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座敷わらし

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「木刀がほしいと言ったら、今度はグローブかよ。お前いったいなに部でなんの練習してるんだよ」

香織はグローブを降ろして目の前に腕を組み自分を見下ろす声の主を見た。
垂らした長い前髪、小さく突き出した鼻、彫刻のような整った唇。
長いまつ毛に二重の大きな目が香織には神秘的に映った。
そういえばハリウッド進出した二世俳優を思い出した。

「え?誰?…沙織の友達?」

「あ。ハイ」

香織は恥ずかしそうに身を起こした。

男の人にえらいとこを見られた…

「おんなじ感じで寝てるから沙織かと思った」

「あの…沙織の…」

「兄だけど。そうかもしかしてオレのモーラナイフもらった人?」

「あ!そうです。わたしです。じゃお兄さん!」

「そうそう。そうなんだ。どうあのナイフ?」

「すごくかわいくて使いやすいです。ありがとうございました」

「でもあれは刃渡りが短いんだよね」

「はあ…」

「もし熊と出くわしたら最低15cmはないと戦えない」

熊?

「え。熊と戦う気ですか?」

と、いう己の言葉で香織の両目が見開いた。
その見開いた目は目の前の男に別の男のイメージを重ねていた。

…この人…目の傷がないけど熊斬斎・村木幸之介だ…

こんなイケメンだったんだ…

香織が運命を感じ始めた瞬間「なにやってんの!」

いつのまにか沙織がドアの前で仁王立ちしていた。

「沙織、そこにいたか」

「え。アニキ、大学は?」

「講義休みだった」

「だったら家でぐーたらしてないでロードワークでも行ってきなよ」

「ぐーたら?今、お前の友達の…名前…」

と、香織を見ると香織がかしこまってすかさず名乗った。

「香織です!愛洲…」

「わーわーわーわー!」

「俺、こいつの兄貴で幸介」

村木幸之介が地井頭幸介…

前世での幸之介と沙織の絆が現世では

兄妹として生まれ変わったんだ…

「わーわーわーわー!」

沙織が2人の間に入って香織の自己紹介を妨害した。

「え?聞こえない。香織ちゃん?」

「わーわーわーわー!」

「そうです。香織です。愛洲香織…」

その瞬間、幸介の視界に女侍の姿が香織に重なった。

「…あれ?どっかで会ったことある?」

沙織が幸介を部屋から押し出した。

「会ったことないから!今日も会ってないからね」

「何いってんだ。今、香織ちゃんに会っただろ」

「幻覚!」

「幻覚じゃないだろ。そこにショートの女の子がいるじゃん」

「あれは座敷わらしだから」

それを聞いてさすがに香織が沙織の後を追って部屋を出た。

「誰が座敷わらしよ!」
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