チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆

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第7話 追放勇者、後手後手に回る【その3】

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 お久しぶりです。

「……ほんの、数ヶ月ぶりだな」

 そうでしたね。
 時の流れは光の速さ、とは良く言ったものです。

「どのつら下げて来やがった」

 ほんのご挨拶です。
 良い夢は観られましたか? 

「悪夢以外の何者でもない」

 しかしまあ、衰えましたね。
 全盛期のあなたなら、即興で装備に音波耐性を付与するとか、耐性薬を調合するとか。

「……見てたのか」

 正確には、聞いていた、ですよ。良くご存じでしょう? 

「『福音奏者エバンジェリスト』。弱きものの囁きを紡ぎ、女神の声を聞く者、か」

 私の役目は、生きとし生けるものの声を聞き、皆に伝えること。

「ならば、尚更だ。何が目的だ……いや、『何を聞いた』?」

 ……流石ですね。でもあなたでは、私の思いの丈など理解できないでしょう。

「お前のしていることは単なる殺戮だ。『勇者』の威厳はどうしたんだ」

 ……。

「……」

 ……私は……。

「?」

 私は、『勇者』など望んでなかった。

「!!」

 望まぬ力を与えられ、世界の命運を背負わされ。
 そして挙げ句の果てには、大切なものを奪われた。

「ボッサ、お前まさか……」

 私は私のやり方で、『復讐』を果たします。
 ただ……私の心願成就には、新聞屋と元勇者あなたが、少し煩わしかった。

「ボッサ! お前のやり方って何だ! あの精神異常者サイコパスを治療し、サザンカとヒマワリを狂わせ、ジャクレイたちに自殺を暗示……目的が全く見えない!」

 全ては、幸せの極致へ誘わん。
 知らぬことが幸せなこともあります。

「……」

 ……そうそう、言い忘れていました。
 あなたの『幸せ』、預かってますよ。
 ちゃんと取りに来てくださいね。

「……!!」



 ++++++++++++++++++



「……ック! 目を開けろ サック!」
 ボッサと異なる、低い男の声が頭に響く。サックのよく知っている声だ。

「……ジャクレイ?」
「おお! 気がついたか! サック!」

 サックは仰向けになってジャクレイに肩を揺さぶられていた。先ほどまで気を失っていたようだ。着ていた肌着は、寝汗でぐっしょりと濡れていた。

「み……みんな無事か!?」
 そんな自分の状況を他所に、サックは、詰所にいた憲兵たちの心配をした。
 ボッサの暗示によって、自殺を迫られていた人々。サックの咄嗟の機転で、音による衝撃波で刺激を与えるという荒療治を試みてみたが、その結果が確認できていない。

「……安心しろ、誰も死んでいねぇ」
 ジャクレイが指をさした所では、緊急の救護スペースが作られていた。
 サックは周囲を一瞥した。衝撃によって、建屋の窓ガラスは内側から破壊され、壁には数多の亀裂が走っていた。天井の一部は崩落し、受付付近は激しく損傷していた。
 しかし、建物自体はなんとか耐えてくれて、完全崩壊は免れた。そして人的被害も、犠牲者を出すことなく、また、暗示自体も、サックの目論見通りに、強い刺激によって解除させることができていた。

「ケガ人は多そうだな」
 崩れた壁や天井に巻き込まれた人間も少なくなかった。救護スペースに集められたのはそういった類の人たちがメインで、頭や腕、体や足など、いたる場所から流血していたのが見て取れた。
「大丈夫だ、こいつら皆、丈夫さが取り柄だからな。それに、生きているだけで十分。傷はいずれ癒える」
 多少、放任的なジャクレイの意見も、今のサックには十分な励みになった。

 が、ここでサックは、先ほどまで頭に響いていた声のことを思い出した。
(大切なものを預かっている……! まさかっ!)
 サックの顔が強張った。それを見て、ジャクレイは何かを悟った。と同時に、彼はサックに頭を下げた。

「すまん! サック! ……サザンカ姉妹だが、既に昨夜のうちに……」


 +++++++++++++++++


 地下牢は文字通り、もぬけの殻だった。
 サックでさえ、開けるのは困難だと太鼓判を押した三重構造の錠前は、憲兵が外側から、正規の手順を使って開けられていた。
 もちろん、開錠は憲兵の意志ではない。ボッサが鍵を開けるよう、遠くから操ったのだ。

(相手がボッサである時点で、この想定をしていなかった自分のミスだ)
 サックは握った拳で、牢屋の壁を殴りつけた。壁は僅かに手の形に抉れ、パラパラと砂粒が落ちた。

「サザンカたちの行方は目下捜索中だ……馬車で連れていかれたっていう目撃証言も見つかった」
「狙いはあくまで、俺のはずだ。彼女たちを囮につかうだろうな」

 先ほどからずっと、ばつの悪い顔をしているジャクレイ。
「……憲兵でありながら、お前の足を引っ張ってばかりだ。心底情けないぜ」
「気にすんな。まして今回の相手は『勇者』だ。常識が通じないのも無理はない」

 建屋の中の人間全員を催眠状態に仕立て上げることなど、誰が想像できよう。しかし、ボッサならそれが可能だった。
 彼は、『福音奏者エバンジェリスト」だ。
 ビショップ系最高職ではあるが、それに就くには、『回復術師ヒーラー』『白魔術師』のほかにも、『聖騎士パラディン』などの聖職者職に加え、『話術師』『宣教師』の知識が必要になる。

 一介の話術師が暗示を掛けようとすると、対象を一人に搾り、ある程度時間をかける必要がある。が、勇者の力は、各能力の増幅させ、さらには、彼の装備する『福音奏者のマント』が、この暗示能力の効果を底上げさせる。

「『福音奏者のマント』は、広範囲に念話テレパシーを飛ばすんだ。敵味方を識別してな」
「なんてこったい。勇者ってだけで強力な力なのに、そこにチート級装備も追加されてるのか」
「厄介この上ないな……勇者装備を持ち出していたか……」

 サックの追放──もとい、引退時には、装備していたものは全て勇者チームに預けてきていた。唯一選別として、『擬態獣のマント』を貰った程度だ。そのためサックの身に着けている装備は、街で揃えられる質素なものばかりだった。

 一方、サックの引退とは異なり、ボッサは『脱走』だ。今回の事件で、ボッサは勇者装備を『持ち出して』いることが自明となった。

「……くそっ! 頭が回らねぇ」
 今自分が何をすればよいのか。何ができるのか。全く整理が付かなかった。
 サザンカたちを攫われたことに加え、ボッサの意味不明な行動の所為で、サックは頭に血が上りっぱなしだった。

 誰もいない牢屋の石壁に額を付け、サックは暫く項垂れていた。
 ただただ、時間だけが無情にも過ぎていった。
 居合わせていたジャクレイたちも、自身らの警備の不甲斐なさでサザンカたちが連れ去られたことに責任を感じ、サックに声をかけることができなかった。

(考えろ……七勇者として一緒に旅してきた仲だ。ボッサが身を潜めそうな場所……)
 七勇者として、同じ死線を潜り抜けてきた仲間である。ボッサの趣味嗜好や、彼の考えそうなことを、当時を思い出しながら紡いでいった。

 しかし、明確な回答は浮かばない。
 ボッサは寡黙な性格で、あまり自分のことを語ることはしなかった。
 しかし、人を護ろうとする想いは、チームの中でも一際ひときわ高く、『個より全』の思想が強かったアリンショアとは、よく口論になっていた。

 また、とかく『死』への感受性が高く、人間の遺体を見つけるとすぐに手厚く弔い、祈りの唄を謳っていたのが印象に残っている。


福音奏者エバンジェリストも、死者の声は聞けません……もしかしたら、私、聞こえない事が怖いのかもしれませんね』


「……ボッサ……あの時のお前は、どこにいっちまったんだ……」
 いくら考えても、過去の思い出が巡るだけだった。
 未だ、最適解が見えてこないサックは、あまりの悔しさに唇を強く噛んでしまった。
 鉄の味が口の中に広がる。

「……まるで、道化師だな」

 この呟きは、ボッサに向けてか、それとも自分自身のことか。
 語った本人にも、それは判らなかった。


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