異世界で傭兵始めました

ミストレ

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2章 傭兵団拡張編

3話

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【本文】

 カオルが違和感を感じている頃、フィル組みはモンスターに囲まれ、既に戦闘状態に陥っていた。

 「セル、あまり追いすぎないで!みんなも広がりすぎないように戦って。ハルはMPの使いすぎに注意して足りなくなる前にマナポーションでMP回復をして!」

 フィルは戦いながら仲間に指示を出していた。


 「グゥガアァーーー!!」


 フィルの前にはオークよりも大きく、手には荒削りされた棍棒を持ち、屈強な身体を持つオーガがいた。

 「はああぁーー!!」

 フィルは素早く近づき屈み、剣を下から切り上げた。オーガに当たったもののかすり傷も与えられていなかった。

 「うそ!」

 フィルの言葉を理解しているのかはわからないがオーガはニヤリと笑い、持っていた棍棒をフィル目掛けて振り下ろした。フィルはそれに反応し、避けるが風圧だけで飛ばされ、仲間とは離れ孤立してしまった。

 「うそ・・・、嫌!嫌ー!!」

 オーガとのレベル差に加え孤立してしまった事により仲間を思い堪えていた恐怖心が爆発した。

 「「「フィル!!」」」」

 「嫌ー!!来ないで!怖い!カオル様!助けて!!」

 仲間の呼ぶ声もフィルにはもう届かない程に精神は乱れていた。

 「カオル様・・・、カオル・・様・・・」

 項垂れるようにして地面に座り込みながらカオルの名を呼ぶフィルの顔は絶望感に満たされていた。

 周りのモンスターの鳴く声やオーガの近づいて来る足音がフィルの耳に届き、フィルの恐怖心や悲壮感はピークを迎えていた。

 「やっと、見つけたのに・・・。私の・・帰る場所を。ごめんなさい・・・カオル様・・・・・」

 項垂れているフィルの目の前まで来たオーガはニヤニヤと笑いながら棍棒を持ち上げ、振り下ろした。

 しかし、目に映ったのは肘から先が無くなっている自分の腕であった。

 「フ、フガアアァァーーー!!」

 腕を斬られた痛みにオーガは叫び声を上げた。そんな中、フィルの耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 「遅くなってごめん。あとは僕に任せて。よく頑張ったねフィル」

 頭を撫でられる感覚を感じて顔を上げるとそこには笑顔でフィルを見つめるカオルがいた。

 「カオル様・・・カオル様ー!!」

 フィルはカオルに抱き着き、声を上げて泣きじゃくった。

 「怖かった。でも、でも、私が頑張らない、頑張らないと、みんなが、みんなが」

 「分かってる。だから、安心しろ」

 泣きじゃくるフィルをカオルはただただ撫でていた。

 「【軍団召喚トゥループサモン】!!」

 カオルがスキルを発動させると数十を超える騎士のような甲冑を身に纏い、片手剣と盾を装備した騎士ナイトゴーレムが召喚された。召喚されたゴーレム達はカオルとフィル、フィル組みの子供達を守るように囲むように立っていた。

 「ゴーレム達よ、モンスター供を殺せ!」

 怒気の篭ったカオルの命令にゴーレム達は聞き、動き出した。
 
 「ブヒヒー!」

 騎士ゴーレムと対峙したオークが錆びた剣を振り下ろしたがゴーレムに盾で剣を弾き飛ばし、逆に剣を一振り浴びた。すると、斬られたオークは胴体を二つに分けその場で崩れた。

 他の所でも騎士ゴーレムによりモンスターが次々と葬らされていった。ゴーレムよりもモンスターの数の方が多いのにモンスターはゴーレム達に蹂躙されていた。

 「セル、ハル、セイベル!こっちに来い!」

 「は、はい!お前ら行くぞ!」

 「「う、うん」」

 カオルに言われた通りセル達はカオルの元まで来た。

 「よく頑張った。あとは僕が相手をするからフィルを頼む」

 「分かりましたカオル様」

 「フィルの事は俺らに任せて下さい!」

 「お気をつけて」

 「行ってくるよ」

 僕は三人の頭を撫でてからモンスターの群れに向かって行った。





__________________





 モンスターの群れへと向かった僕はまず、ゴーレムのリーダーである部隊長と話していた。意思は無いが簡単な会話などが出来るのだ。

 「部隊長、現在の状況は」

 「マスター、敵はおよそ45%を排除しており、味方は3%の被害が出ております。敵の個体の中にこちらのゴーレムと同等の強さを持つ個体がいます。いかが致しましょうか?」

 「僕がその個体を倒す。その個体の場所を教えてくれ」

 「イエス、マスター」

 
 部隊長の案内で連れてこられたのは片腕の肘から先が無いオーガだった。ほぼ片腕を無くしているのと同等なのにあのオーガはゴーレムと同等に戦っていた。つまり、両手が使えたらゴーレムは負けていた事になる。これは改良しなければならないと僕は思った。

 「部隊長、あのオーガは僕に任せて、ゴーレムには他のモンスターを相手するように伝令せよ」

 「イエス、マスター。お気をつけて」

 部隊長の言葉を聞き終えた僕はオーガの元へゆっくりと歩き、オーガからゴーレムが離れたのを確認し、

「神剣、換装」

 僕は神剣を召喚し、オーガに斬りかかった。

 「斬鉄!!」

 僕の神剣はオーガの頭上から股下へと滑るように斬れ、オーガは斬られたことにも気付かぬまま真っ二つにされ、生き絶えた。

 僕はそんなオーガの死体を見ぬまま、他のモンスターを倒して行った。複数のゴブリンは武器ごと身体を斬り、オークは僕に気付くと斬りかかってきたが、態勢を低くして剣を持つ手を斬り落とし、胴体を一閃するなどと無双していった。
 数分が経つ頃にはモンスターの群れは全滅していた。神剣に滴るモンスターの血を払い、保管庫ストレージに入れ子供達の元に戻ると子供達は目をキラキラとさせていた。

 「カオル様凄かったです!!」

 「俺もあんな風に戦いてぇ~」

 「いつか俺も・・・」
 
 ハルやセル、セイベルは僕の戦いを見て興奮していたが、フィルだけは俯いていた。

 「フィル、大丈夫かい?」

 僕はフィルの頭に手をのせ顔を覗き込むと、フィルは後ろを向いてしまった。どこか具合が悪いのではと思い話しかけるが反応が無かった。すると、ハルが僕にそっと近づいてきて耳打ちした。

 「フィルは、カオル様の役に立ちたかったのに、迷惑をかけて落ち込んでいるだけです」

 そう言ってハルはセル達のところに戻って行った。つまりは具合が悪いのではなく、ただ落ち込んでいただけだったのか。
 そうと分かった僕はフィルの横に座り頭を撫でながら話した。

 「今がダメでも諦めなければいつかはきっと出来る。僕はそう思っているよ。だから、フィルに何か目標があるなら一度や二度のミスで落ち込んでないで次に繋がるよう頑張ればいい。人は失敗から成功を勝ち取るからね。誰でも一度や二度は失敗する。僕だって何度も失敗するけど、次に繋げるにはどうしたらいいのかと考えるよ。落ち込んでばかりいては先は見えないままだからね」

 「カオル様も失敗するんですね」

 「そうさ、僕だって人だからね。失敗の連続の中で成功を握り取っているだよ」

 「そうですよね、一度や二度の失敗でくよくよしていたらダメですよね!カオル様!私は強くなってカオル様のお役に立てるよう頑張ります!!」

 「そ、それは嬉しいな。無理をしない程度で頑張ってくれよ」

 「はい!!」

 何とかフィルの元気を取り戻せたが、頑張ります発言の時のフィルの目の奥が濁っていたように思えた。この感じはどこかで覚えがあるな。僕はそう思いながら、合流地点に戻った。



 合流地点に戻るとミリア組みは既に戻っていた。

 「ミリアの方は問題無く終えたようだね」

 「カオル様はフィル達の方に行っていたようですが、何かあったのですか?」

 「まぁ~、少しね」

 
 ミリアにクエストの確認をし終える頃にシュベインが戻って来た。

 「はぁ、はぁ、はぁ、おいカオル、置いて行くとは酷い奴だな」

 「シュベイン!そうか・・・。すまん」

 「お前、今完全に俺の事を忘れてたな!まぁ~いい。それよりこれを見てくれ」

 いいのかよ、と思いながら差し出してきたのを見たが普通の小壺に見える。これがどうしたのかと思い鑑定して僕は理解した。鑑定した小壺は《魔寄せの香》と呼ばれるモンスターを寄せ集めるアイテムで、範囲は数キロまで及び無差別にモンスターを集めさせる効果がある。

 「どうやら、分かったようだな」

 「あぁ、分かったよ。この依頼自体が罠だったんだな」

 「恐らくはそうだろう。盗賊に依頼して俺らを襲わせ、失敗しても討伐されるから証拠が残らない。全ては仕組まれていたって事だ」

 「こんな事をするのはあいつしかいないよな?」

 「あぁ、俺もあいつだと思う」

 「「ガルド」」

 僕らは同じ名前を出し、互いに思っていた事を確認出来た。表には出していないが僕の中では怒りが込み上げきていた。僕だけならまだしても子供達を巻き込んだのは許せない。下手したら子供が死んでいたかもしれない。今回やったのは今までのようには終わらせない。今までのも含めてやられた分をやり返してやる。僕は早速行動する為に、ゴーレムは戻し、シュベインと子供達と共にディグル領の店に転移をした。




__________________





 あの出来事から4日程経った。僕はガルドの開く店、ガルド商店の売り物を調査して、それに対抗する為の商品を創っていた。

 他にも3日間店を臨時休業して店を大きくする為に一階分を増やし二階建てにした。今までの店でもいいが、横長であった為、ある程度は置けても種類ごとに分けて置くことに苦労した。
 そこで二階建てにすればと思い、【創造】で創り変えようと思ったが、一夜にして店が二階建になっていたら違和感を通り越して問題になると思い、店を囲むように4本の支柱を立てて、そこから白い垂れ幕を垂らして店を隠し、昼間は建て替えているかのように木や釘を打つ音を出して誤魔化した。

 そして、今日建て替えと内装を一新したNewカディス商会を開店させた。




【後文】

 投稿の間が空いてしまいすみません。親戚の集まりや同窓会などと私的な事が多忙で書けていませんでした。少し書いたので投稿しました。
 今後もよろしくお願いします。
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