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お母様とかオネエさまとか

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外も暗くなってきた。
香織と真紀理が階段を降りてくると亜香里が沙織の母親と出てきた。
亜香里は興奮で瞳孔が開いたぼーっとした状態でフラフラと出てきた。

「…銘刀…名刀…」

振り心地が忘れられないのか抜きつけの動作をした。

「刀でそんなふうになる?」

香織は呆れた。
沙織の母は亜香里の両肩を後ろから支えるようにしてフォローした。

「好きな人はなるのよ。ね!」

同級生の友達のようなノリになってる。
亜香里はサッと沙織の母へ向き直って両手を握った。

「お母様!」

沙織が亜香里の背中をペシッと叩いた。

「誰がお母様だ!」

「できたらオネエさまと呼んで!」

沙織の母もボケ負けしない。

「図々しいわ!」

沙織が母を一喝した。
そこへ真紀理が割りこんできた。

「わたしがすでに沙織先輩をオネエさまと呼んでるのでややこしいです」

「わかってるから。なんでわたしが全部受け答えしてんの!」

香織がクスクスと笑っていると沙織が手を叩いた。

「はい!今日は解散!みんな散って」

翌日の放課後、香織、真紀理、亜香里が目を輝かせて沙織を待ち伏せていた。
沙織が入ってくると3人はいっせいに「今日も遊びに行っていい?」「ネェさんち行きたい!」「また母上殿の名刀を拝みたいぞ!」と沙織を囲んだ。
沙織は大きく息を吸い「今日はダメ~!」と3人を一声で押し返した。

「なんでぇ?なんでぇ?」

「ネェさん!」

「母上殿は言っていたぞ。武士道みな兄弟と!」

香織達は束になってブーイングした。

「ブーブー言わない!ほら、稽古するよ!」

3人がブツブツ言いながらトボトボと更衣室へ向かった。
沙織はその姿を見て小さく言った。

「なんだ武士道みな兄弟って…?」
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