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江戸に挑戦状を叩きつける
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「この人の多さときたら、相変わらずだな」
典膳はひとり江戸に着いた。
この頃は、まだ徳川家康が駿府から江戸に移ったばかりで、城下も北条没落後の殺伐としたものだった。
まだ江戸の文化と呼べるようなものも当時はなく、人々は娯楽に飢えていた。
それでも城下町には違いない。
典膳は人の多さと賑わいに驚きながらも、目に入った旅籠屋に入った。
そしてしばらくすると、高札を抱えて出てきた。
高札を地面に刺し、そのまままた旅籠屋に戻っていった。
通りかかる人々は、何事かと典膳の高札の前で足を止めた。
高札には「天下一流一刀流 腕に望あらば勝負承る」とある。
「へえ!こりゃあいいや」
「面白れぇのがいるな」
「天下一流?どれほど腕が立つのかねぇ?」
町人達が高札に群がるのを見た三人の徳川守護の武士達が、何事かと立札の前に足を止める。
この頃はまだ旗本という呼び名はなく、守護と呼ばれていた。
「この徳川城下にて徳川守護の往来する道のど真ん中で、なんという
大胆な高札を…捨てておけん」
「いったいどれほどのものだというのだこの一刀流?」
「いや待て…伊藤一刀斎の流派が確か一刀流ではなかったか?」
「ではこの旅籠に、あの一刀斎が泊まっているのか?」
ちょうどそこへが水を巻きに出てきた。
「おい。この高札を書いたのは、なんという御仁だ?」
「伊藤一刀斎殿が、泊まっておるのか?」
「いいえ。神子上様という御仁でございます」
「神子上?」
徳川守護の武士達は互いに見合わせて顔をしかめた。
「一刀斎ではないのか…」
「ま、弟子か、その名を騙る者の仕業かわからぬが」
「いずれにせよ。戻ってこのことを小幡勘兵衛殿に伝えねば」
「うむ」
丁稚は立ち去る三人の守護を見送り、高札を見る。
「へえ。一刀流っていうんだぁ…」
太く反りのないまっすぐな木刀が、入口からスッと出てきた。
持って出てきたのは、高札を立てた典膳。
「すまぬが」
「はい。なんでございましょうか」
「半刻ほどしたら戻る。誰か訪ねてきたら待つように言ってくれ」
「はい。承知しました」
典膳は、旅籠屋の周辺を歩き周り、稽古のできそうな場所を探した。
街外れに小山を見つけよさそうな大木を見つけて打ち木の稽古をする。
千回ほど打ったら今度は、林の坂を木々を打ちながら走りながら登ってゆき、
走り降りては、さらに木々を打った。
凄まじい速さで坂を駆け抜ける姿はまさに天狗。
稽古を終え旅籠屋に戻ると訪ねて来た者を期待したが、誰もいなかった。
高札に立ち止まる者は多けれど、実際に典膳に勝負を挑むほどの人物はいなかった。
典膳は風呂で汗を流し心を静めることにした。
浴場には人がほとんどいなかった。
静かに湯舟につかりながら、典膳は今までのことを考えていた。
一刀斎は生涯、仕官することなく独りの剣豪として日本中を行脚し、剣の道を極めた…
しかし当時の世の中と言えば、典膳が一刀斎と出会った年に本能寺の変が起こり秀吉が天下となった…
出家した一刀斎は、織田信長に士官するようによく言われていたが生涯において召し抱えを断り全国を放浪した。
一刀斎のように士官の誘いを断って、日本中を行脚して技を伝えるのもいい。
しかし典膳はそんな一刀斎とは逆の考え方をしていた。
士官して己を試したい。
「徳川が豊臣を倒し天下を取るのならその大義に手を貸す、いやこの
身を捧げてこそ士道。そしてそれこそが我が一刀流の発展に繋がるは
ず」
二代目となり典膳は一刀流をどう発展させるかを考えていた。
「師匠が全国を行脚し最後に得た弟子が善鬼と自分。俺はたまたま師
匠に出会って二代目を継承したが、三代目の人材に出会えるかわから
ん。だが、徳川家に召し抱えられれば将来、才のある者にも出会えよ
う」
そうしてこれから天下を狙う徳川家が城を構える江戸を目指してきたのだ。
「とにもかくにも江戸の地で剣の名をあげる」
典膳は、湯舟を出て浴衣を羽織り、今一度決決意を固めた。
部屋の窓から通りが見える。
今、自分は江戸にいる。
神子上典膳の一刀流を江戸中に必ず知らしめてやる。
明日から、きっと明日から自分に挑んでくる者が現れる。
そう信じてその日、典膳は眠りについた。
典膳はひとり江戸に着いた。
この頃は、まだ徳川家康が駿府から江戸に移ったばかりで、城下も北条没落後の殺伐としたものだった。
まだ江戸の文化と呼べるようなものも当時はなく、人々は娯楽に飢えていた。
それでも城下町には違いない。
典膳は人の多さと賑わいに驚きながらも、目に入った旅籠屋に入った。
そしてしばらくすると、高札を抱えて出てきた。
高札を地面に刺し、そのまままた旅籠屋に戻っていった。
通りかかる人々は、何事かと典膳の高札の前で足を止めた。
高札には「天下一流一刀流 腕に望あらば勝負承る」とある。
「へえ!こりゃあいいや」
「面白れぇのがいるな」
「天下一流?どれほど腕が立つのかねぇ?」
町人達が高札に群がるのを見た三人の徳川守護の武士達が、何事かと立札の前に足を止める。
この頃はまだ旗本という呼び名はなく、守護と呼ばれていた。
「この徳川城下にて徳川守護の往来する道のど真ん中で、なんという
大胆な高札を…捨てておけん」
「いったいどれほどのものだというのだこの一刀流?」
「いや待て…伊藤一刀斎の流派が確か一刀流ではなかったか?」
「ではこの旅籠に、あの一刀斎が泊まっているのか?」
ちょうどそこへが水を巻きに出てきた。
「おい。この高札を書いたのは、なんという御仁だ?」
「伊藤一刀斎殿が、泊まっておるのか?」
「いいえ。神子上様という御仁でございます」
「神子上?」
徳川守護の武士達は互いに見合わせて顔をしかめた。
「一刀斎ではないのか…」
「ま、弟子か、その名を騙る者の仕業かわからぬが」
「いずれにせよ。戻ってこのことを小幡勘兵衛殿に伝えねば」
「うむ」
丁稚は立ち去る三人の守護を見送り、高札を見る。
「へえ。一刀流っていうんだぁ…」
太く反りのないまっすぐな木刀が、入口からスッと出てきた。
持って出てきたのは、高札を立てた典膳。
「すまぬが」
「はい。なんでございましょうか」
「半刻ほどしたら戻る。誰か訪ねてきたら待つように言ってくれ」
「はい。承知しました」
典膳は、旅籠屋の周辺を歩き周り、稽古のできそうな場所を探した。
街外れに小山を見つけよさそうな大木を見つけて打ち木の稽古をする。
千回ほど打ったら今度は、林の坂を木々を打ちながら走りながら登ってゆき、
走り降りては、さらに木々を打った。
凄まじい速さで坂を駆け抜ける姿はまさに天狗。
稽古を終え旅籠屋に戻ると訪ねて来た者を期待したが、誰もいなかった。
高札に立ち止まる者は多けれど、実際に典膳に勝負を挑むほどの人物はいなかった。
典膳は風呂で汗を流し心を静めることにした。
浴場には人がほとんどいなかった。
静かに湯舟につかりながら、典膳は今までのことを考えていた。
一刀斎は生涯、仕官することなく独りの剣豪として日本中を行脚し、剣の道を極めた…
しかし当時の世の中と言えば、典膳が一刀斎と出会った年に本能寺の変が起こり秀吉が天下となった…
出家した一刀斎は、織田信長に士官するようによく言われていたが生涯において召し抱えを断り全国を放浪した。
一刀斎のように士官の誘いを断って、日本中を行脚して技を伝えるのもいい。
しかし典膳はそんな一刀斎とは逆の考え方をしていた。
士官して己を試したい。
「徳川が豊臣を倒し天下を取るのならその大義に手を貸す、いやこの
身を捧げてこそ士道。そしてそれこそが我が一刀流の発展に繋がるは
ず」
二代目となり典膳は一刀流をどう発展させるかを考えていた。
「師匠が全国を行脚し最後に得た弟子が善鬼と自分。俺はたまたま師
匠に出会って二代目を継承したが、三代目の人材に出会えるかわから
ん。だが、徳川家に召し抱えられれば将来、才のある者にも出会えよ
う」
そうしてこれから天下を狙う徳川家が城を構える江戸を目指してきたのだ。
「とにもかくにも江戸の地で剣の名をあげる」
典膳は、湯舟を出て浴衣を羽織り、今一度決決意を固めた。
部屋の窓から通りが見える。
今、自分は江戸にいる。
神子上典膳の一刀流を江戸中に必ず知らしめてやる。
明日から、きっと明日から自分に挑んでくる者が現れる。
そう信じてその日、典膳は眠りについた。
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