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●本編●
74.淑女の鑑の何某、現わる。
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公爵家の屋敷の2階、そこは主に私たち主人一家のプライベート空間、寝室などが配されている階だった。
因みに1階は来客者向け、応接室や宿泊も可能な客室、図書室、舞踏会場等が設えられている。
他の貴族家がどうかはわからないけど、知っての通り我が家では食堂も1階にあり、大人数のお客様とともに食事をすることも可能だ。
通常家族だけで食事をする際は部屋の中央に衝立を立てて、敢えて部屋を狭くしている。
だだっ広い空間での食事は寒々しい印象になってしまうし、何より食卓への距離も遠のいてしまうので幼女には願ってもない配慮だと言える。
そして地下はと言えば、そこは使用人が主となり仕事に励む場だと言えた。
基本的に使用人は地下で諸々の雑事をこなしているらしく、厨房は丁度食堂の真下にあるそうだし、他にも洗濯室や乾燥室なんかもあるらしい。
ほとんどの使用人は地下から上の階には上がらず、主人の目に触れること無く日々の職務に励み、粛々と割り当てられた各々の仕事をこなすことに執心しているらしい。
下級使用人の中でもある程度仕事ぶりを評価された者たちだけが1階に上がって客室や廊下などの清掃をする、地下から上がれるだけでその人物の仕事面での評価具合が自ずと知れる寸法だ。
ユーゴさんが居ると言っていた救護室も地下の何処かに存在するらしいし、個人の邸宅(規格外)で地下がメインの職場なんて…なんだか不思議な感じだ。
地下という言葉の響きだけで、勝手に薄暗くてジメジメした劣悪な環境を想像してしまう、職場環境としてはあまりよろしくないのでは?と疑問に思ってしまえるが、この屋敷が造られて以来ずっとそうと決まっているのだから、私がどうこう云っても仕方がないのだけど…気になるものは気になるのだからしょうが無い。
それを踏まえた上で説明を続けると、2階に足を踏み入れられるのはもっと限られた者だけ、上級使用人でも自由に闊歩するどころか、その殆どは主人一家においそれとは目通りできない、そのはずだったのだけど…。
ーー今目の前にいる御婦人は……何処の何方様なのかしら?ーー
何処の夜会に繰り出すのか、と目を疑うようなどぎつい原色の赤いドレスを身に纏い、周囲の空気を汚染するほどの特徴的な芳香を放つ30代(口元の若干のタレ具合で判断)と思しき御婦人、先程サミュエルが『マダム・サロメ』と呼ばっていた人物は頬に手を当てて、しなを作ってどこか媚びたような仕草をとっている。
ーーえーとぉ、多分この場での“マダム”って云うのは、地位のあるご婦人に付ける敬称よね? ってことはつまりぃ~、このご婦人は公爵家でもそれなりに地位のある職位にある人物ってことでぇ~~、だから2階にも立ち入れてるって事よねぇ~~~?? でもだからってその格好は如何なものなのだろうか、使用人としては有り得ない装いだと思うのだけど、うちって使用人の服装にそんな寛容だったのだろうか??? お父様なら即行で首を言い渡しそうだけど、何か首を切れない理由でもあるのだろうか????ーー
不躾にじーーーっと、それこそ不審者を見る目で見てしまった自覚は大いにある。
そんな私の視線に気づいて、この御婦人が返してきた反応はと言えば、『っは!』という小馬鹿にしたような失笑だけだった。
ーーうおっっっっっとぉ~~~~?! 喧嘩売ってるぅ? これはもう決闘状を叩きつけられたと、そう受け取って良い反応よねぇ?! せっっっかく、こっちは思わないでいて差し上げたっていうのに、もう遠慮しないんだからねっ!! このケバケババ●アめっ!!!ーー
直接口にしなかったことと、伏せ字にする理性を保ってやったことを感謝してほしいくらいだ。
私がどこの誰であるのかなんて全く理解しているはずなのに、この御婦人は挨拶するでもなく、失笑してみせた後はそっぽ(サミュエルに熱視線を定めている)を向いて私の存在になど気付いていないかのようなツンと取り澄ました素知らぬ顔をしている。
何から怒れば良いのかわからなくなるくらい、何もかもが鼻につく、性悪そーーな厭なオ●ハンそのものだ。
転生して初めて大人に対して悪感情を抱いた、その記念すべき第一号になったこの御婦人には、出来れば今後一切関わる必要のない職位であれと願うばかりだった。
私とマダム・サロメとの間に一瞬流れた険悪な空気を知ってか知らずか、私の隣、というかマダム・サロメの視線から庇うように(無意味になってしまったけど)階段の側近くから移動してくれていたサミュエルがゆったりとした動きでマダム・サロメへと歩み寄る。
それを見て、さも当然とばかりに自身の右手を差し出すマダム・サロメ。
背中しか見えないからサミュエルの浮かべる表情はわからないけれど、私だったらその手を払い除けたくてたまらない、と顔に堂々と書いてしまっていたに違いない。
「ご機嫌よう、マダム・サロメ。 しばらくぶりとはなりますが、お変わりなようですね。」
「御機嫌よぅ、サミュエル。 屋敷に戻っていたのねぇ、戻りの挨拶もないものだから、気付かなかったわぁ…。」
けれどその手を取って口づける仕草の振りをし、当たり障りない挨拶の言葉を口にしたサミュエルを見つめるマダムの満足そうな表情でわかる。
サミュエルが自らの抱く感情を、おいそれと相手に気取らせるような愚行を犯すはずがないということを。
先程一瞬見せた射殺さんばかりの鋭い視線も、私だから偶然にも見ることができて、偶々気づけたに過ぎない。
あの時サミュエルは意図して俯いていた、だからこのちんちくりん幼女の身長でなければ決して見られないものだったのだから。
ーーいまは年末の休暇中の同僚が殆どな時期に、在室しているかもわからない中、わざわざ『只今帰りましたぁ~!』なんて、挨拶回りする必要ある? 彼が最上位の職位であるのに、そんな必要ないでしょ?? それにさっきからちょいちょい引っかかっていたけど、サミュエルって呼び捨ててるけど、良いの?! そんな仲良しな雰囲気欠片もないのに、図々しすぎませんかねぇ、なんなんこのオバハン!!ーー
聞いているだけのこちらがイライラとしてしまう、それほどこの御婦人の態度は上からで、サミュエルを下に見ていると感じるものだった。
まるで自分の方が立場が上、傅かれ敬われて当然とでも言いたげな不遜な態度を取る『マダム・サロメ』なる新種の生物を今一度まじまじじぃーーっくりと見てしまう。
良く(?)言えば恰幅が良い、悪く言えば…さもありなん、な見るからに中年、それもザマスと今にも語尾に付け足されそうなオバ●ン。
私だったら被った猫なんてもうとっくの昔に逃げ去ってる、このどぎつい匂いと為人に怯え慄いて裸足で逃げ出してる頃よ。
こんな不快の塊でしかない癖のありすぎる御婦人を前にしても、流石の領地家令はまったく揺るがない、サミュエルの態度は一貫して安定していた。
声は穏やかではあるが温度がないし、表情は全くの造り物、笑顔の仮面を被りっぱなしなのだ。
お母様の寝室といい、食堂にしたってそうだったが、サミュエルの素顔、そのほんの一面を見たに過ぎなくとも、本物を知っている身としては今のサミュエルは完全武装済みで、警戒心丸出しだとしか思えない。
だからだろうか、造り物の笑顔を向けられているにもかかわらずその事実に全く気づきもしないで頬を染めて上機嫌で声高に何事かを宣っているマダム・サロメが、酷く滑稽に見えてしまった。
このマダムに対しての好感度が氷点下を観測した頃、それまで楽しげにべらべらと喋っているが中身の全くない無駄話が一呼吸の間途切れた、その瞬間を逃さずに無駄話が再開される前にと気づかせない性急さで、サミュエルがずっと聞きたかったであろう質問を口にした。
「ところでマダム、こんな時分に、そのような装いで…どちらに行かれるおつもりだったのです? 差し支えなければ是非、お教え願えませんか?」
「やだわぁ、サミュエル、貴方何か勘違いしてらっしゃらない? あたくしだって年の瀬に野暮なことは致しませんわ。 これは偶然ですのよぉ、偶々このドレスしか丁度よいものがなくって…あたくし手持ちの衣装が少なくってねぇ、娘時代のものを直し直し、着古しているのよぉ、恥ずかしいわぁ。」
ーー年の瀬じゃなかったら、どんな野暮を敢行するおつもりだったのかしら?!ーー
ツッコミたいけど、そんなセリフは今の私には突っ込めない。
だって先程視線が合ってからずぅーーーっと、存在を黙殺されておりますから。
オホホ、とマダムは気恥ずかしそうな表情をつくって笑っている、けれど対するサミュエルは相槌もせず、変わらぬ微笑みを口元に貼り付けるのみ。
ただその双眸、紺碧の瞳が持つ温度だけが冷たさを増したように見受けられた。
私だって全く笑える気がしない、疑惑しか乗せてない視線を御婦人にあてながら先程の台詞を頭の中で反芻してからその内容に異議を唱える。
ーーっていうか着古してるって、絶対嘘でしょ?! 修繕した跡なんて見当たらないし、何より生地が綺麗過ぎる、全くくたびれた感じがありませんけど!? 魔法で修繕した、と言われてしまえばそれまでだけれど、流石に言葉通りの内容をすんなりと納得はできないでしょ、黒以外に有り得ないでしょーよ??ーー
『何言ってるのこのオ●サン。』的な思考を私が強めに向ける視線から読み取ったのか、少しの間ムッとして、下手くそにコロリと表情を変えてから猫なで声で、ここへきてようやっとはじめて使用人と思しき御婦人から言葉をかけられた。
「あらまぁ…、ライリエル、お嬢様。 いらしたのねぇ、サミュエルの姿ですっぽりと覆われていらしたもので、今の今まで、まぁったく気付きませんでしたわぁ。 ご挨拶が遅くなり…失礼を。」
ーーって、ちょろっと頭下げるだけ?! 本気なのっ!? っていうか正気なのこのオ●ハン?? ないわぁ~、これはもう無理だわぁ~~、私この御婦人をもうどうしたって好きになれそうにないですからぁ~~~(怒)ーー
ぷるぷると震えてしまう、それこそこの場で感情的に罵倒しなかったことを褒めて欲しいくらいだ。
けれどそんな私の怒りをまったく気にもとめずに、むしろせせら笑いながら黙殺して、意図した通りに私を侮辱できたことに満足してそれ以上は私への興味関心をなくしたように、サミュエルへと視線を戻してマダム・サロメはしなをつくって言葉を続ける。
「奥様が倒れられたと聞いて、あたくし動転してしまいましたのよ? それでもどうしても外せない諸々の用事があって、それを今さっき片付け終えて、ようやくお伺いする時間がとれましたのよぉ。 本当に心配で心配で、午後からこっち、居ても立っても居られず気も漫ろでしたわぁ~?」
はぁ~~、と悩まし気な溜息をわざとらしく零してみせる、不快感しか煽られないから私の前では二度としていただきたくない仕草だ、金輪際見たくない。
ーーって、この人、こんな匂い爆弾抱えたテロリスト状態で体調の芳しくないお母様に会いに行くつもりなの?? 控え目に言って常軌を逸しているとしか思えないのですけど?! 貴方様は辛うじてでも頭の中にはちゃんとした脳味噌が収まっている人間に分類される何某ではあるはずよねぇっ!?ーー
毒しか吐けないほど、大いにパニックに陥ってしまう脳内で、大人として最低限身につけていて然るべき常識とは何かを考えてしまう。
纏う服装もNG、纏う芳香もNG、恐らく先触れなど出しておらず目上の相手への配慮も気遣いもない自分勝手な都合に合わせた突発的な面会でスリーアウト、即刻退場ものだ。
ーーこの新種のアンモラルモンスターを撃退してちょうだい! 再起不能なくらい完膚無き迄に、ちょっとくらい廃人寄りにしても構わないからぁ~!! サミュエルお願い、後生だからお願いよぉ~~~っ!!!ーー
心の中で内容が苛烈気味な身勝手すぎる願いを捲し立てる。
しかし現実は甘くない、そんな身勝手な願いは届くはずもなく、己の無力さのみならず、この世の無情さ、現実の世知辛さを痛感する。
「それはそれは、使用人の鑑ですねぇ! 奥様思いの家政婦でいらっしゃる、このサミュエル、甚く感服致しましたとも。 お急ぎのところ長々と引き止めてしまい申し訳ありませんでしたねぇ、どうそ行って差し上げて下さい。」
「オホホ、良いのよ、気にしないでちょうだいな。 あたくしと貴方の仲ですものぉ…♡ 堅いことはお互い、抜きにしましょう? では…また。」
サミュエルに向ける視線は軽く火傷しそうなほどの熱を孕んで、私へのそれには溢れるほどの侮蔑を込めて、寄越された。
最後の最後まで喧嘩を売る行為に余念がない、清々しいほどに嫌悪感しか抱けない人物に、笑いが込み上げてしまったほどだ。
だから浮かんだ笑みのままに、別れの挨拶を一応くれてやる。
「…御機嫌よう、マダム。」
「まぁ嫌だわぁ! あたくしのことはマダム・サロメ、とお呼びくださらないとぉ、ねぇ? オホホホ、では今度こそ、失礼。」
「「 ………。 」」
軽い会釈を残して、さっと身を翻す一瞬の間にサミュエルへとねた着く視線を寄越すのも忘れずに、静静と歩き去る『マダム・サロメ』なる珍人物を無言のまま見送る。
さっき『サロメ』を省いたのは勿論わざとだった、それを『礼儀も知らないなんて、これだから教養の足りないお子様はダメねぇ!』みたいな反応をして、呼び方を強要してくるなんて…、何もかもが理解の範疇を越えた人物過ぎて、本気の本気でもう二度と、邂逅したくない人物へ認定した。
ブラックリストへその名を堂々と刻んだ瞬間だった。
遠ざかっていく恰幅の良すぎるその背に向けて、心のなかで中指を立ててから。
ーー死んでも呼ぶかよっ!! このクッッソバ・バ・ア、このやるぅぉおぉーーーーーっ!!!ーー
そう叫んでしまった私は、何も悪くない。
自分の反応は正当な反応だったと胸を張って言える、その上実際に口にしなかった私はすんごく理性的だった。
これほど他人へ抱いた負の感情を全面的に手放しで肯定できたことがあっただろうか、いいやないかもしれない、でもだからってそんな機会今後も無くて構わないのだけど。
うんうん、と頷いて、現実に目を向ける。
先程まで歩いていたマダムの姿はもう見えない、1つ目の通路の突き当りはすぐそこにあり、そこを曲がってしまったのだろう、お母様の部屋は後2回進行方向を変える必要があり、その先もしばらく真っすぐ歩いていかないとたどり着けないけれど。
トコトコと軽い靴音を響かせて、前方に佇む領地家令の隣へと移動する。
私たちは未だに階段の近くにいる。
私たちが1階から移動してきた階段と、3階へと至る階段の間、そのちょうど中間地点で立ち往生している状態だ。
ーー3階は上級使用人の私室がある階なのよねぇ…。 あのオ●ハン、家政婦だったのね、女性使用人の頂点の役職、でもだからってあの態度は…どうしたって許容できないわよね?ーー
家政婦はどちらの家令の管理下にも置かれない役職ではある、でもだからってあんな態度が許されていいはずがない。
因みにサミュエルは今現在どんな感情の持ちようなのかしら?と顔を上げてしっかりと確認してみる。
その行為をこれほど後悔することになるとは…思わなかった。
サミュエルは浮かべる表情こそ変わらずに笑顔だったけれど、その双眸に宿す感情は決して明るい類のものではなかった。
剣呑で尖りすぎた視線、鋼特有の冷ややかさしか感じられないそれを、運悪く見てしまったこっちが首筋が寒々しくなってブルリと身震いして縮み上がってしまった。
「全く…何様気取りなのでしょうねぇ、あのご夫人は。」
ぼそりと口の中で低くつぶやかれた言葉、独り言として紡がれたそれは嫌悪感に塗れていた。
続く言葉でより多くの毒を吐く。
「身の程知らずにもこの屋敷の夫人を気取るとは…全く度し難い。 毎度毎度身に纏うあの香水も相まって、胸が悪くなる、吐き気しか催せませんねぇ、全く。」
ーーうわぁ~~おっ、サミュエルがおこだわ。 でも幼女の前だからって、気を抜き過ぎでは? こんなに分りやすく負の感情を晒してしまって、大丈夫なの??ーー
尚も剣呑過ぎる空気を纏って不機嫌オーラを周囲に放出し続ける家令の横顔をじぃーーっと見つめる。
ーーうん、不機嫌でもイケメンはイケメンね! これはこれで美味しいショットだわ、採用、永久保存必須だわ!!ーー
私が熱心に向ける、疚しい下心が満載の視線に気づいた家令はわざとだとしか思えない咳払いをして、それまで良いだけ纏っていた黒い気配をパッと空気に散らしてから私のよく知る、サミュエルらしい明るい調子で話しかけてくれた。
「うおっほん、あ~、あぁ~~…。 少し喉の調子が…、空気が悪いせいもあって急にいがらっぽくなってしまって、いけませんねぇ~。 あれですかねぇ、急に寒い場所に戻ったもので、気温の変化にやられてしまったみたいですネ。 意図せず低まった声を出してしまい、失礼致しましたぁ~ライリエルお嬢様♡」
ーーめちゃめちゃ意図してましたよね? 偶然出せる低音具合じゃ無かったですからね?! 地を這うような、って表現がしっくりくるぐらい、底の底な音程でしたからね!!ーー
場を濁したくて出た言葉なのか何なのか、真偽の程はともかくとして、そんなドスの効いた声を今まで私に向かって出さずに居てくれたことは、素直に喜ばしい事実であり最高の配慮だと思えた。
だからここは藪をつついて蛇を出すような愚行はせず、敢えてサミュエルの口にした理由に話を合わせることにした。
「…そうだったのね、屋敷の中にいると全然わからないけれど、外は真冬の気候で寒いから気をつけないといけないわね。」
「ンアッハッハ! そーですねぇ、屋敷の一歩外は正真正銘の真冬ですからねぇ~! いやはやぁ~、本当にライリエルお嬢様には驚かされておりますよぉ
~~!! 誕生日パーティーからこっち、本当に1段と大人びて聡明におなりでぇ、直に見聞きした今でも信じ難い激的で急激な変化ですからねぇ~?」
ここで初めてとなる、私の真意を探るような目つきで用心深く、そうでありながら全てを見通そうとするかの如く真剣に見つめられた。
向けられる紺碧の双眸を真っ直ぐに見つめ返して、嘘は1つもない、今の私が心に抱く思いをできる限りそのまま口にした。
その言葉を聞き終えたサミュエルは、微かに目元を和らげてから、見慣れた笑顔でサミュエルらしい肯定的な言葉を返してくれたのだった。
とんだ足止めを食らわされてしまったけれど、この後は何事もなく平穏無事に、私の部屋の前まで送り届けてもらえそうだ。
再び手を取って、私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれるサミュエルを見上げながら今更ながらに気になった事を問うてみる。
「でもサミュエルがあんな低まった声音で喋るなんて…そちらのほうが私にとっては意外だったわ。」
今思い出しても、ちょっと背筋に寒いものが駆け抜ける。
凄く出し慣れていそうな感じだったのが、凄く怖い。
「いやはやぁ~、お恥ずかしい限りでございますよぉ~~。 こー見えましても、私も若い頃はそれなりにやんちゃしておりましたからぁ~~、んネ♡」
「ふふっ、想像できないわ。 だって武闘派とは程遠い雰囲気だし、実力行使よりも頭を巡らせて相手を罠に嵌めるほうがしっくりくるもの! あ、えぇーーっと、悪い意味ではないのよ?! 頭脳派だと言いたかっただけで他意は全く、これっぽっちも内包していないのよ!?」
ーー物理よりも精神への攻撃のほうがポイって云うかぁ~、直接よりも間接的な方法が得意そうな感じぃ~~? みたいなぁ~~~?? 陰険とか陰湿とか、そういう意味ではないと言いたいだけなのだけどねぇ???ーー
「ンアッハッハッハッハ! お嬢様ぁ~、それ、丸っきり語るに落ちてるじゃござーせんか!! 全然弁解できておられませんよぉ~?」
「うぅ…、そうね、もう…口を閉じることにするわ。」
ーー出来ることなら私は貝になりたいっ!! サミュエルの指摘した通り、これ以上言葉を並べても全て無駄、ホイホイと墓穴を掘る未来しか視えない!!ーー
これ以上不用意且つ軽率に喋ってしまわないように、空いている方の手で口元を押さえる。
口と一緒に鼻も押さえてしまい、一瞬だけ充満していた特徴的な香水の匂いが遮られる。
そこにきて、大事なことを思い出して、途端に慌ててしまう。
「でも待って、あの方、お母様の部屋に行かれたのよね…? それって大丈夫じゃないわよね?! あんな芳香の塊みたいな方が押し入ってしまったら、お母様の体調に悪影響しか及ぼさないもの、そんなのダメだわっ、今からでも止めに行かないと…!!」
「ンアッハッハッハ、芳香の塊! 面白い表現ですねぇ~~、正にそのとーりでございますねぇ~~!! でもご心配な・く、だぁ~~いじょーーぶ、で・す・よ、ライリエルお嬢様♡ 今奥様のもとにはとぉーーっても優秀で鉄壁な番犬がおりますからネ♪」
「優秀で鉄壁な番犬…? でもだって、今お母様のお部屋に侍っているのはメリッサだけ……って、メリッサが番犬?!」
ーーサイボーグではあるけれどっ! 鉄面皮でちょっとやそっとじゃ打ち負けたりしないだろうけどもっ?! 番犬って、それはないのじゃないかしら?? せめて門番にしてあげて下さいな、畜生扱いでなく!!ーー
「……あぁ、ほら、お聞きになりましたぁ~? あの怒りもあらわな金切り声、間違いなく番犬侍女に門前払いされたのでしょうねぇ、淑女の鑑を自称しているというのに化けの皮が剥がれるのがはんやいですねぇ~、ツメが甘いと言いますかお粗末この上ないですねぇ~~。」
マダム・サロメが姿を消しただろう通路の奥、耳を澄まさないと聞こえない遥か遠くの方から響く音のように、サミュエルが指摘した通りのいきり立った甲高い声がほんの微かに聞き取れた。
ーーいやいや、この屋敷、ホントどんだけ広いのって話ですよ。 声がこんなに小さく聞こえるなんて…距離ありすぎでしょう?ーー
同じ階にある部屋の外、廊下から聞こえる声が耳を澄まさないと聞こえないなんて…ホント非常識な広大さだと思わずにいられない。
これじゃ何かあって助けを呼んでも、誰にも聞き届けて貰えない可能性の方が高そうだ。
「さぁさ、こうしちゃおれませんよライリエルお嬢様! お早く部屋に戻られませ、でないとまたマダム・サロメと鉢合わせてしまいますから。 マダムが使用できる階段はこちら側の物だけですので、自室に戻るなら必ずまたこの道を通りますからネ。」
「あらそうなの? 使える階段も決まっていたりするものなのね。 知らなかったわ、てっきり反対側の階段の方が近いからそちらを使うかと思っていたけど、そういう制限があるのね。」
さっきお母様の部屋から食堂に移動した時はお父様に連れられるまま、なんの疑問も抱かずにこちらとは反対側の3階に至る階段を通り過ぎて、その先にある階段で1階に降りたから、あちらからの方が近道だと知っていたのだけど、使える階段が決まっているなんて驚きだ。
「お嬢様をはじめ、ご家族様には一切制限はございませんからねぇ~、知らなくても当然でございますともぉ! これから色々と、ゆぅ~~っくり、学ばれていって下さいましネ♡」
「ありがとう、そうするわ。 またわからないことがあったら、聞いても良いかしら?」
「勿論でございますともぉ、なんなりとお答え致します、私でお答えできる事であ・れ・ば、と注釈はついてしまいますがねぇ~?」
「サミュエルが答えられないことなんて、ことこの屋敷に関して有りはしないでしょう? 答えかねることはあっても、ね? そうでしょう?」
「おやおやぁ~、これは一本取られてしましたねぇ~! ご推察感服致しました、正に仰る通りでございますよぉ~♪ 答えかねること以外であればきちんとお答えすると、ここにお約束いたしますとも♡」
「そう言ってもらえて嬉しいわ! あ…、質問…ある意味で、だけれど、1つ出来るかどうか聞いてもいいかしら?」
「ん~~、何でございましょうか?」
チラリ、と通路の奥に視線を走らせ、マダム・サロメがやってこないか気にしながらも、ちゃんと聞いてくれようとするサミュエルの肯定的な姿勢にパッと顔を明らめて喜び、喜び過ぎて準備していた言葉がとっ散らかってしまった。
「えぇとね、明日サミュエルたちが行ってしまう前に、会えるかどうかが知りたいの。 ほんの少し、ちょっとだけでも良いから、会わせて貰えないかと思って…。」
「はて、何方にお会いされたいのでしょうか? 騎士団の面々とは…一名を除いて面識は無いものと記憶しておりましたが、私の記憶違いでございましたかねぇ~?」
「えっ?! 1名には会ったことがあるって、何で知っているの?」
ーーこれも潜ませちゃってる手駒さんたちからの情報提供で知り得たものなのかしら?!ーー
「他の誰でもなく本人が嬉々として語っておりましたからねぇ? ご安心下さい、勿論その内容をお聞きになった旦那様はきちんとブチ切れていらっしゃいましたからね♪」
「えぇと、どこをどう聞いて解釈しても全然これっぽっちも安心できないわ? ヴァルバトス様がご健勝であられることを願うばかりなのだけれどね?」
「大丈夫ですよぉ、それこそ心配してやる必要てーんでございませんからぁ~♪ あの御仁がちょっと燃されそうになったくらい、日常茶飯、ごくありふれた日常の一コマですからネ! 火傷もなくピンシャンしておりましたから、思考回路以外には何も異常ございませんよ♡」
ーーそれは、大丈夫と言って良い状態なのかしら? 外傷がないのは喜ばしいけど、素直に喜べないそこはかとない疑問が残ってしまうのは私だけなのかしら??ーー
これを口にしたなら、話が本題からどんどんとかけ離れていってしまう、そう本能で察して、ぐっと口にするのを堪える。
ーーあのオ●ハンはまだ来そうにないけど…、ってか門前払いされてるのに、どんだけ粘り強いの? きっと心臓にも厚いコーティングがしてあるのね、脂肪か何かで。 今このときだけは、その粘り強さに感謝するけれど、本当に、今回限りだわ。ーー
今言うべきことは他にある、いつどのタイミングで粘ることを諦めたマダム・サロメがこちらを通るかもわからない、これ以上の脱線をしていられる時間的余裕は今は微塵も残されていないと言えた。
だからこそ今すぐにでも言いそびれていた会いたいと望む人物の名前をサクッと言って、そしてそれにちゃんとした可否どちらかの返事をサクサクっと賜りたいのだった。
「えぇと、ヴァルバトス様が色んな意味で頑強であられて良かったわ、そこはとても安心できたし、聞けてよかった情報と言えたわね! ところで話を戻すのだけど、私が会いたいのは騎士団の方ではないの、出荷される本人、ヒューシャホッグ・アンジェロン子爵令息に会いたいの、それは可能かしら?」
「………はいぃ?」
これが了承の返事でないことだけはわかった。
ちゃんと理解できたけれど、今日見てきたどの場面でも見かけなかった表情を晒す、この家令が初めて見せたその表情に目を奪われる。
3cm以上開かないかと思われた目を大きく、ゆうに5cm以上開いて呆けたような驚嘆顔をして見せているのだ。
鳩が豆鉄砲を食ったような、隙の有りすぎる表情のサミュエルはどこか幼く見えて、そんな無防備な表情を晒してくれた事実にキュンッと胸がときめいて喜んでしまうその裏で、この逃せない瞬間をきっちりしっかり心のアルバムに殿堂入りさせたのは言うまでもないことだった。
因みに1階は来客者向け、応接室や宿泊も可能な客室、図書室、舞踏会場等が設えられている。
他の貴族家がどうかはわからないけど、知っての通り我が家では食堂も1階にあり、大人数のお客様とともに食事をすることも可能だ。
通常家族だけで食事をする際は部屋の中央に衝立を立てて、敢えて部屋を狭くしている。
だだっ広い空間での食事は寒々しい印象になってしまうし、何より食卓への距離も遠のいてしまうので幼女には願ってもない配慮だと言える。
そして地下はと言えば、そこは使用人が主となり仕事に励む場だと言えた。
基本的に使用人は地下で諸々の雑事をこなしているらしく、厨房は丁度食堂の真下にあるそうだし、他にも洗濯室や乾燥室なんかもあるらしい。
ほとんどの使用人は地下から上の階には上がらず、主人の目に触れること無く日々の職務に励み、粛々と割り当てられた各々の仕事をこなすことに執心しているらしい。
下級使用人の中でもある程度仕事ぶりを評価された者たちだけが1階に上がって客室や廊下などの清掃をする、地下から上がれるだけでその人物の仕事面での評価具合が自ずと知れる寸法だ。
ユーゴさんが居ると言っていた救護室も地下の何処かに存在するらしいし、個人の邸宅(規格外)で地下がメインの職場なんて…なんだか不思議な感じだ。
地下という言葉の響きだけで、勝手に薄暗くてジメジメした劣悪な環境を想像してしまう、職場環境としてはあまりよろしくないのでは?と疑問に思ってしまえるが、この屋敷が造られて以来ずっとそうと決まっているのだから、私がどうこう云っても仕方がないのだけど…気になるものは気になるのだからしょうが無い。
それを踏まえた上で説明を続けると、2階に足を踏み入れられるのはもっと限られた者だけ、上級使用人でも自由に闊歩するどころか、その殆どは主人一家においそれとは目通りできない、そのはずだったのだけど…。
ーー今目の前にいる御婦人は……何処の何方様なのかしら?ーー
何処の夜会に繰り出すのか、と目を疑うようなどぎつい原色の赤いドレスを身に纏い、周囲の空気を汚染するほどの特徴的な芳香を放つ30代(口元の若干のタレ具合で判断)と思しき御婦人、先程サミュエルが『マダム・サロメ』と呼ばっていた人物は頬に手を当てて、しなを作ってどこか媚びたような仕草をとっている。
ーーえーとぉ、多分この場での“マダム”って云うのは、地位のあるご婦人に付ける敬称よね? ってことはつまりぃ~、このご婦人は公爵家でもそれなりに地位のある職位にある人物ってことでぇ~~、だから2階にも立ち入れてるって事よねぇ~~~?? でもだからってその格好は如何なものなのだろうか、使用人としては有り得ない装いだと思うのだけど、うちって使用人の服装にそんな寛容だったのだろうか??? お父様なら即行で首を言い渡しそうだけど、何か首を切れない理由でもあるのだろうか????ーー
不躾にじーーーっと、それこそ不審者を見る目で見てしまった自覚は大いにある。
そんな私の視線に気づいて、この御婦人が返してきた反応はと言えば、『っは!』という小馬鹿にしたような失笑だけだった。
ーーうおっっっっっとぉ~~~~?! 喧嘩売ってるぅ? これはもう決闘状を叩きつけられたと、そう受け取って良い反応よねぇ?! せっっっかく、こっちは思わないでいて差し上げたっていうのに、もう遠慮しないんだからねっ!! このケバケババ●アめっ!!!ーー
直接口にしなかったことと、伏せ字にする理性を保ってやったことを感謝してほしいくらいだ。
私がどこの誰であるのかなんて全く理解しているはずなのに、この御婦人は挨拶するでもなく、失笑してみせた後はそっぽ(サミュエルに熱視線を定めている)を向いて私の存在になど気付いていないかのようなツンと取り澄ました素知らぬ顔をしている。
何から怒れば良いのかわからなくなるくらい、何もかもが鼻につく、性悪そーーな厭なオ●ハンそのものだ。
転生して初めて大人に対して悪感情を抱いた、その記念すべき第一号になったこの御婦人には、出来れば今後一切関わる必要のない職位であれと願うばかりだった。
私とマダム・サロメとの間に一瞬流れた険悪な空気を知ってか知らずか、私の隣、というかマダム・サロメの視線から庇うように(無意味になってしまったけど)階段の側近くから移動してくれていたサミュエルがゆったりとした動きでマダム・サロメへと歩み寄る。
それを見て、さも当然とばかりに自身の右手を差し出すマダム・サロメ。
背中しか見えないからサミュエルの浮かべる表情はわからないけれど、私だったらその手を払い除けたくてたまらない、と顔に堂々と書いてしまっていたに違いない。
「ご機嫌よう、マダム・サロメ。 しばらくぶりとはなりますが、お変わりなようですね。」
「御機嫌よぅ、サミュエル。 屋敷に戻っていたのねぇ、戻りの挨拶もないものだから、気付かなかったわぁ…。」
けれどその手を取って口づける仕草の振りをし、当たり障りない挨拶の言葉を口にしたサミュエルを見つめるマダムの満足そうな表情でわかる。
サミュエルが自らの抱く感情を、おいそれと相手に気取らせるような愚行を犯すはずがないということを。
先程一瞬見せた射殺さんばかりの鋭い視線も、私だから偶然にも見ることができて、偶々気づけたに過ぎない。
あの時サミュエルは意図して俯いていた、だからこのちんちくりん幼女の身長でなければ決して見られないものだったのだから。
ーーいまは年末の休暇中の同僚が殆どな時期に、在室しているかもわからない中、わざわざ『只今帰りましたぁ~!』なんて、挨拶回りする必要ある? 彼が最上位の職位であるのに、そんな必要ないでしょ?? それにさっきからちょいちょい引っかかっていたけど、サミュエルって呼び捨ててるけど、良いの?! そんな仲良しな雰囲気欠片もないのに、図々しすぎませんかねぇ、なんなんこのオバハン!!ーー
聞いているだけのこちらがイライラとしてしまう、それほどこの御婦人の態度は上からで、サミュエルを下に見ていると感じるものだった。
まるで自分の方が立場が上、傅かれ敬われて当然とでも言いたげな不遜な態度を取る『マダム・サロメ』なる新種の生物を今一度まじまじじぃーーっくりと見てしまう。
良く(?)言えば恰幅が良い、悪く言えば…さもありなん、な見るからに中年、それもザマスと今にも語尾に付け足されそうなオバ●ン。
私だったら被った猫なんてもうとっくの昔に逃げ去ってる、このどぎつい匂いと為人に怯え慄いて裸足で逃げ出してる頃よ。
こんな不快の塊でしかない癖のありすぎる御婦人を前にしても、流石の領地家令はまったく揺るがない、サミュエルの態度は一貫して安定していた。
声は穏やかではあるが温度がないし、表情は全くの造り物、笑顔の仮面を被りっぱなしなのだ。
お母様の寝室といい、食堂にしたってそうだったが、サミュエルの素顔、そのほんの一面を見たに過ぎなくとも、本物を知っている身としては今のサミュエルは完全武装済みで、警戒心丸出しだとしか思えない。
だからだろうか、造り物の笑顔を向けられているにもかかわらずその事実に全く気づきもしないで頬を染めて上機嫌で声高に何事かを宣っているマダム・サロメが、酷く滑稽に見えてしまった。
このマダムに対しての好感度が氷点下を観測した頃、それまで楽しげにべらべらと喋っているが中身の全くない無駄話が一呼吸の間途切れた、その瞬間を逃さずに無駄話が再開される前にと気づかせない性急さで、サミュエルがずっと聞きたかったであろう質問を口にした。
「ところでマダム、こんな時分に、そのような装いで…どちらに行かれるおつもりだったのです? 差し支えなければ是非、お教え願えませんか?」
「やだわぁ、サミュエル、貴方何か勘違いしてらっしゃらない? あたくしだって年の瀬に野暮なことは致しませんわ。 これは偶然ですのよぉ、偶々このドレスしか丁度よいものがなくって…あたくし手持ちの衣装が少なくってねぇ、娘時代のものを直し直し、着古しているのよぉ、恥ずかしいわぁ。」
ーー年の瀬じゃなかったら、どんな野暮を敢行するおつもりだったのかしら?!ーー
ツッコミたいけど、そんなセリフは今の私には突っ込めない。
だって先程視線が合ってからずぅーーーっと、存在を黙殺されておりますから。
オホホ、とマダムは気恥ずかしそうな表情をつくって笑っている、けれど対するサミュエルは相槌もせず、変わらぬ微笑みを口元に貼り付けるのみ。
ただその双眸、紺碧の瞳が持つ温度だけが冷たさを増したように見受けられた。
私だって全く笑える気がしない、疑惑しか乗せてない視線を御婦人にあてながら先程の台詞を頭の中で反芻してからその内容に異議を唱える。
ーーっていうか着古してるって、絶対嘘でしょ?! 修繕した跡なんて見当たらないし、何より生地が綺麗過ぎる、全くくたびれた感じがありませんけど!? 魔法で修繕した、と言われてしまえばそれまでだけれど、流石に言葉通りの内容をすんなりと納得はできないでしょ、黒以外に有り得ないでしょーよ??ーー
『何言ってるのこのオ●サン。』的な思考を私が強めに向ける視線から読み取ったのか、少しの間ムッとして、下手くそにコロリと表情を変えてから猫なで声で、ここへきてようやっとはじめて使用人と思しき御婦人から言葉をかけられた。
「あらまぁ…、ライリエル、お嬢様。 いらしたのねぇ、サミュエルの姿ですっぽりと覆われていらしたもので、今の今まで、まぁったく気付きませんでしたわぁ。 ご挨拶が遅くなり…失礼を。」
ーーって、ちょろっと頭下げるだけ?! 本気なのっ!? っていうか正気なのこのオ●ハン?? ないわぁ~、これはもう無理だわぁ~~、私この御婦人をもうどうしたって好きになれそうにないですからぁ~~~(怒)ーー
ぷるぷると震えてしまう、それこそこの場で感情的に罵倒しなかったことを褒めて欲しいくらいだ。
けれどそんな私の怒りをまったく気にもとめずに、むしろせせら笑いながら黙殺して、意図した通りに私を侮辱できたことに満足してそれ以上は私への興味関心をなくしたように、サミュエルへと視線を戻してマダム・サロメはしなをつくって言葉を続ける。
「奥様が倒れられたと聞いて、あたくし動転してしまいましたのよ? それでもどうしても外せない諸々の用事があって、それを今さっき片付け終えて、ようやくお伺いする時間がとれましたのよぉ。 本当に心配で心配で、午後からこっち、居ても立っても居られず気も漫ろでしたわぁ~?」
はぁ~~、と悩まし気な溜息をわざとらしく零してみせる、不快感しか煽られないから私の前では二度としていただきたくない仕草だ、金輪際見たくない。
ーーって、この人、こんな匂い爆弾抱えたテロリスト状態で体調の芳しくないお母様に会いに行くつもりなの?? 控え目に言って常軌を逸しているとしか思えないのですけど?! 貴方様は辛うじてでも頭の中にはちゃんとした脳味噌が収まっている人間に分類される何某ではあるはずよねぇっ!?ーー
毒しか吐けないほど、大いにパニックに陥ってしまう脳内で、大人として最低限身につけていて然るべき常識とは何かを考えてしまう。
纏う服装もNG、纏う芳香もNG、恐らく先触れなど出しておらず目上の相手への配慮も気遣いもない自分勝手な都合に合わせた突発的な面会でスリーアウト、即刻退場ものだ。
ーーこの新種のアンモラルモンスターを撃退してちょうだい! 再起不能なくらい完膚無き迄に、ちょっとくらい廃人寄りにしても構わないからぁ~!! サミュエルお願い、後生だからお願いよぉ~~~っ!!!ーー
心の中で内容が苛烈気味な身勝手すぎる願いを捲し立てる。
しかし現実は甘くない、そんな身勝手な願いは届くはずもなく、己の無力さのみならず、この世の無情さ、現実の世知辛さを痛感する。
「それはそれは、使用人の鑑ですねぇ! 奥様思いの家政婦でいらっしゃる、このサミュエル、甚く感服致しましたとも。 お急ぎのところ長々と引き止めてしまい申し訳ありませんでしたねぇ、どうそ行って差し上げて下さい。」
「オホホ、良いのよ、気にしないでちょうだいな。 あたくしと貴方の仲ですものぉ…♡ 堅いことはお互い、抜きにしましょう? では…また。」
サミュエルに向ける視線は軽く火傷しそうなほどの熱を孕んで、私へのそれには溢れるほどの侮蔑を込めて、寄越された。
最後の最後まで喧嘩を売る行為に余念がない、清々しいほどに嫌悪感しか抱けない人物に、笑いが込み上げてしまったほどだ。
だから浮かんだ笑みのままに、別れの挨拶を一応くれてやる。
「…御機嫌よう、マダム。」
「まぁ嫌だわぁ! あたくしのことはマダム・サロメ、とお呼びくださらないとぉ、ねぇ? オホホホ、では今度こそ、失礼。」
「「 ………。 」」
軽い会釈を残して、さっと身を翻す一瞬の間にサミュエルへとねた着く視線を寄越すのも忘れずに、静静と歩き去る『マダム・サロメ』なる珍人物を無言のまま見送る。
さっき『サロメ』を省いたのは勿論わざとだった、それを『礼儀も知らないなんて、これだから教養の足りないお子様はダメねぇ!』みたいな反応をして、呼び方を強要してくるなんて…、何もかもが理解の範疇を越えた人物過ぎて、本気の本気でもう二度と、邂逅したくない人物へ認定した。
ブラックリストへその名を堂々と刻んだ瞬間だった。
遠ざかっていく恰幅の良すぎるその背に向けて、心のなかで中指を立ててから。
ーー死んでも呼ぶかよっ!! このクッッソバ・バ・ア、このやるぅぉおぉーーーーーっ!!!ーー
そう叫んでしまった私は、何も悪くない。
自分の反応は正当な反応だったと胸を張って言える、その上実際に口にしなかった私はすんごく理性的だった。
これほど他人へ抱いた負の感情を全面的に手放しで肯定できたことがあっただろうか、いいやないかもしれない、でもだからってそんな機会今後も無くて構わないのだけど。
うんうん、と頷いて、現実に目を向ける。
先程まで歩いていたマダムの姿はもう見えない、1つ目の通路の突き当りはすぐそこにあり、そこを曲がってしまったのだろう、お母様の部屋は後2回進行方向を変える必要があり、その先もしばらく真っすぐ歩いていかないとたどり着けないけれど。
トコトコと軽い靴音を響かせて、前方に佇む領地家令の隣へと移動する。
私たちは未だに階段の近くにいる。
私たちが1階から移動してきた階段と、3階へと至る階段の間、そのちょうど中間地点で立ち往生している状態だ。
ーー3階は上級使用人の私室がある階なのよねぇ…。 あのオ●ハン、家政婦だったのね、女性使用人の頂点の役職、でもだからってあの態度は…どうしたって許容できないわよね?ーー
家政婦はどちらの家令の管理下にも置かれない役職ではある、でもだからってあんな態度が許されていいはずがない。
因みにサミュエルは今現在どんな感情の持ちようなのかしら?と顔を上げてしっかりと確認してみる。
その行為をこれほど後悔することになるとは…思わなかった。
サミュエルは浮かべる表情こそ変わらずに笑顔だったけれど、その双眸に宿す感情は決して明るい類のものではなかった。
剣呑で尖りすぎた視線、鋼特有の冷ややかさしか感じられないそれを、運悪く見てしまったこっちが首筋が寒々しくなってブルリと身震いして縮み上がってしまった。
「全く…何様気取りなのでしょうねぇ、あのご夫人は。」
ぼそりと口の中で低くつぶやかれた言葉、独り言として紡がれたそれは嫌悪感に塗れていた。
続く言葉でより多くの毒を吐く。
「身の程知らずにもこの屋敷の夫人を気取るとは…全く度し難い。 毎度毎度身に纏うあの香水も相まって、胸が悪くなる、吐き気しか催せませんねぇ、全く。」
ーーうわぁ~~おっ、サミュエルがおこだわ。 でも幼女の前だからって、気を抜き過ぎでは? こんなに分りやすく負の感情を晒してしまって、大丈夫なの??ーー
尚も剣呑過ぎる空気を纏って不機嫌オーラを周囲に放出し続ける家令の横顔をじぃーーっと見つめる。
ーーうん、不機嫌でもイケメンはイケメンね! これはこれで美味しいショットだわ、採用、永久保存必須だわ!!ーー
私が熱心に向ける、疚しい下心が満載の視線に気づいた家令はわざとだとしか思えない咳払いをして、それまで良いだけ纏っていた黒い気配をパッと空気に散らしてから私のよく知る、サミュエルらしい明るい調子で話しかけてくれた。
「うおっほん、あ~、あぁ~~…。 少し喉の調子が…、空気が悪いせいもあって急にいがらっぽくなってしまって、いけませんねぇ~。 あれですかねぇ、急に寒い場所に戻ったもので、気温の変化にやられてしまったみたいですネ。 意図せず低まった声を出してしまい、失礼致しましたぁ~ライリエルお嬢様♡」
ーーめちゃめちゃ意図してましたよね? 偶然出せる低音具合じゃ無かったですからね?! 地を這うような、って表現がしっくりくるぐらい、底の底な音程でしたからね!!ーー
場を濁したくて出た言葉なのか何なのか、真偽の程はともかくとして、そんなドスの効いた声を今まで私に向かって出さずに居てくれたことは、素直に喜ばしい事実であり最高の配慮だと思えた。
だからここは藪をつついて蛇を出すような愚行はせず、敢えてサミュエルの口にした理由に話を合わせることにした。
「…そうだったのね、屋敷の中にいると全然わからないけれど、外は真冬の気候で寒いから気をつけないといけないわね。」
「ンアッハッハ! そーですねぇ、屋敷の一歩外は正真正銘の真冬ですからねぇ~! いやはやぁ~、本当にライリエルお嬢様には驚かされておりますよぉ
~~!! 誕生日パーティーからこっち、本当に1段と大人びて聡明におなりでぇ、直に見聞きした今でも信じ難い激的で急激な変化ですからねぇ~?」
ここで初めてとなる、私の真意を探るような目つきで用心深く、そうでありながら全てを見通そうとするかの如く真剣に見つめられた。
向けられる紺碧の双眸を真っ直ぐに見つめ返して、嘘は1つもない、今の私が心に抱く思いをできる限りそのまま口にした。
その言葉を聞き終えたサミュエルは、微かに目元を和らげてから、見慣れた笑顔でサミュエルらしい肯定的な言葉を返してくれたのだった。
とんだ足止めを食らわされてしまったけれど、この後は何事もなく平穏無事に、私の部屋の前まで送り届けてもらえそうだ。
再び手を取って、私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれるサミュエルを見上げながら今更ながらに気になった事を問うてみる。
「でもサミュエルがあんな低まった声音で喋るなんて…そちらのほうが私にとっては意外だったわ。」
今思い出しても、ちょっと背筋に寒いものが駆け抜ける。
凄く出し慣れていそうな感じだったのが、凄く怖い。
「いやはやぁ~、お恥ずかしい限りでございますよぉ~~。 こー見えましても、私も若い頃はそれなりにやんちゃしておりましたからぁ~~、んネ♡」
「ふふっ、想像できないわ。 だって武闘派とは程遠い雰囲気だし、実力行使よりも頭を巡らせて相手を罠に嵌めるほうがしっくりくるもの! あ、えぇーーっと、悪い意味ではないのよ?! 頭脳派だと言いたかっただけで他意は全く、これっぽっちも内包していないのよ!?」
ーー物理よりも精神への攻撃のほうがポイって云うかぁ~、直接よりも間接的な方法が得意そうな感じぃ~~? みたいなぁ~~~?? 陰険とか陰湿とか、そういう意味ではないと言いたいだけなのだけどねぇ???ーー
「ンアッハッハッハッハ! お嬢様ぁ~、それ、丸っきり語るに落ちてるじゃござーせんか!! 全然弁解できておられませんよぉ~?」
「うぅ…、そうね、もう…口を閉じることにするわ。」
ーー出来ることなら私は貝になりたいっ!! サミュエルの指摘した通り、これ以上言葉を並べても全て無駄、ホイホイと墓穴を掘る未来しか視えない!!ーー
これ以上不用意且つ軽率に喋ってしまわないように、空いている方の手で口元を押さえる。
口と一緒に鼻も押さえてしまい、一瞬だけ充満していた特徴的な香水の匂いが遮られる。
そこにきて、大事なことを思い出して、途端に慌ててしまう。
「でも待って、あの方、お母様の部屋に行かれたのよね…? それって大丈夫じゃないわよね?! あんな芳香の塊みたいな方が押し入ってしまったら、お母様の体調に悪影響しか及ぼさないもの、そんなのダメだわっ、今からでも止めに行かないと…!!」
「ンアッハッハッハ、芳香の塊! 面白い表現ですねぇ~~、正にそのとーりでございますねぇ~~!! でもご心配な・く、だぁ~~いじょーーぶ、で・す・よ、ライリエルお嬢様♡ 今奥様のもとにはとぉーーっても優秀で鉄壁な番犬がおりますからネ♪」
「優秀で鉄壁な番犬…? でもだって、今お母様のお部屋に侍っているのはメリッサだけ……って、メリッサが番犬?!」
ーーサイボーグではあるけれどっ! 鉄面皮でちょっとやそっとじゃ打ち負けたりしないだろうけどもっ?! 番犬って、それはないのじゃないかしら?? せめて門番にしてあげて下さいな、畜生扱いでなく!!ーー
「……あぁ、ほら、お聞きになりましたぁ~? あの怒りもあらわな金切り声、間違いなく番犬侍女に門前払いされたのでしょうねぇ、淑女の鑑を自称しているというのに化けの皮が剥がれるのがはんやいですねぇ~、ツメが甘いと言いますかお粗末この上ないですねぇ~~。」
マダム・サロメが姿を消しただろう通路の奥、耳を澄まさないと聞こえない遥か遠くの方から響く音のように、サミュエルが指摘した通りのいきり立った甲高い声がほんの微かに聞き取れた。
ーーいやいや、この屋敷、ホントどんだけ広いのって話ですよ。 声がこんなに小さく聞こえるなんて…距離ありすぎでしょう?ーー
同じ階にある部屋の外、廊下から聞こえる声が耳を澄まさないと聞こえないなんて…ホント非常識な広大さだと思わずにいられない。
これじゃ何かあって助けを呼んでも、誰にも聞き届けて貰えない可能性の方が高そうだ。
「さぁさ、こうしちゃおれませんよライリエルお嬢様! お早く部屋に戻られませ、でないとまたマダム・サロメと鉢合わせてしまいますから。 マダムが使用できる階段はこちら側の物だけですので、自室に戻るなら必ずまたこの道を通りますからネ。」
「あらそうなの? 使える階段も決まっていたりするものなのね。 知らなかったわ、てっきり反対側の階段の方が近いからそちらを使うかと思っていたけど、そういう制限があるのね。」
さっきお母様の部屋から食堂に移動した時はお父様に連れられるまま、なんの疑問も抱かずにこちらとは反対側の3階に至る階段を通り過ぎて、その先にある階段で1階に降りたから、あちらからの方が近道だと知っていたのだけど、使える階段が決まっているなんて驚きだ。
「お嬢様をはじめ、ご家族様には一切制限はございませんからねぇ~、知らなくても当然でございますともぉ! これから色々と、ゆぅ~~っくり、学ばれていって下さいましネ♡」
「ありがとう、そうするわ。 またわからないことがあったら、聞いても良いかしら?」
「勿論でございますともぉ、なんなりとお答え致します、私でお答えできる事であ・れ・ば、と注釈はついてしまいますがねぇ~?」
「サミュエルが答えられないことなんて、ことこの屋敷に関して有りはしないでしょう? 答えかねることはあっても、ね? そうでしょう?」
「おやおやぁ~、これは一本取られてしましたねぇ~! ご推察感服致しました、正に仰る通りでございますよぉ~♪ 答えかねること以外であればきちんとお答えすると、ここにお約束いたしますとも♡」
「そう言ってもらえて嬉しいわ! あ…、質問…ある意味で、だけれど、1つ出来るかどうか聞いてもいいかしら?」
「ん~~、何でございましょうか?」
チラリ、と通路の奥に視線を走らせ、マダム・サロメがやってこないか気にしながらも、ちゃんと聞いてくれようとするサミュエルの肯定的な姿勢にパッと顔を明らめて喜び、喜び過ぎて準備していた言葉がとっ散らかってしまった。
「えぇとね、明日サミュエルたちが行ってしまう前に、会えるかどうかが知りたいの。 ほんの少し、ちょっとだけでも良いから、会わせて貰えないかと思って…。」
「はて、何方にお会いされたいのでしょうか? 騎士団の面々とは…一名を除いて面識は無いものと記憶しておりましたが、私の記憶違いでございましたかねぇ~?」
「えっ?! 1名には会ったことがあるって、何で知っているの?」
ーーこれも潜ませちゃってる手駒さんたちからの情報提供で知り得たものなのかしら?!ーー
「他の誰でもなく本人が嬉々として語っておりましたからねぇ? ご安心下さい、勿論その内容をお聞きになった旦那様はきちんとブチ切れていらっしゃいましたからね♪」
「えぇと、どこをどう聞いて解釈しても全然これっぽっちも安心できないわ? ヴァルバトス様がご健勝であられることを願うばかりなのだけれどね?」
「大丈夫ですよぉ、それこそ心配してやる必要てーんでございませんからぁ~♪ あの御仁がちょっと燃されそうになったくらい、日常茶飯、ごくありふれた日常の一コマですからネ! 火傷もなくピンシャンしておりましたから、思考回路以外には何も異常ございませんよ♡」
ーーそれは、大丈夫と言って良い状態なのかしら? 外傷がないのは喜ばしいけど、素直に喜べないそこはかとない疑問が残ってしまうのは私だけなのかしら??ーー
これを口にしたなら、話が本題からどんどんとかけ離れていってしまう、そう本能で察して、ぐっと口にするのを堪える。
ーーあのオ●ハンはまだ来そうにないけど…、ってか門前払いされてるのに、どんだけ粘り強いの? きっと心臓にも厚いコーティングがしてあるのね、脂肪か何かで。 今このときだけは、その粘り強さに感謝するけれど、本当に、今回限りだわ。ーー
今言うべきことは他にある、いつどのタイミングで粘ることを諦めたマダム・サロメがこちらを通るかもわからない、これ以上の脱線をしていられる時間的余裕は今は微塵も残されていないと言えた。
だからこそ今すぐにでも言いそびれていた会いたいと望む人物の名前をサクッと言って、そしてそれにちゃんとした可否どちらかの返事をサクサクっと賜りたいのだった。
「えぇと、ヴァルバトス様が色んな意味で頑強であられて良かったわ、そこはとても安心できたし、聞けてよかった情報と言えたわね! ところで話を戻すのだけど、私が会いたいのは騎士団の方ではないの、出荷される本人、ヒューシャホッグ・アンジェロン子爵令息に会いたいの、それは可能かしら?」
「………はいぃ?」
これが了承の返事でないことだけはわかった。
ちゃんと理解できたけれど、今日見てきたどの場面でも見かけなかった表情を晒す、この家令が初めて見せたその表情に目を奪われる。
3cm以上開かないかと思われた目を大きく、ゆうに5cm以上開いて呆けたような驚嘆顔をして見せているのだ。
鳩が豆鉄砲を食ったような、隙の有りすぎる表情のサミュエルはどこか幼く見えて、そんな無防備な表情を晒してくれた事実にキュンッと胸がときめいて喜んでしまうその裏で、この逃せない瞬間をきっちりしっかり心のアルバムに殿堂入りさせたのは言うまでもないことだった。
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