上 下
160 / 167

ちゅどーん

しおりを挟む
その夜、沙織はベッドの上でパジャマになぜかハチマキをし上体だけ起こしたままファイティングポーズをとるとしばらく目をつむり集中した。
そしてカッと目を開くとブランケットをかぶって寝た。
気づくと沙織はまたあの異世界にいた。
またしても魔道士のかっこうをしている。

「やったぜわたし!」

「ぐあああああ!」

という叫び声とともに沙織の前になにかがドサッと落ちてきた。
負傷した勇者スヴェトラナ・アンクティノヴァだ。

「スヴェトラナ?」

見るとドラゴンエルフの真紀理がデカいドラゴンと闘っている。
その横でキノコを投げつけている亜香里がいる。
キノコがドラゴンに当たってもはね返るだけで意味はない。
真紀理が苦戦している。

「ちょっとドラゴンエルフならドラゴンなんかどうにかしなさいよ!」

「そんなこといったって…こいつはただのドラゴンじゃない!」

「なんか…特別なドラゴンなの?魔竜とか?」

「こいつは伝説の…」

「伝説の?」

「ヤンキードラゴン!」

沙織の目が点になった。

「ヤ…ヤンキードラゴン?」

よく見ると頭から首にかけてリーゼントとも言えそうな長い立髪が生えている。

「魔法という魔法の法則を全てシカトする!ヤンキーだ!」

「わが夢ながら名前がテキトーすぎるな…」

沙織は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。

勇者スヴェトラナが沙織に震える手を伸ばした。

「魔道士サオリンコ…あとは頼む…」

「わかったわ!あとはわたしに任せて」

沙織はヤンキードラゴンの前に立ちはだかった。

「サオリンコ!なにをする気だ?」

亜香里が止めようとした。

「知れたこと。変身!」

沙織は魔法陣の上で光に包まれながらクルクル回りブレザームーンに変身した。
胸ポケットにカラフルなSの字が刺繍されている。

「ブレザームーンS!」

「Sだと?なんだSとは?」

「ブレザームーンスーパーだから」

亜香里は呆れた顔をした。

「たいした活躍もしてないのにもうSがつくのか?」

「やかましいよキノコ使い!」

「で、ヤンキードラゴンをどうやって倒すのだ?」

ヤンキードラゴンが地面を揺らしながら沙織に向かって来た。

「RPG召喚!」

沙織が地面にある魔法陣に呼びかけると魔法陣が光った。

「ロールプレイングゲームを出してヤンキードラゴンと遊ぼうとでもいうのか?」

ヤンキードラゴンは怒れる雄叫びを空へ吐くと牙が隙間から光が漏れた。

「まずい!ヤンキードラゴンが炎を吐く。逃げて!」

真紀理が叫んだ。
沙織はニヤリとして見せた。

「わたしはアメリカ帰りのサオリンコ・ザ・ブレザームーンS!」

ヤンキードラゴンが沙織目掛けて口を大きく開けた。

「アメリカでRPGって言ったらこれだから!」

魔法陣から鉄のデカい包のようなものが浮いて来た。
沙織はそれを掴んで肩へ担ぎヤンキードラゴンに向けた。
ヤンキードラゴンも何なのかと一瞬目を大きく開いた。
照準をヤンキードラゴンに合わせ沙織が言った。

「ランチャーだっつうの!イケ~!」

ヤンキードラゴンもギョッとしたその瞬間だった。

「ちゅどーん!」

ランチャーからロケット弾が発射された。
ヤンキードラゴンは木っ端微塵となった。
そこには肩にランチャーを担いだドヤ顔の沙織が満足気に立っていた。
真紀理と亜香里が駆け寄ると沙織はウィンクしてキメた。

「土星にかわってオシオキよ!」
しおりを挟む

処理中です...