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抜刀隊の男
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忠明は待ち伏せや夜襲を警戒し、ほとんど一泊するごとに宿を変えていた。
故に薬丸示現流の者達がいざ探し出すとなるとかなり手を焼いた。
城下町の宿を片っ端から調べていたがなかなか見つからない。
しばらくして留守番をしていた道場の者達が、捜索隊を呼び集めに来た。
「佐々木小次郎が道場に来おった!」
全員が唖然とした。
まさか敵が道場にやってくるとは考えてなかった。
いや、考えればわかりそうなものだが攻める立場になると攻められることをあまり考えなくなる。
「ちょっしもた!」
そのとき佐々木小次郎はほとんどの町道場を倒していた。
残るは薬丸示現流道場しかなかったのだ。
薬丸流の者達が一斉に道場に戻ると、佐々木小次郎が木剣で肩を叩き、あくびをして待っていた。
待ちくたびれたといわんばかりの眠そうな顔をして見せた。
「もはや、帰っておなごでも抱こうかと思っていたと
ころ。まあ、見たところ拙者の寝むけ覚ましにもなら
ぬような者達がそろっているようだが」
「なにを~」
「はまっとか?」
今にも飛び掛かりそうな勢いで小次郎を囲んだ。
小次郎は、またいつものように道場の者達をイラつかせて倒す。
みな同じ袈裟斬りで向かってくる。
義弘公の抜刀隊に入れなかった中途半端な者ばかりだ。
「では、はじめるか…」
と、またあくびをして見せた。
道場の者達が木刀を肩の前に構えた。
そこへ傷の男も戻ってきた。
伊集院の命令どおり義弘の抜刀隊の者を連れて。
「待て!」
小次郎とその場の全員が傷の男の方を見た。
入口から男が一人、入ってきた。
小次郎、いや忠明には見覚えがある男だった。
あの男はたしか…
島津義弘達と剣を交え、酒を飲み交わしたときにいた抜刀隊の一人だ。
あの人数の中の一人を、忠明が覚えているのだ。
相手は忠明の顔を絶対に忘れていまい。
まずい…
抜刀隊の男は道場に入ってくるとまっすぐに小次郎の方へ近づいてきた。
佐々木小次郎の扮装がバレる…
ならばこの場にいる者達を全員斬って口封じをするか…。
今まで小次郎としては誰も殺してはいない。
あくまで騒ぎを起こし島津の者達の目を向けさせ、柳生の者達が徳川の荷を積んだ明の船を襲う者達の情報を収集することを手助けするのが目的だ。
しかも今は小倉の剣技指南役候補、佐々木小次郎だ。
斬れば小倉藩も責任を問われるかもしれん。
しかし万が一のときは、後先考えずに全員斬り伏せてでも生還しろというのが、秀忠の命令だった。
今がその時…いや、次の瞬間がその時となる…
抜刀隊の男は小次郎を凝視した。
忠明は仕方なく覚悟を決めた。
しょせん斬るときは斬るしかない…
傷の男も抜刀隊の男が小次郎を小野忠明だと言うのを待っていた。
抜刀隊の男は、忠明の目を見て言った。
「こやつは…」
忠明は左手の親指でそっと鯉口を内切りに、相手に見えないように刀の鍔を押し出した。
すぐに腰の長剣を抜き出せるように。
抜きざまに眼の前の男の首と胴を斬り離す。
義弘公の前で一緒に酒を飲み交わした男だが、仕方がない…
抜刀隊の男は言った。
「小野忠明とは似ても似つかん!」
「なんじゃと?」
傷の男は耳を疑った。
絶対に佐々木小次郎は小野忠明だと思っていたからだ。
正体を問い詰めれば戦うまでもないと。
「忠明殿は、こんな前髪をたらすような男じゃな
か!」
忠明は気づかれないようにゆっくりと息を吐き、剣の鍔を鞘の鯉口に戻した。
「小野忠明どんという男はな!武士の中の武士!男の
中の男じゃ!」
「わが気迫を心地よいと言い放つような豪傑じゃ!こ
んなてげてげもんじゃなか!小野忠明はな、まことの
ぼっけもんじゃ!」
ぼっけもん。その意味はわからなかったが、忠明は阿国の変装の技術に感謝した。
そう簡単には見破られない変装だったのだ。
阿国がしつこく佐々木小次郎の人物像を演出していたのもこのためだったのだ。
「すったいばかんごたい!」
そう言って、抜刀隊の男は呆れて帰ってしまった。
木剣で肩を叩きながら、忠明は緊張感なさげにわざとあくびをした。
「ふあ~。さっきから何をやってるのだ。おなごの色
恋の相談ごとのようにぐじぐじしておるのう」
「なにを~?はまっとかぁ!」
忠明が道場生達に向き直りまたしてもあの言葉で一喝した。
「たっちきこんか!」
鹿児島弁で一喝され、一斉に小次郎にかかっていった。
瞬間、忠明はおや?と思った。いつものなら示現流は置きトンボという八相で構えてくるはずだが。
薬丸道場の者達は、腰に剣を納刀した状態で向かってきた。
まるで居合、抜刀術だ。
傷の男は、小次郎の表情の変化を見逃さなかった。
佐々木小次郎はやはり薬丸示現流を知らない。
傷の男はニヤリとした。
故に薬丸示現流の者達がいざ探し出すとなるとかなり手を焼いた。
城下町の宿を片っ端から調べていたがなかなか見つからない。
しばらくして留守番をしていた道場の者達が、捜索隊を呼び集めに来た。
「佐々木小次郎が道場に来おった!」
全員が唖然とした。
まさか敵が道場にやってくるとは考えてなかった。
いや、考えればわかりそうなものだが攻める立場になると攻められることをあまり考えなくなる。
「ちょっしもた!」
そのとき佐々木小次郎はほとんどの町道場を倒していた。
残るは薬丸示現流道場しかなかったのだ。
薬丸流の者達が一斉に道場に戻ると、佐々木小次郎が木剣で肩を叩き、あくびをして待っていた。
待ちくたびれたといわんばかりの眠そうな顔をして見せた。
「もはや、帰っておなごでも抱こうかと思っていたと
ころ。まあ、見たところ拙者の寝むけ覚ましにもなら
ぬような者達がそろっているようだが」
「なにを~」
「はまっとか?」
今にも飛び掛かりそうな勢いで小次郎を囲んだ。
小次郎は、またいつものように道場の者達をイラつかせて倒す。
みな同じ袈裟斬りで向かってくる。
義弘公の抜刀隊に入れなかった中途半端な者ばかりだ。
「では、はじめるか…」
と、またあくびをして見せた。
道場の者達が木刀を肩の前に構えた。
そこへ傷の男も戻ってきた。
伊集院の命令どおり義弘の抜刀隊の者を連れて。
「待て!」
小次郎とその場の全員が傷の男の方を見た。
入口から男が一人、入ってきた。
小次郎、いや忠明には見覚えがある男だった。
あの男はたしか…
島津義弘達と剣を交え、酒を飲み交わしたときにいた抜刀隊の一人だ。
あの人数の中の一人を、忠明が覚えているのだ。
相手は忠明の顔を絶対に忘れていまい。
まずい…
抜刀隊の男は道場に入ってくるとまっすぐに小次郎の方へ近づいてきた。
佐々木小次郎の扮装がバレる…
ならばこの場にいる者達を全員斬って口封じをするか…。
今まで小次郎としては誰も殺してはいない。
あくまで騒ぎを起こし島津の者達の目を向けさせ、柳生の者達が徳川の荷を積んだ明の船を襲う者達の情報を収集することを手助けするのが目的だ。
しかも今は小倉の剣技指南役候補、佐々木小次郎だ。
斬れば小倉藩も責任を問われるかもしれん。
しかし万が一のときは、後先考えずに全員斬り伏せてでも生還しろというのが、秀忠の命令だった。
今がその時…いや、次の瞬間がその時となる…
抜刀隊の男は小次郎を凝視した。
忠明は仕方なく覚悟を決めた。
しょせん斬るときは斬るしかない…
傷の男も抜刀隊の男が小次郎を小野忠明だと言うのを待っていた。
抜刀隊の男は、忠明の目を見て言った。
「こやつは…」
忠明は左手の親指でそっと鯉口を内切りに、相手に見えないように刀の鍔を押し出した。
すぐに腰の長剣を抜き出せるように。
抜きざまに眼の前の男の首と胴を斬り離す。
義弘公の前で一緒に酒を飲み交わした男だが、仕方がない…
抜刀隊の男は言った。
「小野忠明とは似ても似つかん!」
「なんじゃと?」
傷の男は耳を疑った。
絶対に佐々木小次郎は小野忠明だと思っていたからだ。
正体を問い詰めれば戦うまでもないと。
「忠明殿は、こんな前髪をたらすような男じゃな
か!」
忠明は気づかれないようにゆっくりと息を吐き、剣の鍔を鞘の鯉口に戻した。
「小野忠明どんという男はな!武士の中の武士!男の
中の男じゃ!」
「わが気迫を心地よいと言い放つような豪傑じゃ!こ
んなてげてげもんじゃなか!小野忠明はな、まことの
ぼっけもんじゃ!」
ぼっけもん。その意味はわからなかったが、忠明は阿国の変装の技術に感謝した。
そう簡単には見破られない変装だったのだ。
阿国がしつこく佐々木小次郎の人物像を演出していたのもこのためだったのだ。
「すったいばかんごたい!」
そう言って、抜刀隊の男は呆れて帰ってしまった。
木剣で肩を叩きながら、忠明は緊張感なさげにわざとあくびをした。
「ふあ~。さっきから何をやってるのだ。おなごの色
恋の相談ごとのようにぐじぐじしておるのう」
「なにを~?はまっとかぁ!」
忠明が道場生達に向き直りまたしてもあの言葉で一喝した。
「たっちきこんか!」
鹿児島弁で一喝され、一斉に小次郎にかかっていった。
瞬間、忠明はおや?と思った。いつものなら示現流は置きトンボという八相で構えてくるはずだが。
薬丸道場の者達は、腰に剣を納刀した状態で向かってきた。
まるで居合、抜刀術だ。
傷の男は、小次郎の表情の変化を見逃さなかった。
佐々木小次郎はやはり薬丸示現流を知らない。
傷の男はニヤリとした。
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