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デイキャンプ

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「ねぇ愛洲!二人でデイキャンプ行かない?」

校内で昼休みビラ配りをしてるとき唐突に沙織は言った。

「デイキャンプ?地井頭と?」

「そ」

「バイクあるしさ」

「デイキャンプってことは日帰り?」

「そうそう。焚火してなんかおいしいもの作ってさ」

「おお」

「なに食べたい?」

「肉的なもの」

「肉!イイネ。あたし達やっぱ気が合うね」

「ピザとかもいいな」

「ピザかぁ」

沙織は腕を組んで考え始めた。

「うん。やってみよう」

「どこのキャンプ場に行くの?」

「わたしはキャンプ場ってあまり好きじゃないんだよね」

「え?じゃどこでキャンプするの?」

「秘密の場所」

「秘密の?」

「わたしが見つけたわたしだけの秘密の場所。愛洲にも教えてあげる」

「うん」

「舗装されてない野道を走ったりもするからね」

「ゲッ」

「気ィ抜けないから」

「地井頭はわたしをどこにいざなおうとしてるの?」

沙織は大声で笑った。
そして日曜日の朝、沙織が先頭で秘密の場所へデイキャンプへ向かった。
香織は沙織の背中を見つめてもう一度言った。

「地井頭はわたしをどこにいざなおうとしてるの?」

そう言って静かに笑った。
大通りを抜け住宅地を超えると畑が見えてきた。
カーブを曲がると坂の傾斜が高くなる。

「ここは気合い」

香織はリトルカブのシフトを1段落とした。
回転するチェーンの音が重く聞こえる。
リトルカブの気合い。香織はそう呼んでいた。
太陽の爽やかな光の中、風を受けながら坂道を真っ直ぐに登っていると畑と古い家屋の集落がゆっくりと過ぎてゆく。
ちょっとしたファンタジーな世界と勘違いしてもいいかもしれない。香織にはそんな
なんともいえない気持ちの良さを感じた。
見ると沙織も集落を見ている。
同じことを感じてるようだ。

「ふふ。地井頭もか。一緒」

カーブを何度も曲がり山々の景色に感動しながら二人は一番高いと思われるところへやってきた。
沙織はガードレールの横にバイクを止めると香織を手招きした。
香織がすぐ後ろへ止めると「ほら見て」と、指さした。
ガードレールの外側は鬱蒼と木々が繁っていたがその先には富士山が小さく見えた。

「あんなところに…」

「ね」

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