25 / 31
2章 傭兵団拡張編
3話
しおりを挟む【本文】
カオルが違和感を感じている頃、フィル組みはモンスターに囲まれ、既に戦闘状態に陥っていた。
「セル、あまり追いすぎないで!みんなも広がりすぎないように戦って。ハルはMPの使いすぎに注意して足りなくなる前にマナポーションでMP回復をして!」
フィルは戦いながら仲間に指示を出していた。
「グゥガアァーーー!!」
フィルの前にはオークよりも大きく、手には荒削りされた棍棒を持ち、屈強な身体を持つオーガがいた。
「はああぁーー!!」
フィルは素早く近づき屈み、剣を下から切り上げた。オーガに当たったもののかすり傷も与えられていなかった。
「うそ!」
フィルの言葉を理解しているのかはわからないがオーガはニヤリと笑い、持っていた棍棒をフィル目掛けて振り下ろした。フィルはそれに反応し、避けるが風圧だけで飛ばされ、仲間とは離れ孤立してしまった。
「うそ・・・、嫌!嫌ー!!」
オーガとのレベル差に加え孤立してしまった事により仲間を思い堪えていた恐怖心が爆発した。
「「「フィル!!」」」」
「嫌ー!!来ないで!怖い!カオル様!助けて!!」
仲間の呼ぶ声もフィルにはもう届かない程に精神は乱れていた。
「カオル様・・・、カオル・・様・・・」
項垂れるようにして地面に座り込みながらカオルの名を呼ぶフィルの顔は絶望感に満たされていた。
周りのモンスターの鳴く声やオーガの近づいて来る足音がフィルの耳に届き、フィルの恐怖心や悲壮感はピークを迎えていた。
「やっと、見つけたのに・・・。私の・・帰る場所を。ごめんなさい・・・カオル様・・・・・」
項垂れているフィルの目の前まで来たオーガはニヤニヤと笑いながら棍棒を持ち上げ、振り下ろした。
しかし、目に映ったのは肘から先が無くなっている自分の腕であった。
「フ、フガアアァァーーー!!」
腕を斬られた痛みにオーガは叫び声を上げた。そんな中、フィルの耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「遅くなってごめん。あとは僕に任せて。よく頑張ったねフィル」
頭を撫でられる感覚を感じて顔を上げるとそこには笑顔でフィルを見つめるカオルがいた。
「カオル様・・・カオル様ー!!」
フィルはカオルに抱き着き、声を上げて泣きじゃくった。
「怖かった。でも、でも、私が頑張らない、頑張らないと、みんなが、みんなが」
「分かってる。だから、安心しろ」
泣きじゃくるフィルをカオルはただただ撫でていた。
「【軍団召喚】!!」
カオルがスキルを発動させると数十を超える騎士のような甲冑を身に纏い、片手剣と盾を装備した騎士ゴーレムが召喚された。召喚されたゴーレム達はカオルとフィル、フィル組みの子供達を守るように囲むように立っていた。
「ゴーレム達よ、モンスター供を殺せ!」
怒気の篭ったカオルの命令にゴーレム達は聞き、動き出した。
「ブヒヒー!」
騎士ゴーレムと対峙したオークが錆びた剣を振り下ろしたがゴーレムに盾で剣を弾き飛ばし、逆に剣を一振り浴びた。すると、斬られたオークは胴体を二つに分けその場で崩れた。
他の所でも騎士ゴーレムによりモンスターが次々と葬らされていった。ゴーレムよりもモンスターの数の方が多いのにモンスターはゴーレム達に蹂躙されていた。
「セル、ハル、セイベル!こっちに来い!」
「は、はい!お前ら行くぞ!」
「「う、うん」」
カオルに言われた通りセル達はカオルの元まで来た。
「よく頑張った。あとは僕が相手をするからフィルを頼む」
「分かりましたカオル様」
「フィルの事は俺らに任せて下さい!」
「お気をつけて」
「行ってくるよ」
僕は三人の頭を撫でてからモンスターの群れに向かって行った。
__________________
モンスターの群れへと向かった僕はまず、ゴーレムのリーダーである部隊長と話していた。意思は無いが簡単な会話などが出来るのだ。
「部隊長、現在の状況は」
「マスター、敵はおよそ45%を排除しており、味方は3%の被害が出ております。敵の個体の中にこちらのゴーレムと同等の強さを持つ個体がいます。いかが致しましょうか?」
「僕がその個体を倒す。その個体の場所を教えてくれ」
「イエス、マスター」
部隊長の案内で連れてこられたのは片腕の肘から先が無いオーガだった。ほぼ片腕を無くしているのと同等なのにあのオーガはゴーレムと同等に戦っていた。つまり、両手が使えたらゴーレムは負けていた事になる。これは改良しなければならないと僕は思った。
「部隊長、あのオーガは僕に任せて、ゴーレムには他のモンスターを相手するように伝令せよ」
「イエス、マスター。お気をつけて」
部隊長の言葉を聞き終えた僕はオーガの元へゆっくりと歩き、オーガからゴーレムが離れたのを確認し、
「神剣、換装」
僕は神剣を召喚し、オーガに斬りかかった。
「斬鉄!!」
僕の神剣はオーガの頭上から股下へと滑るように斬れ、オーガは斬られたことにも気付かぬまま真っ二つにされ、生き絶えた。
僕はそんなオーガの死体を見ぬまま、他のモンスターを倒して行った。複数のゴブリンは武器ごと身体を斬り、オークは僕に気付くと斬りかかってきたが、態勢を低くして剣を持つ手を斬り落とし、胴体を一閃するなどと無双していった。
数分が経つ頃にはモンスターの群れは全滅していた。神剣に滴るモンスターの血を払い、保管庫に入れ子供達の元に戻ると子供達は目をキラキラとさせていた。
「カオル様凄かったです!!」
「俺もあんな風に戦いてぇ~」
「いつか俺も・・・」
ハルやセル、セイベルは僕の戦いを見て興奮していたが、フィルだけは俯いていた。
「フィル、大丈夫かい?」
僕はフィルの頭に手をのせ顔を覗き込むと、フィルは後ろを向いてしまった。どこか具合が悪いのではと思い話しかけるが反応が無かった。すると、ハルが僕にそっと近づいてきて耳打ちした。
「フィルは、カオル様の役に立ちたかったのに、迷惑をかけて落ち込んでいるだけです」
そう言ってハルはセル達のところに戻って行った。つまりは具合が悪いのではなく、ただ落ち込んでいただけだったのか。
そうと分かった僕はフィルの横に座り頭を撫でながら話した。
「今がダメでも諦めなければいつかはきっと出来る。僕はそう思っているよ。だから、フィルに何か目標があるなら一度や二度のミスで落ち込んでないで次に繋がるよう頑張ればいい。人は失敗から成功を勝ち取るからね。誰でも一度や二度は失敗する。僕だって何度も失敗するけど、次に繋げるにはどうしたらいいのかと考えるよ。落ち込んでばかりいては先は見えないままだからね」
「カオル様も失敗するんですね」
「そうさ、僕だって人だからね。失敗の連続の中で成功を握り取っているだよ」
「そうですよね、一度や二度の失敗でくよくよしていたらダメですよね!カオル様!私は強くなってカオル様のお役に立てるよう頑張ります!!」
「そ、それは嬉しいな。無理をしない程度で頑張ってくれよ」
「はい!!」
何とかフィルの元気を取り戻せたが、頑張ります発言の時のフィルの目の奥が濁っていたように思えた。この感じはどこかで覚えがあるな。僕はそう思いながら、合流地点に戻った。
合流地点に戻るとミリア組みは既に戻っていた。
「ミリアの方は問題無く終えたようだね」
「カオル様はフィル達の方に行っていたようですが、何かあったのですか?」
「まぁ~、少しね」
ミリアにクエストの確認をし終える頃にシュベインが戻って来た。
「はぁ、はぁ、はぁ、おいカオル、置いて行くとは酷い奴だな」
「シュベイン!そうか・・・。すまん」
「お前、今完全に俺の事を忘れてたな!まぁ~いい。それよりこれを見てくれ」
いいのかよ、と思いながら差し出してきたのを見たが普通の小壺に見える。これがどうしたのかと思い鑑定して僕は理解した。鑑定した小壺は《魔寄せの香》と呼ばれるモンスターを寄せ集めるアイテムで、範囲は数キロまで及び無差別にモンスターを集めさせる効果がある。
「どうやら、分かったようだな」
「あぁ、分かったよ。この依頼自体が罠だったんだな」
「恐らくはそうだろう。盗賊に依頼して俺らを襲わせ、失敗しても討伐されるから証拠が残らない。全ては仕組まれていたって事だ」
「こんな事をするのはあいつしかいないよな?」
「あぁ、俺もあいつだと思う」
「「ガルド」」
僕らは同じ名前を出し、互いに思っていた事を確認出来た。表には出していないが僕の中では怒りが込み上げきていた。僕だけならまだしても子供達を巻き込んだのは許せない。下手したら子供が死んでいたかもしれない。今回やったのは今までのようには終わらせない。今までのも含めてやられた分をやり返してやる。僕は早速行動する為に、ゴーレムは戻し、シュベインと子供達と共にディグル領の店に転移をした。
__________________
あの出来事から4日程経った。僕はガルドの開く店、ガルド商店の売り物を調査して、それに対抗する為の商品を創っていた。
他にも3日間店を臨時休業して店を大きくする為に一階分を増やし二階建てにした。今までの店でもいいが、横長であった為、ある程度は置けても種類ごとに分けて置くことに苦労した。
そこで二階建てにすればと思い、【創造】で創り変えようと思ったが、一夜にして店が二階建になっていたら違和感を通り越して問題になると思い、店を囲むように4本の支柱を立てて、そこから白い垂れ幕を垂らして店を隠し、昼間は建て替えているかのように木や釘を打つ音を出して誤魔化した。
そして、今日建て替えと内装を一新したNewカディス商会を開店させた。
【後文】
投稿の間が空いてしまいすみません。親戚の集まりや同窓会などと私的な事が多忙で書けていませんでした。少し書いたので投稿しました。
今後もよろしくお願いします。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる