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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第13話 みな、この勝者を讚えよ!!
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やがてふたりのガリア人が選ばれ、ハンニバルの前で殺し合いをはじめた。ふたりとも山越えで、おそろしく衰弱していたけど、野獣のような目で相手にむかって剣をふるった。
勝者は若い男だった。
ハンニバルはその男の腕をとり、大声で叫んだ。
「みな、この勝者を讚えよ!!」
カルタゴ軍の兵士たちは手をたたき声をあげて、若きガリア人を讚えた。ハンニバルは地面によこたわる息絶えた敗者を指さし言った。
「この敗れた勇気ある者をさらに讚えよ!!」
そのことばに導かれて、兵士たちはさらにおおきな称賛の声を、物言わぬ勇者に投げかけた。
「この男は、諸君たちである!」
ハンニバルのひと言で、それまであがっていた歓声がピタリとやんだ。
「これから進む我が軍の前には大河があり、左右には海、そして背後にはアルプス山脈がそびえたっている。われわれはいま決闘した者たちと同じように逃げ場はなく、勝つか死ぬかしか選択肢がないのだ」
兵士たちがごくりと咽喉をならす。
「だが、もしこの戦いに勝つことができれば、ローマのすべてを手に入れられる」
「今ここでわたしハンニバル・バルカはみなに約束しよう」
「この戦争に勝利することができたときは、そなたらの子の代まで税を免除し、土地や金貨を与えよう」
兵士たちがざわついた。
「さらに兵士についている奴隷たちよ。そなたたちが戦いを望むのなら自由民としよう。そして戦いに勝ったときには、ひとりにつき2人のローマ人奴隷を与えよう」
奴隷となっていたガリア人が、雄叫びをあげた。それまで感情を抑えていたカルタゴ兵たちも、腕をつきあげて喚声をあげた。
地をゆるがすような、男たちの声に圧倒されて、わたしはおもわず両耳をふさいだ。
それは士気が高まるというレベルじゃなかった。
なにかに取り憑かれたような熱狂——
みなボロボロで困憊していたはずなのに、そこにはまぎれもない『生』があった。
アルプス越えで3分の2の2万6000人まで戦力に減っていたはずなのに、彼らはみなハンニバルに言う通りになると、信じきっていた。
ハンニバルには人々になにかを憑依させる、天賦の才能があったんだと思う。
そこからのカルタゴ軍が破竹の勢いを得るのは、歴史が証明している。
最初の戦いはティキヌスの戦いだった。
騎兵を率いて偵察にむかったハンニバルは、偶然偵察にでていたローマの執政官と遭遇し、そのまま戦闘に突入した。
ビジェイがこの戦いは、カルタゴ軍が勝つから、心配しなくていい。というので、わたしたちは、後方でリスクスの護衛に徹した。
わたしはローガンに肩車してもらって、後方から戦況を眺めていた。
「兵士の数はどれくらいなのかしら?」
ビジェイがかなたに目をやりながら言った。
「カルタゴ6000、ローマ4000と伝えられている。なにせ偵察部隊同士の偶発的な戦争だったからね。きわめて小規模な戦いだ」
勝者は若い男だった。
ハンニバルはその男の腕をとり、大声で叫んだ。
「みな、この勝者を讚えよ!!」
カルタゴ軍の兵士たちは手をたたき声をあげて、若きガリア人を讚えた。ハンニバルは地面によこたわる息絶えた敗者を指さし言った。
「この敗れた勇気ある者をさらに讚えよ!!」
そのことばに導かれて、兵士たちはさらにおおきな称賛の声を、物言わぬ勇者に投げかけた。
「この男は、諸君たちである!」
ハンニバルのひと言で、それまであがっていた歓声がピタリとやんだ。
「これから進む我が軍の前には大河があり、左右には海、そして背後にはアルプス山脈がそびえたっている。われわれはいま決闘した者たちと同じように逃げ場はなく、勝つか死ぬかしか選択肢がないのだ」
兵士たちがごくりと咽喉をならす。
「だが、もしこの戦いに勝つことができれば、ローマのすべてを手に入れられる」
「今ここでわたしハンニバル・バルカはみなに約束しよう」
「この戦争に勝利することができたときは、そなたらの子の代まで税を免除し、土地や金貨を与えよう」
兵士たちがざわついた。
「さらに兵士についている奴隷たちよ。そなたたちが戦いを望むのなら自由民としよう。そして戦いに勝ったときには、ひとりにつき2人のローマ人奴隷を与えよう」
奴隷となっていたガリア人が、雄叫びをあげた。それまで感情を抑えていたカルタゴ兵たちも、腕をつきあげて喚声をあげた。
地をゆるがすような、男たちの声に圧倒されて、わたしはおもわず両耳をふさいだ。
それは士気が高まるというレベルじゃなかった。
なにかに取り憑かれたような熱狂——
みなボロボロで困憊していたはずなのに、そこにはまぎれもない『生』があった。
アルプス越えで3分の2の2万6000人まで戦力に減っていたはずなのに、彼らはみなハンニバルに言う通りになると、信じきっていた。
ハンニバルには人々になにかを憑依させる、天賦の才能があったんだと思う。
そこからのカルタゴ軍が破竹の勢いを得るのは、歴史が証明している。
最初の戦いはティキヌスの戦いだった。
騎兵を率いて偵察にむかったハンニバルは、偶然偵察にでていたローマの執政官と遭遇し、そのまま戦闘に突入した。
ビジェイがこの戦いは、カルタゴ軍が勝つから、心配しなくていい。というので、わたしたちは、後方でリスクスの護衛に徹した。
わたしはローガンに肩車してもらって、後方から戦況を眺めていた。
「兵士の数はどれくらいなのかしら?」
ビジェイがかなたに目をやりながら言った。
「カルタゴ6000、ローマ4000と伝えられている。なにせ偵察部隊同士の偶発的な戦争だったからね。きわめて小規模な戦いだ」
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