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ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜

第23話 行って、織田信長を食い散らせ!

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 寺の塀の外から「うぉーっ」と聞こえてきたときの声の異変に、最初に気づいたのは織田信長だった。あまたの戦場で聞きなれた武将ならではの気づきだったのかもしれない。
「なんじゃ、あの鬨の声は?。あれは誠に人の発するものなのか?」
 森蘭丸がすぐさま尋ねる。
「御屋形様、それはどういうことでしょう?」
「だれも感じんのか?。あの三条堀川から聞こえてくる声は、人間のものではない!」
 セイがピストル・バイクにまたがったエヴァに言った。
「エヴァ。上から見てきて」
「そうですわね。気になりますわ」
 そういうとスロットルをふかして、バイクをさらに上に上昇させた。寺の庇をこえる位置まで上昇したところで、マリアがはーっとため息をついた。
「セイさん、マリアさん、たいへん困った事態になりましたわ」
「おい、おい、なにを見つけた。もったいぶるなよ」
「魔物の軍団がこちらに向かっていますわよ」
「なに、魔物だと?」
 信長が驚きの声をあげたのを聞いて、蘭丸がエヴァのほうを見あげながら、声を張りあげた。
「エヴァ殿、見間違いではござらぬか。そんなものは、この時代にはおりませぬぞ」
 蘭丸の見解にエヴァがすこしふてくされたように口をとがらせた。
「だってぇ、いっぱいいるんですよ。鬼……、そう鬼みたいなのが」
「鬼じゃとぉ」
 信長が素っ頓狂な声をあげて驚いた。
「信長、いちいちうるせーぞ。殿様はどーんと構えておけ」
 マリアがエヴァのほうに目をむけたまま、言葉だけを信長のほうへ投げかけた。
 その時、エヴァが叫んだ。
「なにか飛んできます!」

 その瞬間、ものすごい爆発音と共に三条堀川方面の壁が吹き飛んだ。立っていられないほどの爆風が、本能寺の境内を吹き抜ける。寺の障子や戸板が外れて、部屋のなかに飛び込んでくる。おびただしい爆煙が地表を這い、目も空けていられないほど立ちこめる。
「御屋形様!」
 弥助がとっさに己のからだを盾にして、飛翔物がぶつからないように信長に覆いかぶさった。爆風はすぐにおさまったが、爆風に煽られた家臣や小姓たちが、もんどりうって庭に転がっていた。
 セイたちはそれぞれの方法で難を逃れていた。セイは正面に形作った光のバリアで、マリアは地面に突き立てた大剣の刃を衝立にして。
「来ます!」
 高見からエヴァが叫んだ。
 煙が晴れ渡ってくると、三条堀川側の壁は元からなかったかのように、すっかり崩れ落ちているのがわかった。そして河川敷からここまでの約二百メートルの家や壁や塀は、完全になぎ払われており、そこには不自然なほど開けた空間があった。

 そのむこうから魔物がぞろぞろとこちらへむかってきていた。
 その中心に総大将らしき男がいた。魔物ほどは大きくなかったが、その体躯は禍々しい『邪気』をまとっていた。総大将は人間を紐で縛りつけ、ずるずると引き摺りまわしていた。

 明智光秀だった。

「光秀!」
 弥助の身体の脇から、それを見つけた信長が叫ぶ。
 その声にゆっくりと明智光秀が顔をあげた。顔はすでに地面にこすりつけられ血だらけで、衣服もぼろぼろになって、いたるところに血が滲んでいた。

「御屋形様……」
 光秀が消え入りそうな声で言った。
 それを聞いて光秀のからだを引き摺っていた総大将が高笑いした。
「この斎藤利三。この明智光秀をたぶらかして、信長公を討つことを決意させたが、まさか小姓どもに、その計画を防がれるとは思いもせんかったわ」
「なんと、貴様だったか。光秀をそそのかしたのは!」
「あぁ。だが小細工するまでもなかったわ」
 斎藤利三は明智光秀のからだをひっ掴むと、思い切り信長のほうへ放り投げた。おそろしい怪力で飛ばされた光秀のからだは、数十メートルもの弧を描いて本能寺の境内の玉砂利のうえに落ちた。
「光秀!」
 おもわず光秀に駆け寄ろうとする信長を、森兄弟と弥助が押しとどめる。
「御屋形様、なにかの罠かもしれませぬ。お控えください」


 そのとき、斎藤利三がまわりにはべる魔物たちにむかって手をふった。

「行け!。行って、織田信長を食い散らせ!」
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