鬼追師参る

漆目 人鳥

文字の大きさ
3 / 23

綾子

しおりを挟む
 何かが始まる事を望み、信じてはいたが、このまま終わってしまうかもしれないという懸念はぬぐい去れなかった。
 玄関に背を向けて立ち、手入れの行き届いた庭を眺めながら、綾子は何遍もそのことを考えた。ぎゅっと封筒を持つ手にチカラが入る。
 意を決したように踵を返して振り向いたとき、タイミング良く扉が開き、メイド姿のあの娘が出てきた。
 先ほどの彼女の態度からして、自分があまり歓迎されていないようだと悟った綾子は、精一杯の笑顔を作って姿勢を正す。

「姫さまがお会いするそうデスよ、中ヘドウゾデスヨ」

 メイドは、綾子にそういって微笑みかけると、踵を返し、家の中へ戻ろうとした。

「あの……」

 そんな後ろ姿に綾子が声をかける。メイドは笑顔のままで振り向いた。

「何でしょうか?」

「いえ、もしかしたら……、風小さんですか?」

 綾子は『ねじまき屋』のホームページを思い出していた。

「はい、そうですが。何故……」

 メイドの顔が、問いたげな表情に変わる。

「あの、ねじまき屋さんのホームページで……」

 綾子がそこまで言って口ごもる。

 確か、ねじまき屋のホームページを閲覧した際に風小という娘の事が書かれているのを読んだ記憶がある。
 それによると、その娘は『姫緒きお』と呼ばれる退魔師の助手で、ねじまき屋に幾つかの奇譚の顛末を語ったと書かれていたと記憶する。 そんな気がするが、定かでない。
 万が一に、書かれていたのが事実だったとしても、何故、自分がこの娘を風小であると結論するに至ったのか?
 自分でも、うまく説明できない。

「いえ、なんだかそんな気がしたので……」

 だからそれは、綾子にとっては素直すぎるほどに素直な言葉による答えだった。
 しかし、そんな傍からみればあやふやとしか取れない綾子の答えに、メイドの顔がびっくりするほど明るく輝いた。

「そうですか。『そんな気』がしましたか」

 メイド、風小は、さも嬉しそうにそう言うと、「さあ、どうぞ」と言って綾子を家の中に招き入れたのだった。





 綾子が通された部屋は応接室のようだった。

 ようだったと言うのは、つまり……。

 部屋の中の壁には造り付けの飾り棚が数カ所設けられており、恐ろしげな表情や、穏やかな慈悲深い表情の木彫りの仮面、素朴な石の彫像やら、何物かの原石の様なものやらが数種類飾られるなど、一見、コレクションルームであろうかと戸惑う様相を呈していたのだが、部屋の奥に配置された、しっかりとした革張りの椅子とアンティークなテーブルの応接セットによって、『たぶん』ここは応接室なのだと理解することが出来たということだった。
 壁の数カ所と応接セットの近くに間接照明が設置されていたが、今は、大きな窓から差し込む、光のカーテンが部屋に満ち、全く必要を感じない。
 かなり異様な雰囲気の部屋ではあったが、その中で、一際、綾子の目を引いたのは、部屋の入り口近くに、何か巨大な生き物がうねるかの如く、下の階からこの部屋を貫き、上の階へと続いている螺旋階段だった。
(この部屋は1階にあるはずなので、この建物には地階が存在するのだろう)
 その独特な雰囲気は、上階へ引き上げられるようにも地下階へ引き込まれるようにも感じられる強い力が漂う、目眩を起こしそうになるほどの重々しい存在感だった。

「こちらにどうぞデスよ」

 風小は綾子を応接セットの椅子に誘った。
 綾子は慌てて、風小に指示されたテーブルの向こう側になる革張りの長椅子に腰を降ろす。
 部屋の入り口と螺旋の階段が、何かの意義をもつように自分の視界に入り込む位置。
 風小は、彼女が椅子にかけるのを見て取ると、一礼し、にこにこしながら螺旋階段を二階へと上がって行ってしまった。
 綾子はひとり、部屋に残される。
 ややあって、コーヒー豆をローストする香りがし始める。それから、さほど立たない時間で、風小がお盆トレンチにコーヒーカップを乗せて下りてきた。

 「豆のブレンドからローストまで、全てワタクシ特製の『スペシャル』デスよ」

 そう言いながらテーブルに無地のカップソーサーを置き、白地の縁に青のラインが入ったデザインのコーヒーカップを重ねた。
 カップからとても魅力的な香りが立ち昇る。
 コーヒーカップは手に取ると驚くほど軽く、指先に吸い付くようにしっとりとした肌触りで、磁器の無垢な白さがコーヒーの褐色に、深みと広がりを与えていた。
 綾子はカップを持ったまま、思わず、この蠱惑の飲み物に魅了される。
 そのとき。
 階段を小気味よいリズムで降りてくる、ハイヒールの音が聞こえた。

「あっ姫さま!」

 風小が声を上げる。
 綾子は持っていたカップを机の上に戻し、立ち上がって螺旋階段の方を見やった。
 濃紺のスーツ姿のその女性、姫緒は、窓から差し込む暖かな光を巨大なベールのように羽織り、天上から地へ下る女神ように、竜の背のような青銅の螺旋を伝わって、ゆっくりとこの部屋へ降臨したのだった。
 あまりの神々しさに、綾子は一瞬息を呑む。
 女神の、腰まである濡れ羽色の黒髪は、さらさらと流れる。
 どこか闇をまとう切れ長な瞳。
 先ほどの磁器よりもなお、無垢な輝きを燻す白い肌。
 艶やか唇は知的に赤く、愛嬌のある口元をしていた。
 姫緒がテーブルを間にして綾子の向かいに立ち、スーツの内ポケットから無垢の金属製のケースを取り出すと、その中から、一枚の名刺を差し出した。

「こんにちは綾子さん。私は、この霊査所の所長を務める姫緒と申します」

 綾子は恐る恐る、慣れない手つきで名刺を受け取る。
 そのあまりに不慣れな態度から、人から名刺を貰うのが初めてらしいことは容易に感じ取れた。

「名字はありません。姫緒なまえは『きお』と読みますが、それも便宜上のものです。我々、呪詛を行うものは、呪詛によって呪われないように真名を明かさないのです」

「はぁ……?」

 名刺と姫緒の顔を交互に見ながら、綾子は戸惑うように返事をした。
 その姿を見て姫緒が小さく微笑む。

「良く判らなければ、忘れて下さって結構です。何の問題もありませんから」

 そう言われて、綾子はもう一度、「はぁ……」と、気の無い返事を返す。
 姫緒が椅子を勧めると、綾子はようやっと自分を取り戻し、ソファーに腰掛けて小さくタメイキをついた。

「あっ、姫さまにもコーヒーをお持ちしますね」

 風小がそう言って引き下がろうとする。

「いや、私はいい」

 姫緒はソファーに深く掛け直し、綾子に何事かを話し始めようとした、そのとき……。
 部屋に漂う、些細な違和感に気がついた。
 風小の『とっておき』。
 よほど機嫌の良いときにしか淹いれない、特別中の特別なコーヒーの香り。
 姫緒は、自分の脇に立つメイド姿の娘へ首を巡らす。
 風小が、極上の笑顔で訪問者を見ていた。

「何か、あったの?」

 風小に尋ねる。
 風小は、にこにこした視線を綾子に残したまま、姫緒の顔の位置へ屈んで答えた。

「ええ、姫さま。綾子さんは私を見て『風小』と言う感じがしたらしいのデスよ」

 姫緒は「そうか」と言って、納得いったというように、正面に向き直った。
 綾子は、今の短い会話がいったいどういう意味なのか考え、戸惑っていた。
 今、自分はこの場に置いて、どんな立場にいるというのか?
 もしかしたら、自分は気づかぬ内に、何か取り返しのつかない、失敗をやらかしているのだろうか?
 自分はもしや『招かれざる客』?

「あの!私、何かいけないことをしましたか?」

 気がつけば、綾子のそんな心の焦りが、ストレートに言葉になっていた。
 突然の綾子の問いかけに、姫緒と風小は一瞬、面食らったような顔をしたが、やがて小さく笑った。 

「あのう……」

 恐る恐る、綾子が声を掛けると、姫緒は微笑みながら綾子と目を合わせる。
 はッと、綾子は自分の手に握られたままになっている封筒に気づく。

「これっ!これを。紹介じょう……」

 そう言ってテーブルの上に置いた封筒を見て、誰あろう綾子本人が一番狼狽えた。
 綾子の手に握られたままになっていた封筒は、彼女の感情の余波をもろに受け、グシャグシャに握り潰されていたのだった。

「あっ、ぁ、あ、……」

 綾子は、痴呆のような声を上げながら、必死になって封筒の皺を延ばそうと、テーブルの上でシゴいた。
 そんな綾子を、姫緒は片手で制し、テーブルから身体を引かせる。
 そうしておいて、軽く目を閉じ一呼吸置き、右手の人差し指と中指を唇の前に立てて何事かを呟いた。

 すると。

 テーブル上の白い封筒は、生き物が身悶えするようにガサガサと音をたてて蠢きだし、数秒の内に厚みを持ち出したかと思うと、一羽の鳩ほどの白い鳥になった。
 鳩と呼ぶには精悍な面もちと身体つきで。何より普通の鳩と、いや、普通の『鳥』と『これ』の違うところは、てらてらと光る目までが真っ白い真珠のようであったということだった。
 『鳥』は大きく伸びをするように何度も羽を閉じたり開いたりしたが、やがて飛び立ち、ふたりの頭上をくるりと8の字を書くように回ると、大きな窓の方へとゆっくり滑走する。
 いつの間にか窓の脇には風小が移動しており、カラカラと窓を開けた。
 初夏のうっとうしさの少ない暑さが、空調の利いた部屋の中にじわりと進入してくる。
『鳥』は開けられた窓からスイと外に飛び立つと、暫くグライダーのように羽を動かすことなく、低く水平飛行していたが、やがて、力強い羽ばたきを起こし急上昇し、そのまま、青い照りつく空へと消えて行く。
 風小は、静かに窓を閉め、無言のまま姫緒の席に近づいて行き、脇に立った。

「気になさらないで」

 鳥の飛び去った先から視線を外せずに立ち尽くす綾子に、姫緒がそう言って声をかける。

「は、……。はあ……」

 呆けたように返事を返す綾子に、姫緒は席を勧めるように手を差し出しながら続けた。

「さあ、それではお伺いしましょうか。貴女がここに来たわけを。貴女がお困りになっている件くだんについて」

 闇を纏う切れ長の瞳が、悪戯っぽく笑ったような気がした。



「私には、那由子という姉がいます」

 綾子はそう切り出すと、脇に置いてあったオレンジ色のメッセンジャーバックの中から、一冊のノートと、数冊のポケットアルバムを取り出し、テーブルの上に丁寧に重ねた。

「姉が四年前、バイクで北海道を一人旅したときの日記とアルバムです。日記は、姉が旅先で付けていたモノらしいです。姉の荷物を整理したときに見つけました。アルバムの方は、荷物に入っていたフィルムを現像した写真が入っています」

 綾子はそう言って、一番上に積まれているアルバムを手にとり、最後の方の頁を開くと、少しの間見つめ、開いたまま姫緒の前に差し出した。
 姫緒はそれを受け取ると、貼られた写真を確認するように眺める。
 そこには、旅先での、痛いほどの晴天と、抜けるような青空の下、断崖の上で群青の海をバックに撮られた4枚の写真が貼られており、色とりどりのスーツやモトクロスパンツ、厳ついブーツに身を固めた、一目でライダーと解る6、7人の、歳も背格好もバラバラな男女が写っていた。
 写真は一台のカメラで写し手を変えて撮影したものらしく、4枚の写真に写っている人物が一人ずつ入れ替わっている以外、構図はほとんど一緒だった。

「姉です」

 綾子が、アルバムの右端に納められていた写真の中に写る一人の娘を指さして言った。

「わあ!綾子さんそっくりデスよ!」

 横から覗き込んだ風小が、写真を見て声を上げる。
 写真に写った娘は、目の前の綾子より日に焼けて浅黒く、ショートカットではあったが、顔の特徴や雰囲気は、綾子のそれ、そのものだった。

「双子?」

 姫緒が呟く。

「はい」

 食い入るように写真を見つめるふたりの前で、語りかけるかのように綾子が返事をした。

「姉……、那由子なゆこと私は双子です。性格的には姉の方が活動的で、同じ顔なのに友達とかも、姉の方がたくさんいました」

 そう言って、思い出すように目を伏せる。

「私は、姉に比べて極端に気が弱く、身体も丈夫な方ではなかったので……。なかなか友達の輪に馴染めなくて、いつも姉のそばについて回っているという感じでした。そんなですから、十年ほど前、姉が実家から今住んでいる場所に出て独立すると決めたとき、姉と離れることが不安でしょうがなかった私は、無理を言って一緒に出てきて共同生活を始めたんです。幸い、姉が家を出ると決めた理由は、彼氏が出来たとかと言うものではなくて、その……。町で、なにか……、嫌なことがあって……。町を離れたい、といったものだったので、姉にとってはしぶしぶながらも、私は彼女について来ることが出来ました」

「嫌なこと?」

 姫緒がたずね返す。

「詳しいことは判りません。いかに双子の姉妹きょうだいだといえどもプライベートに関しては……」

「相談されたりしたこともなかったのですか?」

 と、姫緒がさらに問う。

「姉は、私のことを理解はしてくれていましたが、当てにはしていなかったので……」

 綾子はそう言って、はにかむように笑った。

「ただ、抽象的に。嫌なことがあって、町を出たいといつも思っているようなことを、私に話していました」

 話を聞いて、姫緒は「ふん」と鼻を鳴らすと、物珍しそうにアルバムをのぞき込んでいる風小を払いのけ、開いたままのアルバムを綾子に返した。

「北海道の室蘭、『地球岬』と言うところで撮られた写真です」

 返ってきたアルバムを眺め返しながら、綾子が言う。

「日付からいって、この写真が旅行での一番最後の、姉の写った写真になります」

「そのお姉さんが?」

 姫緒がたずねると、綾子は「はい」と一つ答え、まなざしを真っ直ぐ姫緒に向けた。

「姉は、那由子は、四年前のその旅行を最後に、行方不明になってしまいました」

 それから綾子は、行方不明になった那由子について、時間の経過を正しく伝える事を気にしながら姫緒に語り出した。
 綾子から語られた経緯はこんな感じだった。

 四年前のある日。
 綾子の姉、那由子が失踪した。

 四年前。
 那由子は、一週間ほどの予定でオートバイでの北海道のソロツーリングに出かけた。

 そして。

 彼女から、何の連絡も無いままに七日間が過ぎた。
 予定ではその日の夜、那由子はフェリーで大洗の港に到着し、夜半を過ぎた頃に帰ってくるはずだった。
 なのにその日、那由子は帰ってこなかった。
 綾子は気を紛らせようと、姉の真似ごとでケーキを作りながら一夜を明かした。
 次の日の朝早く。
 姉の身を心配し、外へ様子を見に出かけた綾子は、マンションの駐車場に止めてある那由子のオートバイを見つけた。
 それは、間違いなく姉と一緒に北海道へ旅立ったはずの緑色のオフロードバイクだった。
 バイクには、荷物が積みっぱなしになっており、今しがた帰って来て、ここに止め、何か用をすますためにバイクから離れた……。
 そんな感じだった。
 バイク自体もかなり汚れが目立ち、くたびれた様子から、いずれからかここに自走してきた事は間違いないように思えた。
 心労からか、その日の全ては、夢の中の出来事のように良くは覚えてはいないが、姉の那由子は、その日を境に綾子の前から失踪してしまった。

 すぐに、警察に相談したが、2、3日様子を見るようにと言われた。
 警察の言葉を信じて3日間、ただひたすら姉の帰りを待ったが、ついに連絡すら来ることはなかった。

 4日後、再び警察に出向いた。
 失踪届は受理してもらったが、何も変わらなかった。

 失踪から一ヶ月が過ぎた。
 身体の弱かった綾子は、経済的にも姉の世話になりながら、2人暮らしをしていた。
 蓄えは多少あったが、彼女はこれからの生活を考えなくてはならなくなっていた。
 姉の事が心配で、気が狂いそうだったが、そんな状態だったからこそ、『気を紛らす』意味合いも込めて仕事をしようと思った。
 姉が帰ってきたら、すぐ再開出来るようにと、インターネットパティシエ『なゆの甘味屋さん』とホームページ『なゆの。』を『代理人aya』の名で引き継いだ。

 警察が、那由子を探し出してくれていることを信じていた。
 
姉の無事だけを考え、一年間ガムシャラに働いた。
 引き継いだ当初は散々たるものだった。
『味』と『人柄』がモットーの人気店を、お菓子作りのイロハも知らない綾子が引き継いだのだ。待っていたのは当然と言えばあまりに当然の、散々たる結果だった。
 それでも綾子は、姉の残してくれた膨大な量の製作レシピと、ホームページでの那由子の人柄に惚れ込んでいた常連者たちの励ましに支えられて、何とかこれまでやってきていた。
 今では、引き継いだ当初に離れていったお客達も、ほとんどの人が戻って来てくれている。これは綾子自身の努力により、お菓子そのものの味のレベルが確実にアップしていったことを物語っていたと言えるだろう。

 そんなとき……。

 綾子は、世の中に興信所、俗に『探偵』と言われる職業があることを知った。
 綾子の身の上を知ったお店の常連さんが、ホームページの伝言板に書き込んでくれたのだった。


はじめまして
投稿者/ピーターホビットさん 
投稿日/2000年8月17日木21:53 [返信]

こんにちは。ここの伝言板にカキコは初めてです。
お菓子好きの、三十路女ピーターホビットと申します(笑)
日記のコーナーをいつも大変楽しく拝見させていただいております。
おとついの日記にお姉さまの事が書かれていて、ちょっと気になったので過去ログを拝見させていただきました。
ayaさんは興信所というモノをご存じでしょうか?
警察と違って公共機関では無いのでお金はかかりますが、人捜しなら彼らの方がプロです。
一度、ご相談なさっては如何でしょうか?
出過ぎたマネでしたらご免なさい。
一刻も早く、お姉さんが見つかる事を祈っております。


 『世の中には人捜しのプロがいる』
 藁にもすがる思いだった綾子にとって、この情報はまさに福音だった。
 すぐにレスを返し、お礼を述べると、新たにスレッドをたてた。


お願いです
投稿者/代理人@aya 
投稿日/2000年8月18日(金)4:18 [返信]

こんにちは。
こんな事を伝言板に書いて、お願いするのはマナー違反なのかもしれませんが。
姉のことについて、ピーターホビットさんに助言していただいたように、探偵さんにお願いしてみようかと真剣に考えております。
ついては、良い探偵さんを知ってるとか、こんな事に気をつけた方がいいなど、どんなことでも構いません。
情報をいただけると嬉しいのですが。
楽しい雰囲気の伝言板を、重くしてしまって申し訳ありません。
なにとぞよろしくお願い致します。

翌日からホームページにはいくらかの情報が寄せられた。
 あそこは高いだけで駄目とか、自分の知り合いから聞いた話とか、実は、テレビの視聴者再会番組の人捜しはここの探偵がやっているとか。
 ホントか嘘か解らないような話も多かったが、綾子には非常に力強い助言だった。 
 紹介された中には、ホームページを持つ探偵もおり、綾子はそれらのアドレスの書き込みがあると、こまめにサイトに通ってみた。

 だが。

 仕事が軌道に乗り始めたばかりの綾子にとって、金銭面での折り合いが付かなかった。
 焦りはあったが、希望もできた。
 提示された金額さえ都合出来れば、姉は帰って来る。
 いつしか綾子は、そんな考えに取り憑かれ、仕事をする意義を見いだしていた。
 前にもまして、仕事に熱中する日々が続いた。

 那由子の失踪から、三年が過ぎたときのことだった……。

 たくさんの人が集まるホームページの伝言板には、必ずと言っていいほど、場違いな書き込みをする輩が現われるものだ。
 ホームページ『なゆの。』の伝言板にも、ある日そんなスレッドがたった。


暑いですね…
投稿者/行きすがり 
投稿日/2002年7月30日(火)23:45 [返信]
学校お休みで暇してます。
何処か、
面白いサイト知りませんか?


このスレッドに対して、すぐに匿名の批判レスがついた。


差し出がましいようですが……
投稿者/ 七氏
投稿日/2002年7月31日(水)18:21 [返信]
>学校お休みで暇してます。何処か、面白いサイト知りませんか?
行きすがりさん。ここは個人の方のサイトです。
多少の私事は仕方ないにしても、この書き込みはマナー違反では無いでしょうか?
ご自分のサイトに書き込むか、然るべきサイト(某大型掲示板とか)に書き込んではいかがでしょうか?


 だが、時期が夏休みと言うこともあって、本当に自分のお気に入りサイトのアドレスを書き込むレスも、ぽつぽつと付き始めていた。
 削除を望むレスはあったが、盛り上がっていたようでもあり、綾子もたいした混乱を感じなかったため放任で……。
 いや、むしろ書き込まれるお気に入りの返信を個人的に楽しんでいた。
 ホームページの伝言板は、スレッドに返信がつくと、順番が最初に繰り上げられ表示する形式のものだった。
 当初サイトを立ち上げた際、那由子自身が、返信の見落としをしないために設定したものだったが、結果として人気のあるスレッドが過去ログ落ちしにくいという、ありがたい作用を生んでいた。
 そんな効果で、このスレッドも意外に息が長く、夏休みが終わり、年末近くになっても消えること無く、たびたび浮上してきた。

 そしてある日……。そのホームページが紹介された。


これ最強笑
投稿者/ 法師
投稿日/2003年1月18日(土)4:44 [返信]
夏に怪談はあたりまえ!寒い冬こそオコタで怪談笑
怪談ならここ!まっくす最強!なんてったって、全部ホントの話爆


 スレッドにはそんな紹介文と共にサイトのアドレスとサイト名が書き込まれていた。
 そのホームページの名は。

 『ねじまき屋』

 この奇妙なタイトルが伝言板で紹介されたホームページの名前だった。
 怪談やオカルトの類は、あまり趣味ではなかったが、その名前に興味を引かれた。

 何の『ねじ』を巻くのだろう?

 好奇心に駆られて、アドレスの先へ飛んでみる。
 黒地に赤文字の『ねじまき屋』のページが立ち上がる。
 管理人は『ねじまき屋店主』となっていた。
 注意書きの意味も深く考えず、中に入った。
 『はじめに』のページに入ってみる。そこにはこんな事が書かれていた。


 世の中の不思議なもの全てを総称して『あやかし』とする考え方があり、管理人は、自分の仕事ねじまき?のつき合いで、そのあやかしによって起こる事件『あやかし事』を解決する事を生業とする、いわゆる退魔師と交流する機会があり、『あやかし事』の収集を思いついた、ということらしい。

 綾子には、なぜか『あやかし』という言葉が、姉の失踪した日の情景とダブった。
 くたびれたライムグリーンのオートバイ、帰ってこない姉、全ての始まりである、あの日の朝……。
 その日の情景がフラッシュバックし、ほんの少し気分が悪くなる。
 ホームページのコンテンツは『はじめに』、『あやかし噺』、『鬼追師』、『伝言板』『ほんとうに困ったときに』と5つあった。
 一番賑わっているのは、情報の交換場所となる伝言板の部屋だった。
 投稿の日付を見てみると、ほとんど毎日のように2、3人の書き込みがあった。
 自分たちの体験したこと、うわさ話、そのうわさ話を検証した話等々。
 その内容は、おまじないの類から信じられないような奇異な体験談。最近の天気や珍しい花の話まで、笑えるものから怖いものなど、千差万別に富んでいた。
 『あやかし噺』の頁は、この伝言板に寄せられた投稿文の中から管理人が選りすぐった『噺』を採録しているようだった。
 注意書きがあり、『あやかし噺』の中には管理人が自分で収集した話もたまに収録されているとなっていた。
 『ほんとうに困ったときに』をクリックしてみるとメーラーが起動した。
 綾子が一番興味を持ったのは『鬼追師』のコンテンツだった。
 初め彼女は、そこに書かれた文章を小説だと思った。
 『風小』と名乗る娘から管理人が聞き取り、記事にした形式で書かれた十に満たない数の話は、それほど奇異で信じられないような物語ばかりだったのだ。
 しかしその話は、現在実在している退魔師『鬼追師』の事件の記録なのだと記述があった。
 つい最近の記事をみつけた。
 『謡言の澱』と名付けられたその話は、去年の十月頃、ある会社員の携帯電話に宿ったあやかしを退治した、風小と姫さまと呼ばれる鬼追師の奇譚だった。
 綾子は、この『鬼追師』の真偽について、何度かホームページの伝言板でも話題になっていることを過去ログから知った。
 その話題について管理人からの回答は無かったようだ。
 この話を信じるか、信じないか。
 四年前の……。あの日がフラッシュバックする。
 気分が悪い……。
 もし、このサイトを信じるとしたら。自分の身に降りかかっている今の事態こそ、ひょっとしたら『あやかし事』なのではないだろうか?
 だが、もし全てが偽りだとしたら。自分はとんでもない詐欺師の術中にはまることになる。

 信じるか、信じないか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...