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ノールックで倒す?

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香織は左手を出すと「じゃ、手首掴んで」

「はい」

沙織が掴むと両手首を曲げて沙織の方へ近づいた。
沙織の掴んでいる肩が下がり、やや前傾した。

「大きなボールでも抱えるイメージで」

すかさず反転し、両手の平を差し出すようにして後方を向いて沙織と並んだ。

「これがたいの変更の一」

「へぇ」

反対側の手首も掴ませて同じことをする。

「じゃやってみて。頭が上下しないように」

「えっと、こう?」

沙織は頭の高さをまったく変えることなく流れるようにやってのけた。

「どう?」

「流れるようにやってるけど、実際力が流れてるから」

「ダメなの?」

「まず相手が崩れてないから。掴んでみて」

沙織がまた香織の手首を掴むと香織はボールを抱える動作をしてみせた。
するとまたしても沙織の肩が下った。

「ほら、崩れてるでしょ」

「崩れるって体勢がってこと?」

「そう。崩して…」

香織はまた同じことをやってみせ、沙織とまた同じように並ぶと掴まれていた手を背泳ぎのように上げた。

「あっ!」

沙織の掴んでいる手まで巻き上げ沙織は重心を失った。
後ろへのけぞりよもや倒されるギリギリのところを持ち前の柔軟さで耐えている。
香織は倒さずに動きを止めている。

「こうやって倒すこともできるって言いたかったんだけど…」

倒れまいと耐える沙織が声を荒らげた。

「だけど?」

「大事なこと忘れてた」

「なにを?」

「受け身やらないと…」

「じゃ、この技やめてよ」

「手、離して」

「手ぇ離したら倒れる!」

「あ」

香織はゆっくりと沙織に向き直り、肩を掴んで自分の方へ引っ張った。
体勢が元に戻り沙織は大きくため息をついた。

「ビックリしたぁ」

「ごめんね。いきなりびっくりしたよね」

「…でも、オモシロイね。こっちノールックで倒せるんだ」

「ノールック。まあ呼吸投げはそうなりがち」

「呼吸投げっていうんだ」

「うん、まず受け身からやろう」

香織は前方回転受け身を教えた。
沙織は勘がよく、それはすんなりできた。

「じゃ今度は後方回転受け身。片足を折り込んで足の外側でしゃがむと同時に…」

香織は脚を蹴り上げるように後ろへ回転した。

「折り込む足はだいたい相手側の方だから」

そう言っても初心者の沙織はキョトンとした顔をしている。
それを見てまだ理解できるわけないかと気づくと「おいおいね」と言った。

いきなりいろいろ言ってもわからない。

しっかり基礎をやろう…

香織は人に技を教えるという責任を改めて感じた。
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