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地縛霊

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その瞬間また幸介と香織の目が合った。
香織も幸介もそれが互いにかけがえのない瞬間であると感じた。
前世で最後ヤクザ達との斬り合いで幸之介は沙織を助けに来た。
最後の最後で愛する女を救いに来た凄腕の男。
熊斬斎村木幸之介は香織に強烈な印象を残していた。
当時の香織はもし自分が幸之介と夫婦になっていたらと何度も想像した。
しかし何度想像しても沙織の男だと諦めなければならなかった。

そうか…現世ではこの二人が兄妹かぁ…

だったらわたしにもチャンスある…?

「ハイ。自分の部屋に戻りな!」

「オイ。もうちょっと話させろよ香織ちゃんと…」

「香織?そんな人いないって言ってるてしょ。座敷わらしだって!座敷わらしが見えるようになったって心ピュアか!」

「幸介さん!熊用のナイフ今度見せてくださ~い!」

「幸介なんて人間にはいないから!」

沙織は兄の部屋に本人を押し込みながら言い切った。

「じゃそこにいるの誰よ」

「うちによく出る地縛霊だから」

「誰が地縛霊だ!」

「ほら。地縛霊がしゃべるな!」

沙織は幸介を部屋に押し込むとバタンッとドアを勢いよく叩きつけた。

「イタッ!」

幸介は鼻を押さえた。

「大丈夫ですかあ!」

ドアの向こうから香織の心配する声が聞こえた。

「大丈夫!大丈夫!また今度!沙織がいないときにね」

「楽しみにしてま~す!」

ドアと沙織を挟んで幸介と香織は声を掛け合った。

「二度と地縛霊に会うことはないから。さ、帰ろうか座敷わらしくん」

「だから誰が座敷わらしよ!」

香織と沙織の騒がしい声が遠くなっていくと幸介はふと笑みを浮かべた。
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