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2人の運命をどう伝えようか…

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それは壁の瓦の上を猫のように走り、跳躍した。
庭では虎蔵に追い詰められた沙織が曲がった脇差しを振り回して抵抗しているところだった。
虎蔵が沙織の脇差しを片方の兜割りで抑え、もう片方の兜割りで沙織の頭を砕こうとした刹那のことだった。

「おい!大男!」

虎蔵は七尺(二メートル十センチ)のさらに上からの声を耳にした瞬間、敵襲と認識し沙織に振り上げた兜割りを声の方へと振り回した。
その者は虎蔵の手首と兜割りに両足で乗るように逸した。
太陽を背にしたその者の影は虎蔵を覆ったため虎蔵はなにが向かってきたのかすらわからなかった。
気づいた時は、頑丈そうな刀の鍔が上から下へ目の前を通り、その刀身の厚みを頭の割れ方で感じた。
それが虎蔵の最後の意識した感覚だった。
周囲のやくざ達は信じられない光景を目の前にし固まった。
虎蔵が腰まで真っ二つに割れ血が吹き出した。
一度割れた胴の両腕が体を支える形になったが割れた頭部の重い方から地面に落ち、虎蔵の巨体は地に倒れた。

前世で虎蔵を倒した時の熊斬斎の技だ。
当時は龍蔵の相手をしていた香織はどうやって熊斬斎が虎蔵を斬ったか知るよしもなかったが現世の夢で見たときは映画のようにすべての状況を見ることができた。
香織は前世の夢でとりわけこのシーンが好きだった。

「おい!そこの女子高生!」

熊斬斎の声?
香織が振り返ると熊斬斎の幸之介、いや幸介がいた。
今日は初めて2人で待ち合わせた。
芝生の上を子供達が楽しそうに駆け回っていたり、舞鶴公園を散歩コースにしている大人達が通り過ぎる。

「無事に出てこれたんですか?」

「まあね。いつもだったら沙織の関所があるんだけど今日はなんか様子おかしかった」

「顔赤かったんじゃないのかな…ふふ」

「あ~。言われてみるとなんか赤っぽかったような…」

香織は運命の相手と一緒に歩いていることがこの上なく嬉しかった。
しかし前世であったことを話すわけにはいかない。
イタイ女子だと思われてしまう。
沙織はたまたま?前世に近い夢を見た。
だから香織は前世を共有できたが、現世で実の兄と恋人同士だったというのはやはり恥ずかしかった。
香織は運命の相手だと言いたいがどう説明すればいいのか見当もつかなかった。

どうしよう…どうすれば伝えられるんだろう…

あの時からあの数百年前からあなたとこうして二人で歩きたかったとどう伝えればいいんだろう…

どれだけ頭を回転させても今日のこの一瞬ですべてを伝えることは不可能だ。
でも香織はあのときの幸之介の生まれ変わりと歩いている。

…もう。これだけでいい…

一緒にいられるなら…

幸介が口を開いた。

「やっと2人きりになれたね」

うん!

「はい…」

恥ずかしそうに幸介を見た。
爽やかで優しい笑みを浮かべたドのつくほどのイケメンは言った。

「三百年ぶりだね。陰流愛洲香織。この瞬間をどれほど待ちわびたか…」

「え?…」

「覚えてる?」

この人…知ってるんだ…

香織はまっすぐに幸介の眼差しを見つめた。
2人は三百年ぶりに再開し気持ちがひとつになった。
唇が重なるのにもう言葉はいらなかった。
そしてこの瞬間が2人にとって永遠になった。



アイスとチーズ FIN
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みんなの感想(1件)

ふくろう
2023.08.27 ふくろう

私も、合氣道の教室やってます!

合氣道を扱った作品は珍しいので、食い入るように読んでます。

かなり、合氣道を勉強されてますね、ご自分でもやられているんでしょうか?

合氣道で仲間を集める大変さは、身をもって体験してます。

二人の女子高生、頑張って下さい!( v^-゜)♪

迷熊井 泥(Make my day)
2023.08.29 迷熊井 泥(Make my day)

ありがとうございます。

初感想で感激です。

合気道、やりだしてもう十年以上になります。

合気道の教室をされてるのですね。
ほんとに難しいですよね、人を集めるって。わかります。

この作品楽しんでいただけたら幸いです。

もっと合気道のこと書こうと思いました。◉⁠‿⁠◉

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