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ダイブ7 第二次ポエニ戦争の巻 〜 ハンニバル・バルカ編 〜
第42話 歴史の風向きは強烈な向かい風だ
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「エヴァちゃん、無理だよ」
スキピオたちが去っていくと、ビジェイがわたしの耳元で耳打ちした。
「前回のヒッポカムポス軍団を倒せたのは、カンナエの戦いそのものが、こちらの勝利で終わるっていう歴史の流れがあったからだよ。今度は歴史はぼくらに味方してくれない。向かい風なんだ。それも強烈なね」
「なあに、ビジェイ。S級じゃなかったの、あなた。あんな三流悪魔にびびってどーすんのよ。それにわたしは今、絶好の好条件を引きだしたのよ。要引揚者のジョン・ケイン議員を救うためのね」
「ああ、ビジェイ、嬢ちゃんの言う通りだ。本来ならハンニバルがローマを下す、という条件だったが、今、それを嬢ちゃんが変えた」
「それはわかってるさ。ローガン。格段にやりやすくなった。そう言いたいンだろ?」
「あの悪魔を倒すだけでいいんだ。それなら……」
「ローガン、きみはソロモン72柱の悪魔が、どんな存在なのかわかってない」
「知ってるさ。つえぇっていうのはな。だが『黄金十二宮の悪魔』ほどじゃねぇはずだ。まだそのレベルの悪魔の出現の報告はない」
「ああ、そう、その通りだ。だが、ソロモン72柱と遭遇した、潜識夫は、かなりの数に登る。その生還率は知ってるかい?」
「あ、いや……」
ビジェイは父の顔色を伺うように、仰ぎ見た。
その『生還率』なるものは、トップシークレットの内容なのだと、すぐに察した。バディのローガンにすら、勝手に教えてはならないほどのものなのだ。
「ローガン」
ビジェイの代わりに、父がそれに答えるようだった。
「現在『昏睡病』の治癒のため、世界中のおおくの宗教団体、国家機関、民間団体、等がさまざまなレベルのダイバーを、前世の記憶の中へ送り込んでいる。ダイバーたちの生還率は平均97・5%。サルベージ成功率は32・5%だ」
「CEO、そんなこたぁ、知ってますぜ。我が財団は平均をおおきく上回る41・8%でしょう?」
「ああ。そうだ。だが……」
父は一瞬、口ごもった。
「だが悪魔に遭遇した場合、この数字はおおきく変わる。われわれが雑魚と呼んでいる、名もなき悪魔であっても、遭遇してしまった場合、ダイバーたちの生還率の平均は……」
「58%にまで急落する」
「半分近くは死ぬっていうわけですかい?」
「いや、今のところ命を落とした者は報告されていない。だが、なにかしらの精神障害を負ってしまい、ほとんどの者は二度と潜ることができなくなっている」
「CEO、オレはS級ですぜ。低いランクの者と一緒にしねぇでくだせぇ」
「ああ、そうだ。たぶん、ローガン、おまえはそんな雑魚悪魔ごとき相手にしないほどの能力者だ。だが、今回の敵は格がちがう。そしてなによりも、歴史の風向きが……」
「向かい風だからってなんなのよ」
わたしは大人たちが、ネガティブなことばかり言っているのが腹立たしかった。
「ただの向かい風ではない。数万のカルタゴ軍が全滅し、ローマ帝国の栄華がはじまる端緒の戦いなのだ。想像を越える向かい風になるのは間違いないのだ」
「だから?」
「それにエヴァ、おまえはまだ子供……」
「ふざけないで!」
わたしはこれ以上ないほどの強い口調で、父を叱責した。
「年齢は関係ないわ。スケートボードの金メダリストは12歳。フィギュアスケートの女王は14歳。年齢が関係のないスポーツなんていくらでもある」
「それともお父様は、年齢を理由に、娘の金メダルのチャンスをふいにするのかしら」
スキピオたちが去っていくと、ビジェイがわたしの耳元で耳打ちした。
「前回のヒッポカムポス軍団を倒せたのは、カンナエの戦いそのものが、こちらの勝利で終わるっていう歴史の流れがあったからだよ。今度は歴史はぼくらに味方してくれない。向かい風なんだ。それも強烈なね」
「なあに、ビジェイ。S級じゃなかったの、あなた。あんな三流悪魔にびびってどーすんのよ。それにわたしは今、絶好の好条件を引きだしたのよ。要引揚者のジョン・ケイン議員を救うためのね」
「ああ、ビジェイ、嬢ちゃんの言う通りだ。本来ならハンニバルがローマを下す、という条件だったが、今、それを嬢ちゃんが変えた」
「それはわかってるさ。ローガン。格段にやりやすくなった。そう言いたいンだろ?」
「あの悪魔を倒すだけでいいんだ。それなら……」
「ローガン、きみはソロモン72柱の悪魔が、どんな存在なのかわかってない」
「知ってるさ。つえぇっていうのはな。だが『黄金十二宮の悪魔』ほどじゃねぇはずだ。まだそのレベルの悪魔の出現の報告はない」
「ああ、そう、その通りだ。だが、ソロモン72柱と遭遇した、潜識夫は、かなりの数に登る。その生還率は知ってるかい?」
「あ、いや……」
ビジェイは父の顔色を伺うように、仰ぎ見た。
その『生還率』なるものは、トップシークレットの内容なのだと、すぐに察した。バディのローガンにすら、勝手に教えてはならないほどのものなのだ。
「ローガン」
ビジェイの代わりに、父がそれに答えるようだった。
「現在『昏睡病』の治癒のため、世界中のおおくの宗教団体、国家機関、民間団体、等がさまざまなレベルのダイバーを、前世の記憶の中へ送り込んでいる。ダイバーたちの生還率は平均97・5%。サルベージ成功率は32・5%だ」
「CEO、そんなこたぁ、知ってますぜ。我が財団は平均をおおきく上回る41・8%でしょう?」
「ああ。そうだ。だが……」
父は一瞬、口ごもった。
「だが悪魔に遭遇した場合、この数字はおおきく変わる。われわれが雑魚と呼んでいる、名もなき悪魔であっても、遭遇してしまった場合、ダイバーたちの生還率の平均は……」
「58%にまで急落する」
「半分近くは死ぬっていうわけですかい?」
「いや、今のところ命を落とした者は報告されていない。だが、なにかしらの精神障害を負ってしまい、ほとんどの者は二度と潜ることができなくなっている」
「CEO、オレはS級ですぜ。低いランクの者と一緒にしねぇでくだせぇ」
「ああ、そうだ。たぶん、ローガン、おまえはそんな雑魚悪魔ごとき相手にしないほどの能力者だ。だが、今回の敵は格がちがう。そしてなによりも、歴史の風向きが……」
「向かい風だからってなんなのよ」
わたしは大人たちが、ネガティブなことばかり言っているのが腹立たしかった。
「ただの向かい風ではない。数万のカルタゴ軍が全滅し、ローマ帝国の栄華がはじまる端緒の戦いなのだ。想像を越える向かい風になるのは間違いないのだ」
「だから?」
「それにエヴァ、おまえはまだ子供……」
「ふざけないで!」
わたしはこれ以上ないほどの強い口調で、父を叱責した。
「年齢は関係ないわ。スケートボードの金メダリストは12歳。フィギュアスケートの女王は14歳。年齢が関係のないスポーツなんていくらでもある」
「それともお父様は、年齢を理由に、娘の金メダルのチャンスをふいにするのかしら」
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