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【第三章 ゴーレム幼女暴走編】

お母さん! 立ち上がる戦士達

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 ______ヴァ二アル国・丘______

 暴走したゴーレム幼女は目に付くものを全て壊した。
 奇声を発しながら暴れ回る姿に元のゴーレム幼女の面影はなく、ただの獣へと変貌を遂げてしまった。

 住民達は土煙を上げながら破壊される生まれ育った故郷を呆然と見る事しか出来なかった。

「うっうう... ...。お姉ちゃん... ...。怖いよ... ...」

「大丈夫。大丈夫だから」

 シルフ、ホワイト、天音、才蔵、伊達、エイデン達、城にいたハンヌメンバーも全て丘の上にミーレの魔法によって転移させられていた。
 先程、人間に治療の順番を譲ったレミーもシルフの応急措置を受け、今はぐっすりと眠り一命は取り止めたようだ。

「シルフ! やっぱり、花島の姿が... ...」
「こっちもダメだ」
「私も見つけられなかった... ...」

 ホワイトや才蔵、天音は辺りをぐるっと一周し、花島を探したが見つからず、住民達に聞いてもそれらしき人物を見たという情報もない。
 シルフは街をジッと見つめ。

「... ...天音。この子をお願い」

 シルフは抱きかかえていた人間の女の子を天音に預け、反射的に天音は引き留めるがシルフは踵を返し、街に向かって歩き出した。

「シルフ! 待って!」

「... ...」

 天音の呼びかけに対し、シルフは振り返ろうとしない。
 彼女の意識は既に取り残されたであろう花島に向けられていた。
 不安そうな表情でシルフの背中を見つめる天音の肩に才蔵は手を置く。

「俺も行く。天音はここでみんなを守れ」

「あんな奴に勝てる訳ない... ...」

 涙目で才蔵を見つめる天音。
「行かないで」
 天音が口を開く前に、才蔵は黙ってシルフの後を追った。

「すぐに戻るよ。どうせ、花島の事だからどっかでうずくまって泣いているよ」
「そうだな。特にあいつに恩がある訳じゃないが、同じ釜の飯を食った仲だ」
「武士としての意地を見せてやらねば」

 ホワイト、伊達、エイデンも後に続き、天音は五人の背中を見送った。

「______ハンヌ様! お待ちください!」

 腕を掴み、戦地に赴こうとしているハンヌを必死に止める鈴音。

「今、あそこに行くのは危険です! ハンヌ様に何かあったら______」

 正論を語る鈴音に対し、ハンヌは鋭い眼光を向ける。

「あそこにはパスがいる! それに我が国に関係がないにも関わらず、国を守ろうと必死に戦おうとしている者達がいる! ここで立ち上がらない王に価値はない!」

 ハンヌの叫びは丘の上に響き渡った。
 つい先日まで頼りない王子だったにも関わらず、彼は誰よりも国を愛し、そして、愛する人や国を守ろうと必死で立ち上ろうとしている。

 ハンヌの強固な意志を耳にし、焦燥した様子だった住民達の瞳に段々と色が戻っていった。

「so cool! ハンヌ様! 私も参ります! HAHAHA!」

 金色の髪の毛を掻き上げ、分厚い胸板を強調するようにトム・リーは立ち上がる。
 トム・リーに続くように住民の何人かもパラパラと立ち上がった。
 その姿を見たハンヌは黙って頷き、鈴音の腕を強引に振り払い、戦地に足を進める。

「もう! 何なのよ!」

 鈴音は苛立ったように頭を抱え少し考えた後に頬をパンと叩き、ハンヌの後を小走りで追った。

「BOY。君は行かないのか?」

「... ...」

 子供のように膝を抱え、丸くなる半袖丸に声を掛けるが、半袖丸からの返答はない。
 トムは溜息混じりに息を吐き、立ち上がった住民達と共にハンヌの背中を追った。

 蛇のように丘を下る二つの線。
 一つの線の先頭には金色の髪をなびかせるエルフの王。
 一つの線の先頭には金色の甲冑を身に纏う人間の王。

 生まれた場所や種族は違えど、彼等の目的は同じであった。

「パスが世話になったな。改めて、礼を言う」

 丘の中腹辺りで二つの線は一つになろうとしている。
 先頭を歩くハンヌは、凛とした表情のシルフに言葉をかける。

「私はヴァ二アルを利用しただけよ。お礼を言われる事をした覚えはないわ。お礼を言うならウチの花島に言ってあげなさい」

「... ...花島。不思議な男だ。人間だというのにエルフの王と対等な関係を築き、巨人族や魔女とも仲良くやっている。彼は一体、何者なんだ?」

「彼は私たちとは違う世界から来たと言っていたわ。セバス______私の大事な人は彼を救世主だと言った」

「救世主... ...。教典に記載されている伝説の勇者の事か」

「私には花島がそんな立派な人物には見えないけどね」

 シルフは「ふっ」と鼻で笑い。

「だけど、何らかの形で私たちは花島に救われているわ」

 セバスを失い、満身創痍だったシルフを誰よりも支えたのは花島だった。
 城の中にはシルフに対して不満を抱く者もおり、城を出て行こうとする者もいた。
 花島は不満を抱く者や城を出ようとする者達に歩み寄り、熱意を持って「シルフは大丈夫だ。大丈夫だ」と言い続けた。

 それでも、城を離れる者はいたが、残った者達はシルフを支持し、花島を慕った。
 花島がいなければ、シルフは本当に一人になっていただろう。
 直接、本人に伝える事はなかったがシルフは花島に対して感謝していた。

 花島の事を話すシルフの横顔はどこか嬉しそうで、ハンヌはシルフに対して質問を投げかける。

「君は彼の事が好きなんだね」

 口元を緩めながらハンヌは結論付けるが、シルフは取り乱す事なく冷静に。

「花島に感謝はしているけど、そんなんじゃないわ。それに、心に決めた人が私にはいるもの」

「へえ。君のような美しい人にそこまで言わせる男なんて、羨ましい限りだ」

「同感だわ」

 順調な足取りで丘を下っていると足元が小刻みに揺れ、次の瞬間、立っていられない程の大きな揺れがシルフ達一行を襲う。

「なんだ!?」
「おい! あれ!」

 丘の中腹から見えたのはまるで国を覆ってしまいそうほどに大きな岩石で出来た巨人だった。

 見上げる程に大きな怪物を目の当たりにした戦士の中には腰を抜かしてしまう者もいた。
 しかし、エルフの王は臆する素振りも見せずに「先を急ぎましょう」と告げ、足早に先を急いだ。

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