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ダイブ5 コンスタンティノープル陥落の巻 〜 ヴラド・ツェペッシュ編 〜

第57話 視線の先にテオドシウスの城壁が横たわっていた

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「ついに追い詰めた……」

 正面を見すえたままヴラド・ドラキュラが感慨深げに言った。

 マリア・トラップは、ヴラドが目を輝かせて見ている方角に目をやった。
 そこはマルマラ海まで続くリュコス川のたもとに位置し、遥かむこうまで一望できる小高い場所で、その眼前からオスマン=トルコの新たなる首都、イスタンブールの眺望を見おろすことができた。
 そこは街の全容を見通せる攻撃の要所——。
 さかのぼること九年前、メフメト二世がコンスタンティノープル攻略のために本営をおいていた、まさにその場所でもあった。

 マリアの視線の先に『テオドシウスの城壁』が横たわっていた。1100年もの間、あらゆる新興勢力や夷狄を退けてきた難攻不落の要塞の威容がそこにあった。
 そこから奥に目をむけると第二の壁、コンスタンティヌスの城壁、そして一番奥まったところ、断崖のちかくに『ハギア・ソフィア大聖堂』の特徴的な丸い屋根の尖塔が見えていた。
 ほんの九年前まではキリスト教徒の聖地『コンスタンティノープル』であったことを証明するように、かいま見える建物の多くが西洋建築そのものだった。




 だが、今、そのビザンチン帝国時代の壮麗な建物よりも、城外、城壁の上をかまわず設置されている、物々しいまでのウルバン砲の数のほうに目が奪われた。

「せっかくのうつくしい都が台無しね」
 マリアが言うとはなしにその威容を口にすると、ヴラドが薄ら笑いを浮かべた。 
「これからもっと台無しになるがね」
「力ずくっていうわけかしら?」
「マリアよ。これは我々『東方正教会オルトドックス』の聖地を取り返す戦いだ。なりふりなど構ってられんよ」
 そう言いながら、すぐ脇に控えているストイカに目線で同意を求めた。
「そうですとも。あの頃は殿マリアタもフニャディ殿下の庇護ひごの元で、なんの力ももてませんでしたから。今こそその時の借りを返す時です」
「あれだけの大砲……。むこうも総力戦を挑もうということ。だがそれだけメフメト二世を追い詰めているということだ」

「あたしたちがね!」
 手柄を独り占めしているように聞こえたのが気に障って、マリアはついそう念を押した。。取り巻きの幹部たちは、マリアのことばにぎょっとした様子を見せた。

「たしかにその通りだな」
 ヴラドはマリアのことばに気を悪くすることもなく、笑いながらそう言った。
「ここにくるまで、トルコ軍はなんども夜襲を仕掛けてきたが、ノアの『物見』の力ですべて見破って、返り討ちにしたからな」
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