々初歩的な刻印魔法だよぉ~~?? 家の図書室にある本に載ってるくらいだからさぁ~、王城に詰める頭の凝り固まった魔導具師が見落としてただけなんじゃないかなぁ~~?? っていうのはボクの勝手な憶測だけどさぁ、あながち間違いでもなさそうだよねぇ~、過去を顧みなさすぎるもの、ある意味問題だよねぇ~~♪」

才能を隠し持っていた次男坊は相変わらずマイペースにケタケタと笑いながら持論を展開してお父様に嘯く。
しかも我が家の図書室にある本に記載されていた初歩的な刻印魔法を駆使しただけ、ときたもんだ。

 ーーそれが本当だとしたら、王国屈指の魔導具師が詰める王城の魔導具師団はとんでもない抜け作集団ってことになってしまわないでしょうか…?! 全く違う問題が浮上してしまうのでわ??!ーー

公爵家うちに有るなら王城にも有るだろうし、なんなら王国立魔導図書宮には必ず所蔵されているはずだ。

「家の図書室にって、この本邸にある図書室にかい~? それが本当だとしたらぁ、ローデリヒに一言物申す案件になってくるよねぇ~~?? おやおやぁ~、この時期にこぉ~~んなネタが仕入れられるなんてねぇ~! エリファスぅ、狙ってやったわけじゃないよねぇ、まさかそぉ~んなはず無いよねぇ~~??」

ピーンッ!

頭の近くで電球が点灯したかのように良い考えが閃いたお顔のお父様がニヤつきながらも眉を片方だけ器用に中央に寄せて、訝しみながらエリファスお兄様に問いかける。

「さぁ~~て、ね? 父さんが何のことを指して言ってるのかわかんな~い、って事にしておいてぇ、ボクはただ単純にライラのお願いをそのまま形にしただけぇ~、って事にしておくよぉ~~♪ この場ではねぇ~~♪♪」

こちらは人を食ったような笑みでお父様を煙に巻き、『妹の為』という姿勢を貫く心積もりのようだ。

 ーーそれって私の悪行の項目に追記されうる事柄なのかしら? そうであるなら待ってほしい、言い訳に使うのは断固阻止せねばならなくなる、私のバッドエンド阻止の為に!! 平穏無事に天寿を全うする為にも、悪名を高めるのに貢献しそうな行為は可能性から根絶やしにさせて欲しい!!!ーー

心のなかでハラハラしながら懇願していると、エリファスお兄様が今思い出したように私の手元にある呼び鈴クロッシュを指して追加情報を寄越してきた。

「あぁ、そういえば忘れてたぁ。 因みにライラが持ってるソレ・・もボクが作ったからねぇ~。 っていっても、そっちは小型に改良したってだけだけどぉ~♪ 誰かさんが文句言うから仕方なく、ねぇ~~。」

「文句など申し上げておりません。 なぜ持ち歩かないのか、と聞かれたのでその理由を素直に率直に包み隠さず申し上げた迄でございます!」

エリファスお兄様が不意打ちで投球した言霊ことばを見事な反射神経で打ち返したメリッサ。
どうやってもこの2人は喧嘩腰にしか会話ができないようだ。

 ーーやゃぁっ?! サイボーグ侍女が一瞬でヒートアップしたくさい!? ちょっと予熱が残り過ぎてて再燃焼しやすくなっているのではなかろうかぁ??!ーー

「んっんーーーっ?! もしも~~しぃ? 君たちぃ、私が言ったことをちゃんと覚えているのかなぁ~~?? まぁ~ったくぅ、油断も隙もないねぇ~、君たちってば息ぴ~~ったりじゃないかぁ!! こういう風に言われたくなかったら口を開かないことぉ、いいねぇ~~??」

口論が始まる前に咳払いにて手始めにストップをかけるお父様、さすがにこの後の展開が読めていらっしゃる。
あとに続く言葉は2人が嫌がるとわかっていて仲の良さを揶揄って制止の言葉とする、その効果は覿面だった。
心底不本意・不愉快という心情を隠そうともせずぶすくれるエリファスお兄様と薄く眉を寄せるメリッサ。
双方の引き結ばれた口元は開く気配がない。

「しっかしぃ、改良までしてしまえるのかい~? エリファスは一体どれくらいまでこういった事について造詣を深めているのかなぁ~~??」

「ん~? まぁ、時間だけは腐る程あるからそれなりに、ねぇ~? 学園に入るまでは自由気ままにやらせてもらうつもりぃ~~♪ だぁってぇ、ボクは次男坊だしぃ~、兄さんみたいな優秀な後継者がいればボクは自由にしてても問題ないでしょぉ~~??」

「なんだ、お前は後継者が僕のままで良いのか? 刻印魔法だけでもないだろう、普通以上に魔法が得意なのは知っている。 僕に遠慮せず、得意分野で才能を存分に発揮して相応しい場で活躍すればいいだろうに。 お前なら父さんの後任だって夢じゃないだろう。」

「っはは、遠慮しとくぅ♡ ボクって注目を集めたりぃ、脚光浴びるのなんかは苦手分野だからさぁ、できればずぅ~~っと裏方希望、な・の♪ それに他人との意思疎通をはかる行為自体、面倒この上ないからぁ、当主とか副師団長とかっていうのは御免被りたいんだよねぇ~! 兄さんに押し付けるわけじゃないけどぉ、ボクは1抜けってことでぇ~~♪♪」

「お前にそういった事を期待するのは間違っていたな、よく分かった。 確かに集団行動に率先して参加したり牽引するお前は、欠片も想像できないな、そして何より気持ち悪い。」

「酷っ。 兄さんってばぁ、自分で提案しておいてそんな言い方するなんて酷くない~? ホント天邪鬼だよねぇ~、ボクのこと好きなくせにぃ~~! 兄さんってばぁ~、て・れ・や・さぁ~~ん♪」

「やめろ!!」

 ーー途中から自然な流れで仲良し兄弟の戯れ付きに主旨が変わってしまったわ、主に私の中で!ーー

お兄様ーずの遣り取りにも、けっこうお馴染みのパターンが読めてくる。
だいたい最後はエリファスお兄様が茶化したそれをアルヴェインお兄様が止めるパターンだ、見ていてとても愉しい◎。

アルヴェインお兄様もエリファスお兄様も、後継者の地位にさほど執着心は伺えない。
後継者の座を争ってギスギスする気配は微塵もないが、今後の可能性はゼロではない。
ゲームではそういった居座古座が伺える描写がちらほら見受けられたからだ。

今のところそんな要因は欠片も見当たらないけど、今後どう転ぶかは未知の領域だ。
ゲームでは詳しい描写が欠落しているので、あの子豚子息が起こした騒動のように終わった後で『あれかっ?!』と気付くパターンだと、大変危うい。
終わった後だと軌道修正ができない可能性・大だ。

こんなに仲の良い兄弟がギスギスしてしまう未来への要因なんて、それこそフラグが樹立する隙もスペースさえも与えたくない。

 ーーそんな居座古座、発生源から根絶してみせるわ! 私の癒やしでもある仲良し兄弟の戯れ付きを今後も安心して見守るために、惜しむ労力などありはしないっ!! 自室に戻ったら、可能な限り対策を練っってやるわ!!!ーー

密かに闘志を燃え滾らせているとお父様が兄弟の戯れ付きには触れず、魔導具に話を戻して独り言ちていた。

「しかしぃ、これはちょっとマズイかもねぇ~。 私がローデリヒに言ったとしてぇ、真偽の程が明らかになるまでにコレが誰か第三者の手に渡ったり、目に触れたりしたらぁ~~…。 まぁでも、そんな可能性は無いかぁ~! 万に一つも侵入者なんて入り込む余地はないしねぇ~~!!」

今はテーブルの上に置いたエリファスお兄様作の魔導具を眺めながら不穏なことをぶつくさ呟いた挙げ句、結局独りで納得してしまった。
確かこの屋敷にはお父様の結界魔法が随時展開されているとのことだった、なので外部からの侵入者が入り込む余地は無い、通常であれば可能性からして有りはしないのだ。

その言葉を拾って、エリファスお兄様が少しの思案の後、お父様の前、テーブルに置かれていた本日創作した出来立てほやほや~の魔導具を手にしてからテーブルを回り込んで私の側に歩み寄って来た。

「ライラ、ちょっと手をかりてもい~い? どっちの手でも大丈夫なんだけどぉ、手のひらを上に向けて差し出してほしいんだぁ~♪ そうそうっ、それで大丈夫だよぉ~~!」

差し出した右掌の上にポンッと魔導具が置かれた。

「? 今から何をなさるのですか?」

「まぁ見ててぇ~、す~ぐに終わるからさぁ~~♪ ほ・ら・ねぇ~~、終わったよぉ、手をかしてくれてありがとう♡ これでソレはライラとライラが許可した人以外に使うことができなくなったから、安心して持ってていいよぉ~~♪ 許可がない人にとっては、どんなに頑張っても唯の装飾品でしかないからさぁ~~。」

キィン……。

金属が鋭い刃で削られるような軽い音が響いた。

「え?」

「なんて言ったっけぇ~、使用者を限定するやつぅ? あれを今追加して刻みつけたからさぁ~、安心して良いよぉ~~♪」

「へぇっ?!」

 ーーたった3秒で?! そんなお手軽お気軽に付加できてしまう簡易仕様な機能(?)なのぉっ??!ーー

朗らかないい笑顔でふわっとした説明をするエリファスお兄様と掌の上にある魔導具を交互に見てから、お父様とアルヴェインお兄様のお顔も見てみる。
お2人のその表情から察せられる答え、確実に言えるのはたった1つのみ。

 ーーあぁ、これもまた、世間一般では軽~~くできない部類のことなんだわぁ。 エリファスお兄様、ホント何者なの? スペックがバグってる我が家でも随一のバグり具合な人物と言える。 もう、怖い。 詳しく掘り下げで聞くのが、怖いわ!!ーー

ビックリ箱よりもおっかないパンドラの箱のような我が公爵家の準危険人物は、本日この時をもって危険人物へと昇格を果たした。
唯一の救いは、そんな危険人物は現時点での末っ子である私に激弱の激あま、という1点だけだった。
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