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夢の中の恐怖

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「いきなり出てきて攻撃って!」

赤いサイクロプスのサイを沙織は抜きざまの剣で弾いた。
キーンという金属音が鳴り響いた。

「ぜったいモテないでしょ」

赤いサイクロプスはかまわずもう片方のサイで殴りかかってきた。
沙織は剣で応戦したが、左右から連続で来るしかも己の身長を超える長さのサイに苦戦した。
弾くたびに腕がしびれる。

「夢なのに変なとこリアルね」

香織を見ると青いサイクロプスと剣を青眼に構え互いに隙を伺っている。
空気でせめぎ合ってるのがわかった。

「品のいい戦い方。こっちのサイクロプスはちょっと頭足りない系みたいだし」

赤いサイクロプスは沙織の言葉に怒りの雄叫びを上げた。
空気が震える。

「なにこの変な感じ…夢なのに…」

沙織は巨大な獣が唸り声をあげる姿に固まった。

「夢なのに…怖い…なんで?」

赤いサイクロプスがサイを振り上げた。
身の毛がよだつような恐怖に沙織は包まれた。

「逃げろ!」

ハッとした沙織がサイをかわした。
サイが地面を削った石だの土だのが飛び散る。

…怖い…なんで?なにこの感じ…

沙織はわけも分からず剣を振り回した。

わたしの流派なんだっけ?

無外流…?

居合だから一度納刀しなきゃ…

サイが頭上から振り落とされる。
それを弾く。

「だめだ。今剣を納刀したら死ぬ…」

横から別のサイが薙いできた。

「きゃっ…」

沙織は身を屈めてなんとかかわしたが、剣が飛ばされた。

しまった…

沙織は脇差しを抜いた。
恐怖で涙が溢れてきた。

「う、うう…」

赤いサイクロプスが上から覗き込むように沙織を見た。
ニヤリとした怪物の口からは白い息が漏れた。
今から獲物に食らいつく獣だ。
両手のサイがゆっくりと振り上げられる。

…こ、殺される…

「うわああああああ!」

沙織は狂ったように脇差しを振り回した。
夢だとわかっていたはずなのに人生で体験したことのない恐怖が目の前にいる。
赤いサイクロプスがサイをこれ以上ないというほど高く振り上げた。
あれを食らったら身体はただの肉片となる。
赤い腕が容赦なくサイを沙織目掛けて振り下ろした。

「きゃあああああああ!」
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