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沙織の家

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翌日の放課後、香織と真紀理と亜香里は3階建ての白い豪邸を見上げあんぐりと口を開けた。
亜香里は横に広がる手入れの行き届いた芝生の庭を見た。

やっぱり金持ちか…

香織と真紀理はヨーロッパ風の玄関に立つ沙織を羨望の眼差しで見た。

「ネェさん。お姫様じゃないですか」

「あ~。バレちゃった?」

亜香里は無表情に沙織の前に来て突然悪い笑みを浮かべて言った。

「越後屋。おぬしも悪じゃのう」

「誰が越後屋だ!うちは建築屋なの」

「家を見せたくなかった理由はコレだったんだ」

香織はぼそっと言った。
沙織はバツが悪いのか髪をくしゃっとやった。

「いやべつにそういうわけじゃないんだけど…」

「じゃ、どういうわけ?」

「まあいいから、いいから。その‥おまんらあがれし!」

わざと方言で誤魔化した。

「言われるまでもない。おぬしらも遠慮するな」

と、真紀理と香織に言った。

「いや。お前はちょっとは遠慮しろよ」

沙織は低い声で亜香里を睨んだが亜香里は気にもとめない。

「今日は越後屋のおごりだ」

「建築屋!とにかく入れし」

中に入ると豪邸によくある幅の広い廊下に白い大理石の柱、紺色の床に白い壁がコントラストを強調している。
いかにも建築デザイナーがテーマをもって造った家だと思えた。

「あら。めずらしいこんなに大勢。沙織、おともだち?」

「うん」

そう言って宙に浮いたような白い階段から降りてきたのはプライベートの女優のようなオーラを醸し出した沙織の母親だった。
シンプルなパンタロン姿だが袖も裾もなぜか広がっていてしかも材質がシルクのようにわずかに光を反射させているのは高級なブランドであることは香織達でもわかった。

「こんにちは」

「おじゃまします」

香織と真紀理がかしこまって挨拶をした。
沙織は亜香里を見た。

こいつはなにを言い出すんだろ?

亜香里は一旦咳をして見せ仕切り直した。

「本日は沙織殿のご自宅に招待いただきまことに恐悦至極にござる。拙者は…」

香織が慌てて亜香里の口を塞いだ。

「いつも沙織さんにお世話になっていると言ってます」

「え?武士なのこの子?」

亜香里は香織の手を外して沙織の母親に武士と言われたことに興奮した。

「わかっていただけましたか」

香織は背中に背負った模擬刀ケースを見せた。

「武士の魂と常に共におりますゆえ」

「武士の魂ですって!して流派は?」

「無外流を少々…」

「無外流か。わたしは夢想神伝流」

「なに夢想神伝流?」

沙織の母親は亜香里の手を両手で握った。

「わたしの武士の魂を見ていきなさい」

沙織は頭を抱えた。
香織は「えっと…これって…」

「お母さんも居合やってるの…武士道とかうるさい系だから」

「ええええ!」

沙織の母親は意気揚々と亜香里をどこぞへとつれて行ってしまった。
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