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第二幕 千紗の章
思いがけない協力者
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「所で、今日は突然に何用で豊田に参ったのか、訊いても良いだろうか?」
「はい。私は今日ここへは、父よりの命を受けて参りました。将門殿が再び良兼伯父達と戦をする事あらば、私は将門殿の味方となれと」
「……」
忠輔の申し出に、小次郎は驚きのあまり目を見開いて彼を見た。
「今の将門殿のお立場を、父はとても案じております。我が父は、ご存知の通り平氏一門の中では浮いた存在。はみ出し者の苦しみは、誰よりも父が知っております。でも、そんなはみ出し者の父を、兄弟の中で将門殿の父君だけはいつも気にかけてくださったと、父はよく語っておりました。今、我が父が陸奥守として、帝の為働くことが出来るのは、鎮守府将軍として活躍なさっていた良将様の推薦があったればこそ。今こそ良将様のご恩に報いるべき時。と、そう父より命を賜って参りました。是非とも我等をお味方に加えてはいただけないでしょうか?」
「……………忠輔殿……」
忠輔の申し出に、小次郎はただただ驚くばかり。
忠輔にとって、今の自分と手を組む事に、何か利点があるとも思えない。
彼の父、良文叔父が有する土地の多くは、相模国と武蔵国にある。
普通なら他国の争いになど巻き込まれたくないと思うもの。
波風立てず、ただじっと見守る事こそが良文、忠輔親子にとっては得策のはず。
それなのに、利よりも情を重んじた良文、忠輔の申し出に、小次郎は胸の奥に熱くなるものを感じた。
「忠輔殿……思ってもいなかった申し出、誠に有り難く存ずる。ありがとう」
感謝の意を込めて、忠輔に向け深く深く頭を下げる小次郎。
「ま、将門殿っ、そんな、頭をお上げ下さい」
「いや、忠輔殿の申し出には、いくら感謝してもしたりないのだ」
欲に溺れ、情を忘れた者達に、幾度となく心を傷付けられて来た小次郎。
そんな彼の心を、良文、忠輔がかけてくれた情は、じんわりと優しく温めてくれたのだ。
――『心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん(訳:心さえやましくなければ、ことさら神に祈らなくても、自然に神の加護があるであろう)』
あの詩を千紗が言付けた意味が、今少しだけ、小次郎にも理解できた、そんな気がした。
「おぉっと将門さんよ~。棟梁がそう簡単に頭を下げるもんじゃないぜ」
ふとその時、小次郎が忠輔に向け謝意を伝えていたその背後から、突然に小次郎を叱責する声が飛んできた。
「あぁ!お前っ?!」
続いて聞こえて来たのは、四郎の怒りを含んだ驚きの声。
何事かと顔を上げ、小次郎が見上げた先には
「………玄明?!」
いつだったか小次郎が身柄を取り押さえた自称大悪党、藤原玄明が立っていた。
_________________________
●鎮守府将軍
奈良時代から平安時代にかけて陸奥国に置かれた軍政府である鎮守府の長官。
陸奥国と出羽国(現在の山形、秋田県)の両国に駐屯する兵士を指揮し、平時におけるただ一人の将軍として両国の北方にいた蝦夷と対峙し両国の防衛を統括した。
平安時代中期以降は武門の最高栄誉職と見なされていた。
「はい。私は今日ここへは、父よりの命を受けて参りました。将門殿が再び良兼伯父達と戦をする事あらば、私は将門殿の味方となれと」
「……」
忠輔の申し出に、小次郎は驚きのあまり目を見開いて彼を見た。
「今の将門殿のお立場を、父はとても案じております。我が父は、ご存知の通り平氏一門の中では浮いた存在。はみ出し者の苦しみは、誰よりも父が知っております。でも、そんなはみ出し者の父を、兄弟の中で将門殿の父君だけはいつも気にかけてくださったと、父はよく語っておりました。今、我が父が陸奥守として、帝の為働くことが出来るのは、鎮守府将軍として活躍なさっていた良将様の推薦があったればこそ。今こそ良将様のご恩に報いるべき時。と、そう父より命を賜って参りました。是非とも我等をお味方に加えてはいただけないでしょうか?」
「……………忠輔殿……」
忠輔の申し出に、小次郎はただただ驚くばかり。
忠輔にとって、今の自分と手を組む事に、何か利点があるとも思えない。
彼の父、良文叔父が有する土地の多くは、相模国と武蔵国にある。
普通なら他国の争いになど巻き込まれたくないと思うもの。
波風立てず、ただじっと見守る事こそが良文、忠輔親子にとっては得策のはず。
それなのに、利よりも情を重んじた良文、忠輔の申し出に、小次郎は胸の奥に熱くなるものを感じた。
「忠輔殿……思ってもいなかった申し出、誠に有り難く存ずる。ありがとう」
感謝の意を込めて、忠輔に向け深く深く頭を下げる小次郎。
「ま、将門殿っ、そんな、頭をお上げ下さい」
「いや、忠輔殿の申し出には、いくら感謝してもしたりないのだ」
欲に溺れ、情を忘れた者達に、幾度となく心を傷付けられて来た小次郎。
そんな彼の心を、良文、忠輔がかけてくれた情は、じんわりと優しく温めてくれたのだ。
――『心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん(訳:心さえやましくなければ、ことさら神に祈らなくても、自然に神の加護があるであろう)』
あの詩を千紗が言付けた意味が、今少しだけ、小次郎にも理解できた、そんな気がした。
「おぉっと将門さんよ~。棟梁がそう簡単に頭を下げるもんじゃないぜ」
ふとその時、小次郎が忠輔に向け謝意を伝えていたその背後から、突然に小次郎を叱責する声が飛んできた。
「あぁ!お前っ?!」
続いて聞こえて来たのは、四郎の怒りを含んだ驚きの声。
何事かと顔を上げ、小次郎が見上げた先には
「………玄明?!」
いつだったか小次郎が身柄を取り押さえた自称大悪党、藤原玄明が立っていた。
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●鎮守府将軍
奈良時代から平安時代にかけて陸奥国に置かれた軍政府である鎮守府の長官。
陸奥国と出羽国(現在の山形、秋田県)の両国に駐屯する兵士を指揮し、平時におけるただ一人の将軍として両国の北方にいた蝦夷と対峙し両国の防衛を統括した。
平安時代中期以降は武門の最高栄誉職と見なされていた。
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