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おじさん♡待ってました

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クラウディア♡

我が一族には二つの大家がございます。

その一つは我がラ=スローン家だ。

そしてもう一つが我が親友、ブレンダリーが率いるル=スラーン家である。

この二つの家は当時、唯一人のΩを交代で娶っていた。

Ωを娶る一家は代わりに一族の主権をもう一方の一家に委ね、繁栄に尽力して有力なる家族を増やす。

一方で主権一家は次のΩが生まれるまで権力を奮い、一族を率いる。

完璧な分業制だった。
非常にα種族らしい、掟です。

しかし、そのせいで…

取り決めた巡りに合わなければ、長なる血筋に若君として生まれようともΩと番う事は出来なかった。

これが問題だった。

両家には、自他共に認める優秀なαが存在する。

しかし、片方だけしか自分の血を残すべく、Ωと番うことを許されない。
もう片方は宿命の相手とは永久に結ばれぬ。

αとして優秀である程に、Ωには強く惹かれるものだ。

その抗い難い本能による争いを避けるため、Ωは許婚の一族により育てられた。

結果、主家として君臨しても焦がれる相手を目の当たりにする事すら叶わぬのだった。

しかし、出会った事すらなくても愛してやまない存在だ。
にも関わらず、残酷にも失恋を余儀なくされる。

出会ってしまえば必死に築き上げた一族の理も、一蹴してしまう程の欲求だ。
決して呼び起こしてはならならぬ、恋慕であった。

そんな背景を背負いながら、リリィは注意深く人目を避けて養育された。

あの時代はラ=スローン家の次期当主であった、私の兄上が夫に推挙されておりました。
彼は美しく理知的な男性でしたが、激昂し易い性質をお持ちでした。

方やのル=スラーン家にも立派な男子がおられた。
こちらも素晴らしい男性であられたが、彼はお部屋住みのご身分でお気楽でおいでだったのでしょう。
αらしからぬ、自由奔放さをお持ちだった。

このル=スラーンの若君と我が兄上は、正反対の性質の御方である。

何かと、諍う事のあるお二人でした。
周囲が困惑し、手を焼いていた事を幼ながらに私も記憶しておる。

一度など、ル=スラーンの若君が兄上にリリィを分かち合おう等と持ち掛けて…
あわや決闘かと皆が肝を冷やした。

一つの領地内において、リリィの夫は一人と決められている。
西欧の全ての国に均等に、平等であるために必要な定めだった。

しかし、若君は構わずに異を唱えた。

「Ωは我らが領地に生まれ、我らが養育致しのだ。ならば与えられる恩恵もその他の国より多くて良い!」

全く、酷い暴言です。
恥知らずであるし、意地汚のうございます。

ですが、私は…

そうであっても良いと、そうであったら良いと!
少女らしく思ったものでしたね。

確かに、ルイスはΩの恩恵を特別に受けるに相応しい偉業を成しておりました。

そも、ルイスでなければ、出来ぬ事でしたわ!

Ωを等しく分ける等と気前良く振る舞うて…
誇りに溺れし我が国にしか出来ぬ、虚勢だ。

私がお仕えした初恋の君がリリィは、閉ざされた領地の最も奥まった秘密の館で19歳を迎えた。

充分に成長し、育ち上がっておいでだった。
そして、いざ娶せる段になって悲劇は起きたのだった。

二つの家は疑心暗鬼となってお互いを責め合うた…
当初は東欧の関与を見出せなんだ。

その上あろう事か、ル=スラーンの若君が乱心を疑われたのだ!

事件の直後より、若君は行方知れずであった。
その事が疑心を生んだのである。

しかし、実際は真逆の事ごとだったのです!

いち早く賊の侵入に勘付いた若君は、勇ましくも立ち向かわれた。
そして狂剣に逢い、斬殺されてしまわれたのだ。

彼の君は、甥にあたるマクシミリアン殿と同じく『推察』の能力をお持ちだった。
それは今生の甥ごよりも研ぎ澄まされたお力でした。
しかし健朗な甥とは違い、健弱な御身でいらした。

彼は、お独りでした。

リリィの婚礼に良からぬ仕出かしをせぬようにと、領主の城の牢屋に押し込められておいでだった。

それでも異変を感じた若君は危険を省みず、リリィの元へ駆けつけなさったのだろう。

余りにも無謀だった。
しかしあの御方の気性にそぐわしい、行いでした。

私の兄上は、我が子セバスティアンに勝るとも劣らぬ『威圧』の主であられた。

もしも、あの時…

兄上と若君が、同族が若者同志の気安さを育み親しんでおられたなら…
きっと結末は違ったであろう。

疑いは何一つ真実を捉えていなかった。
いたずらに一族をかき乱し翻弄しただけだった。

そして、残酷な真実を受け止めた後…

兄上は、泣き濡れた。
誰憚ることなく、そうなさった。

その後、我が兄は巡りに逆らって一族の長の座に就かれた。
そこに座す筈であったお方の身代わりに、そうなさった。

それから彼は誓った。
もしもまた、Ωを授かる幸運を得た暁には…

両家の長たる男子をともに夫とすることを、固く誓ったのです!

兄上は生涯を独身で通されました。
その御心に負われた傷を癒す事もせず、そのままに身罷われた。

その後、両家は改めて結束した。
二つの大家は一つとなるため、身分を明確にしました。

ラ=スローンは領主に座す。
ル=スラーンは摂政で在られる。

可笑しなこじ付けですわね。
ただ、両家は同等に在りたかっただけのことだ。

兄上の悲しみの煽りをくらい、私は領主となりました。
全く、思わぬお鉢が回ってきたものだ。

そして我が親友、ブレンダリーにも巡りめぐって摂政の座が
舞い込んだ。

幼馴染が二人して、重荷を背負う羽目になったのです。

ですがそれは、私には良い事でしたね。
苦楽を共にする友は有難い。
貴女が居たから、私はこれまで立って居れたのです。

そう。
妾には、孤独を分け合う友があった。

私の愛するリリィは、如何でしょうか。

思い出のあの君は、私には淋しげでした。
今生の君とは、全くと違って! 

だから、あの君の分もあなたには幸せと思って欲しい。
妾の統べるこの領地において、2人の夫を持つことになった君…

約束の日から400年が過ぎ、その誓いがようやく果たされました。
それは今生のあなたには、あずかり知らぬ事だ。

兄上と、若君と、愛すべきリリィ。
悲劇の末、失った大切な人達…

まるで叶わなかったあの日の夢が実現したようで、妾は長たる威厳を保てませんでした。

あの日の彼らの面影も濃い三人が、手を取りおうて…
結婚をご報告においでになったのだから!

その光景は私の核心に触れ、大いなる熱を孕みつつ溶解せしめた。

あまりの感激に、私は涙しました。

そんな妾に、あなたは釣られて…
泣いてしまった!

お人形が…泣いた♡
私のリリィがお戻りになった♡

しかし、あなたはそれだけの、お人形では無い。

「お義母さん、僕、楽しい♡」
「お義母さん、側に居てくれて、嬉しい♡」
「お義母さん、ありがとう♡」

なんて、可愛い人!

息子らがあなたを分配せぬと、申した理由が分かりました。

あなたは『リリィ』では無い。
少なくとも、我々が思う通りの其の人で無い。

『リリィ』ならざる者が、『リリィ』にはなれぬ。

あなたは『Ω女王』の定めを生きなくて、よい。

妾は…

その事がとっても嬉しいのです♡

☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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