ヒロインが美少女かゴリラかで主人公の行動は変わるのか!?

三船

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第12話 Aパート(ヒロインが美少女)

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「雪宮ーッ!?」

「朔夜さんッ!?」

優と澪が同時に悲鳴のような声を上げた。地上から見た光景は、朔夜がドラゴンの炎にまる飲みされた非情の映像。空中に放たれたその圧倒的な熱量は地上にいる優と澪の肌をも焼き付けるほどの鋭さを持っている。

雪宮は無事なのか?優の頭は混乱していた。規格外の高熱とそこから溢れ出した膨大な光に状況が把握できない。普通に考えれば絶望的な状況であるが、頭がそれを処理できていない。

アビスが炎を吐きつくし、放たれた光が終息したあと、その場にいたはずの雪宮の姿はどこにもなかった。

「どう・・・なったんだ・・・?」

優は見たままの光景を受け入れることができなかった。脳が絶望を拒否した。

「朔夜さん・・・ッ。」

澪が唇を噛みしめて状況を飲み込む。テスタメントになった時から覚悟をしていたことだ。今までにも仲間を失った経験はある。だが、

「よくも・・・よくも朔夜さんを・・・ッ!!」

澪がキッとした目つきで巨大なアビスを睨み付ける。自分の大切なものを奪うのはいつも黒い化け物だ。両親も仲間も今まで化け物に奪われたものは全て大切なものだった。澪は込み上げてくる殺意を抑えることをしようともせず、武器を強く握りしめる。

「まだ生きてるわよ。」

緊張に凍てついた空気の中に凛としているがどこか優し気で奇麗な声が割り込んできた。それは間違いなく朔夜の声であった。

「雪宮!」

「朔夜さん!」

優と澪が思わず同時に声を上げる。澪の方は同時に声を上げた優の方を怪訝な目つきで睨み付けたが、優はそれに気が付いていない。ただ雪宮が無事であったことが嬉しかった。

「八咫烏の能力を忘れたの?高速移動だけじゃなくて空中制御もできるのよ。それより、まだ終わってないわよ。」

緊張が緩みかけたとろこに朔夜が注意を促す。朔夜が生きていたことは確かだが、巨大なドラゴンのようなアビスもまだ健在である。状況としては何も変わっていない。いやむしろ悪くなってる。朔夜はアビスが放った強烈な炎のブレスを空中制御で回避することができたが、それでも間近を通り過ぎた暴力的な炎の奔流はその身を焼いており、朔夜の着ている制服はところどころ焼け落ちて純白の下着をのぞかせていた。

(思ったよりダメージを負っているわね・・・。)

朔夜は優と澪に悟られないようにして冷静に負傷の具合を分析する。澪に騙されたことで、別の場所に待機していた所から走ってきたことや戦闘での疲労も計算に入れる。打開策が見つけられないままでの戦闘は精神的な負担が大きく、思った以上に消耗しているようだった。

「澪、もう一度さっきの攻撃いくわよ!」

「はい!」

打開策は見つけられていないため、やれることをやるしかない。今考えられることで最も有効と思われる攻撃は、首の柔らかい部分を集中して攻撃すること。そして、その首を落とすこと。諦めずに繰り返しやるしかない。

動き出そうとしているアビスに先んじて澪が走り出す。走りながら力を集中させて、研ぎ澄まされた氷の刃を憎き相手に叩きつけるために力をこめる。澪の攻撃でアビスの注意を向けて、その隙に死角から潜り込んだ朔夜がアビスの喉元に渾身の一撃を入れる作戦。注意すべきは朔夜が斬撃の勢いのまま空中に飛び出したところを炎のブレスが襲ってくる可能性があること。だが、予測していることなら対処に問題はない。八咫烏の力を使って最初から空中で回避行動を取っていれば大きなダメージを負うことはない。

澪がアビスに接近し、溜め込んだ幻魔フェンリルの力を開放しようとしたその時、あることに気が付いた。アビスがこちらを見ていない。アビスは朔夜も優も見ていない。全体を見るかのように大きく息を吸い込む動作をしている。そして、

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!

アビスがその巨大な顎を大きく開いて咆哮した。その咆哮は爆発的な轟音と濁流のような風圧と衝撃を無差別にまき散らした。それは戦争で使わるレベルの爆弾が爆発したのと同等のレベルを思わせる破壊力であった。

「きゃあああああーーー!?」

「ぐあぁぁぁッ!?」

突然襲い掛かってきた暴力に対して朔夜も澪も対処することができなかった。優も同様に龍の咆哮に当てられて意識を持っていかれそうになるのを必死で堪えている。

澪は比較的近くにいたため、爆音と衝撃で三半規管をやられていた。平衡感覚が正常に働かないため、立つことができず、そのばに手と膝をついてしまった。それでも、動かなくてはいけない。目の前の敵を前にして手と膝を付く屈辱を受け入れるわけにはいかない。

澪はぐらぐらと揺れる視界を前に向けて、倒すべき敵を確認する。そこには大きく口を開け、その中心に収束していく光が見えた。ぐらついた世界でもそれが何かははっきりと認識できた。朔夜を襲ったドラゴンブレス。桁外れの熱量を持つ、炎の奔流。それがこちらに向けられている。

「逃げなきゃ・・・。」

澪は足を踏ん張るが、平衡感覚を失っているため、思うように力が入らない。しかし、視界に映る光の量はみるみる内に溢れ出してきている。

「いや・・・。」

動かない足と目の前の絶望。残された時間は数秒もあるだろうか。迫りくる絶対の死に対して憎しみよりも恐怖が心を真っ黒に塗りつぶす。

ゴオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!

無慈悲に解き放たれたアビスの炎は光とともに瞬く間に澪を飲み込む。小さな澪の体など大河に落ちた花びらと同じ。何の抵抗もなくただ飲み込まれる。

「澪ーーーーーッ!!」

澪と同じく三半規管にダメージを負った朔夜がようやく状況を把握した時にはすでに澪は膨大な炎に飲み込まれるところであった。澪は自分よりもアビスの近くにいたはずだ。朔夜自身が負ったダメージから計算しても澪が動ける状態にあるとは到底思えない。そこに容赦のないアビスの炎が襲い掛かっている。自分が炎のブレスを受けた時とは状況が違う。圧倒的に状況が悪い。

アビスが炎を吐きつくし、光が消えていったあと、焼き尽くされた地面は黒く変色し、放たれた熱はまだ肌を焦がす。その中心に当たる場所には、

「・・・えっ!?」

朔夜が思わず声をもらした。無意識のうちに漏れた声は間の抜けた声であるが、そんなことにも気が付かないほど状況を理解することが難しかった。

「・・・はぁ・・・はぁ。」

地面にへたり込む澪の前に壁のようにして優が立っていた。息を切らして立つその姿は全身に黒い影を纏った異形の姿。今まで右手にしか顕現しなかったアビスの力が全身に沸き立っている。優に宿るアビス、アジ・ダハーカの力はすべてを消滅させる力。その力を全身に開放して澪に襲い掛かる轟炎を消滅させたのだ。

「どう・・して・・・?」

澪の口から疑問の声が漏れる。死んだと思った。逃げることのできない絶対的な死が目の前にあった。だが、今は生きている。そのことが理解できなかったのと、もう一つ、なぜこの男は自分の前に立っているのか。

「どうしてッ!?私はあんたを」

「憎んでるんだろ?」

澪の頭が混乱から立ち直り、状況を分析することができるようになっている。自分は目の前にいる嫌いな男に助けられた。嫌悪の対象であるアビスの力に命を救われた。

「どうして・・・。」

こんなやつ死ねばいいと思っていた。一緒に戦うなんて冗談でも嫌だった。だから、憎悪をぶつけていた。嘘をついて共闘しないように仕向けた。それなのに、力も碌に制御できていない、戦うことすらままならない素人が自分を助けるために命を賭けて来てくれた。あれだけの炎を防ぐ力を持っているなんて本人すら知らなかっただろうし、今初めて使ったのだろう。現に、服はところどころ炎に焼かれ、皮膚の火傷は軽いものではない。ありていに言うと満身創痍である。

「お前が俺を憎んでいる理由は聞いたよ。その気持ちは想像できるけど、失ったことのない俺には理解はできないよ。でも、お前が俺を嫌うならそれでも構わない。」

「なんでよぉ・・・。」

「だから、憎悪でも嫌悪でも殺意でも俺は受け止めてやるよ。だから、一人で抱え込むな。」

「なんでよー!あんたが大嫌いなのに、パパとママを殺した力が大嫌いなのに!殺してやりたいほど憎んでるのに!なんでよ!!!」

「俺の力が両親を殺したのと同じになるならいつでも俺を殺しにくればいい。それくらい受け止めてやるよ。」

優の声は優しかった。澪は思い出した、優しかった父の声を。父に対してどんなに悪戯をしようが笑って受け止めてくれた父の笑顔を。

「ああああぁぁあぁぁ・・・・。」

感情が勝手に溢れて止まらない。嗚咽交じりの泣き声はもはや誰に聞かれようと構いはしない。澪はその場で大きく叫ぶような声を上げた。

「さてと・・・。」

アビスの前足が横凪ぎに優に襲いかかると、優は左手を前に出して解放されてアジ・ダハーカの力を使って、アビスの狂爪を消滅させることで防いだ。強固なアビスの体の中でも牙に次いで頑丈な爪を難なく消滅させられたことに巨大なアビスが警戒の色を強める。今まで蹂躙するかのように進んできたアビスが初めて後退した。

「雪宮!動けるか?」

優が立ち上がろうとしている朔夜に声をかける。

「ええ、なんとかね。香上君。その力は・・・。」

「まだ、慣れてなくて、あまり上手く使えないけど、なんとかなると思う。ただ・・・。」

「ただ?」

「あまり長くは持ちそうにない。」

「それなら、次の攻撃で仕留めるわよ。―――澪!」

「・・・はい!」

「いけるわよね?」

「大丈夫です。」

大声で泣いたことによって吹っ切れた感じの澪がしっかりとした返事をする。

「作戦は?」

優が朔夜に尋ねる。初めて朔夜が自分を仲間として認めてくれたように思えたが、妙に高揚感は少なかった。それよりも冷静にアビスを倒すという意識が強かった。

「同じよ。香上君が首元の装甲を剥がして、澪が追撃を入れる。最後に私が止めを入れる。」

「了解。」

「はい。」

それが合図となり、三人は巨大なアビスに目がけて走りだした。中央を優が、周りこむようにして左右を朔夜と澪が走る。

攻勢に出た敵を察知したアビスが再ど咆哮によるカウンターを入れようとして大きく息を吸い込む動きを見せ始めた。

「遅せえよっ!!!」

大きく息を吸い込む姿勢になり、がら空きになった喉元目がけて優が右腕を振り払う。優の右手から伸びた禍々しい黒い影の獣は、まだ距離のあるアビスの首まで届き、その喉元を大きく掻っ捌いた。硬い皮膚も、周りの堅牢な鱗も関係ない。アジ・ダハーカの力に触れたものはその存在を許されない。理不尽に消滅させられ、後には何も残らない。

「ガアァァァ!!!」

優の攻撃で喉を大きく抉られたアビスが堪らず叫び声を上げる。しかし、攻撃はまだ終わってはいない。アビスの横から走ってきた澪が大鎌を振りかざして、優が抉った喉元に目がけて飛びかかった。

「今まで散々やってくれたわね!これはそのお礼よ!」

澪は体ごと一回転させて大鎌の斬撃をアビスの喉元に叩きつける。外皮は硬くても中まで同じ強度というわけではない。澪の斬撃は抉られたアビスの喉元をさらに深く斬りつけ、首の半分以上はこれで切断された。

そして、澪と交差するようにしてアビスの死角から跳躍した朔夜が寸分違わず澪の斬撃をなぞるようにして漆黒の刃を通す。まるで精密機械のように澪の斬撃と同じ個所を通る朔夜の刃はアビスの首に深く入っていく。

「はああああああああああーーーー!!!」

超高速移動からの跳躍と空中制御を乗せた一刀。残りの力の全てをこの一撃に注ぎ込んだ朔夜の斬撃はついに巨大なアビスの首を完全に切断することに成功した。

ズシンッ!胴体から切り離されたアビスの巨大な首は重力に導かれるままに地上へと落下。頭を失った胴体はよろめきながらも制御を失い、首の後を追うようにして地面に平伏した。

「やっ・・たのか・・・?」

首を落として体も倒れ込んだ。手ごたえは十分にあったが、優も朔夜も澪も警戒を緩めない。これ以上はもう戦う余力はない。これで終わってくれと祈るようにして目の間にアビスを睨みつけるていると、やがて巨大なアビスのからだはどんどん崩壊していった。砂浜に作られた砂の山を満ちてくる潮が崩していくように、巨大なアビスの体は次々と崩れ落ちて行った。

「香上君、これで終わりよ。お疲れ様。」

「あ、ああ・・・。」

「澪も、言いたいことは山ほどあるけど、取りあえず、良くやったわ。」

「は、はい。あの・・・。」

「澪、そのことは総帥を交えてゆっくり話しましょう。」

「ぐっ・・・・。」

朔夜の冷たい笑みが澪の言葉を遮る。澪はこの後大目玉を喰らうことになるのだろう。優はそんなことを思いながら戦いが終わったことを実感する。不思議と達成感はなかった。ずっと朔夜の役に立ちたいと思っていた。自分の力で人を救いたいと願っていた。それが今夜叶ったが、何よりも無事だったことに安堵していた。
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