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ボクシンググローブ

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香織はまたソファに頭を落として横たわった。

「はぁ~。なんかさ。帰り道とかどこ見てもカップルばっかでやんなっちゃった」

ため息まじりで香織はボヤいた。

「この田舎で?」

「この田舎でわざわざ中学生のカップルとか小学生のカップルまでいたんだよね」

「あはははは。小学生?早いでしょ。いくらなんでも」

「ぜんぜんラブラブみたいな感じだったよ。小学生でいい雰囲気出してるなっつうのもう!」

「末恐ろしいよねぇ。そういうの」

「どっちが?女の子?男の子?」

「どっちもでしょ。でもわかんないよ人生なんて」

「まあねぇ…」

「イケイケ男子が中高生になったらおとなしくなったりさ。いじめられてた人がいじめる側になったり、おとなしい女子が見違えるくらいカワイくなったりさ。小学生で恋してフラレたらトラウマになるかもよ」

「そっか…説得力あるなぁ」

「だから今の一時が良くてもそんなのずっと続くわけないじゃん」

「でもなぁ…もし一生運命の相手に会えなかったらどうしよう…」

「運命の相手かどうかなんてどうでもいいじゃん。イケメンで優しくて年収五千万だったらぜんぜんイイ!そうでしょ?」

「いやわたしは…」

香織は宙に目をやって考えた。

「めっちゃイケメンでめっちゃ優しくて年収八千万だったら!」

「年収増えてるし…う~ん」

香織はバッと起き上がり拳を握った。

「いや、やっぱり運命の相手がいい」

「ふ~ん。そんなの現れるかわかんないじゃん」

「う、う~ん。そうなんだよね…」

「一生独身かもよ」

「なんかそうなりそうなのが怖い…」

ドアの横にあるプッシュホンが鳴った。

「え?なになに?」

香織は音源を探しプッシュホンに目をやった。

「もうカラオケじゃん。終了10分前?」

「あはははははは」

沙織はプッシュホンを取った。

「なに?」

沙織の母の声が漏れる。

「紅茶入れたから持ちに来て」

「ハーイ」

「ちょっと取りに行って来るね」

沙織はドアを半開きにして部屋を出た。
香織はソファに横たわり、目をつむった。
すると突然香織の顔になにかが落ちてきた。

「イタッ!」

「なにコレ?」

手に掴んで見るとそれはボクシンググローブだった。
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