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●本編●

59.妖精の庭、到着!

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 お父様に手を引かれて歩き続けること……何十分かは余裕で経過しているはず!?
断じてわたくしの歩幅が狭いとか足が短いとかが問題なのではなく、屋敷と同様に目的地までの道程が規格外なのだとしか思えない。
幼児の足でも何十分も歩けば1kmは余裕で歩けてるはずなのに……歩けど歩けど、見えてくるのは均された歩きやすい地面、綺麗に刈り込まれた生け垣、程よく日差しを遮ってくれる木立、以上!!

 ーー目的地は何時になったら到着できる場所にあるのでしょうか、お父様…?!ーー

私の心の叫びが届いたのか、お父様がこちらを威圧的にならないよう見下ろしながら息も切らさず常と変わらない間延びした口調で残りの道程のガイダンスを下さった。

「ライラ、もうしばらくしたら左手側に薔薇園が見えてくるんだけどねぇ、それが見えたら目的の場所はもうすぐそこだから、もうちょっとだけ頑張れるかなぁ~?」

「!! 薔薇園、ですかっ?! わかりました、お父様、私、もうしばらく、頑張り、ますっ!!」

息が上がりきって一息に言葉を紡げず、ぶつぶつっと言葉を細切れにしないと喋れない。
私の途切れ途切れの返事にクスリと笑い返して、進行方向に顔を戻したお父様は変わらない安定した歩調で先導してくださる。

 ーー流石細マッチョ、腹筋の鍛えられ方が違ったわ! 大人と子供では体力の底からして違うけれど、それでもこれだけ歩いてるのに汗1つかいてない。 そんなお父様が汗だくになって避けるのに必死だった老師様とのストリートファイトは、やっぱり異常事態だったのね!!ーー

私の誕生日パーティーで繰り広げられていたお父様と直属の上司であり魔導のお師匠様でもあるゼクウ老師様との目にも止まらず息もつかせぬ謎の攻防戦。
どちらも怪我すること無く五体満足で無事に終了したかと思えば、何かにつけて事あるごとに喧嘩をふっかけるかのような物言いで老師様につっかかるお父様の謎行動に肝が冷えまくって凍えつきそうになったのは、記憶に新しい印象深すぎる思い出の1つだ。

 ーー今思い出しても震えてしまう。 何で格上の相手に突っかかるっていう発想が生まれてしまうのかしら? 凡人な私とは思考回路の作りらして隔絶してかけ離れてしまっているとでも?? でもお父様は嫌っている相手に進んでちょっかいかけるほど歪みきって捻くれた性格ではないし、戯れついてただけの感覚なのかしら、何にしても今後は絶対に私が居ないところで繰り広げていただきたいわ!!ーー

不用意に記憶の蓋を開いたらとんでもなく気疲れして精神力がゴリゴリ削られる記憶を引き出してしまった、ただでさえピクニックに至る為の突発的なハイキングで息せき切らすほど疲れているのに、それに輪をかけて疲れがより一層いや増してしまった。

疲れた精神だけでも癒やしたい、強く沸き起こった願望に従い癒やしを求めて再び周囲に目を向ける。
金皇きんこうが真上から降り注いでくる冬空の目に痛いほど眩しい光を優しく遮って、程よい光量に落としてくれる生い茂る木々の緑が美しい。
よくよく観察すると、今見える範囲すべてが人の手によって造園された広すぎる裏庭のごくごく一部分なのだと言われなくても気づけた。

 ーー何故かと云えばそれはズバリ……っ勘!!ーー

というのは勿論冗談で、九割九分九厘は勘が割合を占めているけれどもちゃんとそう思った理由もある、綺麗に均された小石1つ落ちていない今歩いている地面は人が通るのに十分な幅で綺麗に境界づけのように緑の芝が植えられている。
そしてその芝が敷かれた少し先には枝葉の飛び出しが見当たらない美しく刈り込まれた生け垣が道沿いの両サイドに植えられている。
生垣の向こうに背の高い木立が等間隔に配置されていて、上空から見たら何かの形になっていたり、はたまた迷路のようになっているのでは?!と期待が膨らんできてしまう。

生垣の内側の未知なる実態に胸をときめかせつつ、せっせと足を前後に動かしてひた歩く。
進行方向に顔を向けて、私とは逆サイドの左前方を注視して歩くが……薔薇園らしき物陰は未だに見えてこない、そればかりか生け垣の終わりさえも見えてこないとはこれ如何に。
お父様が仰った『もうしばらく』の距離は具体的な数値だと残り何kmの距離を指すのかつっこんで聞いておけばよかっただろうか。

 ーー自宅の庭でも遭難できてしまいそうな規模って、何? しかもこの規模が王城とか宮殿でなく個人宅って、ちょっと良くわかんないわね…。 ファンタジー感溢れすぎちゃって、気を抜いた瞬間にHAHAHAHA!!ってアメリカンな感じの笑いが止まらなくなりそうなのだもの。ーー

元庶民には理解できないこの過剰とも思える途方もない金額が注ぎ込まれた広すぎるお城もどきな超豪邸が実家だなんて、何の冗談だろうと目覚める度に思ってしまう。
今の自分の部屋ですら『え、何処ここ、広っ?!』と起きる度に一回はビクついてしまうというのに、敷地内には用途別に建てられた別館が6つもあると聞いた時にはもう辛坊堪らなくなって『HAHAHAHA!!』とアメリカン・ジョークを聞いたアメリカンよろしく呵ってしまったわ。

別館の話はその6つ有る内の1つ、ここから一番近い位置に建てられた別館の1等客室、オーヴェテルネル公爵家一家が宿泊する部屋に向かっている最中に聞き出していた。
あの時はまだ転生した実感が鈍くて話半分何かの冗談かと思ってお腹を抱えて笑えたが、今は全く笑い話と捉えられない。
3度目の正直、前世の記憶を思い出してから3回目に起床した今朝、目覚めても変わらなかったこれが現実、私がこれから生活していく現実リアルな場所なのだと思い知らされたからだ。

 ーーこれが夢じゃないなんて、それこそ夢みたいな話が本当に現実なのだもの。 それを信じられないことに信じるしかないのだから、泣笑けてきてしまう。ーー

もう自分でも何を考えているのか訳がわからなくなってきた。
それもこれも、休み無く歩き続けているせいで息が限界まで上がりすぎて、酸欠になって脳に酸素が行き渡っていないせいだ。

 ーー駄目だ、自覚した途端目が回ってきた…? 息をちゃんと吸ってるのに胸が苦しい、息継ぎがだんだん上手くできなくなってきて、頭がぼわぼわする……??ーー

はひはひと必死に呼吸らしき動作を行っているがそれも限界が近づいてきた、これ以上歩き続けたらバタンキューしてしまう、ギブアップ宣言をするべくお父様と繋いでいる左手を残りの力を振り絞って引っ張ろうかと考えた時にお父様が一言「見えてきたよぉ~♪」と脳天気すぎるほど朗らかに宣った言葉を聞いてすでにケタケタと笑い転げていた膝からガクリと一気に力が抜けきってしまった。


 薔薇園に辿り着く手前で限界を迎えたのはタイミングが良いのか悪いのか、それを考える余裕すらないほど消耗しきってしまった。
薔薇の匂いが微かに届くお父様曰く簡素な掘っ立て小屋・・・・・・に設えられた長椅子に仰向けに寝そべって屋敷の一室に比べたら低いその天井を見上げてへばっているのが私のHOTな現況だ。

膝から力が抜けきって身体の支えを失った私は地面に倒れ伏すことは免れた、何故かと云えば今回もお父様と繋いだ手が命綱の役割を見事に果たしていたからだった。

倒れそうになった時とは違う負荷のかかり方で腕を引かれたお父様は何事だろうと不思議に思いつつ、また転びそうになったのだろうか、とこの時はまだ深刻に考えていなかったのだろう。
見下ろした腕の先、辛うじて握った手を離さずにいられた真赤にのぼせ上がった顔の私を見た途端に血相を変えてすぐさま私を姫抱きしてここまで一目散に直走って下さった。

額に置かれた搾り足りないハンカチから溢れ滴った雫が幾筋もの軌跡を残して肌の上を伝い落ちていく。
時折そこに薔薇の香りを乗せた微風が吹き付けて火照った肌を心地よく冷ましてくれる。

 ーー逆上せるのなんていつぶりだろう? 中学生以来だろうか…??ーー

夏に1回、寝不足と体調不良のダブルパンチ状態で迎えた炎天下でのリレー練習。
秋の運動会に向けて体育の授業でその練習が行われるのは至極当然で仕方がない話なのだけれど、あの日の私には繰り返し走らされる苦行に耐えられなかった。
水分補給もままならない中での練習は会心の一撃、とどめを刺すに十分な威力だった。

 ーーあれは熱中症だから逆上せるのとは違うのかしら? 何にしても、どちらもしんどいのには変わりないわね。ーー

幼女の身体はちんちくりんなくせして発熱量が高く、その上生成された熱は冷めにくいらしい。
こんなに熱ハケの悪い仕様だなんて、ちょっとどうにかしていただきたいけれど、仕様変更のおとずれは身体が自然と成長する事以外に望めそうもない
今日の経験はいい勉強になったと思って今後に活かすしかない。

「大丈夫ぅ~、ちょっとは気分良くなったぁ、ライラ? ホント、とんだ災難だったねぇ~??」

殊勝に反省のような、振り返りのような言葉を胸中で呟いていると何故ここにいるのか疑問な人物の具合の変化を問う声が頭の上の方から落とされた。
声に少しおくれて何の前触れもなくぬっと視界の端から生えた生首状態の次兄に上から覗き込まれる、そう見えてしまうのは相手の顔との距離が予想外に近すぎるせいだ。

寝そべっている顔を上から覗き込まれるのは、ちょっと…否、大分抵抗感があるが。
前世で未経験の事柄には免疫が備わっていない為か酷く抵抗感が出てしまう、ムズムズしてしまって落ち着かない心地になる。

「大分楽になりました、ご心配下さってありがとうございます、エリファスお兄様。 お父様はどちらでしょう、近くにいらっしゃいますか?」

「ん~、なら良かったぁ♡ 父さんはぁ~、どこだろ? わかんないけどぉ、来たときと同じくらい焦って飛び出してったけどねぇ~、多分すぐ戻ってくるんじゃない~?? それにしてもさっきの父さん、おんもしろかったぁ~~! あんな焦った父さんって、母さんのこと以外で中々お目にかかれないからさぁ、ぶっちゃけ面白過ぎたよねぇ~♪」

しばらく至近距離から顔面を穴があくかと思うほどまじまじじぃ~~っくり、と観察した後、私の言葉通り異常は見当たらないと納得したようでエリファスお兄様のお顔がスーッと上の方に離れていって、折っていた腰を真っ直ぐな姿勢に戻されたのだとわかった。

そしてお兄様の服装に違和感しか感じられない顕著な異常を発見して目が点になる。
どうにも理解し難い、何でそのようなモノがお兄様の服の上に堂々と装着されているのか、私の十把一絡げな推理力と乏しい閃きとでは難解すぎて、その理由の究明が困難な光景に頭の周囲で無数の『?』が小気味よく乱舞してしまう。

「…エリファスお兄様、その……、お召し物に、何か違和感がございませんか? その防護力の高そうなエプロンはどうなさったのですか??」

安定のど真ん中目掛けたストレートさで愚直にも思ったままの飾らない言葉で疑問をぶつける。
それを見事にキャッチしてみせた次兄の言うことにゃーー

「ん~、ボクの服装にぃ? 違和感は感じないけどぉ~、このエプロンが気になるのぉ~~?? これは単純に汚れないためにつけてるんだよぉ~、って、そっかぁ、ライラはまだ知らないんだっけぇ~~?? ここの薔薇園はボクが管理してるんだよねぇ~、もちろん剪定とかもボクがやってるんだぁ~~♪ 全部1人でっては言えなけど、大体のことはやってるんだよぉ~♪♫ どぉ~、驚いたぁ~~??」

理解の範疇を軽い調子で凌駕され『宇宙語か?』と理解を拒んだ脳が命じて鼓膜が上手く言葉を響かせてくれない。
自分の意志に関係なく聞き流してしまいそうになる言葉の群れを必死で掴まえて無理矢理にでも脳みそにその言葉の意味を理解させる。
それでもやっぱり、『?』の乱舞は止まない。

「…?! 驚きました…、凄く、予想外過ぎて……、冗談ではなく本物のエリファスお兄様が本当に自主的に思い立って行動された結果造園されたのがこの薔薇園なのですか?!」

言葉がうまく紡げなかったのも最初だけで、疑問が喉元を通り過ぎると息継ぎとついでに瞬きも忘れて、溢れ出て余りある疑問を一息に言い切ってしまった、酸欠で頭が朦朧としてきて密かにヤヴァイ。

「あっはっは、すんごい早口(笑) どれだけ信じ難いって思ってるか丸わかりだねぇ~♪ 息継ぎしなくって大丈夫だったぁ~? まだ無理しちゃ駄目だよぉ~、ライラ?? っていうかぁ、本物以外のボクに見えるぅ~? それにボクが誰かに指図されて嫌々でこんな薔薇園モノ管理すると思う~~?? 無理でしょ~、ボク基本的に指図されるのって嫌いだしぃ、身体が受付なんだよねぇ~、はっきり言って生理的に無・理♡」

 ーーわかりみが深いぃ~~っ♡ うんうん、そんな感じ♡♡ エリファスお兄様って、そう云うトコ、あるよねぇ~~~?!ーー

全くの同意しかない最も過ぎる言葉に神妙な面持ちで頷く以外、この場で取るに相応しいリアクションが私の乏しい引き出しからは出てこなかった。

それにしても、昨日に引き続いて次兄の思わぬ特技・技能が明らかになり過ぎている、収穫量が半端ない。
我が公爵家の問題児な次兄の問題じゃない追加情報のオンパレードに更新が追いつかず、頭の中が大変に大混乱をきたしているのが正直な現状だ。

 ーーエリファスお兄様ったら、只のインドア派じゃなかったねっ?! 体育会系ではないと思っていたけれど草植そうしょく系男子だったなんて、想定の範疇外、ホントのホントに予想外だわっ!!ーー

長椅子に横たわったままで頭を横に緩く傾けて窓の外に視線を向けようとする。
薔薇園がどのような咲き具合か確認したくなったのだが、窓枠よりも低い位置に座面があるこの長椅子では言うまでもなく高さが足りなかった。

残念に思っていると掘っ立て小屋の扉が勢いよく開かれて、姿が見えず所在不明だったお父様が私のもとまで勢いそのままに駆け込んできた。
その手には先程までは影も形もなかった大きめのバスケットパニエを持って。

「ライラっ、すまなかったぁ~、大丈夫だったかい~~?! 気分は少しでも良くなったかな、吐き気はないかい、辛かったり、痛いところは、ないかねぇ~??」

矢継ぎ早に質問攻めにされるけれど、その内容よりも気にかかる事柄が眼前にありお父様の紡いだ言葉は敢え無く右から左へスルーしてしまった。
ここまで歩いている間1度も乱れなかったお父様の呼吸が、今正に目の前で乱れに乱れている。

「失念していたんだよぉ、言い訳にしかならないが、ライラがまだたったの3歳だってことをねぇ~?! 文句も弱音も言われないものだから、勝手に大丈夫と勘違いをしてしまったんだぁ~!! すまなかったねぇ、至らない父親で申し開きようもない、本当に不幸中の幸いだったぁ~、大事に至らなくて心底安心したよぉ~~!!!」

なおも続くお父様の言葉がぼんやりと耳に届く。
私を心から心配してくれるお父様の言葉、それは勿論嬉しいのだけれど、それよりももっと、私の心をポカポカと温めてくれる答えがもらえる予感がする。
それを確かめたくて、辛坊堪らなくなって、お父様の質問には答えることも忘れて心に思った言葉を紡ぎ出すために口を開く。

「お父様、今までどちらに行かれていたのですか?」

「ん? あぁっ、そうだったぁ、これを、…ピクニックをする予定の場所はここからもう少し先だって、私は説明したかなぁ~? そこに先んじて、メリッサに用意するよう頼んでおいた、軽食と飲み物の入ったバスケットパニエを取りに行って、帰ってきたところさぁ~。 冷たい飲み物が、あったほうが良いかと、ねぇ~~?! 折角だから、体を起こして大丈夫そうなら、今飲むかい~??」

バスケットパニエの蓋を開けて中身が無事なのを確認し、自分のことはそっちのけで私に飲み物を勧めて下さる。
それだけで、もうこの心はぽかぽかと温まってきていた。

「走って行って帰っていらしたのですか? 魔法は使わずに…?」

「あ~、そうだねぇ、言われてみれば、私としたことが、全く失念していたよぉ~…。 わざわざ、走る必要などなかったのにねぇ~? はは、これは…まいったなぁ~、気が動転して、自分が何者であるのかさえ、忘れてしまっていたねぇ~~??」

その返答の大半は正しく、私の予想とぴったり当てはまった。
私の為に、息せき切らせて走ってまで何かをしてくださろうとしたこと、その事実が私には奇跡みたいに稀有な出来事だったから。
確かな愛情をひしひしと感じられる、その行動で以ってわかり易く示して下さる、お父様の無意識の行動に感じる、じぃんと胸に熱く響くこの想いは、きっとーー。

「えぇ~? 父さん、あれわざとじゃなかったのぉ~?? 忘れてたってぇ、魔導師だってことを~~?? あっはっはっはっはっは! どんだけ慌ててたのさぁ~、父さんらしくないじゃん!」

「う~~むぅ…、私らしくないよねぇ~? わかっているともぉ、だがしかし、本当の本当に、忘れてしまってたんだぁ~! 自分でも驚きしかないよぉ~、頭が真っ白になる、なぁ~んて経験は、アヴィがあの馬鹿従兄に謀られてどこぞの王族と婚姻させられると報じられたのを目にして以来だよぉ~~!! あっはっはっはぁ、今思い出しても煮えるような怒りが冷めやらないよねぇ~、あの馬鹿従兄だけはいつか必ず殺す。」

「「 え? 」」

 ーーとんでもない情報がぶっ込まれていなかったかしら、今のセリフに?ーー

実現され得なかった恐ろし過ぎるお母様たちの過去話、その物語は波乱万丈なくして語れない事が詳しく聞かずとも伺い知れた。
今はその時をつぶさに思い出してしまったお父様が恐ろしすぎて突っ込んで聞けない、今聞けば後悔必至の藪蛇確定案件だ。

先程までは熱い想いに温められていた心が極寒の気候に変動した空気にあてられて一気に凍えてしまった。
ブルリッ、と1つ大きく見を震わせて、近くに居てくださるエリファスお兄様に視線を流す。
エリファスお兄様も笑いの引っ込んだビックリ顔でこちらを見遣って下さった、ビックリすると目が普段より大きく開いていて幼く見えるエリファスお兄様がしこたま可愛い♡

交わした視線をそらさないまま、どちらからともなく困り眉にした苦笑に表情を崩した。
お父様が怒気を孕んだ剣呑な雰囲気を解くまでの間ずっと、次兄と私は開かれたままの扉から見える見事な薔薇園を話しの肴に雑談に花を咲かせて気長に待つこととした。


 十分に休息できたお陰で気分も良くなり起き上がってもクラクラすることはなくなった、その頃にはお父様も過去の記憶との戦いに勝利をおさめたらしく、見事に普段通りのお父様らしさを取り戻してくださった。

そこからの道程は屋敷から薔薇園ここまでとは比べ物にならない程の近距離だというのに、お父様は私を抱き上げて行く姿勢を頑として譲らなかった。
何度私が『大丈夫です、歩けます!』と言っても首を横に振り続け、お父様の頑固さに困り果てて、助け舟を出してくれまいかと次兄にSOSと視線で語りかけるも虚しく、いい笑顔で『抱っこ一択で♡』とお父様の意見を全面的に支援されてしまい、敢え無く敗訴。

鍛え上げられた細マッチョボディにしっかりと支えられ、曲げた片腕に腰掛けるスタイルの抱っこをしてもらいながら『通算の人生で初体験ではあるまいか?!』と1人で勝手にドキドキと弾む胸を小さな紅葉型の手でぎぅっと押さえつけて宥めるのに終止する。

 ーー駄目だわ、気を抜くと叫びだしてしまいそう! 憧れだったお父さんにしてもらう抱っこを初体験できたことが、こんなにも嬉しいなんてっ!! ニヤける口元を抑えるのも難しいくらい、無意識にニヤけようとしてしまうこの口元が恨めしい~~っ♡ーー

悪態が全く悪態の体を保てないくらい、喜びが極まってしまっている。
ふわっふわに浮かび上がってしまって、元の地面に着地できなくなってしまいそうなほどなのだ。

 ーーこの抱っこだけで、もう今日が良い日であること確定間違いし、だ!!ーー

ルンルン気分でお父様の腕に抱かれて、やっとのことで辿り着いた妖精の庭ジャルダン・フェーリックはその名に相応しい壮麗でありつつも可憐な色とりどりの花々が咲き乱れる常春の庭園だった。
今にも花々の影や木立の間から妖精が舞い出てきそうなほど幻想的な雰囲気がそこかしこに自然と漂うファンタジックでマニフィックな風景だ。
現実離れしたそのあまりの美しさに、時が経つのも忘れてしばし見入ってしまった。
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