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〜を貸してもよい

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沙織は愛洲邸に戻ると荷物をまとめた。

鉄風の猿吉…あいつオレが河本一家を殺ったことに気づいた…

しかも居場所まで突き止めやがった。

河本一家と親しい組がないわけない…

きっと猿吉はそいつらに伝えているはずだ。

だとしたら一刻も早くここを出ないと…

沙織は荷物を包んだ風呂敷を肩から袈裟掛けにすると障子を開けた。

「うお!」

目の前には香織が立っている。

「どこへゆく?」

虚を突かれた沙織は動揺した。

「気配を消すんじゃない!」

「どこへゆくかと聞いている」

「どこ?オレは元々旅浪人の身。風の向くまま気の向くままさ」

「なぜ今出てゆく?」

「なぜって…察してくれ」

「なにをだ?」

沙織は一瞬目を逸して考えた。

「真吉さ!真吉をおぬしに取られてくやしのさ」

「そのことなのだが…やはり我らおなご同士。そこで想いを寄せ合うのもおかしなこと。おぬしも男に裏切られ傷ついておる」

なにを言ってるんだこの女侍は?

「真紀理…いや真吉をおぬしに貸してもよい」

香織の後ろから真吉が顔を出した。

「よ!沙織さま!」

爽やかな真吉の笑顔が血なまぐさい沙織の心を浄化する。

「な、どうした?」

真吉は目をトロンもさせ沙織に吐息をかけた。

「今日は二人っきりで話ができますぜ」

「なに?」

香織がゆっくりと障子を閉めた。

こんなときにかぎって…

いや、いつ襲撃が来るかわからぬのにこやつとまぐわってる場合では…

真吉が唇を近づけ沙織を待っている。

するなら沙織からさせようとしている。
男装しているのだけに猛々しい沙織の前では受け身の真紀理になる。

こいつ…

沙織は真紀理の襟を掴んで真紀理の唇を奪った。
沙織も真紀理も互いに激しく求め合うが次第に二人共男っぽさが抜けてゆく。
女同士の吐息の交わりを障子の隙間から凝視してる亜香里は動けなくなっていた。
その襟首をむんずと掴んでのしのしと香織は引きずっていった。

「香織様、わたしも…」

「バカモノ!」
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