上 下
40 / 167

日本柔術の発端

しおりを挟む
「ところでなぜ合気道は掴んだ状態から技を繰り出すのだ?」

休憩中、亜香里は疑問をぶつけてきた。
香織は道場の武道オタクの先輩に聞いた受け売りをそのまま話した。

「そもそも日本武道に柔術が多いことが発端らしいんだけど、昔は侍がいたでしょ。刀を抜こうとした時、相手が抜かせないように手首なんかを掴んできたらしいの。その手を振り払うためにこういう練習をするらしいの。逆に刀や武器を持った相手を素手で制する目的も当然あるわけ」

「おお!やはり武士の歴史に沿って発達してきた武術というわけか。気に入ったぞ」

「どうでもいいけど、その話し方なんとかならないの?」

沙織は亜香里のしゃべり方が気になって仕方がない。

「武士ゆえの気概じゃ。ゆるせ」

「武士っていうか女子じゃん」

「そうそう。カワイイよ」

香織が手を口に添えてあえて応援するような仕草で言った。

顔を赤らめ亜香里は動揺し始める。

「な、なにを言うのだ。武士がカワイイなどと言われて嬉しいとでも思っておるのか」

沙織も悪い笑みで援護する。

「カワイイよぅ!黒胡麻ちゃんカワイイ」

「や、や、や、やめろ…」

沙織は戸的にも目で合図すると真紀理も悪ノリで参加。

「黒胡麻ちゃん超絶カワイイ!」

「おぬしまで…」

「きゃあーカワイイ顔も赤くなってる~!」

香織が追い打ちをかけた。

「ええ~い、某を愚弄するか!」

亜香里は木刀を手に取り腰に差した。

「斬る!」

「きゃ~こわ~い!」

「黒胡麻ちゃんこわ~い!」

亜香里が木刀を振り回すが3人共鬼ごっこのようにかわす。
逃げ回りながら沙織が香織に耳打ちし、香織が真紀理に耳打ちした。
3人は悪い笑みを浮かべ、香織が手を叩いて亜香里の注意を引く。
亜香里が向かっていった瞬間、沙織と真紀理が亜香里を両サイドから羽交い締めにした。

「ふふふふふ」

この上なく悪い顔をした香織がアヤシイ手つきで亜香里の正面から近づいた。

「こうだ!」

香織は亜香里を思い切りくすぐった。

「あははははは、やめろ!らめ!らめるのだ!」

「やめなーい」

亜香里が木刀を離すと3人で亜香里をくすぐった。
しばらくすると3人は息切れして酸欠で倒れている亜香里を囲んで様子をうかがっていた。

「やり過ぎた?」

「酸欠になってる」

「武士も酸欠になるんだ」

息が多少整ったのか亜香里は力をふりしぼるように顔を上げて言った。

「く、…く、くるしゅうない…」
しおりを挟む

処理中です...