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冷たい目

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夜も明け、台盤所で香織と沙織が朝ご飯を黙々と食べている。
その横では真紀理も一緒に食べていた。
香織も沙織もチラチラと真紀理を見た。
気風の良い男を演じる真紀理の姿の良さは女侍達に一瞬女心を思い出させた。
真紀理の箸は男並みに早かった。

「ごちそうさまでした」

そう言って両手を合わせると「じゃ行ってくるぜ香織様」

「うむ。くれぐれもおぬしの相手を間違えぬようにな」

「わかってるぜ。オイラは香織様に夜這いかけてそのまま一晩過ごしたってことで」

「じゃ、じゃあな」

と、顔をやや赤らめ真紀理に沙織が声をかけた。
酔っていたとはいえ半裸で真紀理と抱き合ったのが恥ずかしくもまた会いたいという気持ちになったいた。
真紀理もそれを思い出し顔が赤くなった。

「おう。また来るからそのときに…」

冷たい目で香織がツッコんだ。

「そのときになんじゃ?」

「いや、べつにへんなことするわけしゃないぜ。一緒に話をしたり酒を飲んだりしようっていう…」

沙織がたどたどしい言い訳をする。

「また酔っておなご同士でまぐわおうとでもいうのか」

沙織も真紀理も真っ赤になってとりつくろうとしている。

「まぐわうなんて女同士だぜ。あはははは。なあ真紀理、いや真吉」

「そ、そうだよ。とにかく沙織様も元気にかってよかったじゃねえか。それが目的だったんだろ?香織様」

「まあな…」

香織の冷たい目はやまない。
彼女達の横では珍しく黒胡麻の小吉、カズ、亜香里が朝飯の支度に出ていた。
真吉がどうなったのか知りたくて家族全員で参上してわけだが、まさか真吉が女でしかも妙な三角関係になってるとは夢にも思わなかった。
もちろん香織の評判を変えるため黒胡麻の一家全員で口裏を合わせることにした。
ちなみに黒胡麻とはこの時は苗字でなく小吉が黒胡麻売りをしている通り名である。

「まさか真吉が女だとはね。お天道さまでもわかるめえよ」

小吉がつぶやいた。

真吉…真紀理が女…

男のように肩や腕の筋肉が発達していてそれでいて胸は沙織よりも豊満だったことを沙織は思い出しやや顔を赤らめた。
それを隠すように味噌汁を飲み干した。
それを見抜いて呆れる香織。

「なにを思い出して赤くなっておるのだまったく…」

「赤く?あはははは。い、いやさこれは味噌汁が熱くてのう。それで赤くなったのだ」

「ふーん…」

香織の冷たい目はしばらく続いた。
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