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いざなう

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帰りにパン屋の前でベンチに座り、香織と沙織は無添加のミニチョコメロンパンをほうばった。
この小さい無添加のミニチョコメロンパンにはじめ香織は一目惚れをした。
沙織も必ずこれを食べるようになった。

「ところでさっきのタンサオってさ。多分これに似てると思ったの」

食べ終わった香織が立ち上がった。
なにかを見せようとしてるのを感じとって沙織も立ち上がった。

「横から手刀で打ってきて」

手刀で横から。やったことはなかったが言葉通りに沙織は再現した。
すかさず香織が手刀で沙織の手刀の腕を内側から打ち込み、同時に踏み込みもう片方の手でアッパーカットの突きを沙織のあごの前で止めた。
踏み込んでるので沙織は仰け反っている。

「おお」

「もうこの体勢で相手を崩すの」

「こういう動きの大きな動作、詠春拳はやらないかな。合気道っぽくないっていうかイメージ違う」

「ま、世間の合気道はたぶん…もう一回やってみて」

手刀を見せて沙織が「あ、これ?うん」と、もう一度横面打ちをしてみせる。
すると香織は同じ右手で手刀を沙織の手刀にかけるの柔らかく落として沙織の横に並んでその手を掴んだままくるっと回り、沙織の手を起こし沙織の背中の方へ倒そうとすると沙織がまた仰け反り片足が浮いたところで香織は動きを止めた。小手返しだ。
沙織は驚いたことをそのまま言葉にした。

「連れてかれた。合気道って連れてくよね。丸くさぁ、歩かせるっていうか」

「いざなう、みたいな?」

「いやわかんないけど…」

そう言って沙織は言葉を切るとやや眉間にしわを寄せて香織に聞いた。

「いざなってるの?」

「う~ん。いざなってるかも」

香織と沙織はどっと笑った。

「ナニいざなうって!」

「いざないすがたかな」

スッと沙織が真顔になって言った。

「いざなわないで!」

二人はまたどっと笑った。

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