アイスとチーズ

迷熊井 泥(Make my day)

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カズが香織達を呼びに来た。

「香織様。朝食の支度ができました」

「そうか。地井頭殿、朝稽古はそのへんにして飯にしよう」

「それはかたじけない」

台盤所に用意された朝食、白米と漬物、味噌汁を二人は平らげた。
当時の朝食の定番だ。

「これから門下生が朝稽古にくる。夕べの話が出るかもしれん。亜香里には口止めをしてるがおぬしも道場には顔を出さんほうがよいと思う」

「わかった。お気遣い、感謝する」

しばらくすると道場で朝稽古が始まった。
老侍から剣を学びたい町人、武家の子供など天下太平の世に伝統武芸を学びたい門下生達にとって剣は戦国時代や腕前で身を立てることとは別の意味を持ち始めていた。
有名な新陰流の元となった流派である。
古い方が元祖であり優れていると考えたい年配者などにとって女侍の香織の教えはちょうどよかった。
香織は激しい鍛錬など要求しないし、かと言って偏った精神論も口にしない。
剣の意味はそれぞれの生徒に任せている。
町人でも大っぴらに剣が学べるというのも香織の道場の特徴のひとつだ。
だがこれも女の道場経営において仕方のないことだった。
旗本など寄り付かない。
香織は学びたいなら誰でもいいと考えていた。
逆に威勢のいい若侍ばかりで力任せに稽古をする道場では年配はたまらない。
女侍の道場も需要があったわけだ。
素振り、型をやると組太刀の稽古が始まった。
組太刀と言っても自由に打ち合うわけではなく打太刀、仕太刀に分かれて決まった攻撃と防御の動きを続ける。
そうやって感覚を養う稽古を中心にやっていた。
香織がそれぞれの気づいたことを指摘して直してゆく。

「愛洲先生。夕べ河本一家が全員斬られたのを知っておりますかな」

おしゃべり好きの野村幸之助が聞いてきた。
歳はすでに六十を過ぎていて家督を息子に任せ、自分は若い女侍から剣を学ぶのを楽しみとしていた。
家族が女侍から習うことを揶揄しようものなら「なにをいうか!陰流とはな…」ともっともらしいことを鬼の形相で話し説得するという有様だった。
香織はおそらく野村から事件の話を持ち込まれるのではないかと予想していたが、そのとおりだった。

「さあ。わたしは寝ていたので」

「いや岡っ引きの話では見事な腕前だったらしいですぞ」

「誰が斬ったかわかったのですか?」

「いや下手人はわかってないのだがおそらく敵対していた別の組で腕の立つ者が数人で斬り込んだらしい」

「それで?町奉行は下手人を探すのですか?」

「どうかな。岡っ引きの話しぶりでは目撃した者でも出てこないかぎりあえて探すようなことはしないでしょう。やくざもののことはやくざものに任せると言っておった」

とりあえず地井頭沙織の名はまったく浮上してないことがわかった。
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