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01.パッとしない人生でした

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 一言でいえば、『パッとしない人生』だった。

 俺──野丸一範のまる かずのりは生まれてこの方、特に打ち込めたものもなく。熱くなれたことも無く。
 おおよそのことは卒なくこなせ、しかし逆に、いずれも才能は現れず。
 かといって、特に努力もせず生きていた。

 日本という国は、出る杭は打たれるが、出ない杭にも相応に弄られる。
 無視、陰口、仲間外れなどの、軽いが陰湿なイジメも受けた。

 そんな中でも俺は、適当に生き抜き、適当な大学を出て、適当な会社に入って。
 適当に残りの人生を生きるものだと、そう思っていた。

 しかし転機は──いや、終わりは、突然だった。

 信号待ち中に、トラックにドーンと突っ込まれた。

 体は非ぬ形にひん曲がり、たぶん内臓とか飛び出してしまっていた。
 不思議と痛さは感じなかった。脳みそが最期の力を振り絞り、苦痛を退けてくれたのかも知れない。

 薄れゆく意識。
 自分の人生の終わりを覚悟し、そして受け入れていく中。
 俺の目線の先には、花が植えられていた。

 タンポポだ。
 ギザギザの葉がそれと理解させた。
 しかし花は咲いていなかった。ぷっくらと膨らんだ蕾が今にも綻びそうであった。

 だがそのタンポポは、開花は望めなかった。なぜなら、吹き飛ばされた俺が、ソイツの茎を折ってしまったから。

 もし俺が、ここで轢かれていなければ。
 コイツは、綺麗な花を開花させることが出来たのかな。

「……ゴメンな、咲かせられなくて」

 死の間際なのに、まさかタンポポを気に掛けるとは。自分でも驚き、そして滑稽だった。

 そして俺は静かに目を閉じた。
 なにか思い残すことは、と頭を巡らすも、適当に生きすぎたためか、後悔も何も浮かばなかった。

 何も失意の念が生まれないことに、やっと後悔を遺しながら……。
 野丸一範は、人生の幕を下ろした。


 ***


 ***


 そしたら、なんか、新たな人生が始まった。

 ぼんやりと目を開けると、そこは、シルクの天蓋が備え付けられた、それはまあ豪華なベッドの上。
 肌に触れるシーツも驚くほど柔らかった。

「……何だ、ここ?」
 未だに頭が現状を整理できていない。自分が誰なのかすら、わからなくなっていた。

 すると、そのベッドの横に立っていた人が近づいてきた。看護婦さんかなとか思ったが、衣服が白衣ではない。それは、いわゆるメイド服であった。

「ランジェ様! お目覚めに……あ、い、今、旦那様をお呼びいたしますっ!!」

 その妙齢なメイドは、俺のことを『ランジェ』と呼び、そしてそのまま駆け足で部屋を出ていった。

「あ、え、っと、待って……えっ」

 呼び止めようと声を上げるも、その声はメイドには届かなかった。
 そしてなによりそんなことより。
 自分のものとは思えない声色と、自分の口から出た謎の異国語に驚かされた。その言葉は日本語とは全く異なっていたのだ。

 だけども、何故かその言葉は理解できた(先程のメイドの言葉もすんなり理解できているわけで)。

 バイリンガルってこんな感じなのかな、などと思いつつ。開け放たれた扉を横目に、俺は改めて再度ベッドに横たわった。

 手を上に伸ばすと、それは短く。
 そのまま頬に触れるも、それは小さく。
 おおよそ10代中ごろの青年、といったところか。

 こういう『転生モノ』については、流行り物として知っていたけど……。
 まさか自分が当事者になるとは。
 未だに実感はわかず、ぼーっと呆けてしまっていた。

「いてて……」

 寝起きのよくある頭痛……とは少し異なる、脳の奥底から来る鈍痛。
 どうも、ランジェは先程まで高熱でうなされていたようである。頭に乗せられていた氷嚢がそれを物語る。

 しかし、まいった。どうも、前の体の持ち主の記憶は引き継がれないらしい。
 全く無知識で転生させられるパターンだ。この場合、初めからいきなりのハードモードだから困る。

「……ま、折角の再出発リスタート。今回は『パッと華やかな人生』を目指してみるかぁ」

 そんな前向きなことを思った俺だったが、これから始まるランジェとしての人生は、何度も何度も、頭を抱える事となるのだった。
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