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悪そうな武士の笑み

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渡世人の男はもの寂しい顔を一瞬見せたがすぐに傘で顔を見えないようにした。

「若。俺はちょいとヤボ用思い出しちまったんでここでお別れでさぁ」

「そ、そうか。では達者でな」

「へい。陰流の先生に会えるといいですね」

「ああ。探すつもりだ」

この男、香織を探すのか…

渡世人は立ち去った。
その後ろ姿で腰に差していた獲物の尖端が黒い六角のものだと羽織の下から見えた。

あれは剣ではないのか。

ドスにしてもあの形状は…まあもはや関係ない。

治三郎も頭を抑えながらその場を去った。
沙織と亜香里は、どうする?というように互いに顔を見合わせた。

「あの男、我らが案内すればすぐに香織殿に会えるぞ」

「いや待て。オレは香織の名を騙って試合をしたのだ。香織にバレるとまずい」

「では放っておくか?陰流の道場などこの辺りで聞き回ればいずれたどり着く」

「まあ。たどり着いたら着いたの話。オレ達が手を貸すこともあるまい」

「ではそのようにいたすか」

「お前もよその武士の前でその話し方してると無礼討ちにされるぞ」

「ふふふ。そのような心配無用にござる!」

「お。なぜだ?」

「よその武士の前ではしおらしくカマトトぶるからだ!」

「て、それは堂々と言い放つことではないぞ」

「ふふふふ」

不敵な笑みを浮かべる亜香里。

「その悪そうな武士の笑い方どこで覚えたんた?」
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